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深を知る雨  作者: 淡雪みさ
第三章

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2201.01.20 ②



「いいか?俺たちEランクがパフォーマンスで武器にできるもの、それは超能力だ!」

「えーでも超能力を使ったパフォーマンスなら上のランクに負けるんじゃねぇっすか?」

「それがだ!なんと別のランクはパフォーマンスでの超能力使用が禁止されている!」

「な、なんだってー!」

「まぁ、そりゃ他国に手の内を明かすような真似はしたくないでしょうね」

「Eランクはどうせ超能力戦ではろくに戦えないから、超能力の種類を晒しても特に問題はないと思われてるってことだな」

「ネガティブなこと言うな!!」


筋肉ムキムキのEランク隊員たちが話し合っている。


お前らまだパフォーマンスの内容決めてなかったのか……。


最近ずっとテキストチャット機能を有するSNSを使ってグループチャットしてたからてっきりもう決まってんのかと思ったぜ。


因みに私はそのグループに入ってない。他のEランク隊員の端末に侵入してたまに見てただけだ。


「とにかく超能力を使うんだ。何かパフォーマンスに使えるような能力はないものか……」

「はいはい!俺、透視能力持ってます!」

「はいはい!俺は料理を一瞬でおいしくする能力持ってます!」

「うん、まずパフォーマンスでその能力をどう役立たせるのか考えてから言おうな?」


まだまだ決まりそうにないので、暇潰しに隅っこで休憩してる隊長と話そうと思って近付いたのだが、隊長は私に気付くと然り気無く遠退いていく。


あれれ?何で逃げるのかなぁ?


捕まえようと走る。隊長も走る。スピードを上げる。隊長も上げる。


暫く同じところをぐるぐる走っていたが、やはり若い体力には勝てないのか、先に止まったのは隊長だった。


「……っ、はぁ、はぁ……」

「もー隊長ってばー、何で逃げるんですか~。そんなに私のことが嫌いなんですか?何で?いっつも脅すから?」

「……分かってるなら聞くな……」


げっそりした顔で座り込んだ隊長は、ロボットを呼び出してお茶を受け取り、息を整えてそれを飲んだ。


しかし。


「がはッ!くっ、な、何だこれは!?辛……ッ、」

「隊長が私のこと嫌いなんて言うからショックで……。ロボット操作して激辛のやつと入れ替えました」

「くだらないことに能力を使うな!!」


隊長に目を真っ赤にしながら怒鳴られた。


ああ、少し遊びすぎてしまった。


隊長には一応話したいことがあって来たのに。


「あのですねー隊長。少しお話したいことがあるんですが」

「もう話しかけないでくれ……」

「何日か前、総司令に女だってことバレました」

「ハァ!?……わ、私は知らないからな。私は関係ない」

「隊長が手を回したってことは勘づかれてましたよ」

「ハァ!?」


今にも倒れそうなくらい真っ青になった隊長。この表情残しておいて、“隊長喜怒哀楽”ってタイトルで写真集販売しようかな。この人顔だけ見ればイケメンだし一部のファンに売れるかも。


「……終わりだ……」

「どうしたんですか隊長」

「どうしたも何も、違反行為がバレたんだぞ?しかも、私は超能力部隊の隊長という立場だ。色んなことを知りすぎている。記憶消去技術を使って記憶を消されたうえで軍外部に追い出されるに決まってる。もしくは殺されるかだ」

「隊長は大丈夫ですよ。私がうまくやればの話ですけど」

「……どういう意味だ?」

「ゲームを仕掛けられましてね。この軍にいるもう一人のSランクを見つけられたら私のことは隠すって言われました」

「もう一人のSランク?東宮や一ノ宮の他に、という意味か?」


あー、今の反応で分かった。隊長ならもしかしたら知ってるかもって思ってたけど、隊長も知らないんだな。


「誰かがSランクであることを隠しているらしいんですよ。それも、有名な人だと思います。私はAランクの3人の中にいると疑ってるんですけど」

「大神か?」


思いの外悩まずに薫の名前を出してきた隊長に、こちらが少し驚かされた。


「何故そう思うんです?」

「いや、あいつ何年か前から訓練の時必ず……」


隊長が何か言い掛けた時、「おい千端ァ!お前もそんな隅にいねえで意見出せぇ!」とタイミング悪く呼ばれてしまった。


「すみません隊長、続きはまた今度」


ぺこりと軽くお辞儀をしてEランク隊員たちの元へ走る。



……薫、ねぇ。なーんかありそうな奴だとは思ってたけど、隊長に第一に名前出される程か。


もし薫がSランクだとしたら、ひょっとすると喧嘩っ早いのも能力を思う存分使えない欲求不満からとか?


でもだとしたら何で隠してるんだ?


紺野司令官は一発で当てられたら、と言った。


チャンスは1度しか無い。十分な根拠を探さなければならない。


……先が思いやられるなぁ、なんて溜め息を吐きながら、私は筋肉ムキムキ野郎共の元へ走った。





 《8:00 軍事施設》小雪side



人目に付かない場所にあるベンチに座ってシガレットケースを取り出し、一服しようとしていた時だった。


「やぁ小雪くん。一人かい」


紺野芳孝がいつもの如く気配無く現れ、話し掛けてきたのは。


殺そうとしていた相手を改めて見るというのは、何だか妙な気分だ。


「あんたこんな所にいていいんですか?」


紺野芳孝は愉しげに笑いながら俺の持つシガレットケースから煙草を1本勝手に取り、俺の隣に腰を掛ける。


「そんな怖い顔をしないでくれよ。僕はもう君で遊んだりはしない。もっと面白い玩具を見つけたからね」

「面白い玩具って……、まさか、哀のことですか」

「そう心配するな。彼女のことを君のように扱ったりはしないさ。何せ、戦友の妹だからね」


……“彼女”?“妹”?


「……気付いたんですか、哀の性別」

「気付かないはずがないだろう。僕も君と同じで空間把握ができる。それに、彼女の外見はあまりに姉に似ていた。最初見た時は目を疑ったね」

「哀のお姉さんは、軍人だったんですか」

「あぁ。僕がこの世でただ一人、何においても勝てないと思った女だ」


紺野芳孝は昔から有名なレトロな見た目のオイルライターで煙草に火をつけ、白い息を吐き出す。


「僕はね。嬉しいんだよ、小雪くん」

「はあ……」

「妹がいることは知っていた。だが、まさか、あそこまで姉と同じ能力を使いこなせているとは思わなかった」


哀はEランクレベルの読心能力、精神感応能力を持っている、と俺は聞いた。


でもここに来て確信した。哀は他にも能力を持っているのだと。


「5体の巨大なロボットを悠々と操作する姿を見て、まるで戦友をもう一度この目で見ているかのような気分になった。戦友の亡霊にさえ見えた」

「……亡くなってるんですか、哀の姉は」

「彼女には、戦時中も交際していた男が複数人いてね。その中の一人が敵国の重要人で、彼女はその男に騙された挙げ句自身の管理していた情報を与えてしまった。責任を感じた彼女は、攻撃型の能力でもないのに自ら望んで前線で戦って死んだ。……と、言われている。どこまで事実かは分からない。僕はその場に居合わせていなかったんでね」

「聞いたことがあります、その話。敵国の男に恋をして情報を与えてしまった女性がいたって……。じゃあ哀のお姉さんが、超能力部隊が女性禁制になった原因なんですか?」

「死刑にならなかった上層部が敗戦を素直に受け入れられず言い出したことだ。“女性は感情に流されやすい、女性を超能力部隊のエースにしていたから戦争に負けたんだ”とね。……ところで君は、何故今日は千端哀といない?いつもべったりだったじゃないか」

「……」

「喧嘩でもしたか?」

「……」

「っはは、そうか、喧嘩か。友人と喧嘩をするほど“普通の人間”なんだな。千端哀は」


ククッとまた笑った紺野芳孝は、オイルライターをカチカチ開け閉めして少し遊んだ後、煙草の火を消して立ち上がる。


「美味しかったよ、ありがとう」


そう言って去っていった紺野芳孝の目には―――もう俺に対する興味の色が微塵も無かった。




 《20:00 Sランク寮》



パフォーマンスの練習が終わり、疲れた体でいつものように泰久たちに1日の報告をしに行った夜。


私はSランク寮に声を響き渡らせることとなった。


「しょっ……食事の約束をしたぁ!?」

「あぁ。何か問題が?」


なんと、泰久が麻里と食事の約束をしたと言うのだ。


「デートじゃん!?それデートじゃん!?」

「デートではない。食事だ」

「……い、いつ?いつ会うの?」

「これから」

「これからぁ!?」


驚きすぎて後ろに倒れそうになった。


麻里は肉食だ!絶対肉食だ!


誘ってんのが晩ご飯ってところに下心を感じるよね!そのままホテル行こうって魂胆なんだろ!?私もよくやる!


……でも絶対この鈍感男は麻里の下心になんて微塵も気付いてないんだろうな~麻里が巧みに誘って断れなくしたんだろうな~あの手の女の子ってそういうの得意だもんな~。


いや、泰久だって断る時ははっきり断るし、麻里に押し倒されたとしてもそれは押し退けるだろうから、その辺は心配ないんだけども。


何か、何だろうこの気持ち。


昔お姉ちゃんと泰久が食事に出掛ける時に感じた嫉妬と今感じてる嫉妬とでは、ちょっと種類が違う気がする。


麻里と泰久が向かい合って食事……二人で……しかも片方はバリバリの下心有り……。


想像しただけで不安になってきて、頑是無い子供のように後ろから抱きついた。


「……何だ」

「行ーかーなーいーでー!!」


――最終奥義、駄々をこねる。


「泰久私のだもん」

「……俺はお前に所有されているのか?」


困惑した声を出すが、私の腕から逃れようとしないことにほっとした。


よし、もう一息。


「行かないで!行かないで行かないで!」

「しかし部隊のことで相談があるという話で……」


それは罠だ!何も今日話したばっかの泰久に相談しなくていいじゃん!


「離さないから!泰久が行こうとするなら私ずっとこのままでいる!」

「くっつき虫かお前は?そんなに言うなら分かった。瀬戸川には今日は行けないと連絡する」

「今日はじゃだめ!ずっと行っちゃだめ!」

「……あぁ、そういうことか」


いつも鈍感な泰久はこういう時だけ謎の理解力を発揮して、


「ヤキモチやきだな、お前は」


気付いてほしくないことに気付いてしまう。


「そ、そんなことない!」

「お前がそんなに妬くなら瀬戸川とは出掛けないようにしよう」

「うええ!?」

「その分お前と出掛ける。それで文句はないだろう?」

「そ、それもどうだろう!何か束縛してるみたいでやだ!」

「別に不自由だとは感じない」

「それもどうだろうか!」

「お前を優先するのは当然だろう」


不意をつかれた気分になって、思わず泰久にしがみつく腕の力が弛んだところで、泰久がするりと私から逃れていく。


こちらを振り向いたその顔は、本当に私を優先するのが当たり前って感じの顔で、もうなんて言っていいのか分からなくなりとりあえず溢れた想いを口にする。


「す、好き」

「知ってる」


可笑しそうに笑う泰久に胸がぎゅんぎゅんした。


分かっててくれてるんだ……ううううう嬉しい。


嬉しすぎて言葉が出ない私を置いて、泰久は着替えと麻里への連絡のためか部屋に戻っていく。


「……良かったですね」


私はあまりにニヤニヤしていたらしく、隣の一也が呆れ声で言ってくる。


「う、うん。でもあれ、いいのかなぁ!?何か妹ポジション利用して勝っちゃった感じ!」

「何を利用しようと奪ったもん勝ちですよ、こういうのは。それに、ちゃんと泰久様の顔見てました?泰久様は嬉しいんですよ。やきもち妬いてもらえて」

「……何で?やきもちって普通嫌じゃないの?」

「最近哀花様は泰久様離れしてきてますからねぇ。気にしてもらえて嬉しいんじゃないですか」


泰久離れって何……そんな親離れみたいな……。


別に泰久とはよく話してるし、離れてるとは思わないんだけどなぁ?


「……僕だって少し、寂しいですよ」


一也がぼそりと何か言ったが、多分またいつもの独り言だろうから放っておいた。





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