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深を知る雨  作者: 淡雪みさ
第六章

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「この女何も喋らねえな」

「政府側の人間であることは間違いないだろ。とにかく少しでも情報を吐かせろ」

「こんな無能を連れてくるなんて、連中は頭悪ぃんだな」

「超能力重視で子供ばかりを偉いさんにするような奴等だからなぁ」



西部民族の溜まり場とも言える場所。


そこには縄で縛られた女性―――チュンメイがいた。


彼女は急に現れて西部民族の一人を撲殺し、騒ぎを聞いて駆け付けた他の人間に拘束された。


チュンメイが殴る蹴るの暴行を受け、もう、3日になる。


以前軍服を着たチュンメイを目撃したという証言から、彼らはチュンメイが軍人であると確信し、情報を引き出そうとしていた。


しかしチュンメイは驚くほど何も漏らさないし、暴力にも脅しにも屈しない。



「つーか、蹴ったせいで汚れちまったけど、なかなかの美人じゃん」

「本当に何も話さなかったら別の使い道を考えなきゃいけねえな」

「綺麗な顔だし、殺すには惜しい。売ったらいい金になるだろ」

「今のうちにいっぺんヤっとくか?」

「複数プレイかよ!ぎゃはははは!」 

「バーカんなこと言ってねえだろ。俺デリケートだから他の男いたら勃たねえんだよ」

「じゃあ先俺なー。この綺麗な顔に出してもっと汚してやるわ」

「は?マジかよ、俺らの前でやんの?」



一人の男が鼻唄を歌いながらチュンメイに近付く―――が、そのズボンにかかっていた手が、思わず止まった。



「その汚い陰茎少しでも出してみなさい。―――咬みきるわよ」



先程まで大人しくしていた可憐な女性の、周囲の空気を凍り付かせる程の殺気。


ぞくり。その場にいた誰もが寒気を感じた。



彼らは生かされているのだ。


チュンメイにとってこの程度の拘束など無意味であり、その気になればいつでも逃げられるうえ、この場にいる全員を半殺しにすることも容易い。


それでも彼女がいつまでも暴力に耐え続けているのは―――“必ず助ける”と言った男の言葉を、心から信じているからだった。


必要な情報さえ、できるだけ多く、彼らに伝えることができれば。


そう思っていたその時、テントに例の長老が入ってきた。


非常に怖い顔をしているため、男達は何事かと戸惑う。



「その娘は――どうした」



低い声で問う長老に対し、男たちの一人がおずおずと口を開く。



「す、数日前襲ってきた女でありまして、恐らく政府側の軍の人間ですので、有益な情報を引き出そうと……」

「何てことをしてくれたんだ!!」



すかさず長老が怒鳴り、男たちの体がびくりと揺れた。



「……っ、え…っ」

「あ、ああ、あ……嗚呼……滅びる……我々が滅びる……」



お得意の予知能力とやらで未来を見たのか、目をぐるぐるさせながら後退りした長老は、そのままばたりと倒れてしまった。



(……きっと、そろそろ、来るのね)



その時が来れば今までされたことを100倍にして返してやる、とチュンメイはほくそ笑んだ。





―――同時刻、中央軍事施設。


鈴は腕を組みタイランに対し冷たい目を向けていた。



「何で使えないなら言わなかったの?1週間もあったのに」



そう、彼は使う予定の軍用機の基本的な操作の仕方すら知らなかったのだ。


他の型の機には何度も乗って慣れているため、1週間あれば練習さえすればこの機にも乗れたはずなのだ。―――だが、それもしなかった。



「話にならない。そんなんじゃ迷惑なんだけど」



鈴はタイランやミンヤンがこれまで聞いたこともないほど低い声を出し、



「……ティエンは、初めてでも乗れたと聞いた」



そんなタイランの言い訳がましい言葉に対し派手に舌打ちした。



「ティエンとお前は違うでしょ」

「……っ」



当たり前のことを言われているだけであるのに、その言葉はタイランのプライドを酷く傷付けた。


お前にはティエン程の才能はない――そう言われているようで。



「あんな化け物が同じ施設にいて!少しもプレッシャーを感じないと思うか!?そんなわけないだろ!追い付かなければ追い付かなければって必死で、でも追い付けなくて、自分もあいつくらいの才能があるんじゃないかって期待して、あいつと同じくらいできなきゃいけないって焦って、あれだけ何でもできるあいつが羨ましくて……っ、嫉妬して嫉妬して嫉妬して、もしかしたら本当にやらなければならない状態ならこんな自分でも才能を発揮するんじゃないかって、思って、」



タイランは途中で自ら言葉を止めた。


自分は何を言っているんだと恥じた。


悪いのは自分だ。今こんなことを言っても仕方ない。



ミンヤンにとっては、タイランの言い分など練習を怠ったことへの言い訳にしか聞こえなかった。


恐らく他の誰が聞いてもそうだろう。


しかし鈴は違った。鈴には痛い程分かった。


どれだけ頑張っても届かない相手のために、自分を潰してしまう気持ちを、鈴はよく知っていた。



「……自分より優れてる奴がいるのは、当たり前のことでしょ」



だから。


鈴が怒っているのは、タイランがティエンを意識しすぎて練習を怠ったことに対してではない。



「他人を見すぎて自分を見失ってんじゃねーよバカ!チュンメイ助けにいくんでしょ!?」



今敵の元にいるチュンメイよりも、ティエンのことを考えていたことに対してである。


鈴の言葉に頬を殴られたような衝撃が走り、タイランは我に返った心地で固まった。


そんなタイランを押し退け、有り得ないことを口にする鈴。



「もういい、私が操縦する」

「……は!?お前、乗ったことあるのか!?」

「あるわけないでしょ!私軍人ですら無いし!でも今は私しかいない!お前の場合慣れない操縦するくらいなら飛行能力で飛んでった方が早い!さっさと行け!!」

「……っ」



Aランクレベルの飛行能力を持つタイランは、鈴の怒鳴り声に促され地を蹴って飛び立つ。



鈴はイライラした様子でタイランが乗る予定だった前方の座席に乗り込み、機内の温度を調整する。



「お、おい、鈴、おれ代わろうか?」



後ろの座席にいるミンヤンが気を遣ってくれているのは分かるが、同じく経験の無いミンヤンが代わったところで状況は同じだ。



「いや、キノ……、…ミンヤンは窓から外を確認して正確な距離と方向を私に教えて。お前Aランクレベルの千里眼でしょ?」

「キノコって言いかけたか今!?鈴おれの髪型でしかおれを認識してねえだろ!」



ミンヤンの喚き声を無視し、画面に操作マニュアルを映し出して一通り眺める。


莫大な情報量。方法自体は、マニュアルを見ながらなら難しくはない。


しかし頭で理解したからと言ってこの手の機体を上手く扱えるかは経験による。



(……泰久の父ちゃんがいたらな)



凄腕パイロットである東宮泰久の父親を思い浮かべ、鈴は苦笑した。


そして出発する前に端末をポケットから取り出し、組む予定だったティエンに電話を掛ける。



「もしもし、鈴だけど。ちょっと遅れるからそれまで暴れすぎないように」

『はァい』

「味方は傷付けるな。分かった?」

『分かってるってばァ』

「ほんとに分かってる?」

『この怪我じゃいつもほどは暴れらんないに決まってンだろ?』

「……まぁそうか」



ティエンには連日の鈴との戦闘で負った怪我がいくつもある。そう自由には動けないだろう。



『それに、“うまく我慢できたら、もっと楽しい世界を見せてやる”――でしょ?』



それは、昨夜鈴がティエンに伝えたことだった。


ゲームはルールがあるから面白い。


“味方を傷付けない”というルールに、ティエンがハマってくれるといいのだが。


正直敵味方関係無く攻撃するような10歳の子供は手に余ると思っていたし、少し見て無理そうなら今回の作戦に参加させずにいようと思っていた鈴だが、関わってみて思ったのは、ティエンという少年が、退屈を持て余すただの孤独な子供だということだ。


ティエンは、見方によっては普通の子供より扱いやすい。



「いい子。私が行くまで待っててね」



通話を切って端末をポケットに仕舞った鈴に対し、ミンヤンが遠慮がちに問う。



「……鈴、お前、何でそんなに必死なんだ?これはおれらの国の問題なのに」



鈴が日本人であることは、意外にもミンヤンにも分かっていたことらしい。



「私はこの作戦に、未来の同盟国の運命がかかってると思ってる。絶対に失敗させたくない」

「……っおっとこ前だなぁ、鈴!そういうの嫌いじゃないぜ!ポォォォォウ!」

「ポウポウうるさいお前の口癖独特すぎて集中できない!」

「ごめんごめん。でも、さっきの言葉は効いたと思うぜ。“自分を見失うな”ってやつ」



鈴は返事せず耳だけ傾け、言葉の続きを待つ。



「あいつずっとティエンのことばっか意識してたからなー。おれから見りゃタイランだって十分できてんのに、タイランはそれじゃ満足できねえみたいだったし、ずっと何かに追われてるみたいに苦しそうだったし。向上心があるのはいいことだけど、“自分に”求められてる基準を忘れるのは駄目だよなぁ」



(……お馬鹿キャラに見えて、結構周りのこと見てるんだ)



認識を改めながらも、鈴は初めての軍用機の操縦を開始した。


グォン、と機体が離陸する。


鈴は以前実の姉が言っていたことを思い出した。



(……“軍用機で空を飛ぶと、新しい景色が見える”か)



眼前に広がる景色を眺めながら、もしかしたら姉もこんな景色を見ていたのかもしれない、と、少しだけ涙が出た。






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