20話「ギルドの仲間と緊急クエ」
ヴィクトリアに水をぶっかけて露出プレイをしたあの日から月日は流れて、今の俺達はいっぱいしの冒険者パーティと名を名乗れるほどにまで成長を遂げていた。
ヴィクトリアの大盾代や宿屋代を払ってスッカスカになった財布を暖かくする為にもクエストは数多くこなし、その甲斐あって俺のレベルは二十を越えて火と氷の初級魔法を取得する事ができたのだ。
魔法を取得するには一旦レンジャー職を離れて魔法使いを選ば直さないといけなくて、これが本当に大変だった。
魔法使い職を選んだ途端に装甲は機動力を失って鉄屑に戻るし、俺に魔法の扱いを教えてくれたユリアは自分の作った変な魔法を俺に押し付けてくるしでな。
……まあ、それらを何とか乗り切って火と氷の魔法だけ取ってレンジャー職に戻ったという感じだ。
魔法とか固有のスキルは一旦取ってしまえばどの職業にでも扱えるようになるらしい。
その分、消費する魔力は相当掛かるみたいだが。
そして今の俺は”火と氷を操りし装甲使い”という新たなランクに上がった訳だ。
具体的に何ができるかと聞かれると、火は焚き火を起こしたり、松明替わりになったりと色々と便利だ。
氷は……コップ一杯分ぐらいの水を瞬時に凍らせたり、熱いものを冷ましたりとするだけだな。
初級魔法が出来るのは精々それぐらいなのだ。
いずれはこの魔法を強化して、戦いの最中にブレードにエンチャントして火炎剣とか氷結剣とかやってみたいものだ。
というかそれがしたくて魔法を取ったんだけどな。
あとこれは余談だが、パトリシアも新剣術スキルを取ったらしくて何やら浮かれている様子だ。
それに俺との対決の約束も果たすべく、紅茶癖を直すのも頑張っているみたいだ。
まあ、頑張っているだけで結果はまだ出ていないけどな。
今後に期待と言った所だろう。
んで、今はギルドにてヴィクトリア共に良い感じのクエストがないか物色している最中だ。
パトリシアとユリアは用事があると言って街の方に出かけている。
「どうだ? 何か良さげなクエストあるか?」
「ん~ダメですね。この前私達がクリアしたスライム退治が最後で、後は碌なクエストかブロンズ以上のクエストばっかりです」
俺は提示版をざっと見てから尋ねると、ヴィクトリアは人差し指を顎に添えながら答えた。
なにその仕草地味に可愛い。
……というよりも、ヴィクトリアのそのブロンズ以上の言葉で思い出したが、このギルドに通いだして俺達は結構な数のクエストをクリアしてきた筈だぞ?
それはもう本当に膨大な量のスライム退治クエストをだ!
なのに一向にこのドッグタグの色は変わる気配がない。
受付のお姉さんにいつになったら”シルバー”タグになるのか聞いてみた方がいいかも知れんな。
と、俺が思っているとヴィクトリアが何かを発見したらしく服の袖を引っ張ってくる。
「なんだよ? 好条件クエでもあったのか?」
「違いますよ! これですこれ!」
そう言ってヴィクトリアが指差す方に顔を向けると、そこには真っ黒い紙に赤文字で『百年に一度のブラッドムーン迫る』と書かれていた。
「ブラッドムーン……? なんだそれ? お祭りか何かなのか?」
俺はその紙をマジマジと見ていると下の方に変な事が書いてあった。
『ブラッドムーンが終わる朝まで、絶対に扉や窓を開けない事』っと。
この文章を見た感じだとお祭りって雰囲気ではなさそうだな。
しかし、朝方まで扉を全部締切るってのは一体どいう事なんだ?
ヴィクトリアも俺と一緒にその紙を見ているが、何やら難しい顔をしている様子だ。
「見た目は中二病感誘う紙ですが、内容がまったく分かりませんね。……なんですかこれ?」
「さあな? てか、お前の女神ネットワークとやらで、そういう事は聞けないのか?」
「無理ですね! 最近またハブられました!」
俺は顔を横に向けて聞くと、ヴィクトリアはそれはそれは屈託のない笑顔で言い切った。
……コイツまた何やらかしたんだよ。
普段どうでもいい異世界知識を女神ネットワークで聞いてペラペラと喋っていたくせに。
こういう時にこそ使えよなぁ、まったく。
だがまあ、困った時はギルドのお友達に聞くに限るぜ!
クエストを数こなしていく内に、俺はここの冒険者達とも交友関係を築いていたのだ。
そうすれば、自然と経験稼ぎの穴場や良いクエストが入った時に教えてもらえるからだ。
「おーい! エリク達ー! ちょっと聞きたい事があるんだがー!」
俺は大声でその名を叫ぶ。
エリクとはギルドで仲良くなった冒険者の一人だ。
「なんだ? 好条件のクエならもう残ってないぞ」
エリクは席を立つと俺の方を見ながら返してきた。
よく見ると右手にはジョッキを持っている事から、何か飲んでいた事を伺わせる。
おいおい……昼間っからもう飲んでいるのか?
まあ、あのジョッキに酒が入っているのかどうかは分からんが。
まったく金がある奴らは羨ましいぜ。
と、そこへエリク御一行が俺の周りへと集まった。
「で? 何の用だよユウキ?」
俺に呼ばれて話し掛けてきたコイツはエリク。
顔は平凡で茶髪が似合う男だ、そしてエリクパーティのリーダーで職業ランサーの槍使いだ。
よく敵に向かって突撃する事からギルド内では特攻野郎と言われている。
「俺達は今から酒盛りでもしようと思っていたんだが」
次に話し掛けてきたのはエリクパーティのタンク役デニスだ。
コイツはクールな顔をしていて、若干イケメンの部類に入ると俺は思っている。
デニスは、エンチャントやヘイトを引くことが得意らしい。
「私はクエストがあるからって呼び出されたんだけど……嘘だったのね……」
最後に悄気た顔をして猫耳をペターっと下げている彼女はカルラ。
ネコ科の亜人族で緑色のショートヘアと薄緑の猫耳が良く似合っていて癒しキャラだ。
カルラはエリクパーティの支援役兼魔法使いで得意は水魔法らしい。
そんなエリク達に俺はブラッドムーンを聞くことにしたのだ。
歴はあっち方が断然長いからな。
「あぁ、実はこのブラッドムーンについて教えて欲しいんだよ」
例の紙に人差し指を向けて俺は聞く。
「あぁーこれね。俺も詳しくは知らないんだが、そのブラッドムーンって日には真っ赤な月が現れてアンデッド系……所謂、ゾンビやスケルトン果てはヴァンパイアまでが活発になって街を襲いにくるらしいんだよ。だから夜中の間は戸締りをしっかりってな!」
エリクはジョッキ中身を飲みながら教えてくれた。
「ひぃぃッ! ……な、なんですかそれ! アンデッドのパレード状態じゃないですか!」
ヴィクトリアは話を聞いて震えているようだ。
コイツ……女神なのにアンデッドが怖いのか?
だがまぁ、うちには聖騎士が居るし何かあっても大丈夫だろう。
しっかしそんな大事が迫っているというのにギルド奴らは焦る素振りすらないな。
……って事はブラッドムーン自体は案外驚異ではないのだろう。
よぉぉし! だったらその日は一日中サボって宿に引きこもってよ!
ここ最近は毎日毎日毎日クエストばっかりこなしていたからな。
たまには怠けても怒られないだろう。
「ふむふむ。大体分かったよ、ありがとうな!」
「気にすんな~。……あっ! そうだそうだ、一つ伝え忘れがあった!」
「あぁ~そうだったな。これは是非ユウキに伝えないとな!」
お礼を言うとエリク達は気の抜けた返しをして席に戻ろうとしていたが……途中で何かを思い出したのかエリクとデニスが俺の方へと戻ってきた。
「ちょっと耳を貸せ! これは他の奴らに聞かれたらマズイ情報なんだ」
エリク達はそう言って俺の肩に腕を回して耳打ちしてきた。
他の奴らに聞かれたらマズイ情報って……オイオイもしかしてそれって!
新たに発見されたダンジョンの情報とかか!?
だとしたら確かに聞かれたらマズイな!
冒険者活動は基本、早い者勝ちの世界だからな。
「実は街の方に新たに異種族達が経営する……エッチな店ができるそうなんだ!」
「しかも新装開店セールで初回は半額という情報も掴んである!」
エリクとデニスは声を振るわせながら俺に教えてくれる。
「な……んだと……! その話詳しく聞かせてもらおうか」
エリク達が隠していた情報はどんな好条件のクエストより、新しく見つかったダンジョンよりも価値のある情報であった。
……その後も、エリク達と俺は密談を交わして例の店がオープンしたら一緒に行こう! っと男同士の約束をした。
やはり持つべきものは友だな!
そして俺とヴィクトリアはブラッドムーンの事も知れたし、相変わらず良いクエスは無いしでもう宿屋に戻ろうかと思っていると、それは突然の如く起こった。
ギルド内のスピーカーから大音量でこんな言葉が聞こえてきたのだ。
「大変です! ミストルの街に向かって大量の飛龍が接近中! 冒険者各位は至急、装備を整えて外壁に集まって下さい!」
それはいつも俺達がお世話になっている受付のお姉さんの焦っている声であった。
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