侵入禁止は、遠くから見るとガ◯トにしか見えない。
【岩窟汽船】
と言うのが件の会社らしいんですが、お婆ちゃんが揉めてまして。
「ですから、鬼族の方は乗せられない決まりなんです。会社の方針でそう決まってるんです。いい加減諦めてくださいよ…。僕だって変だと思ってますけど、社長が駄目だって言うんだからしょうがないでしょう。」
鬼族だけ乗せない決まりらしいです。
鬼族でなければ魔物でも乗せるとか。
「ちょうっとくらいええじゃろが!ぬしが黙っとけばバレんわ!」
流石にマズいですって。
「何の理由で禁止されてるんですか?」
鬼族だけ差別は初耳です。
「詳しくは伝えられてないんですが、社長は鬼族に襲われたことがあるらしいんです。何でも、その時の療養中に会社を創ったとか。創ってないとか。」
ホントに詳しく知らないんですね。
「とにかく!あなたは乗せられません。申し訳ありませんが、別の方法を探してください。」
…どうします?
「決まっとるじゃろ?社長を潰すぞ!二度とナマ言えんようにしちゃるぞクソガキが…!」
本社の場所知ってるんですか?
「知らん。」
…。
「ちょっと待っとれ。聞いてくる。」
ちょっと待ってくださいお婆ちゃん?
「私の関係ない時にやってください。」
「弟子なら師匠に尽くさんか!」
「可愛がるのでそれで許してあげてください。」
おーよしよし、かわいいねぇ…?
なでなで。
「なでるな。」
落ち着きましたか。
「はぁ…。まあしょうがない。今回はぬしに免じて見逃してやろう。」
他にも船はありますし、少し割高ですけど、竜車で行くより安くすみますから。
船を見てみましょう。
「お嬢さんたちぃ?かわいいねぇ。安くしとくよ?いや、タダだ!さあ乗っていきな?大丈夫。すこぉし眠ったらもう着いてるからねぇ?さあ!?さあ!!??」
「ウチの船はどの船より速く着くよ!何てったってスピードが違うからね!ウチの船を引いているあの生き物。そう!淡水魚界の単車と呼ばれたあのバイバイクカープがバイソクの走りを魅せてくれる!あの滑らかなボディ!極限まで水の抵抗を減らしたWULUKAッ!!並々ならぬ鍛錬によって鍛え上」
「手漕ぎだから安いよ〜。」
まともなのがないんですけど。
「岩窟汽船が相当稼いどるみたいじゃし、普通のやり方じゃ客が来んのじゃろ。もう一船だけ見て、からあげに乗せる物資を買おう。」
そんな見せ物みたいな。
「鬼族のお嬢ちゃん。あんた、どうせ岩窟に断られたんだろ?俺の船は鬼族も乗せるぜ!乗ってきな。」
比較的まともそうですよ!ハゲてるけど。
「剃ってんだよ!」
値段も良心的です!ハゲてるけど。
「ハゲてるおじちゃん!こどもにまい!りゅういちまい!」
うっぷ。吐き気が。乗る前から船酔いですかね…。
「ワザと!剃ってんの!あえてだから!ホントはフサフサだからぁ!剃らなきゃすぐ生えてくるからぁ!!」
【ハゲ頭丸】乗船!
「あげはた丸!降ろすぞクソガキ!」
船に乗ったの久々ですね。
あーでも、そもそも乗ったことない人結構いますよね?
私小学校で乗ったんですよ。
それで、フェリーで食べるカップ麺めっちゃ美味じゃないですか。先生に見つかりそうになってですね、一気に食べ切ったんですよ。吐きました。私のゲロで育った魚が市長の食卓に並んでると思うと、世界って…ホント狭いんですね…。
「ろろろろろろろろろろろろろろろろろぅぇ…。」
あの…大丈夫ですか?水持ってきましょうか?
「ぁぁ、どうもご親切ぅうううううううううううううぅぇ…。」
船酔いですか?キツい人はキツいですよね…。まだ動いてもないのに……!この匂いは!
「アセトアルデヒド!!!」
船酔いの可哀想な人じゃなくて、酒酔いの可哀想な人ですか。
マジで可哀想な人ですね。さようなら。
「待ってぇ、水ぅ、せめて水だけでもぉ!」
自業自得じゃないですか。諦めてください。
そのまま酔った勢いで河に落ちて溺れ死ねばいいんですよ。「名前はまだにゃい。」とかほざいて。
猫は可愛いから許されてるんですよ。お姉さんは可愛くないですよ。
…。
顔面は良いですね。顔面だけ。口の周り吐瀉物まみれですけど。
「小銀貨1枚じゃ。それで楽にしてやるぞ?さあ払うんじゃ。」
お婆ちゃん…まあ良いか。
「どうぞぉろろろろろろろ………
………ありがとうございます!このご恩は忘れません!何か私に出来ることはないでしょうか!」
じゃあお酒飲むのやめてください。
「『私に出来ること』ですよ?」
やっぱアル中は死ぬまで治らないんですね。…転生したら治るんですかね?
「ぬしは何が出来るんじゃ?」
アル中は酒飲む以外何も出来ないですよ。
「私冒険者で、ちょっとした特技が使えます!」
冒険者なんですか。
…装備はどうしたんですか?
「装備なんて買ってたらお酒買えないじゃないですか!」
あー。
「いえいえ、ご恩だなんて、お気になさらず。それではさようなら。」
「待っでぇ!見捨てないでぇ!1人じゃ稼げないの“ぉ!お酒買えないの”ぉ!!」
幼女に縋り付かないでください!犯罪ですよ!
「アル中なんて半分犯罪者みたいなもんでしょ。」
分かってるなら止めてください。
「分かってても止められない。止まらない。それが依存症ってものなんだよ。」
じゃあ分かってないじゃないですか。
「…ちょっとした特技って何じゃ。宴会芸か?」
気になります?
(大道芸でもさせれば稼げるかもしれんぞ。)
そうですかね?そうですかね。
「私のユニークスキルです!相手を酔わせられます!私はお酒で酔ってます!」
「「飲むな。」」
結構強い力ですよね。
そのユニークスキルを目当てにパーティを組むも、本人がカス過ぎて逃げられたって事ですか。
「同情の余地も無いの…。」
まあ良いですよ。一緒に来ても。
顔面は良いので。顔面は。
「ありがとうございます!誠心誠意働かせて頂きます!じゃあパーティ加入祝いにお酒を頂きますね。」
「ろろろろろろろろろろろろろろぅぇ…。」
酔い止めはどうなったんですか?これ。
「薄い布を被せとるようなもんでな。今の酒でそれが破れたんじゃろ。」
「次は小銀貨2枚で治してやるぞ?」
「お願いしまおぉおおおぉおぉぉぇええ…。」
根は良い人のはずです。未来に希望を抱くのは良いことです。うん。
「ふたたびありがとうございます。」
「私は【酒盛り】のリエル・グレンツェ。未だ見ぬお酒とその肴を求め、世界を周る者です!岩窟さんの船には、以前乗った時に盛大にゲロってしまいまして。出禁になったのでこちらのハゲまる?さんに乗せてもらってます。改めてよろしくお世話になります!」
お願いしてください。
お世話しませんから。
「わしは【流星】のチトセ・シャクカクリョウじゃ。」
そう言えばお婆ちゃんの名前言ってませんでしたね。
鬼族は和風らしいです。
「【旅人】のネムアム・ロードレイグです。美味を求めて海を目指す者です!」
今はですけど。
「ふぉー!良いですね!最高じゃないですか!ネマちゃんは分かってますね!素晴らしい才能です!!」
アル中のですか。
「着いたぞ。ここがこの国最大の交易拠点、通称【スー大源流】だ。」
2日ほどで着きました。これなら海も直ぐそこですね。
最大なだけあって、船も人もお店も溢れてます。
何か面白いものがあるかもしれません。
でも先ずは冒険者ギルドに行きましょう。
パーティ登録しておけば特典があるらしいので。
「リーダー私で良かったんですか?どう考えても実力不足ですが。」
パーティの登録にはリーダーを決める必要があるんですが、お婆ちゃんでもなく私に決まっちゃったんですよ。
「わしリーダーとか面倒じゃし嫌じゃ。」
「責任負いたくないも〜ん。」
いつの間にお酒を…。
「冒険者の皆さん!緊急クエストです!」
ほ?
「大運河にモンスターの群れが現れました!水生のモンスター、【ブルーサーモン】です!」
「船が襲われる前に、大至急討伐をお願いします!!」
ブルーサーモン…。美味しくなさそうですね…。
「私たちが行く必要はないですよね。」
吸血鬼を追い返して旅費も困ってませんし。
「待て、この町には岩窟汽船とか言う会社があるはずじゃ。」
ここに来る途中で薄っすら聞いたような…?
「大運河を、と言うよりこの町を運営しとるのはその会社じゃろう?今回の騒動を解決すれば恩を売れる。」
…あぁ。
何が言いたいんですか?
「わしは社長に文句を言うんじゃ!」
「行くぞ野郎ども!船を襲うなど言語道断!不埒な青ジャケからわしがこの町を守る!!」
野郎居ないです。
て言うかリーダーの意味ないですねこれ。
「お供するぞチトちゃん!」
え!?何で乗り気なんですか!?
「何をやっているネマちゃん!!ブルーサーモンのトーストは酒に合うぞ!!他の奴らに取られてなるものか!!」
モンスター食べるんですか!?
いやまあ、私もワイバーン食べようとしてましたけど!アレは極限状態ですからノーカンです!
今思えばワイバーン不味そうでしたし。
「ぅぉおおおおおおおおお!!燃えろおおおおおおお!!」
かつてないほどテンション上がってますね…。うわぁ…。
「チトちゃん待った!ここは私に任せろ!新入りの「やるなぁ」ってとこが見せたいんだ!」
燃えたら食べれないからですよね?
「【酩酊の煙】!!」
これがユニークスキルですか!
煙が水の中まで入って行ってるってことは、やっぱり普通の煙とは違うんですね。ほぇぇ…。
「見ろ!煙を吸ったシャケが次々と水面に浮かんで来るぞ!」
「シャケを陸に上げるんだ!」
「正しく、『まな板のシャケ』って訳だな!ガッハッハッハッハ!」
このスキル凄いですよ!殆ど無敵じゃないですか!
「オロロロロロロロロロぅぇ…ロロロロロロ…。」
残念な人ですねホントに!!
「宴だあああああ!!!」
これがブルーサーモンのトーストですか…。
パンとシャケと…タマネギ?に、スパイスで味付け。
他のテーブル見てると、いろんなバージョンがあるみたいですね。割とポピュラーな食材なんでしょうか。トースト以外の料理もありますし。
ただその…何と言うか…。その…。
「あおいぃ…。」
パステルカラー過ぎます。食欲が…!
「…もぐもぐ。」
!
「美味しいですねコレ!味付けもですけど、シャケの旨みが濃いです。」
お米が欲しくなります。
「魔法使いのお嬢さん。あなた凄いわね。風魔法でシャケを掬い上げるなんて。」
褒められて嬉しそうです。
「おお!ねえちゃんイイ飲みっぷりだな!俺も負けてらんねぇ!」
「ぶはぁ!酒に鮭は堪らんですなぁ!うへへへへ!」
…活躍したので良いでしょう!
「すみません。」
はいぃ!?
急に話しかけないでくださいよ!
「驚かせてしまい申し訳ない。貴女がリーダーのロードレイグさんですよね?」
そうですが。
「私は岩窟汽船の社長秘書を務める者です。社長が、今回の事件を解決した皆さんに是非御礼をしたいと申しておりまして。」
ホントに来た…。
「宜しければ、今直ぐにでも岩窟汽船本社にお越し頂きたいのですが。」
「宜しいぞ!案内するんじゃ!」
おお、聞いてたんですか。
「ありがとうございました!」
この人が社長さんですね。すごく大きな帽子を被っています。オシャレでしょうか。この世界の流行はよく知りませんが。
「おい!鬼族差別など!今更流行らんぞ!!」
何ですかそれ。
ほんとに気にしてるんですか?
「あぁ、いえ。そう言うわけでは…。」
どうしたんでしょうか。
まあ、お婆ちゃんの存在ってよく分からないので、じっと見つめてしまうのも仕方ないですけど。
「少女の、赤い角の、強い魔法使い…。」
「チトセ様!!」
様!?
私でも様を付けた時期はないのに、この社長何者ですか。
「チトセ様ですよね!?チトセ・シャクカクリョウ様!!」
「やっとお会い出来ました…!」
社長さんが言うには、鬼族差別ではなく鬼族選別だったそうです。お婆ちゃんを探していたと言う訳ですね。
「証拠ならあります!私も鬼族なんです。ほら、この通り。」
大きな帽子は角を隠すためだったんですね。
私たちが乗ろうとした船も、乗って来た船も、鬼族を炙り出すための策略だったと。
…では何故お婆ちゃんを?
「それはーーー」
「言わんで良い!どうせわしを長にするとか言うんじゃろ。そんな責任の重そうなものにはならんからな!」
マジですか…。
「そう仰られると思っておりました。」
「ですが!この町から出るには運河を通らなければなりません。運河を通るには私の船が必要です。」
これ私たちも巻き込まれてます?
「脅す気か…!わしはそんなものには屈さんぞ!」
屈してくださいよ…。
「…。せめて、一度里に帰ってくださいませんか?チトセ様が里を出た時から、大分様変わりしておりますので。…旅人として訪れるだけでも。」
「どうですか…?」
それぐらいなら良いんじゃないです?個人的に興味もありますし。
「…分かった。海の後は里に戻ろう。約束じゃ。」
意外とあっさり。
「良かった…。船を用意しますね!」
と言うことで、私たちは明日の船にタダで乗れちゃいました。
しかも帰郷代として小銀貨一枚貰っちゃって、良いんですか!?良いんですよね!やったー!
鬼族の里ってどんな所なんでしょうか。やっぱり和風ですかね?お米があるんですかね!?
「?帰らんぞ?タダで乗れて、銀貨は儲けもんじゃったな。」
か、え?
「わしが里に帰るだけで済む訳ないじゃろ。絶対に罠じゃ。」
社長は信じてるみたいですよ?
「ん?それは…」
「社長。チトセ様の言葉を信用して良かったのですか?」
「良かったのですよ。だって…」
「鬼族は約束を破らんからな。」
「鬼族は約束を破りませんから。」