真尋はドアに耳をつける。
真尋はドアに耳をつける。
ドアの向こう側から、小さな音でもいいので何かしらの物音がしないかと聞き耳を立てる。だけど、そのドアを介してどんな音も聞こえては来なかった。ここまで無音だということは、かなりの防音対応が施されているのかもしれない。外の音が自分に聞こえないようにするためなのか、あるいは、自分の叫び声が外に聞こえないようにするためなのか。どちらにせよ、真尋にとって希望の持てる状況では無かった。
諦めて耳を離す。そして後ろを振り返った。
一度大声を出したせいか、逆に真尋は冷静になった。
部屋の中をあらためて観察する。外からは何の物音も聞こえない。それなら、この部屋の中に、今の自分が陥った状況を説明してくれるようなヒントを探すしか無かった。
まず目に入ったのは、先ほど見つけた机の上の紙。そしてその紙に印刷された『真実は、いつでもすぐそばにある』という文字。
真尋は再び机の前に向かい、その紙を右手で持ち上げた。
この紙が意味もなくこの場に置かれているわけがない。これは自分に対する何かしらのメッセージのはず。
「真実は、いつでもすぐそばにある」
もう一度声に出して読んでみる。
だけど、そのメッセージはあまりに抽象的すぎて、その意味するところが分からない。
「何なの……。どういう意味なの……」
この紙が置かれていた机は、引き出しもついていない天板だけの簡易的な机になっていて、その上にはこの紙以外のものは何も置かれていない。机も念入りに観察してみたが、まだ真新しい机なのか、人が使ったような形跡が見られなかった。
真尋は視線を転じる。
次に目に入ったのは、壁に掛けられた一枚の奇妙な絵だった。
奇妙な塔が描かれていて、妙に薄気味悪い絵だった。
もしかしたら、この『真実は、いつでもすぐそばにある』という文の意味は、この絵の中に何かしらのヒントが隠されているということではないだろうか。だからこの部屋にはわざわざこの絵が掛けられているのではないだろうか。
そう思い立った真尋はゆっくりとその絵に歩み寄った。
壁に掛けられた奇妙な絵。
一メートル四方くらいの、この小さな部屋には不釣り合いな大きな絵だった。閉じ込められた部屋という閉鎖空間。その空間をさらに重苦しく、そして息苦しいものにしている。
真尋は顔を絵に近づけた。そして細部を観察していく。
その絵は山脈と森をバックにして、手前側に塔のような奇妙な建物が描かれている。全体として灰色と黒を基調とした陰鬱な絵だった。その建物にはいくつかの窓があった。その窓枠を蔦が絡み付いていて、その建物の古臭い印象を醸し出している。
その時、窓枠の一つに、人影が描かれていることに気づいた。
「これは……」
顔を近づけて確認する。
その人影は窓から少し離れているのか、ぼかして描かれている。だけど、よく見るとそれは少女のようだった。灰色のブラウスを着て、窓の外を無表情に見下ろしている。どこか存在感が希薄な子供の姿のように見えた。
「少女の……、姿……」
真尋は無意識に呟いていた。
そしてそのままさらに絵を確認していく。
その建物の中央には大きな漆黒の扉が描かれている。扉には不思議な幾何学模様が描かれている。見ていると気分が悪くなりそうな模様だった。そしてその扉はわずかに開いていて、中から薄紫色の光が漏れている。
「あれ?」
その薄紫色の光を逆光に浴びて、そこに一人の人影が描かれているように見えたのだ。だけど逆光を浴びた姿になっていたため、その顔は黒く塗りつぶされていて、表情を確認することはできなかった。だけど、身長の高さ、そして長い髪の姿から、大人の女性のように見えた。
窓の外を見下ろす少女。その少女は、今から建物を出ようとしているこの女性を見下ろしているのだろうか……。
そうだとしたら、どうしてこんなにも無表情なのだろう……。
真尋はさらに絵の確認をしていく。
建物の遠景に描かれた森と、その森のさらに奥に描かれた山脈。その二つを包み込むように、鉛色の空が描かれている。それらを一つずつ確認していったが、そこには特に目を引くようなものは描かれていなかった。




