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1/∞の世界で  作者: スマイロハ
獣、除け者、化け物、消しゴムMO。の章

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26/47

洗髪剤と洗顔料を使い分ける境目はなんとなく。

二人の第二王女と、獣人族との抗争は激化する。

「下りて来いテメェ!!ふざけんな!!」

今のイラに翼はない。しかし魔法によって空を飛ぶことが出来る。決して高度ではないが、頭上から放たれる高威力の魔法に手も足も出ない現状。

「私は兎だから跳躍には自信ある。でも。届くけど、届かない。」

ラビリアを始め、イラの高さに攻撃出来る者はそれなりに居るが、魔法攻撃は練度で圧倒的に差があり、ラビリアの様に突撃しようものならまた魔法で対処される。

「…夜になれば私は飛べます。私が届かせます。」

問題はそこまで粘れる余裕があるのかどうか。クローン+王の護りのイラは、スキルの重ね掛けをしたジェイサーが一人で止めている。一方で空中の本物は好き放題。

「…保たせないとね。」

戦いの最中ではあるが、夜になり吸血鬼の力を使えるようになるまで体力を温存しておきたいネムアムは、ゼーテに現状分かっている事を報告した。

「なるほど…第二王女のあの力は『命の水』によってもたらされたものやった…。やから、クローンはスキルを持っとらんのにあの強さなんか…。」

「リスクとかは今のところなさそうに見えます。」

「…家のルートスキルでもそう見える。厄介やな。」

獣人族自体、ゴーストを感じ取れるほど鋭敏な第六感を持っているが、ゼーテの場合はルートスキルによって語感が超強化されている。とは言え戦闘は苦手なため、専ら鑑定にしか使われない。最初忍び込んだネムアムに気付けたのもこのスキルのおかげである。因みにリコにはあらゆる感覚を意識出来なくなるルートスキルがある。出来なくなると言うと聞こえは悪いが、要は無用な感覚で止まらないスキルだ。

「それと、この国の神様はもう殺されている可能性があるんです。」

「ハイツ神様が…?…他の国の神たちよりも納得は行く。元々、あまり表にはお出になられないお方や。殺され、活動が途絶えても気にはされへん。死んだ言うても神やから、復活することはあるやろけど…力を取り戻すまで何十年かかるか…。しかし神殺しとは…魔王はそこまでの力を…。」

陽はかなり落ち、夜間を活動時間とする獣人達のテリトリーが出来つつある頃、リコの回復薬で無理やり体力を戻した「命の水の犠牲になっていた者達」が目覚め始める。

「少しずつ増殖して来たようですわね。…それなのに、目の前の発情した子犬ちゃんの相手しか出来ないなんて…可哀そうだとは思いませんこと?」

「俺だってお前の相手しか出来ねぇよ。仲良く足止めし合おうぜ。」

この一対一、勝つためには加勢も牽制も出来ない。

「ジェイサー、あいつツンデレだからな。ツンデレで皮肉家。もっと素直になればモテそうなもんなのに。」

「お兄ちゃん面する余裕を労働に使ってくれ!!」

「いや待て。冒険者たちが起き始めた。交代だ。ジェイサーに加勢するぞ。」

ドルント家の兄達は【魅了(チャーム)】にかかった者の相手を交代し、弟の隣に立つ。

「助かるよ。これなら重ね掛けは解ける。一回で充分だ。」

「…尻尾振っちゃって。」

形勢逆転とまでは行かないが、傾きは弱まりつつある。そして夜が来た。

「やっと飛べましたよ。」

ネムアムの背に失われた悪魔族の翼が夜闇に溶け込んでいた。

「そんな小さな体で何を…?舐めないで下さいます?」

「私だって真っ直ぐ勝てるとは思ってませんよ。届かせるのが仕事ですから。」

さてどうやって落としましょう…。魔法で飛んでるならアンチマジック…は一時しのぎにしかなりませんから…。

血霧変身(ブラッドチェンジ)

「…その程度なら問題なく対処できますわ。」

言われなくても分かってますよ!

血霧結界(ブラッドルーム)

の結界効果を【魔法構築阻害魔法(アンチマジック)】に。

「これならどうですか?」

普通の魔法で空を飛ぶには、定期的に風魔法などの複数の魔法を並行して発動させる必要があります。魔法の連続使用で空を飛ぶんです。

「器用ですわね。誰に教わりましたの?」

「オリジナルです。」

ほんとはおばあちゃんだけど。

「そうですか…。ですが地に落ちるまでもう少し飛べますわよ。血の残量はお確かめになられまして?」

「削り切られない自信がありますから。」

今発動してある飛行魔法が効果を無くし、結界のアンチマジックで落とすまで私が戦わないと…。結界で継続的に削られる分は残しつつ、戦闘用はって感じですか…?正直、血より先に命がなくなりそうですけど…保ちますかね…。

「躊躇いましたら死にますわよ?」

「…じゃあ出し惜しみはナシですね…。」

無理ですけど、ワンチャン【魅惑の完全支配者(マスターチャーム)】を狙って――。

「魔を討ち払え。ホーリーライトアロー。」

????

「何でサキュバスが聖魔法を使えるんですか!!魔の種族でしょ!?」

(わたくし)は獣人族ですわ。」

「じゃあ【魅了(チャーム)】なんて使わないで下さいよ!!」

「溢れ出る魅力が抑えきれないのですわ…。(わたくし)って、罪な女…。」

こんだけ国を荒せばそりゃ罪でしょうよ。

「文句があるならお使いになられては?あ!吸血鬼だから無理でしたわ!」

「…淫魔なんて非モテにしか相手にされない劣等種じゃないですか。」

「ハァ!?吸血鬼族なんて万年引き籠りのクソ陰キャ種族じゃない!どうせ童貞か処女しか居ないんでしょ?淫魔族がヤりまくりの勝ち組だからって嫉妬は見苦しいわよ。」

「どうやら、誰にでも股開く淫乱ビッチカスオナホには、高貴で上品な吸血鬼の誇りと言うものが分からないみたいですねぇ??」

「アンタハーフでしょ??吸血鬼にも人間にも見捨てられたゴミ中のゴミじゃない。あーやだ。腐臭が移っちゃうわー。」

「おやぁ???下半身でもの考えてるから、穴と一緒に記憶までガバガバなんですかぁ???淫魔族が全種族に手を出して魔族にすら見限られたの忘れちゃいましたぁ????」

「全種族に手ぇ出して見限られたのは吸血鬼族も同じでしょ???アンタ達だってちゅーちゅーちゅーちゅー吸いまくってたじゃない!!!蚊の方が節操あるわよ。それに今は魔王軍に入って仲良くやってるしー???みんな淫魔の快楽を求めて来るんだから…あ!!!そう言えば虫未満のクズ共はボッチだったっけー????相手してやろっかー????」

「五軍ですらない『十』軍の相手して随分『充』実してるみたいですねぇ????そのまま『重』病うつされて『十』秒で絶滅して良いんですよぉ????強者の下でしか『生き』られない雑魚が『イキ』がらないで下さい。『イキ』狂って肉塊になったら使ってあげますよ。モンスターのエサに。」

「あ?????」

「は?????」

極限状態に追い込まれた、淫魔族(獣人族)と吸血鬼族(人族ヒト)の血に眠る因縁の記憶が闘争を呼び起こしていた。

「…はぁ。もう良いですわ…。こんな口論に意味なんてありませんもの…。下りて戦いますから、先程の事は忘れて下さいまし。」

「なんかすみません…。忘れます…。」

結果的には良かった……?

「それでは皆様、頑張って下さいましね。」

結界がどのくらい持つか分かりません。それに「盾」をこっちによこされたらやってられませんよ。今決着を付けます。

「ナイフしか無くて心もとないですけど、私も動けるので、手伝います。」

「魔法は使えないってことで良いんだよね?スキルは?」

「結界内では私達も魔法を使えません。スキルは私達も向こうも使えます。」

「スキルだけね。おっけー…。チャイルズさん!アイテムの性能は!」

「無理やり感覚を遮断してる!淫魔族の【魅了(チャーム)】は快楽由来だ!魔法意外に使えるスキルがあっても、大体は我のアイテムで無効化出来るはずなのだ!」

役不足ですけどやります!

「魔法が使えないと面倒ですわ。吸血鬼から殺しませんと…。」

い――!?

「ちょっ、頭潰されて――!?」

「思いあがってますわね。まともなスキルはありませんが、それは向こうのクローンも同じこと…。この国で一番強い獣人族が互角なんですのよ?話になりませんわ。」

死んだかと思いました…!!思い出しますね…トラックに突っ込まれた時もこんな感じでした…。一瞬なんですよいつも。何かが終わるのは。

「大丈夫…!?」

「大丈夫です…。特攻攻撃以外は血がある限り回復出来ますから…。」

消し飛ばされたら流石に無理だと思いますけど…。

「私の攻撃は通す余裕がないと思うので、サポートに徹します。あとお願いします。」

「…もしかして、私の方が頼りにされるのって、初めて…?嬉しい…。」

…やりにくい…。

「…妬けちゃいますわ――!!」

速――。動きは分かるのに体が追い付かない。と言うか追い付いても防御出来な――。

「今いちゃついてるところでしょ…?」

守ってくれましたラビリアさん…///カッコいい…///

「思いあがってるのはそっち…。こっちは人生二回目なの。」

「…舐めてたのは認めますわ。でもこっちも二回目だから。」

思ったより遅い…。彼女も反応だけは出来てる…。ただそれが気にならないくらい堅い…!!全力で蹴って痣も出来てない…!!不意打ちぐらいいかないとダメージにならないんじゃ…。

「手ぇ貸すぜ!!リーダー!!」

「魔法は使えないらしいけど、魔法ナシでも僕たちは戦えるからね!!」

マレゴン!?ユーヴァンス!?

「まだ回復しきれてないんじゃ…!?」

「仲間だからね。リーダー。国の転換点ぐらい一緒に見届けようじゃないか。」

コルンまで…!!

「ありがとう。頼りにしてる!!」

冒険者たちがこんなに早く復帰するとは…。やっぱりリコ・チャイルズは魔王様に必要ね…。ほんの少しの知識でここまで伸びるなんて…。

「みんな人型相手の基本を思い出して!!いつも通りに!!」

「「「了解!!」」」

あー、面倒な…。連携が上手い…。しかもこの兎が…。鬱陶しい…。少しずつではあるけど、じわじわと削られる…。向こうの「私」に命の水を分け過ぎたわね…。ドルント家の当主を相手にするからって多めに与えたけど、もっと「私」が取り込めばよかったわ…。

「やるぞ!!」

ッ…!!煙玉…!?でもこの程度の目くらまし、スキルで…。

「………は?」

なんで……?誰もサキュバスの感覚探知にかからない……?いや違う…!!あたり一帯の空間全てに反応が出てる…!?なんで…!?血霧のせい…!?違う…!!これは…!!

「クソババアァーーー!!!!!」

――私の魔法なら使えるんですよ!!

崩壊魔法(ブレイク)――!!]

「――ッ!!もう少しだったんですけどね…!!」

結界が解けた――!!体は半分崩壊したけど、回復出来る――!!

「身に余る魔法に頼るからよ!!」

気持ち悪い魔法だわ…回復魔法の利きが悪い…。欠損の回復だけで魔力が激減する…。コストの高い魔法は使えないわね…。かなり取り乱した…いえ、あのロリババアが魔王様の脅威になるのは事実…!!こんな魔法まで作ってたなんて…つくづく喰えない女だわ…!!でも向こうの「私」を盾にすればまた弾幕は張れる…!!

「『(わたくし)』!!こちらへ――。」

――ジェイサーが居ない……!?

「じゃあな。オウジョサマ。」

まんまと近付いてしまったイラさんはジェイサーさんの一撃によって命を落とします。

……正直な感想を言うと、「あっさりしてます。」……。

………いや、まだです!!クローンを倒さないと…!!「盾」がなくなっても強いことに変わりはないんですから!!

「――え。」

なんで……浮いて……。

「どうなってるリコ!?クローンにスキルは使えないんじゃねぇのか!?」

「それは『現実的には。』って話だ!!理論上は出来る!!」

でもそれは――。

「信じられない事だが……。『魔王は魂を複製出来る。』そう考えるしかない……。」

…どんどん遠くなって行きますね…。

「もう十分戦ったでしょ?」

イラさんは空に浮かんで話します。

「私はこれから自爆する。範囲は最低でも…まぁ、この都は消えるでしょうね。そのくらいよ。」

本物が死んで【魅了(チャーム)】が解けたと思ったら…。自爆ですか…。

「…エネルギーが極小に圧縮されてます。」

「俺にもそう見える…。ゼーテ、お前は?」

「……いつ破裂してもおかしくなさそうやね…。」

嘘でも良かったんですけど…。

「紛れもない真実よ?クローンだし。元々そう言う計画だったの。命の水がどれくらいのエネルギーを保有しているのか~ってね。」

「全員出来るだけ離れろ!!遠くへ行くんだ!!」

都の獣人族たちが一斉に走り出し、大混乱になります。

「ほらほら、あとちょっとで爆発するわよ?じゅーう…。きゅーう…。」

「さっきの結界で防ぐのは!?」

「ダメです!付与効果がメインなんで物理的な強度は低いんです!」

「逃げなくて良いのぉ?ばくはつしちゃうよ?なーな…。ろーく…。」

お婆ちゃんと違ってワープで逃げるのは無理です…!!私一人なら…いや、でも。

「私の血を吸って!!」

「ラビリアさ…出来ません!!」

「血があれば回復出来るんでしょ!?全員死ぬよりマシでしょ!?」

「ちょっと落ち着いて下さい…!!流石に全身消し飛ばされたら無理ですよ…!!」

流石に――。

「普通の魔法じゃないよね。使ってるの。どうにか出来る方法があるんじゃないの?自分一人なら…!!」

「――それは…。」

「良いのぉ?早くしないとぉ…。手遅れになっちゃうよぉ…?ほら、さーん…。にーい…。」

――もう、やるしか……。

「早く!!」

「やっぱり出来ません!!」

出来ません…。

「ラビリアさんが死んで変われると思ったように、私も死んで変われると思ったんです…!!結果は芳しくありませんが…まだチャンスはある筈なんです…!!」

変わりたいんですよ…!!私だって…!!

「ざーんねん。時間切れー…。…じゃあね。ビセルの獣人た――。」

イラが言い切る直前、その周りを「盾」が覆った。

「あれは…陛下の…?」

民を護る。国を護る。それが王の務めであると。

「…へぇ。やるじゃん。ちょろいパパだと思ってたけど、意外と頑固オヤジなんだ。」

予定通りとは行かなかったけど…まぁ、概ね成功よね。

「分からせられちゃった。」

命の水のエネルギーを極限まで突き詰めた大爆発は、結果として一切の破壊を生まなかった。結果としてただ一つ、この国の堅牢さを知らしめるに止まった。

「終わった…のか。一応は。」

「そうやね。ここからが大変やけど、あんたに事後処理能力で期待はしとらんから安心して。」

「あれだけスキルを使ってよく喋れるのだ…。カサカサ動きそうだぞ。」

「なんでだよ。」

…あの人に会えたんが関係あるんか分からんけど、報酬はたっぷり――。

「皆の者!!良くぞ悪を撃ち滅ぼした!!」

――騎士隊長…?【魅了(チャーム)】が解けたからか…?でも、とっくに廃人になっとる筈やろ…?

「私の【魅了(チャーム)】は既に解けている!!邪悪の第二王女イラへの反撃の時を狙うべく、第一王女シエン様より潜入の任を仰せつかっていた!!しかし!!そのシエン様はこの吸血鬼によって命を落とした!!断じて許す事は出来ない!!皆の者!!私と共に最後の敵を討とうではないか!!」

――なんやと…?

「何言ってんだあの野郎…。クソッ…。手ぇ貸してぇのに動けねぇ…お前らのとこのメイドは…!?」

「どっちも【魅了(チャーム)】された者達の相手で限界なのだ…。」

魅了(チャーム)】…?それや!この眼なら魅了されとるかどうかの違いくらい分かる!

「…まだかかっとるみたいやで!【魅了(チャーム)】!」

考えるんや。第二王女イラは死に、【魅了(チャーム)】は解けたはずやろ…?しかし実際には解かれていないものが居る…。別の淫魔族がかけた可能性もあるけど…。…クローンもスキルを使えると言うんやったら、もしかして…さっきまで戦っていた二人のイラは…。

「両方ともクローンやったんか…?」

「…!本物のイラは、既にこの国には居なかったってことか…?じゃああの野郎に【魅了(チャーム)】をかけたのが本物の…。」

でも…なんでネムアムさんを…?

「…おい。あいつ元気そうだぞ。どうせ隠れていたのだ。最初からこの役回りだったのではないか?」

ネムアムさんを追い詰める役割…。吸血鬼族と淫魔族の仲が悪いのは知っとるけど…それだけやない…よな…?どう言う事なんや…。

「何やってるんですかラビリアさん…!!自分から腕を切るなんて…!!」

「結果的には陛下のおかげで助かったけど…。本当なら危なかったんだから…。当然だよ…。」

「好きな人が傷付くのは嫌なんです!!」

「…ホントにそう思ってるの?」

「…思おうとしてるんです。」

…回復魔法で何とか止血しましたけど、魔力の残りが…。

「見付けたぞ吸血鬼、いやヴァンパイア!!」

………誰ですかマジで。

「皆の者、これを見よ!!」

何ですか…その…宝石?は…。

「これは映像を記録する秘宝!!シエン様より賜った物だ!!これに私が見た悪逆非道の行いを記録してある!!」

シエンさんと私が戦う…あれ?私そんな一方的でしたっけ?あれ?そんなに酷いことしてました?あれぇ?そんなことしましたっけぇ?

「この次の映像は非常に不愉快である…。だが最も酷い行いであるため、どうか目を逸らさずに見て欲しい!!」

………私そんなことシました!?最近ずっと下ネタばっかなんですけど!?

「ディープフェイクじゃないですか!!捏造です!!」

「でぃーぷふぇいく?なんだそれは…このプレイの名かァ!!」

「全部違いますよ!!」

あー、頼れる人が全員ダウンしてるからですか…。逃げます!!

「ホーリーライトスピア!!」

そんな大振りの魔法当たりませんよ…。…て言うかこの人かなり弱いですね。見た感じ【魅了(チャーム)】にかかってるようですし…なるほどそう言う事ですか。多少なりともかけた対象を弱体化させてしまうのは、淫魔族の【魅了(チャーム)】の欠点と言えますね。

「クソッ!逃がすな!!追え!!シエン様の仇を取るのだ!!」

…聖属性の防護魔法も使えるようですね…。あと一回くらいなら使えるんですけど、【血霧変身(ブラッドチェンジ)】と【魅惑の完全支配者(マスターチャーム)】の黄金コンボは通じませんか…私の技名長すぎません?

「ネマちゃん!!こっち!!」

ローレさん!?――あ、行きます!!

「ここまで歩いて来たんですか…?」

「うん…!逃げろって言われて…逃げてた…。そしたら今度は…ネマちゃんを討ち取れって…。」

…良く歩けましたね…。まだ人間の足になってから浅いのに…。

「――!!ヴァンパイア!?おーい!!こっちに居たぞー!!」

ヤバッ、バレました――!!こっちへ――。

「居たぞ!!囲め!!」

…四面楚歌ってやつですね…。

「…ネマちゃん。私の血を吸って。今は夜。血があれば逃げられるでしょ?」

…本当に最近似た事ばかり起りますね。

「追い詰めたぞ…!!我が主の仇…ここで討つ!!」

二つの意味でってことですか?…詠唱も最低限でしたし、【魅了(チャーム)】がなければ強者だったんでしょうね。結局、近くに居てかけ直したり効果を定期的に強めたりしないと、淫魔族の魅了攻撃なんてそんなもんですか。

「…陸に上げましたし、最低限歩けるまで傍に居ました。契約は完了と言うことで良いですよね。ローレさん。」

「え――。…うん。」

「じゃあこの契約書は契約満了で処分します。」

…これでこの国でやり残したことはありません。想いも伝えましたし。

「さようなら。」

痛っ…。そう…それで…。私の血を吸って…逃げ…て……。

「え?」

なんで?何でそんなに苦しそうにしてるの?

「はは…はははは……バカめ!!その女は人魚族だろう!?吸血鬼が人魚の血を飲めば死ぬんだよ!!」

ネマちゃんの体が…溶け……。

「いや…。いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ネムアムの肉体は血へと溶け、消えてしまった。

「…ベニー。ローレさんを。」

「かしこまりました。」

獣人族による商人の国「ビセル」で起きた一連の騒動はたちまち大注目を浴びる。多くの犠牲の上に成功させたこの革命を喜ぶ者も居ればそうでない者も居た。だが十年後、その評価は一極する。「ビセルは正しかった。」と。

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