厄介な修正テープ王子
「ねぇ、僕と練習試合をしないかい?」
学園の門の前、登校して早々にポルタミーナは第三王子にそう声をかけられた。
「ビアンケット殿下にポルタミーナ・エクリールがご挨拶申し上げます。」
「あ、そういうのいいから。で、練習試合してくれる?」
「お望みとあれば。」
「よしっ!じゃあ今日の授業が終わったら武道場ね。」
去っていくビアンケットを見送るポルタミーナの表情は優れない。
王族はバトルを禁止されている。
しかし練習試合のみは許可が出ているのでビアンケットはポルタミーナに申し出てきた訳だが、ポルタミーナとしては迷惑極まりない話だ。
非公式とはいえ王族を負かす訳にはいかない。だからと言って断れもしないので手頃なところで負けなくてはいけない。
ダカンチェッラーレとマルティータが婚姻を機に学園を去る事となり、ようやく静かな日常に戻れると思っていた。最近のポルタミーナはついていないようだった。
授業が全て終わり武道場に着くとビアンケットはすでにポルタミーナを待ち構えていた。
「お待たせし申し訳ございません。」
「ああ、気にしないでくれ。早速始めたいからルールを決めよう。
敗者のペナルティは無し、使用スキルは三つで良いかな。」
「異存はございません。」
王族たるビアンケットは生まれながらに複数のスキルを持つ。噂では五つとも六つとも言われているのでポルタミーナが三つのスキルを使用しても対等な勝負となる。
「では始めよう。」
「「トレーニングフィールドオープン!」」
練習用のフィールドは土のフィールドでチュールやワームのようなバトルマスコットは存在しない。
また、バトルの様子は中継していないので武道場に二人以外居ないので勝敗を見守る者も存在していなかった。
「「ウィクショナリー!」」
互いの頭上にポンッという音と共にスキルが具現化される。
ポルタミーナの頭上にはシャープペンシル、鉛筆、消しゴムの三つが具現化されヤル気満々で手足を振る。
一方のビアンケットの頭上には修正テープ、液体糊、クリップが具現化され準備運動をしていた。
「先攻は譲るよ。」
「お言葉に甘えさせていただきます。バトル鉛筆!展開!」
鉛筆は光り出しシャープペンシルには●、消しゴムには★、鉛筆の片方には▲、修正テープには■、液体糊には◎、クリップには●が現れた。
「運命!」
マークの無い鉛筆がひとりでに転がる。
その動きが止まる前にビアンケットは動き出した。
「コレクスィヨン!」
ビアンケットの言葉で動き出した修正テープは自身と仲間達のマークを白く塗りつぶした。
そして続けて「プライヤ」と呟くとクリップが転がっていた鉛筆を上から挟み押さえつけた。
「●に60のダメージだ。」
シャープペンシルが雷に撃ち抜かれプスプスと煙をあげる。
眉間にシワを寄せながらもポルタミーナは次の手をうつ。
「モード兵隊!ハードボディ、ノック三、セット!」
兵隊消しゴムの手に持たれたシャープペンシルはまるで槍のようにその先を敵に向けられている。
ポルタミーナの「アタック」という言葉と同時に兵隊消しゴムは修正テープに突撃した。
ハードボディのシャープペンシルならば修正テープのボディにダメージを与えられる。そう確信していたポルタミーナだったがそれは当たればの話。やはりビアンケットはそれを許さなかった。
「プライヤ。アロンアルファ。」
兵隊消しゴムが突き出したシャープペンシルをクリップがキャッチする。
挟まれただけならシャープペンシルがそこから抜け出す事は簡単だったが糊により瞬間接着され、シャープペンシルもソレを持った兵隊消しゴムも動きを止めた。
「ん~意外に骨が無いな。もう終わらせよう。」
ビアンケットのこの一言はポルタミーナに火をつけた。
適度なところで負けようと思っていたポルタミーナだったが遠慮は要らないと全力でいく事にする。
「兵隊消しゴム解除、練り消し、分裂、ボールアタック!」
兵隊消しゴムから柔らかい二つのボール化した消しゴムは修正テープのテープ部分と側面に付着した。
「メタルボディ、スイング!」
畳み掛けるようにクリップ付きのシャープペンシルを修正テープに叩きつけると修正テープは割れ戦闘不能となった。
「すごいっ!素晴らしい!!」
劣勢なビアンケットは悔しがるどころか嬉しそうな顔をして興奮した様子でソレを眺めている。
毒気を抜かれたポルタミーナが終わらせようと次の攻撃を指示しようとしたその瞬間、武道場のドアが勢い良く開けられた。
「何をしているっ!」
怒声と共に入って来たのが第二王子だったのでポルタミーナは急いで礼をとった。
「あ~あ、良いとこだったのに…。」
「何がいいとこだ!非公式とはいえ授業以外で王族がバトルをするとは何事だ!!今すぐフィールドを解除しろっ!」
仕方ないと頭を振るビアンケットはフポルタミーナにアイコンタクトを取る。
「「フィールドクローズ。」」
フィールドを解除すると第二王子はビアンケットの頭を殴りつけポルタミーナを見た。
礼をとったままのポルタミーナは内心冷や汗を流しながら沈黙する。
「君が巻き込まれた立場なのは理解している。咎めはしないから安心してくれ。」
それだけ言うと第二王子はビアンケットを引きずって武道場を出て行った。
「ふぅ…。」
二人の姿がなくなり、ポルタミーナは息を吐くと少しして帰路についた。
「あ~あ、せっかく凄い試合だったのに~。」
「黙れっ!まったくお前は…帰ったら兄上や母上に報告するからなっ。」
場所の中で不貞腐れたビアンケットを第二王子が叱りつける。
しかしビアンケットの耳にそれは残らない。
「ん~またバトルしてくれるかな。」
「何か言ったか?」
「なぁんも?」
ポルタミーナはビアンケットに完全に興味を持たれたが今はその事を知らない。
ただ何かを感じ取り悪寒に身を震わせてはいたので帰ったら暖かいお茶を飲もうとだけ思っていた。