昼夜逆転は悪い事ばかりじゃない。
「これが最後のアイテムか…。」
魔物の数が多過ぎる。
攻撃系は皆んなに配って、今使ったのが最後。
最初の出現時や、避難の隙に襲われた人も多いし、回復系は全部使って残ってない。
普通の装備はあるけど、私が使う様にいつも持ち歩いてる一人分だけ。幾らかはマシだけど…運が良かったら100体倒せるかな…。
いや、ダメダメ!そんな事考えちゃダメ!まだお姉ちゃんが居る。この装備はジルミお姉ちゃんに渡して、私はお役御免かな。
そう言えばネムアちゃんは何やってるかな。昔から私より頭良かったし、少しでも危険なら直ぐ逃げられる筈。だから無事な筈。勇者様も居るし。
…やっぱり探しに行こうかな。
過保護とかじゃ無いよ?妹を心配するのは姉の役目だし?思ってたより話長いからちょっと気になるだけだし?
…やっぱり探しに行こう。
ここの魔物は対処出来そうだし、そうなれば街中の魔物はもう居ない。後はお姉ちゃん達が戦ってる外に出現した魔物だけだから、私が今離れる分には問題無い…筈…。
…良いよね?
いや良い!よし行こう!
「お姉ちゃん!」
「ネムアちゃん!!」
良かった…お姉ちゃんを探しに来てくれるなんて優しい!やっぱり可愛いよネムアちゃんはぁ…じゅるり…。
そうだ!ネムアちゃんに聞きたい事があったんだった。
「ネムアちゃん。上で戦ってるのって、もしかして勇者様?」
「そうだよ。向こうは大丈夫だと思うから…ジルミお姉ちゃんは?」
「王都の端っこで戦ってるから…無事かは分からないけど、多分無事。私達のお姉ちゃんは強いからね。」
でも気になる…。お姉ちゃんは確かに強い。ゴールドランクの中でも特に強いし何より若い。なりより可愛くて優しくて美人で可愛い。
でも剣士だし魔法も使わないから確実に消耗してる。
ネムアちゃんは怪我無いし…うん。
「お姉ちゃんがジルミお姉ちゃんを見て来るから、ネムアちゃんは危なくなったら避難してね?」
「分かった。ティアお姉ちゃんも気を付けてね。」
可愛過ぎるだろ私の妹。くそっ!お姉ちゃんを喜ばせる術を知りやがって!
ふぅ…妹式回復完了だぜ。
お姉ちゃんのところに行こう。
無事で居てよお姉ちゃん…!
「ジルミ!!戻れ!!回復しろ!!…死ぬぞオイ!!聞いてんのか!?」
あの人は学校の…確かお姉ちゃんの担任だった。
「先生!」
「ん?」
「ロードレイグです。今の状況は?」
「ティアルーンか…。ジルミならそこだ。見えるか?」
「私も鍛えてますから大丈夫です。」
そこ…お姉ちゃんボロボロ…!
剣も鎧も欠けてるし、息切れしてる…。あんなお姉ちゃん初めて見たかも…。
「無限に出て来るからな…。ずっとああして狩り続けてんだ。負傷者も多い。私ももう戦えん。」
それで鎧を…。
「避難所から貰って来ます!」
「待て!」
先生…!
「避難所が限界なことくらい分かってる。【錬金術師】のお前が回復アイテムを持ってないんだからな。避難民に渡したんだろ?」
「…その通りです。」
「お前の気持ちは分かる。姉を助けたいんだ。この国よりも、王都の人々よりも。だがな、【先生】として言わせて貰えば『冒険者は自己責任』だ。頑張り過ぎて死んでもな。…そもそも、ジルミは妹のお前らを守ろうとして戦ってるんだ。自分の命に換えても…。」
お姉ちゃん…。
でも、それでもやっぱり死んで欲しくない。お姉ちゃんが私達を想う気持ちも、私がお姉ちゃんを想う気持ちも変わらないもん。お姉ちゃんが死ぬのを選ぶなら、私は…お姉ちゃん…以外…を…。いや違う。考えてない。
はぁ…ふぅ…。うん、大丈夫。お姉ちゃんが居なかったら、私は変になってた。
ロードレイグ家は代々、一人娘の長女しか産まれて来なかった。それは人間に紛れて生きる吸血鬼を出来るだけ増やさない為、自主的に1人しか子度は産まず、それに感銘を受けた神様が「その1人を女の子に限定する呪い」を掛けて下さった。しかし何代目かの母親が2人目の子供を産み、呪いは中途半端に掛かってしまった。その結果、次女は吸血鬼族の感覚を持つ人族として生きなければならなかった。
そんな私をお姉ちゃんは助けてくれた。「お姉ちゃんが可愛がるから大丈夫だよ!!」とか意味不明な理論で助けてくれた。お母さんを恨んだりはしないけど、お姉ちゃんやネムアちゃん達が居なかったらそうなってたかもしれない。私の感覚はお姉ちゃんやお母さんとは違うしね。ネムアちゃんはネムアちゃんで、またちょっと違う気がするけど、私の可愛い妹だし。
…うん。お姉ちゃんを助けよう!お姉ちゃんは「居てくれるだけで最高だよ〜。」って言うだろうけど、姉孝行した事無かったし。…私は幸せだし。
「…なぁ【錬金術師】。【先生】じゃなく、【冒険者の先輩】として言うが、『冒険者は自由』なんだぜ?気にすんな。私は個人的にお前らを気に入ってるんだ。性格が良くて優秀な、ゴールドランクになれる素質を持った冒険者なんて、数える程しか居ねぇんだぞ?こんなとこで死んで貰っちゃ困るんだよ。」
「先生…。お姉ちゃんを助けて来ま「ティア!!」
…何?何が起きたの?
「ティアちゃん、怪我は無い?」
怪我?無いよ?何で?
「良かったぁ…。お姉ちゃんも間一髪無傷だよ。」
待って…考えて。
今私の頬を掠めたのは魔法?黒の。直線的な。
いや違う。違くは無いけど。違う。これは…。
「ダークドラゴン…!」
先生は無事?…それよりも自分のことを考えないと。
ドラゴンは魔物の中でも格が違う。弱いドラゴンならゴールドランク1人で倒せる。ゴールドランク以上が何人も居れば強いドラゴンでも戦いにはなる。それに、今王都にはプラチナムランクが3人居る。ダークドラゴンがドラゴンの中で上位の種である事を加味しても、流石に勇者様達には敵わない筈。ただし…。
「何体居るんだろうね…。お姉ちゃん数えたくなくなって来たよ…。」
目の前に1体。周りに5体。…街中にも出現してる。
プラチナムランクのグラン様、メルルダ様が居る結界内は大丈夫として、勇者様は魔王軍四天王と交戦中だからドラゴンの相手は出来ない。この場所でダークドラゴンの相手が出来るのはお姉ちゃんだけ。…一対一なら。
そう一対一。他の魔物だって無視出来る弱さじゃない。ダークドラゴンが最後みたいで、もう魔物は出て来ないみたいだけど、それでも100や200の数じゃない。私の装備はお姉ちゃんに渡すとして…多分私は逃げ切れない。
お姉ちゃんなら逃げ切れる筈。今の傷を治して体力を回復させれば逃げ切れる。
…ネムアちゃんはもう避難してるかな。フィヴィちゃんやレファちゃんはまだ寝てるよね。お母さんもお父さんも寝てる。この事なんて知らないんだ。知らない内に…。
「ティアちゃん安心して!ドラゴンはお姉ちゃんが囮になって惹き付けるから、ティアちゃんは真っ直ぐ逃げてね。ティアちゃんの装備なら、ドラゴン以外の魔物は気にしなくても良いから、とにかく真っ直ぐ!素早く!振り向かず!結界の中まで走って。」
「…お姉ちゃんは?」
お姉ちゃんは優しい。凄く優しい。
「お姉ちゃんは頑張って逃げるよ。お姉ちゃん強いから大丈夫!ゴールドランクだよ?天才だよ?」
お姉ちゃんは私が生きられる可能性を追ってる。私はどう頑張っても逃れられないのに。私はどう頑張っても死ぬのに。
「お姉ちゃんが私の装備を着て。そうしたらお姉ちゃんは逃げられるでしょ?私には、この装備は意味が無いから。」
そう。意味は無い。お姉ちゃんがしようとしている事は何も意味が無い。私を逃してもドラゴンは追って来る。ドラゴンは頭が良いから、ボロボロのお姉ちゃんなんて気にしない。仲間に任せて別の獲物を追う。私を追って来る。
「お姉ちゃんはもう限界だから!!もう!!戦えないから…。ティアちゃんを…守れないから…。」
泣かないでよお姉ちゃん。最後に見るのがそんな顔は嫌だよ。いつもの笑顔が見たい。私の好きなお姉ちゃんが見たい。
だから…。
「私の血を吸って?お姉ちゃん。そうしたら回復出来るし、夜の内は魔物の血で同じ様に回復出来る。こんなところで死なないでよ…。私は死ぬから。お姉ちゃんは死なないで?」
「だったらお姉ちゃんの血を!!」
「それじゃダメだ。って、分かってるでしょ?お姉ちゃんはゴールドランクなんだから、頭も良いんだからさ。」
「ティアちゃん…!!」
泣かないでって言えないな。笑顔が好きだって言えないな。私は結局何も言えてない。でも最後だもんね。最後くらい、本音を言っても良いか…。
「お姉ちゃんを好きになったから。お姉ちゃんに夢中になれたから。私の『心の中の吸血鬼』は出て来なくなった。だから、お姉ちゃんには生きて欲しい。私は、生まれた時に吸血鬼として殺される筈だったんだよ。でもお姉ちゃんが人として生かしてくれた。お姉ちゃんが死んだ時は私が死んだ時だから、私だけ生きる事は出来ないんだよ。ごめん。」
「謝るのはお姉ちゃんの方だよ…!!守れなくてごめん!!助けられなくてごめん!!」
だから助けられたって言ってるのに…。お姉ちゃんはほんとに、妹の事となると馬鹿になっちゃうなぁ。…でも、きっと、だからこそ、こんなに優しいんだろうね。
大好きだよ。お姉ちゃん。
「…だから血を吸って?ネムアちゃん達のこと、よろしくね。最愛のジルミお姉ちゃん。」
「…分かったよ。皆んな助ける。」
やっと吸ってくれた。
痛いな。やっぱり痛い。
…力抜けてく…ちょっと気持ち良いかも?
「…ティアちゃんの血、無駄にしないから。お姉ちゃん言ったよね?」
「…?何を…?」
頭が上手く回らない…。
「『皆んな助ける。』ってさ!!」
「お姉ちゃん…!?」
待って!お姉ちゃん!それは良くない。
確かに血があれば吸血鬼は無敵と言っても良い。実際、ここには魔物が沢山居るし、お姉ちゃんなら血を得られる。
でもそれはダメ。
ロードレイグ家の人間が吸血鬼だってバレたら殺される。妹達もお母さんも、「吸血鬼族に魂を売った。」って、人族のお父さんまで殺されるかもしれない。
そうなったらダメだよ。そうなったらダメ。皆んなが生きてくれないと、私は全然幸せじゃない。
「ティアちゃん!!お姉ちゃん頑張るから。皆んな助けるから。例え世界を敵に回しても、お姉ちゃんは世界に勝って、ティアちゃん達とイチャイチャハーレムするんだから!!ドラゴンより勇者様の方が全然強いからね!?」
お姉ちゃん…!!
「ダークドラゴンなら勝てる!!勇者様は厳しいけど、優しいから何とかなる!!お姉ちゃん血液無しでゴールドランクの天才だからね!!吸血鬼になったら最強になっちゃうよ!!」
「だからそんな顔しないで!!お姉ちゃん妹の笑顔が大好きなんだから!!」
私…いつから泣いてた?もしかして最初から?
…そんなんじゃ、お別れ出来ないよね。
「助けてお姉ちゃん!!」
「OK!!お姉ちゃんに任せなさい!!」
ロードレイグ家の加護はルートスキルになってて、当然お姉ちゃんも持ってる。問題は吸血鬼族のレーシャルスキル。血を吸えば解放される筈だけど、何から解放されるの…?
「ドラゴン1体目!!」
【血気再生】相手の種族問わず、血を得れば身体が再生する。腕や脳味噌、内臓なども再生出来るが、心臓を「破壊されずに封印された場合」又は「特攻力を持つ攻撃によって完全に破壊された場合」は再生出来ず滅びる。
「2、体、目!!」
【蝙蝠変身】コウモリに変身出来る。又、失われた悪魔族の翼だけを出して飛行能力を得る事も出来る。尚、この翼による飛行は魔法では無く、力学に基づいたものでも無い「スキルによる飛行」である。
「3!!」
【血霧変身】自身の身体を血に変え、その血を自由に動かす事が出来る。霧状にしても意識は残り、短距離であれば瞬間的に移動する事も出来る。又、自身が変身している血が、自身以外の別の血に触れた際、その血を「吸う」事が出来る。
「4!!」
既にドラゴン以外の魔物は吸い尽くして血のストックはない。残り一体は無理矢理倒せない。単純な一対一になる。
回復はしてる。でも今までの疲労は回復出来ない。私ももう限界、この一体を倒せば逃げられる。
ただし、朝にならなければ。
朝になったら、加護を失った吸血鬼である私は死んでしまう。吸血鬼の力はそう言う制約の下で成り立つものだから…。そう、勝ったとしても、朝になって陽に当たれば…私は…。
…後どれくらい持つ?1時間?…全然もっと少ないよね。分かってる。後20分てとこかな。
「充分!!」
霧になれば攻撃は避けられる。ならなくても翼で避けられる。
…やっぱ吸血鬼族って強いな。力に溺れるだけはあるよね。でも、私は妹に溺れてるからもう溺れられないんだ!妹大好きで良かった!
「翼貰った!!」
怯んでる…!今しかない…。
「ティアちゃんの愛が籠ってる剣だからね。ドラゴンでも何でも、お姉ちゃん斬れちゃうよ!」
ネムアちゃんの伸びるナイフって、そう言うスキルを真似たんだよね。ネムアちゃんに聞いたんだ〜。それで、「そのスキルはシーのギルドマスターが使ってた奴だと思う」って、水でリーチを伸ばすスキルなんだって。
だったら血液も似たようなものでしょ!!
やった事は無いけど出来る筈!と言うか吸血鬼のスキルなんて使った事無いし!多分こんな感じだよね!!
「その首貰った!!ブラッドブレイド!!」
…「ドラゴンの首斬ったよ!」って、可愛い妹に褒めてもらお!!
「って、ヤバ…!!」
太陽が昇ってる…!早く日陰に行かないと…!
「アツ…!?」
ヤバい…。肌が焼ける…。全身が熱い…。自分自身が燃えてるみたい…。
動けない…。
嘘、ここまでやったのに…?ドラゴンだって倒したんだよ?強さだけならプラチナムランクだって夢じゃないんだよ?
嘘でしょ…。ごめん。
ティアちゃん。お姉ちゃん生きて帰れないかも。
「居たぞ!!こっちだ!!早く!!」
冒険者…?
そっか、ヴァンパイアは魔物だったね。
どうしよっかな。…殺せるかな。…無理かな。もうほんとに動かないや。
どうしたら良いかな。悔しいな。
…生きてたかったな。
「さっさとしろ!!は?…担架なんか、後で良いんだよバカ!!」
あれぇ…?何か楽かも。
死にかけてるから?それとも…遂に死んじゃった?限界来ちゃったかな?
…違う。違うよこれ。
これ…だって…!
「魔王軍対抗のMVPだぞ!!それが『日焼けで死にました』なんて、末代までの恥だわ!!」
はぁ…。
世界が敵って、そんな事無いのかもね。ちょっと大袈裟だったな。
「ジルミさん大丈夫っす!!日陰作ったんで!!燃えた分はオレらの血吸って回復して下さい!!」
「何でアンタのドロッドロの血を飲まなきゃいけないのよ。私の血吸って下さい!!ジルミさん!!サラサラです!!」
ゴールドランクってずっと言ってたけど、初めて実感出来たかも。
なんだかんだで、私も王都の冒険者だったんだな…。
「ま、そう言う事だ。遅くなって悪かったなジルミ。それと…。」
「お姉ちゃん!!」
先生、にティアちゃん…!!
危ないよ?ここは。声出ないんだった…。一気に力が抜けちゃうよぉ…。まだまだしっかりしないと!
「色々聞きたい事はあるがな。そんな事より今は休め。お前が王都で過ごした時間は確かにあった。皆んな分かってくれるさ。」
そっか…。
「魔物は全部倒したよ。冒険者も騎士も皆んな頑張った。でも何よりお姉ちゃんが頑張った!やっぱりお姉ちゃんは強い。私の大好きなお姉ちゃん、お休みなさい。」
起きたら夜かな?昼夜逆転なんてちょっと楽しみだけど…今は落ち着いて寝ないとね。
お休み…皆んな…。




