教科書と同人誌の捨て時はほぼ同じ。
あれがトライホーンクラーケンですか。
確かにトライホーンですけど。
「イカですか?タコですか?」
ピンク色で足9本。どっちですか?
解剖せずに把握するにはどこを見れば良いんでしょうか。
顔もイカとタコの中間なんですよ。中性的な見た目なんですよ。
「どっちかと言えばイカじゃな。…タコと言えばタコじゃが。」
どっちなんですか結局。
「アンタ達!良かった。何とかなったんだな。」
依頼主さん。
「衛兵には話しといた。あのイカを倒したら直ぐに行くってよ。オレは避難してるから、気にせずぶちかましてくれ!」
もうイカで統一しましょう。
あのイカをどうやって倒すかですが…漁業ギルドの方たちが奮闘してますね。
「全然効いとらんな。」
並の魔法は効果なし。近接組は良い線行ってますけど、触手にあしらわれてますね。決定打には繋がらなさそうです。
「あそこの最前線に立ってるパーティ、全員シルバーランクだな。マスターを除いたシーの最高戦力だ。」
おお、さすがシルバーランク。この体格差でもしっかり戦えてます。
「貴様を倒して最高の一杯を貰う!!くらえ【泥酔音撃】!!」
すっ凄い…!体内に浸透する音波で無理やり酔わすとは…より大暴れしてシルバーランクの方々も手が出せなくなってます…!
「何やっとんじゃぬしは!?いかん、とにかく動きを止めなくては。炎魔法を使うぞ!」
「待ってくださいチトちゃん!!」
どうしたんですかリエルさん!!
「トライホーンクラーケンは新鮮な刺身が一番お酒に合うんです。」
お婆ちゃんやっちゃってください。
「待ってください!!ホントにレアなんです!めちゃくちゃ高級品なんです!ゲソ1本で最低でも中銀貨1枚はするんです!!新鮮なら5枚はくだりません!!」
「よし別の方法を考えるぞ。」
おい。
別の方法って言いますけど、体力が減ったら多分逃げると思うので、リエルさんのスキルは目的と相性悪いですよ。
お婆ちゃんの魔法も…風魔法でゲソを斬るぐらいじゃないですか?
「リエルよ。先程まで生きていたゲソならいくらじゃ…?」
「大銀貨1枚です…!」
…でしたら、勝利を確定させた状態で競りを始めますか。
捕縛するかどうにかして。どうですか?
「それでいこう。」
先ずは退路を断つべきでしょうか…。
「先ずはシルバーランクのパーティじゃげふんげふん足手纏いだと思いませんか?チトちゃん。」
「わしも丁度そう考えていたところじゃ。リエルよ。」
何やろうとしてるんですか!?
ちゃんと連携してくださいよ!!町の危機ですよ!?
ん?いや待ってください!!
「どうした!?ネムアム!!」
シルバーランクのお姉さんがエロいことになってます…。ああっ!2人目も!ここは一旦見守りましょう…!
「ネマちゃんもボケるんですか!?」
「私だってボケたいです。」
「わしはボケとらんぞ!!」
「そのボケじゃないです。」
騒ぐ三人組に気を取られ、シルバーランクパーティ【銀色の海風】のリーダーは、クラーケンの攻撃を避け切れずに大ダメージを負ってしまう。
(くそっ!何なんだアイツらは!?冒険者ギルドのヤツが応援に来たんじゃないのか!?)
仲間の【僧侶】と【弓使い】は触手に捕まり、【魔法使い】の攻撃は効いていない。そして自分【銀色双剣士】はこのザマだ。「マスターが来てくれれば」考えが頭を過る。
(来るわけねぇか…。俺たちはマスターを裏切って漁業ギルドに行ったんだ。その時点で臆病者の俺には、冒険者なんて無理だったんだな…。)
「すまない…。みんな…。マスター…。」
「諦めないでください!」
女剣士はそう言い、瞬く間に触手から仲間を救い出した。
「遅れてすみません!でももう大丈夫です!」
女剣士は仲間をリーダーの下へ送る。
「マスター…!」
溢れた涙は、陽の光を浴びて銀色に輝く。
「マスター、俺…!」
「そんなに痛かったですか!?すみません、魔法は使えないので…取り敢えず包帯をどうぞ!」
勿論言いたいことは違う。だが、マスターの真っ直ぐな瞳を見れば、そんなものは映っていないのが分かる。
後悔すべきは別のことなのだと。
「許せません!港をめちゃくちゃにして!あなたはこの【海色剣士】が必ず倒します!!」
お前が原因かよ。
かっこいい…かっこいいっちゃかっこいいですけどね…。
「でもメッチャ強い!!」
触手攻撃を二つの意味で簡単に捌いてます!しかしこれ以上捌かれると私たちの取り分が!
「ギルドマスターの最低条件はゴールドランクじゃからな。じゃが…仕方あるまい。わしが凍らす!冷凍でもあの大きさじゃ。充分稼げるじゃろう。」
!待ってください!触手が再生してますよ!
「クラーケン種のレーシャルスキル【触手再生】!やはり使ってきたか…!」
レーシャル…種族固有のスキル的なコトですか。
「体力の消耗を抑えてゲソを再生出来る訳じゃな?となれば尚更、大規模魔法の使用を避けらんぞ。」
なんでお婆ちゃんはクラーケンの事知らないんですか?
「海の魔物など出会うことが無い。わし泳げんからな。」
誇らないでください。
「キリがありません!!」
「私が守るので!魔法使いさんたちゲソを止めてください!一瞬で良いです!」
ヤバいですよ!決着がつきそうです!
「耐えろイカァ!!!」
リエルさん何言ってんですか!?
「くらえクラーケン!ファイアブラスト!」
良かったです。爆発で聞こえてないみたいですね。
「落ち着くんじゃ二人とも。よく聞け。ゲソ切って売れば無限に稼げるぞ…!!」
「やはり…天才か。」
アレ飼うんですか?
…。
無理じゃないですか?
「やる前から諦めるな!!ネムアムよ…ぬしはわしの弟子じゃ。きっと出来る。わしが保証する!!」
なんで私にやらせようとしてるんですか。クラーケンの管理なんてしないですからね。ゲソタウン(株)やらないですからね。私に押し付けても直ぐ旅に出ますからね?
それなりに稼げれば、それで充分じゃないですか。お婆ちゃんさっきそう言ってましたよね?なんで急に意見変わるんですか?
「…里に賄賂贈ろうとしてます?」
「してないぞ。」
そうですか。
「墨だ!全員下がれ!アレは毒だ!」
クラーケンのイカ墨…!
「イカ墨パスタ…!」
そう言うふうに続けて欲しかった訳じゃないんですけど。
(マズいですね…。港にかかった墨の除去には時間もお金掛かります。クラーケンを討伐できれば資金面は問題ないはずですが…。)
「追い詰めたら逃げられますね…。」
(流石にクラーケンは追えません。完全に陸に上がってくれれば恐らく間に合います…。間に合わせるのに…!)
なんか向こうの方ヤバくなってますよ。
「分かった。じゃあこうしよう。」
リエルさんとの話し合い終わりましたか?
「冷凍は味が落ちるんじゃな?ぬしはそれを避けたい。じゃったら直接凍らすのは止めよう。」
何の話し合いしてたんですか?
「海を凍らす。そしたら冷凍よりマシじゃろ?生温かいより、身が引き締まって美味そうじゃし。」
「よし。それでいこう。チトちゃんお願い!」
マジで何話してんの?
(ゲソで近付けない。陽動はもう無理。時間を掛ければ逃げられる。)
「一瞬で決めます…!」
マスターは海へ飛び込んだ。
レーシャルスキル【海色生物】
「力を貸して、クジラさん。」
水で出来た鯨がマスターをクラーケンの遥か頭上へと打ち上げる。
と同時に海色の鯨は水へと姿を戻す。
「グレイシャー…タイム…。」
海は凍りつく。鯨の水と、造る波をそのままに、魔物だけを残して。
「皆さん…!ありがとうございます!」
「これで決めます!オーシャンブレイド!!」
魔物は倒された。
シーの港町にまた平和な日常が帰って来た。
いや、平和な日常を連れ戻して来てくれた。
めでたし。めでたし。
「凄いですね。一刀両断ですよクラーケンを。」
巨大イカリング作りたかったって嘆いてる人も居ましたが。
「水でリーチを延ばすスキルなんです。魔力が足りて良かったですよ…。皆さんのおかげです!」
鯨は別のスキルですか?
「人魚族のレーシャルスキルです!…だと思います!」
分からないんですか?
「海のお友だちを一時的に造り出すスキルなんですが、私は『人魚の血を引いているから使える。』としか知らなくて…。両親も詳しくは分からないそうです!」
ネーミングセンスはスキルが由来でしたか。
「いや?カッコいいからですよ?」
あぁ、そうですか。
「それはルートスキルじゃ。普通の人魚はそんなスキル持っとらん。王族の血を引いとるんじゃろ。」
「そうなんですか!?」
ルート…ルート?
「血族固有のスキルじゃ。ジェネティックスキルと呼ぶ国もあるらしいの。」
なるほど?
それで、何で知ってるんですか?泳げないとか言ってたのに。
「人魚の国に行ったことがあるんじゃ。直ぐに出たがの。姫が同じスキルを使っとった。」
人魚姫ですか…。
「何十年も前の話じゃぞー。」
何も言ってないです。
「次はどちらへ行かれるんですか?」
受付嬢さん。
「みんなを代表してお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。」
「こちらは、トライホーンクラーケンの討伐及び買い取りと、冒険者ギルドと漁業ギルド両方からの報酬。それにシーの町からの報酬です。どうぞ受け取ってください。」
お金モチモチですよ!
…。
「あ!!」
忘れてました。
変態紳士はどうなったんですか?
「あ。」
ブァックションッ!!!!
「クソガキどもめ!!雨で濡れたまま放置しやがって!!ッウ…キモチワルイ…。」
「兵隊で良いから早く来てくれーーー!!!」
「私は完璧な計画を練ったと言うのに…うっぷ……。」
ちゃんちゃん。
と言うことで次の目的地はどうするんですか?
「はい!」
リエルさんどうぞ。
「鬼族の国に行きたいで〜す!」
「賛成で〜す。」
「イヤで〜す。」
賛成意見多数につき、次の目的地は鬼族の国となりました。ありがとうございました。
「イヤじゃ!絶対に行かんぞ!」
リーダーが良いって言ってるんですよ?
「リーダーならメンバーの意見を聞け!」
何でそんなに嫌なんです?
長になりたくないなら、故郷の里に近寄らなければ良いじゃないですか。
「話せば長くなるが、アレは未だわしが子供だった頃…。」
要点だけ話してください。ダレるので。
「…ふぅー。」
「分かった。要点だけな。」
敵「お前強い。長なれ。」
チ「責任取りたくないから嫌じゃ。国外逃亡じゃ。」
敵「貴様アアア!!逃げるなアア!!!責任から逃げるなアア」
「今ココ。」
弟子の私に押し付けるくらいですからね。
普通に断っても駄目なんですか?
「より高い実力を持った者が居るのに長に据えんと言うのは、誇りを重んじる鬼族にとってあってはならんことなんじゃ。他の里からの目もあるしの。それなのにわしが断ったから、仕方なくNo.2を長にしようとしたんじゃが…。」
No.1じゃないのに長にはなれないと、No.2が断った。
「うむ。彼奴が断るもんじゃから、誰も長になりたがらんでの。長候補じゃった者が外へ出てわしを連れ戻そうとしとるんじゃ。」
一瞬だけ長になって、直ぐ次を指名したら良いじゃないですか。駄目なんですか?
「実力で上回る者が出て来ない限り代替わりは無理なんじゃ。それに、長になると嘘を吐いて出て行ったからの。追手にも似た様なこと言って誤魔化しとるし…。帰りたくないんじゃ。」
「嘘って…。」
「流石に…。」
「実年齢いくつですか…。」
「鬼族のお酒が飲みたい…。」
「……………分かった、分かった!行けば良いんじゃろ?行けば!はい!次は鬼族の国に行きまーす。船を探しましょーう。」
まあ私もそれなりには協力することも吝かではないと言えなくも無いことも無いですよ。
「無いんかい。」
鬼族の国って外国ですよね。結構かかります?
「三日程じゃな。港が戻ったら出発じゃ。」
次の日には船が出たので、私たちはシーの町を出ました。
鬼族の国にはお米があるらしいですよ。リエルさんは米酒を飲んでみたいそうです。
それで一晩を船の上で明かして二日目。
「全員動くな!この船はたった今から我々が占拠した!」
海賊に捕まりました。
「国境付近の海域は海賊が多いんですよ。私のお酒ちゃんも奪われちゃいました。」
私たちは海賊の拠点に連れて行かれました。奴隷にするらしいです。手錠もかけられました。最近こう言うのばっかりなんですよね。旅って難しいですね。お婆ちゃん助けてください。
「あたちこわいー。たすけるなんてむりだよー。おねえちゃんたちがたすけてよー。」
里帰りしたくないだけですよね?
「さとがえり?あたちむずかしいことわかんないー。」
ちっ。ロリババアが…!
「海賊さん♡」
「何だガキ。殺されてぇのか?」
「この幼女鬼族の有力者なんで高く売れますよ。」
「…。」
海賊さんはお婆ちゃんの角を確認します。
「良いだろう。俺たちの仲間になりてぇってことだな?頭には口聞いてやる。後はお前次第だ。」
よし。
「良くないですよ!?ネマちゃん!?ちょっ、私も助けてください!!」
海賊さんには口聞いてやります。後はお前次第です。
「どう言う立場だテメェ!!」
まあ良いじゃないですか。
ここだけの話、私の人生シビアなんですよ。ちょっとしくじったらコメディじゃなくなるんですよ。一気に指名手配犯なんですよ。
と言うわけで頭さん!私は助けてください!ロリババアとリエルさんは一人でもどうにか出来ますけど、私は弱いんで無理です。
「その前に。お前が差し出した鬼族の情報を吐け。有力者と言うのは本当か?」
あれ?
…もしかして、冒険者カード持ってなかったりします?
襲われた時、海に投げ捨てていた様な気もちょっとあるんですよね。
「冒険者なのか?」
私がリーダーで、彼女はメンバーです。
「それで知っているわけだな。有力者とはどう言うことだ?」
里長になる筈だったらしいです。
「成る程な。あの赤い角、シャクカクリョウ家の娘と言う事か。」
まあ、そうですね。
「…。良いだろう。名前は?」
手錠を外して貰いました。
「ネムアム・ロードレイグです。」
「ネムアム。この首飾りを着けろ。それがある限りお前は自由だ。」
青色の宝石があしらわれた首飾りです。
「青宝海賊団へようこそ。歓迎しよう。ネムアム・ロードレイグ。」
あぁ、ありがとうございます。
「その首飾りには、海の魔物に気付かれ難くなる効果がある。そして仲間の証だ。耳飾りだったり、腕や脚に着けている奴もいる。特別な理由が無い限り外す事は許さない。滅多な事では傷付かないが、損傷したら新しい物と交換する。その時は私に言え。私は忙しいからな。早めに頼むぞ。」
「あいあいキャプテン!」
「そんな返事はしなくて良い。普通に応えろ。」
「はい。分かりました。」