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深を知る雨  作者: 淡雪みさ
第三章

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誰かの話




 《23:30 軍施設外》



その夜女は夢を見た。





庭の池。

泳ぐ鯉。

照り付ける太陽。

融けてしまいそうな暑さ。

夏に似つかわしくない黒い長袖。

流暢な日本語。



 『弱いね、哀花ちゃん』



死神が笑う。



 『そんなんじゃあいつに勝てないよ?』



うるさい、と叫ぶ。



 『一生かけても、ね』



そんなことは分かっている。


それでも追い掛けずにはいられないのだ。


追い掛けることは苦しいことだと分かっているのに。



 『君の中にあるのは嫉妬と劣等感ばかりだね』



お前に何が分かる、と思う。


お前もあの人と同じ―――生まれた時から全て持っている人間じゃないかと、少女は死神を睨む。



 『そんな目で見るなよ。可愛がってあげたくなるデショ』



少女はその瞬間初めて死神のことを怖いと感じる。



 『俺が君を育ててあげる』



やめろ、その手を取っちゃいけない―――。




そこで女は目を覚ます。


じっとりと汗をかいた肌に触れ、大きな溜め息を吐く。


女の隣に眠るのは見知った男。


そのことに幾らかほっとした女は、もう一度目を瞑り、しかしまた同じ夢を見ることが怖くて起き上がる。




――――8年前の夢に苦しむ人間が、ここにもまた一人。







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