幸せな時間
来ていただいてありがとうございます!
「え?このドレスって……」
自宅であるクレイトン侯爵邸のわたくしの部屋。駄目になってしまったあのドレスがあった。アステル様からいただいたあのドレスが。わたくしは戸惑いながら近づいた。
「どうして?」
もっと素敵になってる。前のドレスはシンプルなシルエットだったけれど、今部屋にあるドレスはふんわりとしたデザインで、最近では着たことのないタイプのものだった。
「可愛くて素敵だわ……。でもわたくしに似合うかしら?」
「絶対に似合うよ」
「アステル様?」
思いがけなく聞こえた声に振り返ると、閉め忘れたドアの所にアステル様が立っていた。案内してくれたメイドが微笑みながら頭を下げてから去っていく。
「城から急いで戻って来たんだ。勝手に入ってごめんね」
アステル様がわたくしの肩を抱き寄せる。
「アステル様、このドレスは?」
「うん。前に贈ったのが駄目になったから、すぐに再注文したんだ。ちょっとデザインを変えてね。リネットが悲しそうにしてたから。そうしたらダンスパーティーのやり直しがあるって聞いて、急いで届けてもらったんだよ」
「ありがとうございます……。嬉しいです」
嬉しすぎて涙が零れた。
「これで泣いてたら、この先大変だよ?僕はもっとたくさんドレスを贈ろうと思ってるんだから。王宮主催の舞踏会、王太子殿下の結婚式やレセプション、それから一番大事な僕達の結婚式!」
「ウエディングドレスは一緒にデザインしよう。もうあまり時間がないから急いでね。僕が待ちきれないから急ピッチで。今から!勉強は一旦ストップで。卒業試験は大丈夫だよね」
「ええ、準備はしています、けど」
「今日はこの後宝飾店へ行こう。ダンスパーティーのアクセサリーを買いにね。さ、行くよ」
「ア、アステル様?」
何でこんなに積極的なのかしら?男の人ってこんな感じなの?アステル様はわたくしの手を引いて、ムーアクロフト家の馬車に乗り込んだ。
「好きなデザインのものを選んでね。宝石の種類は僕に決めさせて。あ、今度のは魔術道具じゃないから。ちゃんとした宝石だよ」
アステル様は宝飾店へ入るとわたくしにアクセサリーを選ばせてくれた。選んだのは繊細なつくりのネックレスとイヤリング。
「このメインの宝石はエメラルドにチェンジで」
お店の方にそんな風に注文をするアステル様。
「アステル様、それは高価過ぎますわ。わたくしは……」
わたくしが慌てていると、アステル様の指がわたくしの唇に触れた。
「婚約期間が短かったからあまり贈り物が出来なかったし。これは僕の趣味だから、プレゼントさせて欲しい。いいよね?」
「…………」
わたくしは何も言えずに頷いた。嬉しい…………アステル様の瞳の色のアクセサリー。前にいただいた魔術道具はわたくしを守って壊れてしまったから、もう手元にはない。今回のはドレスと一緒に大切な宝物にしたい。
宝飾店を後にしてアステル様と一緒にカフェに寄った。アステル様は約束を覚えていてくれたのね。
「卒業後はね、リネットのおじい様の伯爵家を二人で継いだらどうかって言われてるんだ。王太子殿下からね」
確かにおじい様が亡くなってからその爵位は誰も継がずに空位になってる。少し特殊な爵位で、おじい様は大きな領地を持たずに国王陛下に魔術師としてお仕えしていた。
ただ、幸運なことに今の国王陛下の御代では大きな戦は起きず活躍の場は無かったの。誰も後を継げる人がいなかったけど、魔術に詳しいアステル様とその家の血を継いでいるわたくしならという事で国王陛下の許可が下りたのだそう。
「新居はリネットのおばあ様の家の近くに建てようと思ってる。その辺りの土地を頂けるんだよ。僕はそこから城へ通って働くことになる。王宮図書館で司書兼研究者としてね」
「王宮図書館ですか?魔術研究所ではなくて?」
てっきり魔術研究所にお勤めになると思ってたわ。
「うん。僕の専門は魔術書の研究だからね。どうかな?リネット。君さえ良ければ王太子殿下に返事をしようと思ってるんだ」
「はい。お断りする理由もないですわ。とても良いお話で。でも良いのでしょうか?そんな厚待遇……」
「国王陛下も王太子殿下も今回の僕達の功績をかなり認めてくださってるみたいなんだ」
最近は戦争の話は無いけれど、あの悪魔の件がこの良いお話に関係しているのね。何か不穏な動きがあるのかしら?少し不安だわ。それでもわたくしはアステル様を全力で支えようと心に決めた。
幸せな時間が続く。
やり直しのダンスパーティー、卒業式を終えて一ヶ月後。
今日はアステル様とわたくしの結婚式。
サンストーン王国王都にある大聖堂には両家の親族や友人達が集まって祝福してくれた。アステル様と二人で考えた白いドレスとクリアセインの青い花のブーケ。青空と柔らかな春の日差しと舞い散る花の中でわたくし達は永遠の愛を誓い合った。
ノースポールの子どものフロスティとアイシーが元気に庭で走り回っている。わたくしはハーブ園を作ってポプリを作ったり研究したり、時には王宮へ献上したりと忙しい毎日を過ごしてる。結局、魔術の勉強は無しになってしまったの。アステルが凄く嫌がるのよね。どうしてかしら?
アステルはたまに出張といって長期間不在なことがある。でも、必ず帰って来てくれるから信頼して待っていられる。でも、
「悪魔が逃げ出しちゃってて焦ったよー」
なんて後で報告された時には本当に驚いたし、心配したわ。
「今夜も美味しかったよ」
アステルは満面の笑みだ。
「良かったですわ」
わたくしはホッとした。今、料理人として雇ってるハンナさんがお休みをとってるの。お嬢さんのお産のお手伝いをするためにひと月くらい。他の料理人を臨時で雇う話もあったけれどそれはやめたの。わたくしも教えてもらって料理を作れるようになったから、アステルに食べて貰いたくて。簡単なものばかりだけど。
二人で囲む夕食の席。城から帰って来たアステルはわたくしの料理でも美味しいと言って完食してくれる。ダイニングではフロスティとアイシーもご飯を食べ終えて満足そうに寛いでいる。居心地の良い居間のソファに座って二人でお茶を飲みながら、のんびり今日の出来事を話す。これはもう毎夜の決め事のようになってる。とても幸せな時間。
「今日は王宮へサシェを持って行ったんだね」
「ええ、クローディア様のお茶会に招待いただいたの」
クローディア様がわたくしのサシェご興味を持たれたということで王太子殿下にサシェ作りを依頼されたの。あ、クローディア様は公爵家のご令嬢で、王太子殿下の婚約者様なのよ。とてもお美しくて優しい方だったわ。もうすぐ結婚式があるので、もう入城されているの。結婚式にはアステルとわたくしも出席出来るからとても楽しみなの。
「緊張したけど何とか失礼なくお話しできたと思いますわ」
「うん。頑張ったんだね。サシェの説明もバッチリ?」
「バッチリですわ」
クローディア様とご友人の方々からしっかりご注文を頂いてきたわ!
「そういえばもう夢で会えなくなったね。あの夢見のサシェを使っても」
「そうですわね。どうしてかしら……。でもわたくし達はもういつでも一緒にいられますもの。夢で会えなくてもいいですわ」
「うん。そうだね。僕達はこうして夜も、朝も、いつでも一緒だ。幸せだよ」
アステルはわたくしを抱き寄せて、頭に口付けた。
「でも、あなたが研究ばかりでわたくしを見てくれなくなったら、強制的に夢に呼んでしまおうかしら……」
「大丈夫、それは無いよ。僕の一番の研究テーマはいつでも君だから。僕のかわいい魔術師さん」
そう言いながらアステルは、今度は頬に口付ける。
「わたくしですか?」
「うん。ずっとそばで見ていたい」
「そんなことを言って、あなたが一番見てるのは魔術書でしょう?この間も徹夜をしてうたた寝して風邪をひきそうになったじゃない。もう!食事は残さなくなったから良いですけれど……」
相変わらずの魔術バカは健在だわ。
「あはは、新しい魔術書が手に入っちゃったから、つい。ごめん、ごめん」
謝りながら、アステルはわたくしに口付ける。わたくしもつい許してしまって受け入れてしまう。
見つめあって、笑いあって、触れあって…………。
こんな風に穏やかな時間が続いていく。きっと。ずっと。
ここまでお読みくださった方ありがとうございます!
この物語はこのお話が最終話になります
楽しんでいただけたら幸せです
ありがとうございました!




