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深を知る雨  作者: 淡雪みさ
第七章

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2201.02.15 ⑥



「……ど、して……」

「ごめんね。オレも能力持ちなんだ」



こいつも能力者……!


音を防げたってことは防御能力者……?


分からない。


こちらに不利であることしか、分からない。



一人称からして女のように見えて男だったらしいそいつは、何をするかと思えば救急箱を持ってわたしに近付いてくる。



「痛かっただろ。……太郎、お前もうちょっと加減しろよ」

「久しぶりに攻撃入れられたから興奮しちゃってェ。でも思ったより弱いから萎えたー。せめて連続で電撃できるくらいだったらなァ」

「勝手に萎えてろ」



吐き捨てるように言った女顔は、どうやらわたしの処置をしようとしているらしい。


ちらりと仲間を見上げれば、仲間もどうしていいか分からないらしく突っ立っていた。



「どうして爆破なんかしようとしたんだ?」



そう聞いてくる女顔の声は、存外優しい。



「戦争を……っ戦争をさせないためよ!」



反射的に、噛み付くように言った。



「わたしのお父ちゃんは戦争で死んだわ!この国に軍隊なんていらない!!」



大中華帝国と軍事同盟を結ぶなんて、また激しい戦争が起こるに決まってる。


多くの死者が出るに決まってる。


戦争なんてやるもんじゃない。


どうして日本帝国は、世界の流れに逆らおうとしないのか。



「―――国の中で何も知らず安全に過ごしている小娘が。どの組織のおかげで国内の平穏が保たれているのか理解しろ」



そう言ったのは、女顔でもわたしを切りつけた少年でもない。―――もう1人の、子供だった。



「このご時世に、武力以外の解決法があると思うのか」



とても子供とは思えない表情で聞いてくるもんだから、思わず黙ってしまったが、慌てて口を開く。



「ど、どんなことでも平和的解決ができるはずだわ!」

「ほう、どうやって?」

「皆で話し合って、互いに納得できる結論を、」

「なら僕がこれから君を殺そうとしたらどうする」

「はっ……?」

「君は悠長に“話し合い”で解決しようとするのかな」

「そ、そうよ!」

「だが僕は今すぐにでも君を殺したい。君と“話し合い”なんてしたくない。それよりも早く君を殺したくてたまらない」

「そ…んなの、駄目に決まってるじゃない!」

「何故?僕には君を殺す能力があり、君は言うことを聞いてくれない邪魔者だ。それで十分じゃないか。何がいけない?」

「……ッ」

「ほら、ほうら。“話し合い”とやらで自分の身を守ってみろよ。僕に攻撃したらそれは武力の行使だ。君は軍を認めたことになる」



子供が言っているとは思えない言葉の数々が、10歳にも満たない少年から出てくる恐怖。



「2201年現在の世界情勢をよおく勉強したまえ。軍事力の無い国では対等な立場で話し合いなどしてもらえないさ。どの国もラリってるんでね。理性的な話し合いができる状況ではない」



こちらを煽るように、ククッと喉を鳴らす少年。



「こんな時代にしてしまったのは過去の人類だ。君が責任を感じてどうにかしようとすることじゃない。世界というのはそう急には変わらない。じわりじわりと変化してゆき、気付けば生きづらい時代になっている。そういうものだよ。人が人を殺すのではなく、時代が人を殺す」



君が責任を感じることじゃない――、妙に、染みた。



「少なくとも僕は、自分の言うことを聞かせるために無関係な人間の生命に関わるような爆弾の使い方をする君に、ここにいる彼ら軍人を否定されたくないね」



―――続けられたその言葉で、目が覚めた。




……わたしは、何を。


いや、でも――もう遅い。




「……吉治くん、今のってもしかして……」

「父さんの真似です」

「だろうな!憑依したのかと思ったわ!めっちゃ似てた!」


「……もう、無理よ……」

「へ?」



話をしていた女顔と少年が、言葉を発したわたしにもう1度視線を向けた。



「爆弾はっ……既にもう1つ置いてあるの……!」



そう白状すると、女顔が息を呑むのが分かった。



「――どういうこと?リモコン式じゃないの?」

「時限爆弾を、行進の進行方向に置いてあるわ……!」

「そんなっ……どうして、」

「保険だったの、1発目が上手くいかなかった時のための……!設置してるのはこの軍事施設の入り口よ!」



軍人たちは、行進しながら広場からこの軍事施設に入ってくる。


そこで確実に仕留めるつもりだった。


もし一発目で行進が中止になっても、軍事施設の一部を潰すという意味では入り口に仕掛けるべきだと思った。


もう、間に合わない……。



「落ち着いて答えて。あとどれくらい残ってる?」

「よくて3分……。今から処理班を呼んだって確実に間に合わない……」



わたしがなるのは英雄じゃなかった。


わたしは今日―――人殺しになる。


今更震えるわたしの手を、女顔の男の人が強く握った。



「大丈夫、後悔してくれたならそれでいい。お前を罪人にはさせない」

「……っ」



どうして、そんな。この人は。



「どうしてそんな優しい言葉を、わたしに……っ、」



泣き崩れたわたしに対し、男の人はやはり優しい声でこう言った。



「可愛い女の子の今後の人生を、罪の意識で潰れるようなものにはしたくはないんだ」



嗚呼そうか、この国は。


―――こんな人たちに守られているんだ。






 《15:15 航空機格納庫裏》



……どうしたもんかな。


飛行監視カメラをハッキングして軍事施設の入り口周辺の映像を端末で見る。



……これか。


一見爆弾には見えないけど、いつもはこんなもの入り口に無い。



接着能力でどこかへ飛ばす?


だめだ、爆弾を飛ばすのに安全なところがない。


どこへ飛ばしても被害が出る。


……いや、被害を出すことを厭わなければいいのか?


優先すべきは人命だ。


多少無生物が破壊されようと、問題にならなければそれでいい。


私の接着能力にも限界があるし……能力を発動できる範囲で最も遠い建物……と、いえば。



「――吉治くん、お前遺伝的に考えて多分気流操作能力者だよね?ランクは?」

「Aランクですが……」

「なら、今から一般部隊の女子寮に走って。―――女子寮、爆破するから」

「…………は?」



何言ってんだこいつみたいな目で見られてしまったが、もう他に手はない。



「吉治くんは爆風から人を守って。それとあんたは、爆発音をできるだけ小さくして。一般客が怪しまないように」



音を操作する能力者の背中を押して言う。



「太郎はそのピンク髪の子と一緒にいてあげて。いじめんなよ」

「はァ~い」



一通り指示をしてからロボットを呼び寄せ、緊急時のスピードを出して屋上へと向かった。


あそこからなら望遠鏡を使えば爆弾の位置を確認できる。



――――目視できる範囲で最も遠くにある、一般部隊の女子寮と爆弾を接着させること。


私にできるのはそれくらいしかない。



屋上に到着した私は、望遠鏡でもう1度爆弾の位置を確認した。


よし。本来なら自分と自分以外を接着させるための能力だし、自分以外の人間やらそれくらい重い物体やらと建物を接着させることはできないけど、あれくらいの大きさなら飛ばせる。



いいよね?紺野司令官。


素人の私に爆弾処理なんて任せるからこうなるんだよ。



後始末は全ての元凶である紺野司令官に任せるとして、全力で接着能力を発動させる。


入り口付近にあった爆弾が宙に浮き、女子寮へと飛んでいくのが見えた。



排便する時のように力み、大きく息を吸って叫ぶ。



「行っけぇぇぇえええええええええ!!」



行け、もっと速く、速く、速く―――……!



こんなに力を使ったのは久し振りかもしれない。


爆弾は凄いスピードで飛んで行き、すぐに女子寮へと到達した――――その、刹那。




木っ端微塵とまではいかないものの、殆どその勢いで、一般部隊の女子寮は消えた。


あの男のレベルの音量操作では誤魔化しきれないのか、爆発音がこちらまで届く。


一般人が異変を察知して振り向くのが分かった。



……さて、多少手荒な方法ではあったが危険物は処理した。



あとは、あの人にお願いするしかない。






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