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深を知る雨  作者: 淡雪みさ
第五章

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2201.01.22 ⑤



 《21:50 西館》



ここにいる子供たちの保護は後で突入してくるであろう一般団体に任せるとして、私のやるべきことは一般の人々にはできない救助だ。


マップに表示されていた1番奥の1番広い部屋に、予想通り線に繋がれた女性がいた。


……もしかして、この人が遊の妹なのかな。


酷い有り様だ。遊を連れてこなくて良かった。


「小雪、この人治せる?」

「完全には無理だね。人工臓器は外せないし、何とか外の病院で寝た切り生活くらいならできるだろうけど……」

「オーケー、今から線切るから治したらすぐ近場の病院に瞬間移動させて」


小雪自身は移動できない。


後はその場にいる医療関係者の判断次第だ。


まぁ、さすがにこんな状態の女性が飛んできて何もしないようなド畜生はいないだろう。


遊の妹の頭に触れる。途端に彼女に流れている能力プログラムを感じた。


Kg7n4twUtm8.jp6cvkybg8wxpDabtlkgaw2tkpxgpnrb2Kyluxlnqb2yvnfyr3l2y48yyle2lwtjc8pxd2qvojwul60n4l5n4o1ov223o?d?y5vzxee.xoh3vysi--------……うえっ気分悪くなるわこんなん。


すうっと息を吸い、能力を使って遊の妹に流れる能力の波を負担にならないよう順々に遮断していく。


こりゃ時間掛かるなぁ……そろそろ一般人も集まってくる頃だろうし、早めにここを出たいんだけど。




―――と、その時。途中で自分の能力の出力が急激に下がるのを感じた。


…………何だ?


「相手が悪かったなぁ。こっちは長年能力者をデータ化してきた組織やで?侵入者さん」


こつりこつり。ハイヒールと床のぶつかる音がしたのでそちらを見ると、女性の職員らしき人物がこちらに銃口を向けていた。


……あれ、おねーさん一応一般市民なのに拳銃持ってていいんですかね。国の許可取ってるんですかね。


能力抑制電波かぁ。しかもこれ、遮断できない。


こっちが電脳能力者であることを予想して、電脳能力者にも切れないように細工したものを使ってるのか。


「その子から離れえ。今なら打たんといてあげる」


こつり。おねーさんがまた一歩私たちに近付く。


こつり。また一歩近付かれると、小雪が私を庇うようにして私の前に立つ。


私はそれを「大丈夫だから」と押し退けて、お姉さんに問い掛けた。


「おねーさん、ちょっと聞いてもいいですか?」

「聞くだけなら構わんで?答えるかどうかは別やけど」

「人をこんな状態にして、おねーさんは何も感じないんですか。……もう、麻痺しちゃってるのかな」

「ふん、一般的に使われている実験動物をヒトにしたところで何が悪いって言うねん。同じ命やろ。マウスやモルモットより人間の方が大事っちゅうんは、人間を偉く見すぎとちゃうか?特にヒトに適用させる超能力研究の場合、実験動物としては、ヒトの方が遥かに優秀や。それを使って何が悪いん」

「……成る程、そういう考え方ですか」

「日本帝国が世界最先端の超能力開発を進められてるんは、こういう育成所があるからや。前に進むには必ず犠牲が必要やで、何事においても」

「あなたの意見も一理あります。でもごめんなさい。この育成所で行われていることを気にして、私の友達が苦しんでるんです。―――私は、友達に苦しんでほしくない。例えあなたが正しかったとしても」


警備ロボットがぞろぞろと部屋に入ってきて、おねーさんを囲む。


「……ッ!?な……どうして……っ!」

「そりゃあ確かに使いづらくはなりますけどね。この程度の抑制電波じゃ抑制もクソもないんですよ、私相手の場合」

「嘘や、この電波に打ち勝てるなんて、Sランク級の能力者しか……っ」

「よくお分かりで」


警備ロボが四方八方から内蔵された銃口をおねーさんの方へと向ける。


「能力抑制電波を切ってください。でないと今すぐ殺します」

「……っ」


そろそろ遊の妹さんに送られている能力の波は全部切れる。


その時小雪が瞬間移動能力を使えなかったから困る。


おねーさんがなかなか動こうとしないので、ロボットに肩を打たせた。おねーさんは肩を押さえて踞る。


「おねーさん、私は踞れとは言ってないんですよ。電波を切れって言ってるんです」

「このガキ……ッ」

「もう一発打たれたいですか?私成人してます」


おねーさんは震える手でポケットからリモコンを取り出し、何やら番号を入れてボタンを押した。


リモコン式かーい。それなら普通に乗っ取れたわ……無駄に脅しちゃったな。


次の瞬間私の能力の出力が上がり、遊の妹の方の処理が一気に終わった。


「小雪、お願い」

「分かった」


遊の妹が目の前から消えた。


これで終わった。私のできることは全て。



ふう、と大きく息を吐き、最後におねーさんに優しく微笑みかける。



「さよなら、オネーサン。―――命以外何もかも失った絶望的な今後の人生を、どうぞお楽しみください」



多分、死んだ方がマシだと思うだろうけどね。






 《21:50 東館》里緒side



西館へ繋がる通路には、かなりの人数のBランク職員が一斉に押し寄せてきていた。


殆どが男であるせいで、手加減しようとしても力が入りすぎてしまう。


それを気遣ってか、楓がなるべく俺に職員を近付けまいと気流操作してくれた。


距離があれば冷静に攻撃できる。


楓のおかげである程度正確に能力をコントロールできるようになった僕は、物をぶつけて気絶させることをひたすら繰り返した。


そうやって職員たちを倒しているうちに、たまたま薫の近くになった――その時だった。


「お前、今日ここ付いてきたの、遊を助けようと思ったからってだけじゃねぇだろ」


不意を衝くかのように、楓に聞こえない程度の声で、薫が確信を持って言ってきたのは。


「…どうしてそんなことを言うんだ?」

「お前が顔色変えたのは2度。1度目は遊の話を聞いた時。2度目は、底辺が遊を助けに行くと言って出ていった時」


薫は喋りながら床を溶かして職員たちの足元をぐらつかせる。


僕も念動力で職員の持ち物を飛ばして攻撃する。


「底辺と何があった?あいつのこと心配するようなタチじゃなかっただろ。寧ろ嫌ってただろ」


薫はよく周りを見てるんだな。


薫みたいな奴がいて、あいつは今後も上手く性別を隠していくことができるんだろうか。


いざという時はフォローしてやるつもりだが、勘の良い薫に確信を持たせたら終わりだ。





目を閉じれば、あの日の優香の顔が浮かぶ。



――「妹がさー、端末の着信音ベートーベンの運命にしてんの!ぎゃははははは!あのくらいの歳の子って普通流行りの音楽とか着信音にするんじゃないのって話よ!何でそんなチョイスなのかしらねぇ!?インテリかって!」



下品な笑い方をしながら、テーブルをバンバン叩き、そこにはいない妹の話を楽しそうにする姿。


彼女はいつも妹の話をする時だけ、人間のような表情をしていた。


「何もない」


そう、何もない。


あいつと僕はまだ出会ったばかりで、僕にとってあいつがうざったい存在であることに変わりはなくて、今後仲良くなる予定も全く無いけれど。



――――恩人の妹を、死なせたくはない。



「ちょっと、何話してんのよ?集中してよね!」

「へいへい」


楓の言葉で薫が怠そうに僕から離れていく。


僕も深呼吸して前を向き直った。


優香の大切な人の守ろうとしているものを守りたいからここへ来た。



……優香。


あんたの大切にしてた妹は、今度は僕が守るから。



―――だから、安らかに眠れ。






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