テレビに出ているアイドルが年上のお姉さんから年下の妹になった時、子供は、自分が大人になったことを知る。
吸血鬼狩りとは物騒じゃないですか。
どれどれ…。
「今月に入り、更に五件の傷害事件を確認した。どれも吸血鬼族によるものと断定し、鬼族の誇りにかけてこれを討伐する。」
クロの里長自ら討伐隊を指揮している様ですね。
私も気を付けなければ。
「あらあら〜。物騒な事になっているわね〜。」
その声は!
「あの時のきゅ
「『お姉さん』よね〜?」
「お姉さん。」
て言うか何であなたがここに居るんですか。今昼ですよ。
いやそんな事より!これあなたがやったんですか!?
「私はネムアムさんを追って来ただけよ?あの鬼族とも別れたようだし、チャンスだと思って。」
何のチャンスですか…。
「勿論!!ネムアムさんとお近付きになるチャンスに…決まってるじゃない!!」
溜めて言っても響きませんよ。
「でも今日は偶然なのよ。この吸血鬼を狩りに来ただけなの。そしたらネムアムさんが居るんだもの、運命!!これは運命だわ!!」
違います。
あなたじゃないなら…誰なんです?
「さあ?それは分からないの。ごめんなさいね…。ただ!!『あ・な・た♡』と言う呼び方も良いけど、『ザルメア♡』と乱暴に呼び捨てして欲しいわ!!」
どこが乱暴ですか。まあ良いですよ。ザルメアさんですね。
それでこの吸血鬼は何なんです?
「犠牲の数からして1人なのは間違いないわ。恐らく私と同じ純粋な吸血鬼が好き勝手暴れているのね。でも大丈夫。安心して?このザルメアが居る限り、ネムアムさんには指一本触れさせないわ!」
それはありがとうございます。
「私は命令を受けて来ただけだから、手柄はネムアムさんが受け取ると良いわ。さあ行きましょう!今こそ!悪しき吸血鬼から人々を守る時よ!!」
私も行くんですか。
「居たわ!随分分かりやすいところに居るわね。」
まだ昼間なのに元気ですね。
強い吸血鬼は日光に対する対抗策を持っているそうですが、私も持っておいた方が良いんでしょうか。
役に立つ時はかなりピンチの時になりますが。
「あら?向こうから来るのは討伐隊だわ。里長も居るし…少し面倒ね。」
討伐隊は勝てると思いますか?
「…無理ね。日が昇るうちに行動できる吸血鬼なら簡単に逃げられるの。」
討伐隊から逃げたところを追いますか。
「そう言うことになるわね。あっ逃げたわ。」
追いましょう。
「ここまで来れば追ってこれないでしょ。チョッロ。」
「あらあら〜。凄く生意気なガキだわ。シめるのは辞めにしようかしら〜。」
落ち着いてくださいよ。
「は!?オバサンどっか来たの!?キモ!」
落ち着いてくださいよ〜?
「落ち着いてるわ。落ち着いていても怒ることは出来るのよ〜?」
落ち着いてください!
「あなた…純粋な吸血鬼だと思っていたけど、混血のようね。」
そうなんですか?
翼と…尻尾。尻尾?
よく見たら、短いですけど角もありますね。何なら牙も短いような。
「淫魔族かしら。吸血鬼族だと思って来たのに、混血だったら話が変わってくるのよね…。」
「オバ…お姉さんたち、何なの?鬼族じゃないよね?」
ある意味鬼族ですよ。
まあ「吸血」鬼族ですが。
「私は吸血鬼族よ。あなたは何故こんな所にいるの?他種族との性交渉が当たり前の淫魔族のクセに、国を追い出されでもしたのかしら?」
落ち着いてくださいよ…。
「ちーがーいーまーすー。自分から出てったんですぅー。」
淫魔族は見た目の年齢に精神年齢が引っ張られるとは知っていますが…何ですかこれ?メスガキ属性ですか?
「マジ!?吸血鬼族だったら相談したいんだけど!…良い?」
良いですよ。美少女なので。
「アタシはヴァンパイアとのハーフなんだけど、サキュバスって言うのは普通、どの種族の子でも淫魔族になるワケ。吸血鬼族の子でも日光が弱点じゃなかったりね。ただアタシのパパがめちゃ強いヴァンパイアだったらしくてさぁ…。吸血鬼族の本能が抑えらんなくて…。成長と一緒にどんどん我慢出来なくなって、アタシの友だちを見る目が変わってくんだ…。」
淫魔族は皆んな若くて綺麗で健康な種族ですから、吸血鬼目線だと堪らないでしょうね。普通は淫魔族に魅了されて返り討ちに遭うそうですが。
「アタシの場合同じ淫魔族だから、【魅了】に耐性があんの。魅了できないサキュバスなんてザコだからね。遂に友だち襲っちゃてさ…。それで出て来たってワケ。友だちの血なんて飲みたくないハズなのに…。」
まあ…吸血鬼は共食いする種族ですから。仕方ないんじゃないですか?
「まあそうなんだろうけどさ。その友だちも気にしてないって言ってくれたし。でも、やっぱりイヤなんだよ。日に日に大好きな友だちが血の塊に見えて、すっごい良い匂いがして、淫魔族の薄い衣装で首がハッキリ見える。綺麗な首筋に、その子の瑠璃色の髪が重なって、頭の中が魅了されたみたいに真っ白になって、我慢出来なくて。噛み付いて。牙を立てたとこから溢れ出てくる血を飲み込む度、真っ白な頭の中に色が付いて、その感覚が忘れられなくて。」
「正気に戻って謝った。怒って欲しかった。『絶交だ』って言って欲しかった…なのにアイツ、『辛いから仕方ない』って!それが耐えられなかった…。その言葉に甘えようとした自分が許せなかった…。」
だから国を…。
「それでどうしたら我慢出来るか、お姉さんに聞きたいのね?」
「…その通りです。ホントにお願いします!!教えてください!!どうやったら友だちを襲わなくてすみますか!?」
お姉さん教えてあげてくださいよ。
と言うか私が気になります。
「…方法はいくつかあるわ。どれも根本的な解決にはならないけどね。」
「聞かせてください!!」
私も!
「一つ目は『誰かの下僕になる』こと。私はそれよ。サキュバスが誰かの奴隷になるなんて、淫魔の本能的に難しいでしょうけどね。」
ご主人様の許可なく吸血出来なくなる。と言うことですね。吸血鬼の友好関係はこれが基本らしいですから。
「二つ目は『襲い続ける』こと。大切なひと以外を、永遠にね。」
おぉ…。
へー…。
なんか…。なん。何でしょうか。
辞めときましょうか。感想が思い付かないです。
「三つ目は『吸血鬼の力を封印する』こと。神ほどの力を持っていれば可能よ。」
私の一族がそれですね。なんかもっと秘伝的なことだと思っていたので、ここで聞くなんて意外です。勿論、現実的な策では無いんでしょうが。
「最後四つ目は『淫魔族の力で抑え込む』こと。これが一番現実的かしら。単純な話よ。吸血鬼の本能に淫魔の本能が勝てば良いの。どう?」
どうですか?
「抑え込む…。分かった!やってみる!」
「ありがとお姉さん!大好き!!」
これも【魅了】ですか…。
全然良いですね。イケます。
「力になれたみたいで良かったわ。ただ今すぐ国へ戻ること。良い?」
「はい!またね!えっと…。」
「ザルメアよ。」
「ザルメアさん!アタシはジェーサ!絶対また会おうね!!バイバイ!!ちゅー!!」
淫魔族は楽観的だそうですが…やっぱり本だけじゃ分からないこともありますよね。
「ネムアムさん。私はこの事を報告しに帰るわ。」
そうですか。討伐隊の方には、私から良い感じにぼやかして伝えておきますよ。
「ネムアムさんが良ければ私と一緒に…!!」
行きません。
「そう…。まぁ、また会いに来るわ。…そうそう、おなたに付けた印、解いておくわね。私のご主人様に怒られちゃって。」
部下が歳を考えずに、人族のロリにぞっこんだったら嫌ですもんね。
私は正直あんまり会いたくないんですが。連鎖的にバレるかもしれませんし。
「旅の方!この辺りにヴァンパイアが来ませんでしたか!?」
それなら向こうに飛んで行きましたよ。
「海の方角か…逃げた様だな。」
「その様ですね…。我々は念の為、付近を捜索してから帰ります。里長様は、この事を民へお伝え下さい。」
頑張ってくださ〜い。
…よし行きましたね。
私は…仕方ないので次の里を目指しましょう。3人目の吸血鬼は逃げてないですからね。
…。
クロの里全く楽しめなかったですね…。
黒鬼の美人とか絶対クールポンコツ系なのに…。はぁ…。
「み…水……。」
ミミズ?釣りでもしてるんですか?
アカの里で頂いた地図によると、この近辺に釣りが出来る水場はない様ですが…。
「違…水…液体の水が欲しいのでござる……。あと握り飯も…。」
図々しい行き倒れですね。
良いですよ。どうぞ飲んで食べてください。
「地獄に仏とはこの事でござる…!」
そしてさようなら。
「ちょ、待って…!せめて礼を…!」
何ですか?お礼する気は零って言ったんですか?恩知らずな侍ですね。
「言ってな、てか聴こえてるでござるよなぁ!?図々しかったのは謝るでござる!だから行かないで!?」
分かりましたようるさいですね。
取り敢えず飲んで食べてください。話はそれからです。
…それで何ですか?侍さんは何で倒れてたんですか?
「良くぞ聞いてくれたでござる!」
聞いて欲しそうでしたからね。
「拙者!【侍】のサヨ・トウカクと申す者!吸血鬼が暴れていると言う情報を聞き、馳せ参じた次第にござる!しかし道中、拙者が暫しの休息を取っていた隙を突かれ、狡賢き魔物に荷物を盗まれてしまい…。肌身離さず持っていたこの『さいつよむてき丸』だけは何とか死守したのでござるが、お弁当が無く栄養補給を断たれ、道半ばにして無念に死に行く所だったのでござる。」
それを私が助けたと。
運が良いのか悪いのか分からない人ですね。あまりにも阿呆と言うことだけは何とか分かりましたが。
「して、吸血鬼は何処に?」
それはもう解決しましたが。
「何と!拙者が参る迄も無かったでござるか…!平和なのは良い事でござる。」
うんうん。じゃないですよ。
あなたついさっき窃盗に遭ってるじゃないですか。
「む!確かにそうでござった!あれには拙者の冒険者カードが!今直ぐ取り戻しに行かなくては!」
行ってらっしゃいませ。
「しかし!恩人殿への奉公を捨て置くなど!どうすれば良いでござるかぁーーー!!!」
もうこの際恩返しは良いですよ。
何ならお金をあげるので関わらないでください。
「恩人殿からその様な物は頂けませぬ!寧ろ拙者が献上する方!くっ…!さらば『さいつよむてき丸』!恩人殿にしっかり奉仕するでござるぞぉ…!」
いや良いですよ!私刀なんて使えないですし!
あとネムアムです!!恩人殿って呼び方やめてください!!
「そうでござるか…。ではネムアム殿。拙者に何か出来る事はござらんか?何でもするでござるよ。」
あの…恩人相手でもそう言うことは言わない方が良いですよ?見たところまだ若いじゃないですか。何歳なんです?
「十五でござる。」
やっぱ恩返しは良いです。さようなら。
「待つでござる!拙者こう見えて冒険者であります故、腕っぷしには自信が有るでござる!」
「アイアンランクでござるが…。」
ぼそっと聴こえましたよ。
私と同じランクじゃないですか。それに十五て。成人して冒険者になった新人ですよね?
「まあそう言う見方も有るでござるな。」
そう言う見方しか無いんですよ。
サヨさんでしたっけ?「桃色の角は優しき角じゃ。」って聞いてるんですよコッチは。鬼族の中でも圧倒的に戦闘が苦手なクセして、やる気だけはあるから戦場に行きたがり、「ボロボロに泣いて帰ってくるのが趣味」って言われてるの知ってるんですからね。
「拙者は…違うでござるよ?」
私の目を見て話してください。
「すみません…。」
別に謝らなくて良いですよ。
私だって、実力不足のままおんぶに抱っこで旅に出ましたから。
でも桃角は修行を嫌うとも聞いています。
「それに関しては違うでござる!少なくとも拙者は修行しているでござる!単に身を結んでいないだけでござる!!」
一番タチ悪いじゃないですか…。
まあ良いですよ恩返し。
好きにやってください。
「有難き幸せにござる!誠心誠意奉公させて頂くでござる!」
てれー、サヨが仲間になった。
「危ないでござる!イヤー!!」
ただの虫ですよ。
「拙者が守るでござる!ギャー!!」
大人しい魔物ですから襲って来ませんよ。
「山賊でござる!隠れるでござる!」
薬売りです。
「ネムアム殿!」
…何ですか?
「助けてくださいでござる!魔物の蜘蛛の巣が絡まって動けないでござる!」
…。
ちょっと熱いですよ。魔法で焼き切ります。
「ネムアム殿!」
…。
何ですか?
「眠れないでござる…怖いでござる…一緒に寝て欲しいでござる…。薬売りめ…!あんな怖い話どうやったら知るのでござるか!何で拙者に話したでござるかぁ!」
ふぅ…。
それはサヨさんが「侍に怖いものなど無いでござる!」と言って強がったからでしょう。薬売りの方も「怖いと思うけど…。そこまで言うなら…じゃあ…。」と言った感じでしたよ。
それと見張りは交代でしますから、一緒には寝ません。
「ネムアム殿!」
「今度は何ですか!!」
「ごめんなさいでござる…。今度は何でも無いでござる…。」
じゃあ何ですか。
「ここなのでござる!拙者が荷物を奪われたのは!」
…そうですか。そうでしたか。そうだったんですね!?
「はい…?そうでござるが…。」
そうですかそうですか。ここで盗まれたんですね。ここで。
良いでしょう。サヨさんに罪はありません。しょうもない事でいちいち驚いて移動に時間がかかるのも、夜中ずっと話しかけて寝させないのも、すれ違った人全員に刀を向けようとするのも全部!!盗人の魔物が悪いのです!!
「必ず見つけ出してとっちめてやりましょう…。私に関わったことを後悔させてやりますよ…楽しみですね?サヨさん?」
「はい…楽しみでござる…。」
サヨはこれ以上無いほど真っ直ぐネムアムの目を見つめたのだった。
そして、これからは頑張って耐えようと思った。




