修行のパートの後の最初のバトルの無双の感のワクワクサァン。
青宝海賊団入団1日目。
昨日は急に襲われて驚きました。
鉄格子の中で生活するのは嫌なので、入団出来て良かったです。
ですが、入ったからには働かなければなりません。私にも出来る仕事を探しましょう。
先ずは略奪班!
「仕事内容?そりゃ略奪だよ。戦えるなら誰でも歓迎だ。」
戦えないので遠慮しましょう。
続いて整備班!
「船や装備品、設備の整備が仕事だ。専門の知識がいるからな。その知識に仲間の命が掛かってる。俺の一存じゃ決められん。」
どんどん行きましょう。運搬班!
「物資の運搬。あと他の力仕事もやる。誰でも出来るが…いや、筋肉はいるな。」
仕事を自ら作ってこその一人前。食料班!
「飯を作る。以上。言っとくけど、ガキは厨房に入れられないよ。」
まだまだこんなもんじゃないです。洗濯班!清掃班!
「洗濯。ガキにはオススメだよ。」
「掃除。ガキでも出来る。」
うおおおおおお開発班!
「拠点の設備に船や団員の装備、その他アイテムそれらの開発。なんか要望があったら言ってくれ。…班には入れられんぞ?」
この拠点は俺が建てた。建築班!
「拠点の建築と修復。大工仕事だな。」
団の足!造船班!
「船を造って船を整備する。新入りには触らせられんがな。」
団の頭脳!情報班!
「航海情報の入手や作戦の立案など、知識面でのサポートがメイン。機密情報も扱うから、メンバーを増やす訳にいかないんだ。」
団の、団…団の財布!商業班!
「主な仕事内容は奪った物の鑑定・売却。不足している物資があれば商人から買ったりもする。ウチには読み書きの出来る奴が全然いないからね。算術まで出来るって言うんなら大歓迎だよ。今直ぐ入って欲しいね。」
入ります!頑張ります!
何をすれば良いでしょうか!
「この紙に品物の種類と値段が書いてあるから、数を数えて合計金額を表に起こす。出来たら言ってね。」
分かりました!
出来ました!
「早いな。」
全部綺麗に箱詰めされてたので。
「うん。完璧。もっと時間かかると思ってたよ。凄いね。」
ありがとうございます!恐縮です!
「ちゃんとした教育を受けて来たんだろうね。まあ詮索はしないよ。以前がどうであれ、今は仲間なんだから。」
中学校中退ですけどね。
そんな感じで一日仕事をこなしまして、夜には新入りを歓迎する会が開かれました。
飲みの口実が欲しいだけですが。
私は当然お酒を飲みません。最後の一人がダウンしたので、部屋に戻って寝ようと思います。
と言うところで頭さんに誘われました。
「ここイイだろ。海を眺めてるだけで酒が進む。」
星と月と水平線。美しい景色です。
「コレ、投げ捨てられたのを拾ったんだとよ。」
ロリババアの冒険者カードじゃないですか。知ってたんですか?
「ネズミ一匹逃がさない様、船は水中で囲ってある。【流星の魔法使い】と言ったら、世界最強の魔法使いだ。お前もそれは知っていた筈。何故助けを求めなかった?【流星】は何故動かない?…返答次第じゃ、酒が不味くなるな…。」
頭さんは海を見つめたままそう聞きます。
ここは正直に話した方が良いでしょう。
【流星】が動かない理由はですね…。
「長になりたくないから捕まってるって?お前らと別れれば良いだけじゃないのか?」
一応私の保護者ですからね。過去に責任を放棄して逃げ出した結果、里が滅茶苦茶になった訳ですし、それなりに責任を感じているのではないでしょうか。
「最強の魔法使いでも嫌なものはあるってことか…。世知辛い世の中だな。それで?お前はどうするんだ。このままここに残るのか?」
どうしましょうか。
鬼族の国に行きたいのでそのうちここを出る予定ですが、幼気な美少女の一人旅は危険ですからね。せめてもう少し魔法が使えれば良かったんですが…積極的に習っておくべきでした。
「【流星】の機嫌が変わればアタシらは壊滅だ。とは言え、拠点の場所を知られたままさようならって訳にもいかない。」
つまり?
「つまり、アタシらとしては『【流星】と一緒にきちんとした契約を結んで出て行って欲しい。』ってことだ。」
なるほど。説得出来ますかね?
私は無理だと思います。あの人普通に嘘吐くので。
「契約の方は最悪口約束で良い。【流星】に下手な魔法が効くとも思えんしな。とにかく出て行って欲しいんだ。このままじゃ、自宅の庭に活火山がある様なモンだからな。信用して貰えるならウチから護衛を出しても良い。」
あの人が海賊を信用するとも思えませんし、リエルさんは頼りないですし、私は弱いですし…。
「それだ!」
リエルさんですか?あの人はやめといた方が良いと思いますよ。お酒が入ると何するか分かりませんし。お酒が足りなくても何するか分かりませんし。手懐けるのは簡単でも、制御するのは不可能に近いですよ。
「ソイツじゃない。お前だ。お前が強くなれば良いんだ。明日は開発班に来い。お前に合う武器でもアイテムでも、幾らでもくれてやる。その代わり【流星】を含めてお前らには出て行ってもらう。良いな?」
良いですけど。
私たちって元は捕まってたんですよね?無理やり連れてこられて無理やり出て行けって、私たち何もしてないんですけど。
青宝海賊団入団2日目。
開発班に来ました。
マジで私何もしてないんですけど。
「『コイツに合う装備を造ってくれ。最低限の自衛が出来ればそれで良い。手を抜くな。』ってお頭に言われてる。苦手な得物はあるか?…苦手ってのに得物って言うのは変だったな。得物って言うのは用は武器のことだ。どうだ?」
苦手なものは特にないですけど、得意なものもないと言うか…。
「分かった。シンプルなのにしよう。それとお頭から伝言だ。『演習場に来い。』ってさ。死なない程度に頑張れよ。」
頭さん直々に鍛えて頂けるとは…光栄です。
「団のためだ。敵にはなってくれるなよ。」
なりませんとも。
「幾つか基礎スキルを習得してもらう。体力、知力、魔力、筋力に運動能力、武器の扱い、それと泳力もだ。海賊だからな。先ずは走り込み。拠点を一周して来い。階段や梯子には気を付けろよ。」
青宝海賊団入団3日目。
「お前ぐらいのガキは、ひたすら運動して体力を付ける。筋力は青年になってから好きなだけ鍛えれば良い。今は最低限だ。物資の運搬。あの船一つ分な。」
青宝海賊団入団4日目。
「基礎スキルって言うのは、全てのスキルの基本となるスキル、その総称だ。別に無くてもスキルは得られるし、毎日動いて魔法でも使ってりゃ勝手に身につく。ただ、集中して鍛えれば圧倒的に早く得られる。素人が手っ取り早く強くなりたいなら打って付けだ。溺れかけるまで泳いで来い。安心しろ、一瞬で助けてやる。青宝海賊団の泳力を舐めるなよ?」
青宝海賊団入団5日目。
「動いたら動いた以上に食う。ガキは余分に栄養を取れ。それが身体の成長に繋がる。好き嫌いすんなよ。」
青宝海賊団入団6日目。
「戦闘って言うのは択だ。相手が斬り掛かって来た→自分はそれを受け流した。相手を攻撃した→相手が防御した。相手に防御の択を取らせ続ければ勝てる。逆に防御し続けてスタミナ切れを狙っても良い。どっちにしろ、瞬間の選択が生死を分ける。ぶっ倒れるまでアタシを斬れ。反撃も適度にするからな。」
青宝海賊団入団7日目。
「人間っつうのは、投擲能力に優れた生き物だ。相手の射程外から一方的に攻撃する。それだけで大抵の魔物は対処出来る。とは言え当たらなきゃ意味がない。海面上に的を用意した。波で揺れているな。なんでも良いから魔法を撃って当てろ。百発百中が最低ラインだ。百発撃てるよう出力を調整しろよ。」
青宝海賊団入団8日目。
「たった数回の鍛錬で強くなれるものがある。知識だ。土地や魔物は勿論、国、町、そこに住む人、知識を得ることで、そもそもの危険から遠ざかることが出来る。極論、危険な目に遭わなければ自衛能力は必要ない。これらの本を読み、大まかでも内容を把握しろ。読み終わったら抜き打ちでテストをやる。覚えたことを忘れるな。」
青宝海賊団入団9日目。
「ガキが持つなら短剣よりナイフの方が良い。持ち運び易くて、軽く、丈夫で、よく切れる。魔力を込めれば一瞬リーチを伸ばせる特注品だ。そう言うスキルがあってな。参考にした。後は無難に使いやすいアイテムだ。魔力を込めて繰り返し使えるチャージ方式。余裕がある時にチャージしておけよ。」
青宝海賊団入団10日目。
「ネムアムを一人でか?流石に歳がな…。まあ、鍛えて貰うのには礼を言おう。満足いったら教えてくれ。」
「ロールプレイはどうしたんですか…。」
青宝海賊団入団15日目。
「基礎が出来てきたな。その調子だ。」
青宝海賊団入団20日目。
「正解だ。このぐらい知識があれば大丈夫だろう。とは言え、勉学を忘れるな。」
青宝海賊団入団25日目。
「よく見れている。戦闘の際は当然として、普段から視野を広く保つことだ。」
青宝海賊団入団30日目。
「基礎スキルは全て手に入れた。当初の目標はこれで達成だ。外へ出て経験を積まなければ、これ以上のレベルアップは見込めないだろう。」
「と言うことは。」
「卒業だ。免許皆伝とも言える。基礎は教えた。後はお前次第だ。」
一ヶ月間ありがとうございました!
「明日、鬼族の国まで送る。正規の港には送れないが、ちゃんとした港だ。」
海賊ですからね。
「…正直、少し残って欲しい気持ちがある。部下からの評判んも良いしな。こんなに素直な奴は初めてだ。だが、その素直さに付け込む気はない。」
私は素直な女の子です。
「ネムアム、お前はこんなところに居ちゃいけない。首飾りは返してもらう。」
どうぞ。
結局この宝石はサファイアなんでしょうか。違うような気もしますが。
その晩、新入りを見送る会が開かれました。
「明日は早いんだ。さっさと寝な。お前らもだ!いつまで飲んでんだクズ共!」
青宝海賊団退団1日目。
「親切な海賊じゃの。」
「お酒ももらえたよ!」
この二人は牢屋でも自由にしてたらしいです。
走り込み中に見張りの人が嘆いてました。
「ネムアム。これやるよ。」
頭さんから首飾りを頂きました。
返してもらいました?デザインがちょっと違います。
「水の魔石には水の力が宿ってる。魔物からすれば『不思議な水流』くらいの認識だ。だから襲われ難くなる。その首飾りは青宝海賊団の物じゃない。ただの首飾りだ。」
…ありがとうございます。
やっぱりサファイアじゃなかったんですね。
「じゃあな。二度と捕まるなよ。」
「はい!絶対に捕まりません!本当にありがとうございました!!」
私たちを見送る頭さんの首飾りは、波の飛沫が掛かったのか、少し煌めいて見えた気がします。
「お頭、寂しいんでしょう?」
「馬鹿言え。アタシらクズの集まりなんだ。寂しがってたら、クズ共の肴になっちまうよ。分かったらさっさと働け!」
そうして鬼族の国に着いた私たちは、ロリババアの故郷アカの里へと無事辿り着き、
「捕まりました。」