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深を知る雨  作者: 淡雪みさ
第一章
2/200

2200.12.01


 《18:30 訓練所》



日本帝国軍超能力部隊。


超能力を持つ人間だけで構成された部隊だ。毎日過酷な訓練が行われ、戦うために自分の能力を鍛える。

寮は能力のランクごとにある程度離れた場所に設置され、他のランクの人間と交流する機会があるのは主に訓練所にいる時のみ。



「……っはぁ…」



今日も厳しい訓練が終わり、汗だくの私は廊下に出て窓を開けた。直後隣から冷たいものを頬に当てられ、「うひゃっ」と変な声を上げてよろけてしまう。


隣を見ると、天然パーマで羊みたいな髪の毛をした、見知った男が立っていた。


この部隊では珍しく色白の彼は、北海道出身らしい。



「お疲れ、哀。スポーツドリンク買ってきたよ」



澤小雪さわこゆき23歳同い年。Cランクの瞬間移動能力者。


この部隊に来て1番最初に仲良くなった相手だ。普通は先に同じランクの人と仲良くなるんだろうけど、私はEランクの筋肉馬鹿達に上手く馴染めず、小雪も小雪で控えめなところがあって友達がいなかったらしい。


休憩時間に1人でジュースを買いに行った時、休憩所で煙草を吸ってた小雪とばったり会ったのが私と小雪の出会い。見かけによらずいつ休憩所に行っても煙草を吸ってるヘビースモーカーな小雪が何となく気になって、何となく喋るようになった。


それからたまーにこうして小雪の方からEランクの訓練を見に来るようになったんだけど。



「Eランクの訓練は普通科の部隊がやってるのと同じな感じだね」



色々な能力を観察できる他のランクと違って、私たちの訓練というのは見ていて面白いものではない。



「まーEランクは無能力者とほとんど変わらないからなぁ」



超能力は一般的にS、A、B、C、D、Eの順にランク付けされていて、この部隊ではランクごとに訓練内容が異なる。


私のいるEランクは能力的には1番弱いランク。その分体力勝負なところがあって、超能力部隊なのに能力を使わない訓練の方が多い。



「そっちは何したんだ?」



上のランクは能力を鍛える訓練が中心なうえ優秀な人が多いためやり直しが殆どないから、いつもEランクの訓練だけ終わるのが遅く、小雪のいるCランクの訓練の見物に行けない。



「重い銅像を数キロメートル先に移動させたり?」

「へーすっげぇ。Cランクの瞬間移動能力者ってそんなことできるんだな!」

「俺なんてまだまだだけどね。AランクBランクになってくると1つのビルを一気に別の場所に移動させたりすることもできるらしいし」



小雪も将来そんな風になるのかな、なんて少し考えてみたが、こんな柔らかい印象の小雪が軽々とビルを移動させているところを想像すると怖かった。



「オレ、小雪には今のままでいてほしいなぁ…」

「えー何それ」



可笑しそうにくすくす笑う小雪は、私が女だなんて思いもしてないだろう。


男のふりしてこの部隊に来てもう約半年。性別がバレることはなく、戦争が始まることもなく、平穏な日々が続いている。



「なぁ小雪、今日晩飯一緒に食わねぇ?」

「いいけど、その前に図書館寄っていいかな?部屋の掃除ロボが壊れちゃって新しいの入れたいんだけど、注文する為の端末無くしちゃっててさ」



現代日本帝国はロボット社会。数々のロボットがネットワークで繋がっていて、クリック1つで自動的にそれぞれの部屋専用のお掃除ロボットが部屋までやってくる仕組みもできてる。


この軍事施設には大きな図書館があり、そこにはパソコンルームが完備されているから、小雪はそこで注文をするつもりなのだろう。



入り口で隊員証を翳すと図書館のドアが開き、私たちの前に案内役のロボットが現れる。



『ワタシガ ヒツヨウ デスカ?』

「不必要」



小雪の短い言葉によってロボットが姿を消す。

私たちはムービング・ウォークに乗ってパソコンルームを目指した。



「今日は人少ないな」



いつもなら混んでいる図書館ががらんとしている。



「Cランクの訓練が珍しく長引いてるからじゃない?」

「え……お前、もしかしてサボってんのか?」

「あんな訓練に意味があると思えないし、哀といた方が楽だから」



小雪はたまに、見かけに寄らず大胆なことをする。

てっきり訓練が終わったからこっちの訓練を見に来ていたものと思ってたんだが……。


と。そこで私は本棚の本と本の間にある物を本能的に見つけ、瞬時にそれを引き抜く。



「お、おおっ…おおおおおお」



綺麗なねーちゃんの際どい水着姿が表紙となっている本を見て、私は鼻息を荒くした。



「さすが超能力部隊!男の園!図書館の雑誌と雑誌の間にエロ本隠すとはやるな!」

「テンション高いね、哀」

「だってさ、見ろよこのふっくらボディ!!」



女体……いや、可愛い女の子が好きなのは女とはいえ本当だ。


というか男でも女でもいける。


私はパラパラとページをめくり、1番好みだと思ったねーちゃんのページを小雪に向けて開いたが、小雪は私を優しい目で見てくるだけで、エロ本のねーちゃんには視線を向けない。


それでも男かァ!!


仕方ないのでエロ本は私一人で見ることにして、近くのロボットに後で部屋まで送るようにと伝え渡しておいた。



パソコンルームには誰もいない。この広い場所を二人だけで共有するとはなかなか贅沢なシチュエーションだ。

走り回ろうかと考える私の横で、小雪が煙草に火を点けた。



「……ここ禁煙だぞ」

「誰もいないしいいでしょ」

「オレがここにいるんですけど!?」



小雪の手にある煙草を無理矢理奪おうとしたが、避けられてしまい届かない。それどころか、ふーっと煙を吹き掛けられた。

咳込む私を愉しそうに見下ろしながらまた煙草を吸う小雪は、やっぱりヘビースモーカーだと思う。



「ッ…こんにゃろ、受動喫煙でオレが病気になってもいいのか?冷たい奴め」

「哀が病気になったら俺が看病するから大丈夫」

「素人の看病どころで済むような病気ならいいけどな……」



呆れる私を見てくすくす笑う小雪が近付くと、パソコンの電源が入る。指紋認証で自分のページを開いた小雪は、新しい掃除ロボット購入ページに飛ぶ。勿論煙草を吸うことはやめない。



「スパスパそんなまずそうなもん吸うとか、お前ほんとにオレと同い年?」

「もうすぐ同い年じゃなくなるけどね」



小雪の言葉の意味するところをうまく理解できず、首を傾げる私に小雪が答えをくれる。



「明日誕生日なんだ」



し、知らなかった。そういえば誕生日聞いたことなかったっけ。

よく一緒にいるとはいえ、まだまだ小雪のことはよく知らない。



「何か欲しいものある?」

「んー。じゃあ、メロンパン」

「メ、メロンパン?」

「食堂でお昼に限定販売してるやつ。人気だからよく売り切れるんだよね」



小雪って欲がないなぁ…私だったらエロ本30冊って答えるとこなのに。


でも、そういうことなら。



「オレ明日の昼本気で戦うよ。メロンパン争奪戦で」



パソコンの画面からこちらへ視線を向けた小雪を真っ直ぐ見据えながら誓う。



「うん、頑張って」



小雪が半笑い状態な気がするが、気のせいだろう。





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