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元鉛筆令嬢

「マルティータ、お前の結婚が決まった。相手は望んだ通りダカンチェッラーレ殿だ。学園は退学させる。」


「お父様、結婚なんかよりポルタミーナから私のスキルを取り返す方が先ですわ!退学したら機会が減ります!!」


「式当日までお前をこの部屋から出す事は無い。ポルタミーナ孃には今後一切近づけさせない。諦めなさい。」


「イヤッ!イヤです!!何故私が奪われねばならないのですか?!そんな理不尽許せませんわ!!」


「…もう話す事は無い。」


「お父様っ!」


父親を引き止める為に伸ばされたマルティータの右腕は何にも触れる事は無かった。

マルティータの部屋を出た父親に怒り狂うマルティータの声は丸聞こえだったが見張りに目配せのみして父親はその場を去る。


もう娘にしてやれる事は一つもない。

公爵家の娘から婚約者を奪うだなんて家を潰されてもおかしくないところを公爵家に関わらない事と奪った婚約者と結婚させる事のみで許して貰えるのだ。破格すぎる。

これ以上問題を起こされては今度こそ家が潰れ兼ねないのでフェルメ家と話し合い結婚と同時に田舎の領地に追いやり監視付きで社交とは無縁な質素な暮らしをさせる事になっている。

部屋で大人しくさせておけば全て丸く収まるのだ。


溺愛していた娘への愛情は今回の件で半減し、心の中は娘を不憫と思う心より保身でいっぱいだった。

だからこそ娘の性格を行動力見余った。

夕食の時間になりメイドが部屋に食事を持って行くとマルティータの姿はなく、月明かりの差し込む部屋で開いた窓から入る風でカーテンがなびくのみだった。







マルティータが失踪したなど知りもしないポルタミーナは学園での平和な生活を取り戻していた。


最近厄介事が多く心の平穏を失っていたが今は一人でティータイムを楽しむ余裕がある。

今も午後の授業に入る前に薔薇園の美しい景色を楽しもうと薔薇園のガゼボに向かっている。

しかし、ポルタミーナが楽しみにしていた優雅な一時は行先を塞いだ少女により打ち砕かれた。


「御機嫌よう。ポルタミーナ様~。」


「…何故貴女がここに?」


「そんなの決まってるじゃないですか~。

私のスキル、返して貰いに来ました。ついでに貴女のスキルくださいね~。」


ポルタミーナの目の前に立つマルティータはワンピース姿で学園の制服を着ていない。

話し方は以前と同じだが表情や雰囲気も暗いものを感じポルタミーナは控えていた侍女に目配せして助けを呼びに行かせた。


「それは出来ない相談ね。

私はルールに則りバトルし、貴女に勝利した。返せと言われても困るわ。

もちろん私のスキルもあげられない。」


「酷いです~!そうやってまた私を虐めるんですね!!

私から奪うなんて許されませんよ!!!」


「…ところで私には関わらないよう約束させていたはずだけど。」


「なんで貴女の命令を聞かなきゃいけないのですか~?」


話が通じないマルティータにポルタミーナは素直に困った。

侍女はまだ数分は戻って来ないだろう。話が通じない以上説得は難しいし今のマルティータには荒事さえ厭わなそうな雰囲気がある。

どうするか悩んでいると後ろから人が来る気配がした。


「マルティータ!」


「…ダカンチェッラーレ様じゃないですか~。どうしたのですか?」


「君が居なくなったって聞いて居てもたってもいられなくて、もしかして学園にいるかもしれないと探していたんだ!無事で良かった!!」


「そうなんですか~。丁度良かった。ポルタミーナ様から私のスキルを返して貰うとこだったんです。協力してくれますよね~?」


「マルティータ…。」


笑顔のマルティータとは裏腹にダカンチェッラーレはとても悲しそうな顔をマルティータに向け黙る。


「…ダカンチェッラーレ様?どうしましたか~?」


「…すまない。」


マルティータは小さく舌打ちをして笑顔を消した。


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