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深を知る雨  作者: 淡雪みさ
第七章

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2201.02.17 ②




薫が立ち止まったのは、アイスワインシロップという割とお高い商品の前だった。


「これいいんじゃね?」と薫。



「あー、まぁ、確かにな。洒落た感じが遊っぽい」



ナイアガラオンザレイクから運んできた手作りの少量生産品と書かれているし、確かにキャナダでしか買えないであろう品だ。


薫は少し迷ったようだったが、結局アイスワインシロップとアイスワインの両方を購入した。



「オレあんまそういうの詳しくねーんだけどさ、アイスワインって何?」

「デザートワインだな。食前酒や食後酒として楽しむのが基本だ。凍らせたブドウを使って製造する」



ほむほむ……と初めて得た知識に感心していると――――不意に、運命的な出会いを果たしてしまった。


ハンドメイドの不気味な鳥の置物。



「これだッッ!」

「…………マジかよ……」



薫がドン引いた声を出し、一歩私から離れる。



「何だよ、面白いじゃんこういうの」

「いや、土産とかならいいと思うけどな?誕生日プレゼントだぞ?それも遊への」

「いいじゃんいいじゃん。洒落たもんは薫があげるんだから、オレはネタプレゼントにするよ」

「はぁ……あの全身タイツといい、こいつのセンス……はぁ……」

「それまだ言う!?」



鳥の置物を買った私は、「これだけじゃ薫のプレゼントに負けるし、キャナダと言えばなメープルシロップも買っとこっかな~」と呟いた。


すると、鳥の置物を売っていた人が重要なことを教えてくれた。



「兄さんたち、もしかして知らないのかい?最近0時以降の営業が禁止されててね。もうすぐどこの店も閉まるよ」

「えっ」



そう言われてみれば、品物を売っていた人々が帰り始めている。



「……どうしよう!どっかで飲み物買いたかったのに」

「自販機があるじゃないか」

「事情があって今自販機使えないんです!」

「なら、コンビニに行けばいいんじゃないか?ここからだとちと遠いが、歩いていけない距離ではないよ」



ちらりと薫を見れば、「奢んねぇぞ」と言われた。


そんなこと期待してないし!


基本的には外にいて喉が渇いたり小腹が空いたりしたら、自販機で買うか端末で注文してその場に運んできて貰うかのどっちかだ。


ただ、その場に運んできてもらうサービスを利用すると当然ながら少し値段がお高くなる。


安く済ますためにもできればコンビニ行きたい。



「一人で行けとは言わねぇよ」



どうやら付いてきてくれるらしい薫は、端末でコンビニの場所を調べる私と共に歩き出した。




10分後。


喉が渇いているうえに何だかお腹も空いてきた私は薫に不満を漏らす。



「薫ぅお腹空いたぁ」

「……」

「薫ぅぅ」

「……」

「薫ぅぅぅぅひもじいよおおおお」

「うるせぇ!もうちょっとでコンビニだから我慢しなさい!」



……意外と薫もオカン気質だった……。





何とかコンビニに到着した私たち。


薫は外で待っているらしいので私だけ中に入った。


コンビニはちょっと種類が多いだけの自販機集合体みたいな感じだし、必要性が無くて近頃どの国でも減ってきている。


強いて利点を言うなら冷暖房完備でテーブルが用意されてるってことくらい。


しかしこういう時は助かる。


おにぎりとお茶を購入し、早速おにぎりを食べながら外で待つ薫の元へ向かう。



「ただいまー!待っててくれたお礼におにぎり1個やるよ。オレは薫と違ってケチじゃねーから」

「……うっぜ。この包茎うっぜ」

「やめろよ!包茎は別に悪いことじゃねーだろ!」

「お前がさっきさも短所のように言ってたことだろうが!」



怒鳴ってから私から受け取ったおにぎりを立ち食いする薫。


味はお気に召したらしく、美味しそうに食べてるからちょっと可愛いなと思ってしまった。



「200年くらい前は、コンビニに労働者がいたらしいな」

「へー。何で?おすすめの商品教えてくれんの?」

「買いたい商品持っていって、そいつに金払うんだと」

「えー面倒。ていうか商品持っていけんの?盗み放題じゃね?」

「世界が変わるのはあっと言う間だな。……変わらねぇもんなんてねぇんだろうなぁ」



薫が空を見上げたので、私も同じように上を見る。


星は、見えない。



「取り残されてんのは俺だけか」

「え?」



ぽつりと言った薫の方に顔を向けた時には、薫は何でもない顔をしていて。



「何でもねぇよ。帰んぞ」



おにぎりの袋をゴミ箱に入れ、そう言って歩き出したのだった。





 《21:00 ホテル》



いつものラブホテルのベッドの上で、今日キャナダで買ったお土産を事後の疲れを隠しきれていない一也に渡す。



「じゃーん!このキャンドル一也にあげる!」

「…………そうですか……ありがとうございます」

「テンション低いぞ?賢者タイム?ねぇ賢者タイム?始める前に渡した方がよかった?」

「……別に、関係ないです」



気だるげにキャンドルを受け取った一也は、それを大切そうに見つめてくれる。


一也の事後の態度はかなりマシな方だと思う。女とヤった後その女の顔も見たくなくなるとかいう奴結構いるし。まぁ私が今まで女を穴としか見ないような男とばっかセフレになってたからこその偏った統計かもしんないけど。


その点一也はちゃんと会話してくれるし、嫌そうにしないし、少し返答が遅くなったり怠そうにしてたりするだけ。



「あのさぁ一也」



それをいいことに、疲れてる一也に遠慮なく話しかけた。


内容は、昨日からずっと頭から離れないあのこと。



「自分以外の異性の誕生日のために張り切るな、みたいなこと気になってる人に言われたらどう思う?」

「……泰久様にそう言われたんですか?」

「いや、例えばの話!一般論を答えてほしいの!」

「泰久様に一般論は当てはまりませんよ」

「ああああもう!一也って素直じゃない!」



わざわざ名前を伏せて聞いたのに、気付かないふりすらしてくれない。これが一也である。


もう諦めて泰久ということで話をすることにした。



「……しかもさ。“お前が好きなのは俺だろう?”って確認するみたいに聞いてきたんだよね。……どういう意味で言ったんだろう……?まるで自分以外の男の誕生日祝われると嫌みたいな言い方だよね。何考えてんだろう……」

「まぁ、普通の男なら嫉妬と捉えていいのでしょうが、相手はあの泰久様ですからね」

「それなんだよ……!泰久が相手だともう何が何だか分からないっていうか……!未知の生物と対話してる感じ……!まず泰久はお姉ちゃんのことが好きだし、私関係のことで嫉妬するってのが有り得ないし、でも何か嫉妬してるみたいな言い方だったし、もう何か頭が混乱してきて……も~どうしよ~今夜も眠れないよ~」



布団の上でジタバタする私に、一也は黙って視線を向けてくるだけ。


何を思っているのかは分からないが、どうせ“何勝手に勘違いして浮かれてるんだこの人は、脳ミソお花畑だな”って呆れてるんだろうな~一也そういう奴だもんな~。



……っていうかそろそろ帰らねば。


いつもなら泊まっていくけど、今夜は麻里が部屋にいるんだ。冷蔵庫の使い方とか、何か分からないことがあったら困るだろう。



床に脱ぎ捨てた服に手を伸ばす私を見て、一也がやはり気だるげな声で聞いてきた。



「……帰るんですか?」

「あー、うん。今日はちょっとね」



上半身を起こして上から服を被った私の手を、不意に寝転がった状態の一也が掴む。


一也と視線が絡まり、数秒した後。




「――――……寂しいです」




……心底びっくりした。


一也にこんな風に甘えられたのは初めてだったから。



だから。



「…………やっぱ、泊まってくわ」



そんな言葉が口から出たのも、ほぼ反射に近かった。




10年近く知っていたのに、私は一也に1度も甘えられたことがなかったのだ。






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