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16話「お嬢様の剣を直す為に――後編――」

「鉱石の事はよく分からないが、取り敢えず採れるだけ取っておくぞ!」

「そうですわ! 沢山持っていけばどれかは当たる筈ですの!」


 俺の横では一心不乱にピッケルで鉱石を取っている二人の姿が視界に映った。

 それはもう、何かに取り憑かれたかのような執着ぶりだ。


「お、おい二人とも。どれが星屑の鉱石とか分からないのかよ?」

「あらやっと来ましたのねユウキ。私は剣の事なら詳しいですけど、鉱石については全部ただの石にしか見えませんの」

「オレもパトリシアと同じで魔法し「あ、大丈夫っす」おい!」


 しかしこれは困ったなぁ。数あれば行ける作戦でも、俺の不運ステータスが発動したらきっと全部違う鉱石になる確率が凄く高い。はぁ……どうするかなぁ。


「ちょっとぉ! なんで私を置いて一人で行っちゃうんですか! 暗い洞窟内は何気に心細くなるんですからね!」


 遅れてヴィクトリアが合流してくると、俺を見ては文句をペラペラと絶えず言ってくる。

 しかし……もしかたらコイツの幸運ステータスがあればワンチャンあるのでは?


「おいヴィクトリア。お前その辺から適当に鉱石採ってきてくれ。価値がある物なら俺が高値で買い取ってやるぞ」

「えっ本当ですか!? ちょうど金欠でしたので助かります!」


 俺の買取発言にヴィクトリアは表情を緩ませると、ピッケルを右手に握り締めて思いっきり壁に向かって掘りまくっている。コイツの原動力は基本的に金で解決するのだ。

 これぞ単純女神様である。


「ほらほら! レアな鉱石来て下さいよ!! じゃないと私はバニーガールの衣装を着させられる羽目になるのです」

「なんですのそれ……」


 あぁ……なるほど。あのバニーガールの衣装ってその為のやつか。

 大方ギャンブルで負けていて貸しが付いているのだろう。

 そしてこのまま返せなかったら衣装を着て色々って感じだな。


「さてと、俺も鉱石取らないとな。流石にヴィクトリアの運だけに頼るのは如何せん不安も残るしな」


 俺はピッケルを持って思いっきり振りかぶると、壁に向かって先端を突き刺した。

 すると…………。


「ぐ、ぐあぁぁ!?」

な、なんだこの尋常ではない手の痺れは! なんか超硬い鉱石にでも当たったのか……?

 たまらずピッケルを壁に刺したまま手を離すと、背後から何やら笑われているような感覚を感じた。


「ちょっとユウキ? まさか壁を削ることも出来ないほど筋力がないんですかぁ?」

「言い過ぎですよヴィクトリア。もともとユウキは日陰で育つ植物みたいな男なのですから」

ヴィクトリアは手を口元に添えてクスクスと笑っているようだし、パトリシアもそれに連れられて笑いを堪えている様子だ。


 くそぉ……舐めやがって。


「オレでも出来るのに……。流石にそれはやばくないか?」

 

 いよいよ俺はサド賢者に本気で心配されてしまったようだ。御終いだ。

 ヴィクトリアとパトリシアならまだしも、このドSサドキザ歯賢者に心配されるとか相当やばい人じゃん!

 

 いやまて……だったら俺の力を増せば良いだけなのでは?

 俺には装甲という日本製パワーが付いているではないか。

 そうだそうだ最初からそうしておけば、あっという間に解決する話ではないか!


「お前ら今に見てろよ。俺の真髄を見せてやるらかな!」

「はいはい。どうせ装甲頼りでしょう」


 ヴィクトリアは妙に人の神経を逆立てるような表情で俺を見てくる。

 だが、装甲頼りで何が悪い? これは俺の力だ! 余すことなく使ってやるさ。


「行くぞ装甲! 我は命ずる、あの女共に俺の本来の力を! 世の理を知らしめるのだ!」


 久々にカッコイイ台詞を言ったが、なんだろうな。

 段々と気はずかしさが抜けていって普通に思えてきたぞ。

 それから俺の体は恒例の如く光り輝くと装甲を纏う事に成功した。


「よっし。これで掘る効率が何倍にもアップした筈だ。これでお前達より鉱石が多く取れたら二度のあんな減らず口を叩くなよ! 分かったな!!」

「装甲を纏っただけでイキらないで下さいよ。まずは結果を見させて貰わないと」

「分かっている! ったく口数が減らないギャンブル女神め」


 取り敢えずは装甲の稼働時間を計算しとかないとな。

 いきなりフルパワー使って動けなくなってもダサいからな。


 えーと、ピッケルを振る際に掛かるパワー動力と今までの稼働時間を考慮して考えると……。

 この装甲はスキルや魔法を使わなければ二十分ぐらい維持できるだろう。


 それなら余裕で鉱石ぐらいザックザック採れること間違いないな!

 俺はさっそく突き刺さって放置していたピッケルを軽々と引き抜くと、腕部の駆動に意識を集中さて最小限の動きでパワーを引き出す。


「おらぁぁあ!!」

 そのままピッケルを再び壁へと突き刺すと、今度はいとも簡単に削り取る事が可能となった。

 まるで豆腐を包丁で切るかのように滑らかにピッケルの先端が入っていく。


 そのまま俺は取り憑かれたかのように、装甲の稼働時間ギリギリまで掘り進めると、気づけば周りには色鮮やかな鉱石の数々が転がっていた。


「ふーぅ。結構な数が取れたのではないだろうか。まぁこの中に俺達の目当てがあればいいのだけど」


 しかしそんな事よりもヴィクトリア達はどれだけ取れただろうな?

 流石に俺よりかは取れていないと思うが……一応確認はしとかないとな。


「どれどれ…………。はぁ?」


 振り返ってヴィクトリア達がどれだけ鉱石を採ったのか確認すると、そこにあったのは優雅にお茶を楽しむ三人の姿であった。

 

 何を言っているんだ。と聞かれたら俺も何を言っているかは分からない。

 だけど確かにそこではお茶会が開かれているのだ。


 ご丁寧にレジャーシートのようなモノを敷いて、その上に小型の木製テーブルを設置してティーセットまでもが置かれているのだ。

 きっとあれはパトリシアの私物だろうな。パーティメンバーの紅茶好きは伊達ではない。


「あら終わりましたの? ご苦労様ですわ。ユウキも紅茶飲みます?」

「あ、これはご丁寧にどうも…………じゃないわ! 何してんだよ! マジで!」


 危うく流れで俺もお茶会に誘われそうになったが、本当にコイツらは何をしているんだ。

 もしかして俺がせっせと頑張って掘っている間にもお茶を飲んでまったりしていたのか……?


「あっ鉱石採取お疲れ様です! よくよく考えてみたらユウキ一人で私達分の動きも補えると思ったで休憩させて貰いましたよ!」

「休憩させて貰いましたよ。じゃねえんだよ! 働けよ!」

 

 はぁ……。俺が一人頑張って鉱石を採っていたのが馬鹿みたいじゃないか。

 てかもしかしてコイツらは楽をしたいが為に、俺に装甲を使わせたとかそんな事はないよな。


「にしても、ユウキのその異界の装備は中々に興味深い品物だ。こんどじっくりと見させてくれ。あ、紅茶美味しい」

ユリアはチビチビと紅茶を啜りながら言ってくる。

 

 今更だが、ユリアの魔法とかでこの辺りに小規模の爆発でも起こしたら楽だったのでは?

 あダメか。それこそ落盤とか事故に繋がるな。うーむ、難儀なものだ。


「さて、これだけ採れればきっとどれかは星屑の鉱石の筈ですわ。早速、鍛冶屋に戻って剣を打ち直して貰いますの!」


 パトリシアは意気揚々と言っているが、その鉱石の八割は俺が採ったんだけどな。

 必要な鉱石以外は全部俺の物だからな。あとで売ろうとか思っているんだからな。


「はい。撤収でっす!」

ヴィクトリアがそんな事を言うと、俺達は鉱石を袋に詰めて来た道を戻ることにした。

 鉱石とは不思議な物で、見た目に反して軽い物が多いのだ。

 中にはちゃんと重い奴とかもあるのだが、俺の抱えている袋は軽い方だ。


 一方でヴィクトリアとは言うと……、

「ふぬぬ! なんでこの私がこんな重たい石風情を運ばないといけないのですか! 美しい手に豆が出来ちゃいますよ!」

 文句を常時垂れ流し状態だ。


 いや、お前の美しい手とか知らんし鉱石を石風情とか言っている時点で罰が当たっているんじゃないかと思うがな。 

 俺は心の片隅でぼやくと採掘場を後にして、グラナーダさんの所へと向かった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おぉ凄い数の鉱石だね! どれ、早速使えるものを選別してあげよう!」

「頼みます!!」


 鉱石を袋いっぱいに詰め込んで鍛冶屋に持っていくと、グラナーダさんは目を丸くして鉱石を手に取り一個一個使える物かどうか調べてくれるようだ。


 俺のパーティメンバーには鑑定スキル系を持った奴がいないから実にありがたい。

 俺達はグラナーダさんに後を任せると、壁に飾ってある剣や防具を眺めて時間を潰す事にした。






 それからグラナーダさんが鑑定を終えて神妙な面持ちで俺達の元へと戻ってくると、

「ご、ごめん。あの中には星屑の鉱石が一個もなかったよ……。殆どが武器や防具を強化する用のエグマ鉱石っていう物だったよ……」

 暗い表情をしながら教えてくれた。


 別にグラナーダさんが悪い訳ではないので、そんな気落ちして謝らなくてもと言おうとした瞬間、

「あ、俺達が悪いのでグラナーダさんが謝ら「パトリシアッー!!」」

 横からヴィクトリアがパトリシアの名を叫ぶ声が聞こえてくる。


 咄嗟に俺はその声の方に意識を向けると、そこにはパトリシアが地面にグッタリと倒れ込み、綺麗な瞳から一雫の涙が頬を伝って落ちていった。そう、またもや燃え尽きたのだ。


「元気を出して下さいパトリシア! 私が洞窟内でたまたま拾ったこの琥珀色の石をあげますから!」

「おいおい……。パトリシアは子供じゃないんだからそん「あぁーっ!! それ! その石!」」


 ヴィクトリアが子供をあやすかのように、パトリシアに洞窟で拾った石をあげようとすると急にグラナーダさんがデカイ声を上げてきた。俺は今日何回目だろうか言葉を遮られるのはと。


「ほぇ? この石がどうかしました?」

「それの石だよ! 星屑の鉱石は!」

「「「えっ!?」」」


 グラナーダさんから放たれた衝撃的な言葉に俺、ヴィクトリア、ユリアは驚きを隠せない。

 そして横ではビクッっと少しだけパトリシアが反応した気がする。


「その琥珀色の石は紛れもない星屑の鉱石だよ! それがあればパトリシアちゃんの剣が直せるよ!」

「マジでか! 出来したぞ! 流石は幸運の女だな。さあ早くその石をグラナーダさんに!」

思ってもいなかった急展開の状況に、俺はヴィクトリアに石を渡すように言うが、

「……嫌です。そんなレアな鉱石なら、市場で相場のレートを見てからじゃないと嫌です!」

石を両手でぎゅっと握り締めると駄々を捏ね始めやがった。


 このアマ……! 自分が持っている石が急に価値があるものだと分かると手のひらを返してきやがった。さっきまであげるとか言っていただろうが! それでも女神か貴様は!


 しかし俺の横では燃え尽きていたパトリシアがぬるりと立ち上がると、ヴィクトリアの前へと歩いていき、バッグから紙の束を取り出すと無言でヴィクトリアにそれを握らせていた。

 

 そしてヴィクトリアは今まで見た事もない険しい表情をして、

「良いでしょう。これは貴方の物です」

 と言って大事そうに持っていた石を簡単にパトリシアに渡していた。


「うわぁ。生々しい取引現場だな」

 ユリアの言葉で俺は確認した。あの紙の束はやはり金であったと。

 更にその金は束であるが故にその額は五十万パメラぐらいだと予測する。


「こ、これで……お願いしますわ……」

「あ、うん……。了解しました……」


 何とも気まずいというか微妙な雰囲気の中でグラナーダさんの剣修復作業が始まったようだ。

 そして俺達は家へと帰る事になった。剣の修復では日にちと時間が結構必要らしいとのことだ。


「はぁ……。今日はもう何も出来ないんだから家に帰るぞ。すまないがユリア、手を貸してくれないか? この嬢様を引きずるぞ」

「まったく、仕方ない奴だなぁ。女性ぐらい簡単に担げるぐらいには筋力を付けてくれよ?」

なんやかんや言いつつもユリアは手を貸してくれるので、人としての情はまだ持っているようだ。


「うぅ……私の剣なおづって……」

俺とユリアは名残惜しそうにしているパトリシアを引きずって鍛冶屋を出る。

 

 その横ではヴィクトリアが濁った目つきで札を一枚一枚丁寧に数えているみたいだ。

 俺はたまらず深い溜息を吐くと、パトリシアは重たいなぁと考えながらその日は帰路についた。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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