子供の頃の食わず嫌いを治そうと大人になって初めて食べるけど、あの頃の直感は正しかったと思い知らされる。やっぱマズいんじゃん…。
アカの里へ入る直前。
「む!わしを感知する結界が張られておる!」
何だと思われてるんですかあなたは。
敵だと思われてるんですか?ドラゴン襲来ですか?
「危なかった…。気付くのが遅れていれば見つかるところじゃった…。じゃがこんなもの!わしにかかれば一瞬じゃ!破!」
…結界破ったらバレませんか?
「あぁ、確かに。」
…。
こうして捕まった訳ですが、本当に中身は子供なんですよね。
何なら子供の方が慎重なくらいです。本人に実力があるので、危機管理自体する必要が無いのかもしれません。
旅に危険は付きものですが、半分くらいこの人が原因の様な気もします。
「わしが結界を破ると予測しての罠じゃったとは…やるな…!流石のわしも驚いたぞ!」
向こうも驚いてますよ間抜けさに。
「チトセ様。そしてお仲間のお二人様。先ずは無礼に対し謝罪申し上げます。」
丁寧な方ですね。
この方にも赤い角があるので鬼族なのでしょう。里長の関係者的な立場でしょうか。
私は関係ないので解放して頂けませんか?
「その拘束具には魔法を封じる力があります。しかし残念なことに、幼子の腕力でも簡単に破壊出来る。ただ、チトセ様は呪いによって、その腕力を持つことが出来ない。そうですね?」
簡単に外れますねこれ。チトセ様特化と言うことですか。犯人は現場に戻ると言いますからね。
「チトセ様を連れて来て下さり、ありがとうございます。もてなしの用意をしておりますのでどうぞこちらへ。」
いえいえ、こちらこそ。
「…リエルさん知ってました?」
「バレちゃったか〜。…お酒くれるって言うからさ。つい。黙っててごめんね。」
もしかしたら他にも居たのでしょうか。
今思えば、海鮮が食べたいだけで海自体に興味は無かったんですよね。海、と言うか鬼族の国方面へ真っ直ぐ進んでましたから。運河もお勧めされたからですし。
…なんか急に罪悪感が。
「わしをどうする気じゃ!」
「長にする気です。」
それはそうでしょう。
「わしには鬼族の誇りなど無いぞ!長にしても恥をかくだけじゃぞ!」
どんな言い訳ですか。駄々こねないでください。この場の全員子供じゃないこと知ってるんですからね。
「我々も理解しております。」
そんなに人材不足なんですか!?コレですよ!?
コレですよ!?
「チトセ様もご存知でしょう。このアカの里には長候補が居ないと。皆チトセ様を探しに行かれましたから。」
うぅっ…空気が重い…。
「里を出た長候補全員が帰って来るまでで良いのです。ほんの一時長になるだけで。それに、中には帰らない選択を取る者も居ます。一年とかからないでしょう。」
凄い説得してますね…。
「何かあっても責任は我々が取ります。嘘ではありません。チトセ様と違って、我々には誇りがありますから。」
「ほんの少しだけ、どうかお願い致します。これは皆の総意なのです。」
いつまでも引き摺るよりマシじゃないですか。
「…うぅ〜む……。」
チトセ様!
罪悪感を抱えたまま生きたくないんですよ私は!
「…分かった。その条件なら長になろう。」
嘘じゃないですよね…?
「誠じゃ。今回ばかりは信じて貰おう。わしとて、このまま引き延ばすのは本意でない。」
そんな感情が残っていたんですね!
「たった今から、アカの里長はこのチトセじゃ!良いな!」
「仰せのままに。チトセ様。」
良かったじゃないですか。
責任を取らない里長がどう言うものなのかは知りませんけど。里長就任のお祝いです!
「里長にはシャクカクリョウ家の者がなる決まりじゃ。わしにも兄弟くらい居るのでな。その子供が長候補と言う訳じゃ。」
チトセ様の兄弟ですか。想像出来ませんね。
「里長とは、里の運営決定権を持つ者のことでございます。つまり、里を大きくするために行われる様々な事業、その全ては里長の許可無くして実行出来ません。チトセ様の場合最初の仕事は…旅人でおられますので、観光面で御助言頂きたいですね。」
観光業とは。気になりますね。後で見て回りましょう。
「おい…。わしは飲まんからどうでも良いがな。あの酒好きを放っておくと、里から酒が消えるぞ。」
リエルさん樽ごといってますね。流石に冒険者と言うことでしょうか。やはりそこらの酒好きとは一線を画しています…!
「リエル様…。その…そろそろ休まれては?長旅でお疲れでしょう!」
「お気遣い感謝します!でも大丈夫です!ネマちゃんに酔い覚ましの魔法をかけて貰ったので!」
海賊団員の方々に好評だったので、チトセ様にもう一段階強い魔法を教えてもらったんです。暫く継続して酔わなくなる酔い覚ましの魔法です。酔い止めは蓋をしただけなので、乗り物酔いなどには強いですがお酒には弱いです。その点酔い覚ましは酔い自体を完全に無くしリセットするので、本人の耐性次第で体感の効果時間が変わります。リエルさんのお酒に対する耐性はかなり高いですが、その分ペースも早いので、私の魔力量ではもう掛け直せません。今は弱い酔い止めの方を掛けています。
つまり、
「オロロロロロロロロ…ぉぉ……。うっ。」
「リエル様!?直ぐに!!直ぐに水をお持ちします!!」
魔力も使えば疲れるんですよ。
私も今日はもう寝ます。凄い良い部屋なので楽しみです。あの掛け軸とかいくらするのでしょうか…。楽しみです。
冗談ですよ?
100万デュラでした。
聞いた額ですが。
デュラと言うのはデュロウス神から取ったお金の単位だそうです。真実の神らしいです。
銀貨銅貨でやり取りしているこの間まで居た人族の国は、田舎の信仰心が薄いですからね。王都とかではちゃんと単位が使われてるらしいです。ただ鉄貨は使われてないとも聞いています。これだから都会モンは…。
「ネムアム。今日からぬしに魔法を教える。関係ないぬしを一年も留まらせるほど気が効かんわけではない。初級魔法を教えるから、全て覚えられたら一人旅じゃ。ぬしにはそれぐらいの実力がある。」
師匠っぽいこと言えたんですね。
「ええからやるぞ!」
初級魔法は火の投擲魔法しか使えませんからね。それも海賊時代、捕まっていたチトセ様に牢屋の前でサラっと教えられただけですし。
と言うかチトセ様はどうやって魔法覚えたんです?
呪いって何ですか?メリットしか知らないんですが。
「長くなるから話すの面倒いんじゃが…。」
私、気になります!
「じゃあ…あれは、わしが呪いを受ける前のことじゃ…。」
あの頃のわしは異国の魔法教本にハマっておった。わしは元々、鬼族ならではの感性などに興味が無かったからな。
そこに書かれていた魔法を覚え、実践し、それなりの使い手になった。
じゃが所詮一冊じゃからな。他の魔法を知りたくなったわしは、魔法に関して調べまくったんじゃ。
そうしたある日、偶々入手した魔法の本があってな。そこには全く知らない魔法が載っておった。
見たこともない文字。見たこともない絵。そして未知の魔法。わしは当然、どうにか使うことができんかと奮闘した。
じゃがやはり、全く分からなくてな。呪文なのか、魔法陣なのか、レシピなのか、聖地なのか。絵を見ても何も分からなかった。
ただ一つの絵を除いては…。
その絵には神社が描かれておった。その神社はどこかで見た記憶があってな。夜中に家の書庫を探し回りようやく見つけた。
その社に祀られている神様は魔法の神エリュリプシュレ。しかも社は里の直ぐ近く。
何故魔法のまの字もないこの国にそんなものがあるのかと疑問に思ったが、それ以上に心が踊った。
わしはすぐさま支度をし、社へと向かった。
じゃがそこに神社は無かった。
古いものじゃ。すっかり壊れてしまっていた。
じゃがこれは好気じゃと思った。ここで社を直し、祈りを捧げれば大きな恩を売れるとな。もしかしたら未知の魔法を教えてくれるかもしれん。わしは社の復旧を当面の目標に据えた。
今まで覚えた魔法を使えば復旧の目処が立った。じゃが一人では流石に時間がかかる。専門の知識も無いし、全てを直すには何年かかるか分からん。そこで、取り敢えず小さな社を新しく建てることにした。いつまでも放っておかれるよりは、神様も喜んでくれると考えたのじゃ。
絵の社を参考に小さなものを造り、わしは祈りを捧げた。そしてそれを日課とした。
毎日通い、少しずつ建築を進め、お供えも欠かさず用意した。
その日もいつも通り建築を進めていた。
すっかり倒壊した本殿の瓦礫を片付ける中、わしは一つの大きな宝玉を見つけた。
これこそ神体に違いないと考え、わしは小さな社に移そうとした。じゃが宝玉はとても重く、幼子のわしでは動かせそうもない。わしは仕方なく、汚れを拭き取り布を被せるだけしてその日は帰った。
次の日、魔力もすっかり回復したわしは一大企画を開始した。宝玉を小さな社へ移すため、全身全霊を掛け全集中で魔力を込め宝玉を動かした。
少しずつ、しかし確実に宝玉は浮き、移動して行く。
本殿を出た。
残り半分じゃ。じゃがここで油断してはならぬ。最後まで気を抜かず、わしはゆっくりと動かした。
日が落ちるかと思う程一歩が長く感じた。
頬を伝う汗を感じながら小さな社へ近付いた。
後少し…後一歩…。
そして永遠とも思えた時が今終わった。
遂にわしは成し遂げたのじゃ!宝玉は小さな社へ移された!
「やった!と思ったわしじゃったが計算が甘かった…。それもそのはず。その時点でわしの魔力出力は相当なものじゃった。しかし周りに比べられる魔法使いはおらず、わしはそのことに気付けなかった。いや、気付こうともしなかったのじゃ。そしてその瞬間は訪れた。宝玉の重さに耐えきれず小さな社は崩壊し、石畳へ強く打ち付けられた宝玉はこれ以上ない程美しく、真っ二つに割れた。」
「それから暫く経ち、自らの成長が止まったことに気が付いた。」
「何やってるんですか!?」
「暫くは通ってどうにか宝玉を直そうとしたのじゃが、どんな魔法を使っても直せなかった。里の者には呪いに掛かったとだけ伝えて社のことは隠したが、わしの呪いを解こうと皆が寝る間も惜しんで働くのでな…。罪悪感に耐え切れず…わしは、里を出た。」
…因みに、その神社の絵が描いてあった本の内容は分かったんですか?
「ああそれか。アレはな。先祖の妄想本じゃ。未知の魔法でも何でもない。里を出た後異国を周り直ぐに分かった。里の者に内容が分からんよう、異国の文字で書いてあっただけの黒歴史ノートじゃった。わしはその先祖を酷く恨んだ。」
…。
と言うことは結局、その呪いの正体は分かってないんですか?
「そう言うことになるな。」
だったら、折角帰って来たんですからその神社に行きましょうよ。
今のチトセ様だったら神社の再建なんて楽勝じゃないですか!神様の機嫌も治るかもしれません!
「…確かにそうじゃな。行くか!」
行きましょう!
来ました!
完全に崩壊してますね…。なんて言うか、ちょっとノスタルジックって感じです。遭難してここを見つけたらあの世の入り口だと思っちゃいますよ。
「これが、わしが造った小さな社じゃが…流石に腐っとるな。まああの頃は防腐剤など知らんかったからな…。」
でも宝玉は残ってますよ!
凄い綺麗な石ですね…。木漏れ日で虹色に輝いています…。
真っ二つに割れてますが。
「ネムアム。宝玉と一緒に離れていろ。建て直す。」
宝玉を軽々と移動させました。やっぱり、本当の子供の頃より成長してるんですね。
チトセ様は杖を振り、一つ瞬く間に草木を刈り、二つ瞬く間に石畳を整え、三つ瞬く間に社を建てました。
「こんなもんじゃろ。あの後も勉強はしておったからな。もう使うこともない知識かと思っておったが…良い機会じゃった。」
次は宝玉の修復ですね。
…出来ますか?
「これ以外では見たこともない石じゃ。じゃが、わしは【流星】。叶わぬ願いは無い。あの時のわしの願いを、今叶えよう。」
くっつきました…。
くっつきましたよ!流石です!
後は本殿に祀るだけですね!
「これで良し。主と出会わなければこうはならんかった。例を言うぞネムアム。仕上げに魔物避けの結界でも張って…。」
『チトセ…。』
何ですか!?脳内に直接!?
『チトセ…。我が祝福を受けし者…。』
直接じゃないです!!目の前にいます!!
「なんじゃ!?」
チトセ様!!あの人…人!?神様じゃないですか!?
『私は魔法の神エリュリプシュレ。忘れられた私をあなただけが思い出してくれた。私のためにしてくれたこと、感謝していますよ。』
呪いを掛けてきそうな雰囲気じゃないですけど、祝福って何ですか?
「わしはただ…。」
『分かっています。あなたは魔法を得ようとした。ですが、チトセの優しさは私にも伝わっています。神に隠し事はできませんよ?』
宝玉を割った件は。
『信仰心無くして神の存在はありません。むしろ、チトセの宝玉を壊した罪悪感によって、私の存在も強くなったのです。』
信じている人がいないと存在が消えるってことですか。
神様も難しいですね…。
『あなたに無断で祝福を与えたことは謝ります。チトセが死んでしまったら、今度こそ本当に忘れられると思ったのです。そうなれば私の存在は無くなってしまう。現状、ここから離れられない私では、チトセにお礼を言うことが出来なくなる。それが怖くて、あなたに魔力と老いることのない体を与えたのです。』
「わしの呪いはそう言うじゃったのか…。」
『しかし、こうしてお礼を言うことができました…。チトセが望むのであれば、祝福を無くしましょう。』
どうするんですか…?お婆ちゃん…。
「…。」
「わしが生きてこられたのはこの力あってこそ。老いていればネムアムにも会えなかった。そしてエリュリプシュレ様にもじゃ。」
『では…!』
「この祝福は受け取ろう!わしの人生は魔法と共にある。それはこれからも変わらん。であれば、魔法の神を信仰するのも当然と言えるじゃろう。」
『ありがとうございます…。ありがとう…本当に…。』
忘れられていた神様は人間の様に涙を流しました。
ですが、それは悲しみの涙ではありません。どうしようもなく嬉しい時にも、涙は流れるものなのです。それは人であっても、神であっても、鬼であっても変わりません。皆、涙は流れるのです。
『チトセ・シャクカクリョウ。あなたを我が眷属へと向かい入れます。誓いの言葉を。』
「我が神エリュリプシュレ。我が真信をあなたへ捧げる。」
『誓いは立てられました。』
『ふぅ…。これで正式に祝福を授けられます。それとネムアム。』
何でしょうか。
『あなたにもお礼として祝福を授けたいのです。魔法に興味があれば良いのですが…。』
良いんですか!?興味あります!
ああでも、私には加護があるらしいんですけど、大丈夫ですか?
『大丈夫ですよ。加護は信仰心によって得られるものです。祝福は神が勝手に与えるものですから、加護と違って複数持つことが許されるのです。あなたはチトセに大きな影響を与えたようですから。魔法に興味があるようで良かったです。』
『では、我が魔法の祝福をあなたに。私の力が弱くなっているので、チトセほどの力は与えられませんが、魔法への適性を高め、魔力総量を伸ばしやすくなっています。今すぐは分からないと思いますが、じきに効果を実感出来るはずです。二人とも本当にありがとう。建ててもらった私が言うのも変ですが、またいつでも来てくださいね。』
お婆ちゃんは暫く滞在する予定だから毎日来ると言って、お供えのお饅頭を捧げて帰りました。
ふと思ったのですが、成長してから祝福を与え直してもらうこともできたのでは?
「この身体で慣れておるからな。神様はああ言ったが、軽率な行動で宝玉を割ったのは事実。それぐらいの罰は受ける。」
責任を取りたくなくて里長にならず逃げ回っていたのも事実ですが…?
「それはそれ。これはこれじゃ。」
はぁ…。
そうしてアカの里に滞在した私はお婆ちゃんから魔法を習い、途中でリエルさんが他の里のお酒を求めて別れたり、観光業が狙い過ぎてて恥ずかしくなったりし、2ヶ月が経ったところで旅に出ました。
「お婆ちゃん。今までお世話になりました。」
今旅立ちの時です。
「わしの方こそ世話になった。誰かと旅をしたことなど無かったからな。楽しかったぞ。」
結構長い付き合いでしたからね。
「またどこかで会おう。その時の成長ぶりを楽しみにしておくのじゃ。」
久々ののじゃロリ要素ですね。
距離が近くなると全然言わなかったですから。
「さようならお婆ちゃん。」
「さようなら。」
こうして私は、本物の【旅人】になったのです。
神様のおかげで魔法の習得も当初の予定より楽に進みましたし、海賊さんの装備もあります。一人でも頑張りましょう!
そうそう、お婆ちゃんの年齢ですが、覚えてないらしいです。実力主義の鬼族は年齢に対する興味が薄いそうで。
お婆ちゃんもなんだかんだ鬼なんですよね。
話を聞く限りだと100年ではなさそうです。200年くらいいってるんでしょうか。鬼族は長生きらしいので、聞く話は信用できなさそうです。まあぶっちゃけ気になりませんが。そもそも歳取ってないので、記憶以外の精神面はロリのままですし。…この感じ前世の記憶を持ったロリと似てますね。
いややっぱ似てないです。多少肉体に引っ張られるところはあっても、私の精神は大人ですし…前世の最終学歴中学校中退ですが。
リエルさんはアオの里に行ったそうです。
あの人の知り合いだと思われたくないので反対に行きましょう。
となるとクロの里ですね。
…よく考えれば、鬼族の吸血鬼族に対する印象を聞いておけば良かったですね。
…なんか不安になってきました。
…。
…まあ大丈夫です!何とかなるの精神で頑張りましょう!いざクロの里!!
「吸血鬼狩りの御布令が出てます…。」




