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裏切りの後に咲く花

作者: 楠木

エリス・フィルドは、かつて自分が信じていたすべてを失った。その日の朝、彼女はアレス・ドランとの婚約破棄を決意したのだ。

陽の光が差し込む大きな書斎で、エリスは静かに座っていた。手元の一枚の手紙が彼女の心を締めつける。それは、アレスの不倫相手から届いたものだった。アレスが他の女性と密かに交際していた証拠が、詳細に記されていた。


「どうして、こんなことを…」


自分がアレスと結婚を約束したのは、愛情からではなかった。確かに、アレスには魅力があり、多くの人々から信頼され、尊敬されていた。しかし、それはすべて表向きの顔だった。彼は冷徹で計算高く、エリスを家の名誉を保つための道具としてしか見ていなかった。

そのことにエリスが気づいたのは、アレスが実際に他の女性と関係を持ち、裏で彼女を見下していることが明らかになったからだった。その女性は、リディア・クロフト。彼女はエリスの婚約者だった元恋人であり、エリスが婚約破棄を決めたとき、リディアが積極的にエリスを追い込んできた。


「これで彼の本当の姿がわかったわ。」


エリスはその日から心の中で決意を固めた。婚約破棄だけでは足りない。アレスがエリスに仕掛けた嘘と計略をすべて暴き、彼の名誉を失墜させることが必要だと。彼女はただの被害者ではない。アレスのような冷徹な男を社会的に葬ることが、エリスの新たな目標となった。

その日の夜、エリスはアレスに向けて一通の手紙を送った。内容は簡潔だった。


『アレス・ドラン殿

婚約を破棄します。私を裏切ったこと、私の名誉を傷つけたことを深く後悔することになるでしょう。今後、あなたとの関わりを一切断絶します。エリス・フィルド』


アレスからの返事を待つ間、エリスは深く息を吐いた。心の中では冷徹な計画が進んでいた。だが、それでも彼女の胸にはかすかな痛みがあった。アレスとの関係をすべて切り捨てることが、どれほど辛いことか、彼女にはわかっていた。

しかし、エリスはその痛みを乗り越える覚悟を決めていた。あの男を社会から追放し、自分の名誉を取り戻すために、彼女は力を尽くすつもりだった。

翌日、エリスはダリウス・ヴァリエスを呼び出した。彼はエリスの幼馴染であり、彼女の心の支えだった。ダリウスは彼女が計画を練っていることをすでに察していた。


「エリス、何をするつもりだ?」


ダリウスの眼差しは真剣だった。彼もまた、エリスの痛みを知っていた。しかし、彼は彼女の行動に反対することはなかった。エリスがどんな道を選んでも、彼は支えると決めていたからだ。


「アレスを暴くわ。彼の裏切りを証拠として突きつけ、名誉を失わせる。」


エリスは冷静に言った。その言葉に、ダリウスは少し驚いた様子を見せたが、すぐに頷いた。


「それなら、俺も手伝う。君が傷つくのを見過ごすわけにはいかない。」


ダリウスの言葉は、エリスにとって何よりも心強かった。彼女の計画には、アレスとその家族がどれほど深く関与しているかを暴露することが含まれていた。リディアとの関係、アレスが隠していた金銭的な取引、彼の政治的な陰謀──すべてを暴き、彼を社会的に葬るための準備が始まった。

その夜、エリスはアレスが頻繁に訪れる社交界の集まりに顔を出した。彼女の登場は、周囲の人々を驚かせた。エリスはかつて、アレスとの婚約者として、貴族たちに注目されていた存在だった。しかし、今や彼女はその名誉を取り戻すために、自らの計画を実行に移す時が来たのだ。

エリスの復讐の第一歩は、アレスが避けられない形で社会的な信用を失うことだった。彼女はまず、アレスがいかにして周囲の人々に虚偽の印象を与え、表向きの顔を作り上げていたのかを暴くことを決意した。

そのために、エリスは以前からアレスに仕えていた家令、アルフレッドを訪ねた。アルフレッドはアレスの影響力を支える人物であり、彼女にとっては重要な情報源だった。数年前に起きたある事件に関する情報を、彼が知っているはずだった。


「アルフレッド様、少しお話がしたいのですが。」


エリスは静かに話しかけた。アルフレッドは驚いた表情を見せた後、深いため息をついた。


「君がこのような形で私に会いに来るとは思わなかった。だが、君が何を求めているのか、すでに察しはついている。」


アルフレッドはエリスに目を合わせ、慎重に言った。


「アレス様には、君に隠していた事実がいくつかある。しかし、君がその真実を知り、どうするつもりなのか、私にはわからない。」


「その真実を、私に教えてください。アレスが裏で行っていたすべてを。」


エリスの声は冷静だったが、その奥に強い決意が感じられた。アルフレッドはしばらく沈黙し、やがて重い口を開いた。


「アレス様は、君と婚約を結んだ後もリディアとの関係を続けていた。だがそれだけではない。彼に

は、君を無視し、家名を守るために他の女性と関係を結ぶよう命じられたこともある。」


その言葉に、エリスは一瞬目を見開いた。アルフレッドが言ったことが本当なら、アレスは完全に計算づくで私を婚約者として利用していたことになる。


「君がどれほど苦しんだかを知っているのは、私だけだ。だが、君がその苦しみを乗り越え、真実を公にしたいのであれば、私が力になる。」


アルフレッドは、顔を上げて言った。


「アレスの策略に、これ以上乗せられるわけにはいかない。私も君と共に、彼の計画を暴く手助けをしよう。」


エリスは深く頷き、感謝の意を示した。彼女はこれで、アレスの秘密を暴くための第一歩を踏み出した。

数週間後、エリスの準備は整った。彼女は、アレスがリディアと共に行っていた取引の証拠を集め、彼が暗躍していた場所で証拠を押さえた。あとは、それをどう公にするかが重要だった。

ある夜、社交界の華やかな舞踏会が開かれることになった。この舞踏会は、貴族たちが集まる重要なイベントであり、アレスが最も力を持つ場でもあった。エリスはここで、彼を公然と暴露する計画を立てていた。

舞踏会の会場に足を踏み入れたエリスは、周囲の目を引く美しいドレスを身にまとい、冷徹な目を光らせていた。彼女の姿が現れると、アレスが少し驚いた表情で彼女を見つめたが、その後すぐにいつもの冷徹な笑顔を浮かべた。


「エリス、こんなところで会うとは。まさか、私の婚約者として来るつもりか?」


アレスは軽蔑するように言ったが、その言葉にエリスは微笑みながら答えた。


「婚約者としてではありません。あなたがどれほど不誠実で、裏切り者であるかを証明するために来ました。」


その一言に、アレスは驚きの表情を浮かべた。エリスは、用意していた証拠を次々と暴露し、アレスとリディアの関係、アレスが裏で行っていた金銭的な取引、さらには彼が他の女性との不正な関係を持っていたことをすべて公にした。

会場の空気が一変し、参加者たちは驚愕の表情で彼女を見つめていた。アレスは言葉を失い、顔色を変えていった。


「それは…嘘だ!」


アレスは慌てて弁解しようとしたが、エリスは冷静に証拠をさらけ出し続けた。リディアもその場に現れ、彼女はエリスの告発を否定しようとしたが、もはや誰も信じる者はなく、逆にリディア自身の評判も落ちていった。


「これで、あなたの名誉も地に落ちました。あなたがどれだけ計算高く、嘘をつき続けたか、皆さんに知っていただくべきです。」


エリスの言葉は、会場にいた貴族たちに深く響いた。アレスの家族も、彼の行いに失望し、ついに彼を見放すこととなった。

アレスはその場から姿を消し、もはや彼の名は社会から消え去った。エリスは静かに、だが確固たる決意を胸に抱き、舞踏会を後にした。

エリスはアレスとの関係を完全に断ち切り、これから新しい人生を歩み始めることを決意した。ダリウスは彼女を支え、共に新しい道を歩むことを誓った。

エリスは、自分を裏切った男に復讐を果たし、心の中で成長を感じていた。復讐が終わった今、彼女には新しい未来が広がっていることを実感していた。


「これからは、私自身の人生を歩むわ。」


その言葉と共に、エリスは新たな一歩を踏み出した。アレスの失墜が彼女に与えた影響は大きかったが、それでも彼女は強く前を向いて歩いていく。



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