1話 オタクの象徴と会う
『「俺を置いて先にいけ!」
俺は、目の前に居る巨大モンスターのドラゴンに立ち向かっていた。
そいつは、オリハルコンよりも硬そうな赤光した鱗、羽ばたくだけで一つの町が崩壊しそうなくらいの大きな羽、――なにより口からはく、強力な炎のブレスを有していた。
「! な、お前死ぬ気か!」
彼は、驚いた反応をする。
それは無理もない。
なんだってこのドラゴンは、世界最強の竜種の一体なのだから。
とても一人で立ち向かって、勝てる相手ではない。
それでも目的のためには、誰か一人でも先に行ってもらうしかないんだ!
だったら、俺が残ったほうが、時間稼ぎには足りるはず。
だからこそ、彼を先に行かせるべきなんだ!
「……いや、あとから追いつくさ―― さぁ、はやく!」
俺は、ドラゴンと対峙したまま彼を急がせる。
彼の方を少し見ると、彼は悩んでいたようだが、決意を決めたように前を向いた。
「くっ、わかった。必ず後で来いよ! 約束だからな!」
「任せておけ!」
俺はこの場を後にする彼の背中を見ながら呟いた。
「これでいいんだ……これが最善だったんだ」
後悔はない。
たとえ、ここで倒れてしまってもきっと彼なら目的を果たしてくれるだろう。
手に持った剣を握りなおすを改めて、ドラゴンと対峙した。
「さぁ、来い! 俺が相手だ!」』
「おーい。風花そろそろ起きろ〜! はやくしないと、とうがまた怒るぞ〜」
私を起こしに誰かが私の部屋の前まで来ているらしい。
「ふへ? あ、あれ? ドラゴン退治は? ・・・あ、ゆめか」
私は、はる――『帯刀 陽斗』に起こされ、ベットから起き上がる。
目の前には、私が年を重ねるごとに頑張って集めた、アニメのポスターやフィギュア、アクスタなどが飾ってある。
私は大きく腕をあげ、伸びをするとベットから降りた。
「ご飯、出来てるからなー」
「はーい」
陽斗の言葉に気だるげに返事をすると、カーテンを開け支度を始めた。
◆ ◆ ◆
――5分後
「おはよ〜」
私が階段を下りながら、挨拶をすると少し怒った声音がとんできた。
「おい! 遅いぞ、風花」
「ごめんってば、とうま」
いつものように謝る私。
というのも、いつも寝坊しかけているからである。
私が謝っている相手――『伏見 藤間』は、テストでは一位という頭脳派だけど、人の考えを汲み取るのは苦手らしい。
藤間とはるは、性格などが逆のところがあるのだ。
「風花、おはよ〜 とうも『おはよう』の一言ぐらい言おうよな」
先に起きていた陽斗が、ご飯を並べていた。
陽斗は、テストの点数は悪いが、人当たりが良く、運動神経も良い。
だから、帰宅部なのに、よく運動部の助っ人を頼まれている。
本人曰く、運動部にスカウトされすぎてどこに入るか悩んだ結果らしい。
「それもそうか。……おは、よ。つーか冷めるからはやく食え」
「はーい」
私と陽斗は席へと着くと、手を合わせた。
「「「いただきまーす(一同)」」」
私はいつもの癖で味噌汁を飲む。
今日は、完全に和食らしく、お米と味噌汁、鮭、ちりめんじゃこに漬物といった一汁三菜である。
「とう~ また腕上げた?」
陽斗が、ご飯を食べながら藤間に質問した。
なんせ、この料理は全て、藤間が作っているのである。
それも、この家で一番美味しくご飯を作れるからだ。
しかも見た目も美味しそうとくれば、任せたくもなるものだ。
陽斗が言った通り、藤間の料理は日に日に美味しくなっている気がする。
とはいえ、毎日食べているのでちょっとした変化だと気づきにくいけれど、そこに気づいてしまう陽斗は、やっぱりすごいと思う。
「そうか? でも、陽が言うならそうなんだろうな」
「おう! ってとう、もう食べ終わったのか」
「まぁ、早く学校行かないといけないしな」
食器を片付け、学校へ行く準備を始めるとうま。
「さすがだね~、成績優秀者は」
「そうでもないと思うけど、――弁当、置いとくから忘れるなよ」
二人分の弁当を机の上に置き、鞄を持って玄関へ向かおうとする。
その途中で、いきなり振り返ってきた。
「それと、陽は大丈夫だと思うが、特に風花、遅刻するなよ」
「分かってるよ~、とうまは心配性だね」
「とか言って~、いつも遅刻ギリギリの遅刻常習者はどこの誰だっけ?」
陽斗が口に入っていたものを飲み込み、話に加わってくる。
「っう! でもさぁ、遅刻はしてないから良いじゃん」
「そうだけど、それとこれは別問題だろ」
「言い争うのはいいが、さっさと食べろよ」
藤間は既に、部屋から出ようとしている。
「じゃあ、行ってくる。早く学校来いよ」
「わかった~!」
◆ ◆ ◆
藤間が家を出てから数十分が経ち、私たちも家を出るところになっていた。
私が、藤間が準備してくれた弁当を鞄に詰め込んでいると、その横で、陽斗がスマホを見ていた。
「今日、雨降るらしい」
「そうなの? だとしたら、傘持って行かないとね」
「だな。もうそろ準備、終わった?」
鞄のチャックを閉めて、肩にかける。
藤間は、待っていてくれていたこともあって、もう行く準備万端だった。
「うん。終わったよ! いつも待たせてごめんね」
「本当だよ。ごめんって言うなら、早く準備できるようにしような」
少しため息をつきながら、ドアを開ける陽斗。
「は~い」
「じゃあ俺らも学校に行くか。傘持ったよな?」
「もちろん……って、とうま、傘持ってってないじゃん」
持っていっとこ、と思い、藤間の傘に手をかけようとしたら、視界の端から自分の手ではない手が入ってきた。
「俺が持って行ってやるから」
「ありがとう?」
「何で疑問形なんだよ」
「なんとなく」
靴を履き、ドアを開けて待ってくれている陽斗の元へ行く。
ドアを通り、家を出るとこの家に対してもう二度と言うことはないだろう言葉を二人そろって言った。
まぁ、この時はそのことを知る由もないけれど。
「「行ってきます!!」」
家から少し歩いたところで、ふと思い立ったように藤間の傘を少し持ち上げる。
「にしても、とうが傘忘れるなんてな」
「ね。いつも、しっかり者なのに少し抜けてるところもあるよね」
「それ、ふうかじゃない?」
「っえ? そうかな?」
突然、私の話になってほんの少し驚いた。
肩から落ちかけている鞄の紐を掛けなおす。
「だって、とう程ではないけど成績優秀だし、先生にも頼られがちなのに、朝は弱いわ、遅刻しそうになるわで、だいぶおっちょこちょいだし」
「それもそっか。でも、私が頭良いとは思えないんだよね。身近に頭良い人がいると」
「そうか? 俺からすると、どっちも頭良いと思うけどな」
「それは、はるが頭悪すぎるだけだよ。運動神経がいいから良いものの」
だな、と笑う陽斗。
私もそれにつられて笑いそうになった時、人生で見るか見ないか分からない状況に出くわしてしまったことに気づいた。
「どうした?」
私の頭の上から、声が飛んでくる。
その言葉に、ハッとして我に返る。
目の前に広がるその状況は、一人の小さな女の子が、ボールを取るために突然横断歩道を飛び出してしまったため、トラックに轢かれそうになっているといった状況だった。
「ごめん……かばん、持ってて」
「? おう。って、どこに行くんだ?」
私は、半強制的に鞄を押し付けると、その女の子がいるところへ飛び出した。
幸い、距離が近かったため、私の足でも間に合いそうだった。
あーあ、まだ読んでない昨日買ったばっかりのラノベとか、見てないアニメの最新話とかあったのにな。
もしかしたら、生きて帰れないかも。
今からでも引き返えそうかな。
……でも、あの女の子を放っておくのも違うし、それに、目の前で死に真っ直線の人がいて、助けられるのに見過ごすことは、私の美学に反するし。
お母さんたちを助けられなかった未練も混ざってそうだけど。
まぁ、いっか。
後ろから、陽斗が状況に気づいて、止めようと必死になって声を出して、走ってくる。
「ふうか! そっちに行くな!」
でも、陽斗が追いついた時にはもう遅かった。
私は、止まっている女の子を突き飛ばし、トラックに轢かれるところ……轢かれたところだった。
トラックは直ぐに止まり、陽斗が駆けつけて、必死になって私に向かって声を掛け、周りの人に助けを求める声がかすかに聞こえてくる。
「…か! こn…で、死んだら許さないからな! あn、…急きゅ…sます! 早く!」
助けた女の子は、怖さからか、それとも私が自分のせいで死んでしまうという後悔からかは分からないけれど、大号泣をしながら、母に助けを求めるように叫んでいた。
私はというと、全身に痛みが走って体を起こすことは出来ないわ、当たった部分がじんじんとして熱いわでいろいろな現象が起こっていた。
おそらく、骨の何本かは折れたと思うし、内臓も終わっていると思う。
これで生きて帰れたら奇跡だと思うほどには。
ものすごく、色々な場所が痛い。
やっぱりこんな事するんじゃなかった。
かと思っていたら、どんどん体が冷えているような感覚がした。
人は、死んでしまうと体が冷えるらしい。
じゃあ、やっぱり死んじゃうんだな。
未練がないって言ったら、嘘になるけど死に場所を自分で選べたからそこは良かったのかな?
いや、よくないな。
お酒とかも飲んでみたかったけど、仕方ないよね。
私の分もたくさん飲んでね、とうま、はる。
きっと、とうまが意外とお酒に弱くて、はるが介護しながら家に帰るんだろうな。
私もその中に入っていたかったけれど、もう無理みたい。
だって、目の前には叫びすぎたり、泣きすぎたりして喉がかれているはるの姿……ではなく、三途の川らしきものが見えるし。
しかも、川の向こう側では母が手を振ってるし。
父は、なんか叫んでるように見えるけど、なにも聞こえない。
何を言っているのだろう。
そういえば、最後に言葉ぐらい送っておかないと、これでは未練がもう一つ増えそうだな。
私は、力を振り絞り、言葉を発した。
「……はる、ごめん、ね。」
「しゃべるな! 寿命が縮むから!」
ううん、と首を振ったつもりだったが、うまく体が動かせない。
体内時計的には、ゆっくり時間が進んでいるような気がするのに、外の時間はそういうわけでもないらしい。
「だい、じょうぶ、だから。…わたし、の分、までなが、いきし、てよ。……それ、と、お酒も、たくs、ん、のん、でね。とう、ま、にも、よろし、くって、いって、おい、て」
話すたびに、舌が回らなくなっていることに気が付く。
ふうか! と叫ぶ声が聞こえる気がするが、はっきりと聞こえないし、幻聴のように聞こえる。
それに、どんどん外の音が聞こえなくもなってきている。
目の前に広がる世界は、相変わらず父が何かを叫んでいるようにしか見えないが。
でも、小さな変化もあった。
母が、手を振るのを止め、父に対して叫んでも無駄だからとでもいうように腕を掴んだ。
それから、首を振っている。
まるで、こっちにはまだ来てはいけない。 とでも言うように。
父の声は届かないのに、不思議と母の行動は読み取れた。
だけど、もう無理だよ。
川の半分ぐらい、渡ってきてしまったんだから。
私の思考を読み取ってか、母は私から見て右側に指をさす。
向こうへ行きなさいって言いたいのかな?
右側には何もないと思うけれど。
お母さんの言うことだし、念の為に見てみようかな。
そう思い、右側を見てみると、少し、光が見えたと思ったら、その光が次第に大きくなり、温かい光に包まれた気がした。
私の意識は遠のいていった。
――こうして、私は死んだ。
死んだ、はずだった。
でも、目を覚ますと真っ白な世界に居た。
病院の天井ってわけでもなさそうだし。
ここはどこだろう?
普通に考えたら、死後の世界だから、天国とか地獄なんだろうけれど。
三途の川らしきものを渡り切った記憶はないから、それはないはず。
体が動くか、確認してみたら、さっきまで痛くてしょうがなかったのに、今は自由に動ける。
試しに、立って歩いてみたけれど、特に体の不調はなさそうだった。
気温も快適そのものだった。
やることもないので、歩き回ってみたけれど何もなかった。
だから、距離とかそういった概念もなさそう。
これからどうしたものかと考えていたら後ろから急に声を掛けられた。
「やっと、目を覚まされたのですね。」
驚いた反動で中性的な声の主から距離を取ろうと前に進む。
それから、恐る恐る振り返ってみる。
そこに居たのは、金髪青目の美少女? 美少年? がいた。
オタクを表した美少女キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
「え、えっと、もしかして神様ですか?」
こうして、私はこの人(?)に誰なのかを問いたかっただけなのに、質問の仕方を間違えてしまったのである。
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※これは、『那雲 零』と『黒神 波切』の共同創作です。