第5章 証拠集め開始
金曜の夜。
フロアの照明が半分落ちた頃、俺と佐伯はシステム部の菅原と合流した。
「ログ、これで取れる。削除されても復元できる仕組みだ」
菅原がノートPCを開き、ターミナルを叩く。
黒い画面にコマンドが流れ、サーバのログが次々と表示された。
「部長がアクセスした時間、全部分かります」
「ありがとう。これで足跡は消せないな」
USBにデータをコピーする。
心臓の鼓動が速い。
だが、不思議と手は震えなかった。
深夜、経理部の村瀬が茶封筒を持って現れた。
「例の月の帳票、全部コピーしたわ。
合計金額が合わない月、赤でマークしてある」
「助かる。これで経理も押さえられる」
村瀬が小さく笑う。
「こんな緊張感、大学の試験以来かも」
俺も笑った。
こんな状況なのに、心が妙に軽かった。
帰宅後、デスクにUSBを並べる。
ファイル名に日付とタグをつけ、暗号化してクラウドにアップロードする。
「……これでもう、消されない」
赤いランプのついたレコーダーを見て、深く息を吐いた。
録音データ、ログ、帳票。
少しずつパズルのピースが揃っていく。
翌週。
鬼塚は何かを察しているのか、朝礼の声が一段と大きい。
「お前ら、最近気が緩んでないか! 外部に情報が漏れたら終わりだぞ!」
その言葉に、胸ポケットの赤いランプが点灯する。
声はすべて記録される。
怒鳴り声さえ、今では俺たちの武器だ。
昼休憩、喫煙所で菅原が言った。
「部長、昨夜遅くにサーバにアクセスしてた。
削除コマンド走らせたけど、俺たちのバックアップには影響なし」
「よくやった」
「そろそろ決定打が欲しいな。音声とか」
「来週、得意先との会食がある。同席して録る」
菅原が頷く。
「だったら、ICレコーダーもう一台持っていけ。二重に録音しとけば保険になる」
「頼む、準備してくれ」
夜、村瀬と佐伯と三人で資料室にこもり、証拠の整理をする。
資料を並べ、時系列をつなぎ合わせる。
「これで“いつ、誰が、何をやったか”が全部分かる」
佐伯が唾を飲み込む音が聞こえた。
「……本当に、やるんですね」
「ああ。もう止まらない」
村瀬が小さく笑った。
「なら、最後まで付き合うわ」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
孤独ではない。
もう、チームだ。
帰宅後、メモ帳に書き加える。
・ログ:完全取得
・帳票:コピー済み
・次:会食録音 → 取引先証言
ペン先が紙を走る音が心地よい。
もう怖くない。
むしろ、次の一手が楽しみですらあった。