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深を知る雨  作者: 淡雪みさ
第三章

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2201.01.20




 《8:00 軍事施設中央》



日中合同軍事パレードの開催日は、2月15日。


ついこの間隊員たちに知らせたにしては早い気もするが、上の決めたことなのだから仕方ない。パレードでするパフォーマンスの練習のため、今日は軍人全員が軍事施設の中央に集まっている。


しかし、私には今それよりも気になることができてしまった。



日本帝国軍にいるもう一人のSランクは誰なのか。


国の管理してるデータを盗もうとも思ったんだけど、Sランク能力者についてはやっぱりろくな情報が無かった。別の方法で探るしかない。


紺野司令官は“知っているだろうな”って言った。


さも当然のように言うってことは、多分超能力部隊の有名人だ。


Sランク以外で有名人っていえば、Aランク隊員。


あと、お姉ちゃんはすぐ気付いたとも言ってた。お姉ちゃんもその人に会ったことあるってことだ。当時軍にいた薫か遊?いやでも里緒もお姉ちゃんに会ったことあるみたいだし……。


ダメだ、仮にAランク隊員だったとしてもこの情報じゃ絞れない。


私の知らない残りのSランクはNo.5。


番号は強さ順ではなく戦争に役立つ順だから、能力的には他のSランク能力者のものと比べてあまり戦争に向いたものではないのかもしれない。



私がNo.1なのは、この時代サイバー空間というものがとても重大な戦場だから。


一也がNo.2なのは、敵国の兵士を操れるから。


小雪がNo.3なのは、負傷した兵士を治せるから。


泰久がNo.4なのは、水を使って敵国の兵士と戦えるから。



……うーん、でも、こう考えると戦争に向いたものではないとも言い切れないかもしんない。


順番付ける必要ないくらい皆役立ちそうだし。


「考え事ですか?」

「ぶわっ!」


唐突に後ろから声を掛けられ、意味の分からない悲鳴が漏れた。ぶわって何だよ。


「一也ダメだよ、変装もしないで。目立っちゃうよ」

「この人混みですし僕たちが喋っていても分からないでしょう」

「そ、それもそうか……」


一也がここにいるってことは、泰久も近くにいるのかなーなんて思ってキョロキョロすると、泰久はすぐ見つかった。ちょっと遠い所にいるけど。


その隣にいるのは―――私の知らない、金髪の女性。


一般の部隊の軍服を着用している。


「……何か、この軍事施設で性欲処理係以外の女性見るの新鮮かも」

「今回の軍事パレードは普段接点のない超能力部隊と一般部隊の交流も目的としているみたいですからね」


何か喋ってるみたいだけど、泰久はあの人と知り合いなのかな。


泰久が女の人と喋ってるのをこんな風に遠くから見るのって久しぶりだ。というか、泰久がお姉ちゃん以外の女の人と長く話してるのってあんまり見たことない。


……ん?よく見たらあの人。


「この前隊長とラブホにいた人じゃん!」

「そうですか?」

「あのおっぱいは見間違えようがないよ!」

「もしそうだとしたら、あなたは会ってはいけませんね。あちらが覚えているかどうか分かりませんが、こちらもホテルにいたところを見られているわけですし。女だってバレますよ?」


ラブホに行くのは何も男女だけじゃないから大丈夫、と答えようとした時、女性が泰久の腕にそっと寄り添うのが見えた。


……!?


「ち、近くない!?」

「まぁまぁ。泰久様が優香様以外を好きになることはないですよ。それは分かっているでしょう?そんなに焦らなくても」

「そうだけど!近くない!?」


泰久は特に意識していないのか、離す理由もないと思っているらしく何でもない顔で前方を見てる。


ぼーっとしてる時の目だ!あいつあんな巨乳美人に然り気無くおっぱい当てられてんのにぼーっとしてやがる!贅沢か!!


「行こう!泰久が肉食美人に食われる前に!」

「えー……大丈夫なんですか?」


嫌そうな一也を引っ張って、人混みの中ずんずんと泰久たちに近付く。


まず私に気付いたのは泰久で、泰久がこちらを向いたことで金髪美女の方もこちらを向いた。


「……あらぁ?あなた、この間一ノ宮さんと……あっ……」


私が超能力部隊の服装をしているのを見て、何か察したかのように一也と私を交互に見る。


「……そっちの方なのねぇ」


わー、私だけでなく一也も誤解されちゃったよー。


まぁ誤解されたなら誤解されたで好都合。あのラブホにいたことを隠さずに済む。


「泰久、その人誰?」

「一般の部隊の隊員らしい」

「それは見りゃ分かるわ!」


泰久に突っ込んでから、ちらりと女性の方を見る。


腰まである長い金髪と、両耳にある赤いピアス。よく見たらネイルもしてる。


……駄目じゃねぇか!軍人なのにそんな格好してたら周りに怒られるぞ!


「初めましてぇ、瀬戸川麻里って言いますぅ」

「は、初めまして。オレは千端哀です。……えーっと、泰久と知り合いなんですか?」

「話したのは今日が初めてよぉ。でも、わたしはずっと前から東宮さんを知ってるわぁ」

「…どういうことですか」

「昔ねぇ、津波から助けて頂いたの。一瞬でその背中に惚れたわぁ」

「惚っ……!?泰久のこと好きなんですか!?」

「ええ。東宮さんに憧れて軍人になったわぁ。今日はその想いを伝えに……」

「だ、だめです!」

「え?どうして?」

「オレも泰久が好きだからです!!」


私の発言に、泰久と一也は信じられないといった表情で硬直する。


「え?でもあなた、この間一ノ宮さんとぉ……むごっ」


麻里の口を押さえ、強引に引っ張って少し泰久から離れたところまで連れていき、ヒソヒソ声で要求する。


「泰久にそのことは言わないでください、あなただって隊長とホテルにいたじゃないっすか。隊長の愛人なのに泰久が好きなんですか?」

「あらぁ、わたしは最初っから東宮さん一筋よぉ?東宮さんに憧れて軍人になったのになかなか接点がないからぁ、隊長を利用してお近づきになろうとしてただけぇ」


……た、隊長……初めてあなたのこと可哀想だって思ったよ……。


「オレもそのこと言いませんから、一也とのことは黙っててください」

「ふぅん、まぁいいわぁ。一ノ宮さんはセフレってことぉ?同性愛の世界も男女の世界とそう変わらないのねぇ」


見事に勘違いをしてらっしゃるが、どうやら同性愛に理解のある人間のようで嫌な態度は取ってこない。


「こそこそ何の話をしてるんだ?」


「な、何でもねえ!」

「ちょっとした世間話よぉ」


泰久に話し掛けられた時の振り返るタイミングが全く同じだったことに多少の親近感を覚えてしまったが、いけないいけない。この人は恋敵だ。


「と、とにかく!泰久は渡さねーから!」

「あらあらぁ。東宮さんはそもそもあなたの物じゃないでしょお?」

「麻里のもんにもなんねーから!」

「そんなことまだ分からないじゃなーい?」

「……っ、そ、そもそも!格好が色々おかしいんだよ麻里は!もっと動きやすい髪型にしろよ!」

「言われなくても、訓練の時は括ってるわよぉ」


くっそー、ああ言えばこう言いやがって!


そもそもその立場狡くない!?


“あなたのことを一途に追い求めて軍人になりました”って立場でしょ!?


男としてはそりゃ嬉しいんじゃないの!?そりゃ揺れるんじゃないの!?


相手が泰久じゃなかったらすぐ落ちたと思う!


……でも、泰久にはお姉ちゃんがいるもんなぁ。


麻里は確かに魅力的。でもお姉ちゃんには勝てない。


お姉ちゃんみたいに、美人で強くて何でもできちゃうスーパー人間に勝てって方が難しいけど。


「おやおや。お二人があなたのことで争ってますけど、どうするんですか?泰久様。好かれる男は大変ですねぇ」

「……どうもしない。二人で勝手に盛り上がっているんだからどうしようもないだろう」


泰久が溜め息を吐いたその時、脳内に直接声が響いた。


  [休憩後はランク別の練習だ。各自指示された場所へ行くように]


精神感応能力者によるテレパシーでの放送だが、一般部隊の人たちはこんなにはっきりしたテレパシーを初めて経験したらしくざわめき出す。


そういえば、休憩が始まる前に次の集合場所伝えられたな。


「……あれ、Eランクはどこだっけ」

「第2グラウンドですよ」

「お、おお……そか、ありがとう。Eランクのことまで覚えてるんだね」

「三歩で忘れる鳥頭のあなたはどうせ忘れるんじゃないかと思いまして、仕方ないから記憶していたんです」

「ひっど!」


第2グラウンドってここから結構遠いじゃん。


混むだろうし、さっさと行かなきゃいけない。


「オレのいねえ間に手ぇ出すなよ!」と去り際に麻里に対し捨て台詞を吐いて走り出す。



移動用の無人車を待ってる時間もそう無いのでいっそ走って行こうと思い立ち、建物の裏を通ってあまり知られていない近道を抜ける。


すると、人気の無い木陰に、当然のように遊が座っているのを発見した。


この人練習サボってるうううう!!


「何やねん、お前か」

「……パレードの練習しないの?」

「あんな人混みに何時間もおれっか、暑苦しい」


そんなんで大丈夫なのか、全体の行進もあるのに!


「一人なん?」

「そうだけど?」

「珍しい。澤家の兄ちゃんの方とはおらんねんな」

「あー……うん」


小雪とはあれから話してない。小雪は私と話したいみたいで度々視界に入ってくるけど、その度全力で避けてる。


私があまりに逃げるから一度全速力で追い掛けられた。でも無人車を利用して逃げた。


……あれ?何か鬼ごっこして遊んでるみたいじゃない?



と。ふとそこで紺野司令官の話を思い出す。


そういえば、遊もSランク能力者って可能性は十分あるんだよね。超能力部隊の有名人だし。


もう直接聞いちゃうか?“遊ってSランク?”って。……でも、そんな軽いノリで聞いて答えてくれるくらいならわざわざ隠したりしないか。


下手に聞いたら警戒されて余計聞き出すのが難しくなる可能性もある。


私は喉まで来ていた質問を飲み込み、代わりに別の質問を投げ掛けた。


「ねぇ遊、売国奴探し、手伝ってくんない?」


今Cランク隊員から順に全員分の端末をクラッキングして連絡内容を確認しているところだ。


今のところ怪しい人間はいないが、別の連絡手段を取ってる可能性もあるし、その連絡手段が古いものであれば私の能力では探れない。


「手伝うも何も、元々俺が言い出した話やろ」

「……遊って真面目だよねー」

「はぁ?どこが」

「だって、売国奴探しなんて上に任せときゃいいじゃん」


思いっきり首突っ込んでる私が言えた台詞ではないが、遊は軍のことを気にしすぎなような気もする。


「……今のうちに力になっとかなあかんからな」

「え?」

「俺は今回の戦争には参加できへんやろうし」

「……それってどういうこ、……、…」


質問を遮るように唇を押し付けられた。


……お前は!何度!乙女の唇を奪えば気が済むんだ!


「見られたらどうすんの」

「知らん」

「遊には超能力部隊員の中に恋人がいるって言われるよ」

「言わせとけ」

「ただ唇と唇を接触させるだけって何が楽しいのか分かんないんだけど」

「……舌入れろってか?」

「わーっ!すんませんすんませんそういう意味じゃないですちょっ怖いマジモードになんないで怖い!」


マジのベロチューをかましてきそうな勢いで近付いてきた遊から全力で逃げる。


根拠は全くないけど何か遊のベロチューはヤバそう!立てなくなりそう!


それが過剰反応だったのか、遊は吹き出した。そして、楽しそうに私の頭を片手でわしゃわしゃ撫でてくる。


最近遊は私の頭を撫でることが多い。多分犬か何かだと勘違いしてる。


しかし暫くして、不意にその顔から笑顔が消えた。


「なぁ。俺にもし何かあったら、薫のこと頼んでもええか」

「……へ?」

「薫はまだ過去に縛られとる。もしあいつが暴走しそうになったら、止めたってくれ」


暴走……人を殺しそうになったら、ってことだろうか。


「何でそんなこと私に言うの?」

「お前、前に薫のこと止めたやん。俺があんだけ忠告したっとんのに、あんな全身タイツ着て、薫のこと止めに行った」


あのクソダサ全身タイツのことは掘り返すな恥ずかしい!


「俺はあん時、お前やったら、もしかしたら薫のこと救えんのちゃうかって思った。だから、あいつのこと頼まれてほしい」


遊の表情は真剣そのものだから、本気で言ってることは分かる。


でも。


「それは無理」

「……ここは嘘でもはいって言うとこやろ」

「いや、だって無理だし。……っていうか!やばい!もう時間がない!私行くね!」


そう言って立ち去ろうとしたのに、私の手首を遊が掴んできた。


何か用事があるのかと振り返ったが、遊は何も言わない。しかも数秒してすぐ離された。


「…何、どしたの」

「……何でもない」

「ほんとに?」

「いや、ほんまに何でもないねん。……何しとるんやろ、俺」

「はあ……。何でもないなら、もう行くね」


よく分からないが、とりあえず用事は無いということなので遊を置いてまたグラウンドまで走った。





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