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失敗 アステル視点

来ていただいてありがとうございます!



みんな息を呑んでその様子を見ている。



床に白い光で描かれた魔法陣が浮かび上がる。仕掛けは完璧だった。


ハプニングはあったが、上手くリネットが広間の中央、つまり魔法陣の中心へ二人をおびき寄せてくれた。騒動の中(恐らくは)変装した影達が、他の生徒達を誘導して大広間の中心から遠ざけるのを見た。


本来ならば、最初のダンスでブラッドリー殿下とメイリーが広間の中央で踊り始め、魔法陣の中央に来た時に発動させる予定だった。必要な魔術師達はすでに王太子殿下の命令で変装して配置についていたのだ。





「あれが悪魔祓いの魔法陣……」


僕の腕の中で不安そうに見守っているリネット。また嫌な思いをさせてしまった。


「リネット、ごめん。守れなくて。まさかブラッドリー殿下があんな行動に出るとは」


「え?アステル様のせいではありませんわ。それにアステル様はちゃんとそばにいてくださいました」


リネットは驚いたように意外そうに僕を見上げた。そしてハッとして顔を赤くして僕から離れた。僕は少しだけ寂しい気持ちなった。




「大丈夫でしょうか……。このまま無事に終わるでしょうか」 


「大丈夫だよ。魔法陣に魔力を込める者、出てきた悪魔を封じ込める者、その外から防御結界を張る者、更に学園のほぼ中央に位置する大講堂の周りに封じ込めの結界を張る者。そして想定外のことが起こった時のために兵士達や魔術師達。これだけの戦力が学園内に待機している。そして更に学園の外からは悪魔を逃がさないために六芒星の結界を張ってあるんだ」


「まあ、そんなに?」


リネットには詳しい話は聞かせてあげてなかった。僕は少し言い訳をするように続けた。


「僕も誰がどの役割を負っているのかは分からないんだ。影達の顔も知らないし、ヘンドリー王太子殿下が指揮を執ってるから。僕は魔術書を読んで魔法陣を描くのを手伝っただけなんだよ」


「では、ヘンドリー王太子殿下もここにいらっしゃるんですか?」


「流石にそれは無いと思うよ。この国の大切な方だからね。魔術道具で様子をご覧になってるとは思うけれど」


それにしても同じ王子だというのに、こんなに違うものなのか……。ブラッドリー殿下は元々女性の扱いは良くなかったけれど、ここまで滅茶苦茶なことをするよう人間ではなかったと思っていた。


いきなりリネットを断罪して、国外追放にすると言い始めた時は本当に頭にきた。魔女?洗脳?全部メイリーの事じゃないか!メイリーを王族に迎えるためだけにリネットを陥れるつもりなのか……!


悪魔に憑かれたメイリーだけが悪かと思ったが、メイリーの中の悪魔のせいとはいえブラッドリー殿下も自分の意思でメイリーを守り、無実のリネットを断罪しようとして小細工を弄してきた。たちが悪い。これが王族の姿なのか?簡単に悪魔に篭絡されたことは、国を率いていく者としての資質を問われねばならない。王太子殿下がそう仰っていた。









「ぎゃあああああああああっ」


まだ女性のものとは思えない叫び声が響いている。今、影達がメイリーから悪魔を切り離す為の魔術を仕掛けている。苦しむメイリーが黒い靄に包まれ始めた。悪魔がメイリーの体の外へ出始めたのか。


「う、く、メ、イリー…………」


ブラッドリー殿下はメイリーを抱き締め続けている。


「何だかブラッドリー殿下も苦しそうですわ……」


リネットは心配そうな顔をしてる。やっぱりブラッドリー殿下のことを……?彼女は前に否定してはいた。だけどまだ思いがあるのかもしれないと疑念が沸いた。


「あんな奴心配しなくていい!君を陥れて都合の良いように利用しようとしたんだ!」


「アステル様?」


「メイリーに踊らされて、君を蔑ろにして。非難して。僕だって……」


おかしい……。苛々する。自分と殿下に対する憎しみが膨らんでいく。


「リネットはなにもしてないのに。国外追放?魔女?洗脳?許しがたい」


黒い感情が抑えきれない。自分への怒りとブラッドリー殿下への怒りが全て殿下への殺意に近いものへ育っていく。僕はギリッと歯を食いしばり、胸を押えてしゃがみ込んだ。


リネットの柔らかな両手が俯いていた僕の顔を包み込んだ。すっと逆立った気持ちが凪いでいった。


「リネット……」


僕は顔を上げてリネットを見上げた。彼女の後ろの大窓からは星空が見えて、彼女はまるで星の女神のようだった。


「アステル様、大丈夫ですか?とても怖い顔をなさってます。どこか痛みますか?さっき押さえられた時にお怪我をなさいましたか?」


リネットがとても心配そうに僕を見てくれている。


「僕の事も心配してくれるの?」


「当たり前ですわ!どうしてそんなことを仰るの?」


リネットは少し怒ったように答えた。僕は嬉しくなった。


「ブラッドリー殿下の事よりも、もう少し心配してくれる?」


僕はリネットの手に自分の手を重ねた。温かな滑らかな白い手だ。


「え?ブラッドリー殿下なんてどうでも良いですわ。わたくしが気になるのは魔法陣の方です。それに皆さんの様子も何だかおかしい気がして……」


どうでも良いって……、それはそれでどうかと思うけれど。まあいいか。気付けば足元にいる狼犬が唸り声をあげてメイリー達を睨んでいる。メイリーは相変わらず叫び声をあげているが、今、殿下は俯いて胸を押さえて何事かを呟いている。


「黒い靄が殿下や他の方々の周りにもかかっていますわ」


リネットが不安そうに見回している。あちらこちらで諍いや言い争いが起こってるようだ。もしかすると先程の僕の様に、他の皆も黒い感情が増幅されている?


「これも悪魔の力なのか……」






ブラッドリー殿下の声が大きくなる。


「……が悪いんだ……いなければ………………と私は幸せになれる。……お前さえ、おマエサエイナケレバ、……リネット!!」


黒い炎のようなものがメイリーと殿下から吹き出す。


「アステル様、魔法陣が……」


「さっきのサシェが魔法陣を阻害している?」


サシェが燃えた跡が黒い影となって、魔方陣の紋様を所々打ち消している。生徒に扮した魔術師達だろうか。困惑した表情を浮かべている者達がいる。


「……失敗か?」




ノースポールの唸り声が一段と強くなる。リネットが投げつけたサシェの効果が失われたのか、メイリーが黒い靄を纏い、嗤いながら近づいてくる。僕はリネットを背に庇った。


「アステル様ったら、本当に何をなさってるの?あなたも私の事を好きだったでしょう?愛してるでしょう?ちょっと変わり者だけれど、あなたはとても美しい方だから、私のそばにいてくれなくちゃダメだったのに!」


「……何を言ってる?僕は君を好きだったことは無いよ。それに君にはブラッドリー殿下がいるだろう」


この男爵令嬢は一体何を考えてる?


「もう!そうじゃないの!みんないなくちゃダメなの!王子様もあなたみたいな綺麗な人も、王族の人もぜーんぶ!みーんな私の事を一番好きで、一番大事にしなくちゃダメなの!」


黒い靄を纏って、胸の前で両手を組み、虚空を見上げ、夢見るように笑うメイリーは異様だった。




「え?何を言ってるの?この()


リネットは訳が分からないという表情をしてる。無理もない。僕にも分からない。


「だから、他の女にいったあなたはもう要らなーい。コノ魔法ジンってあなたの仕ワザ?私を殺そうとするなんユルせないワ……ジャマダ。キエロ」


メイリーが僕を指差す。指先から噴き出した黒い炎が僕の全身を包んだ。


「アステル様っ?!」


「離れて、リネット!!」


僕はリネットを突き飛ばした。


「嫌っ!アステル様!」




リネットが僕の方へ手を伸ばしている。泣かなくていい。近づかないで。危ないから……。床に膝をついた僕は全身を包む痛みに意識を手放しそうになる。


「ダメぇぇぇぇぇっ!!」


「ぅおおおおおおぉーん」


リネットの叫びに寄り添う様にノースポールの鳴き声が共鳴した。



光が溢れた。










ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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