鉛筆VSシャープペンシル
「私、ポルタミーナ・エクリールはこの場でマティータ・カステルにバトルを挑みます。」
「私、マルティータ・カステルはポルタミーナ・エクリールとのバトルをお受けします~。」
「「フィールドオープン!」」
ステーショナリー国アストゥッチョ学園のホールで大勢の生徒に囲まれ二人の女生徒がバトルを始めようとしている。
フィールドオープンと口にした直後、二人は先程までいたホールでは無く果てしない草原の中に向かいあって立っていた。
バトルを申し込んだのは緩やかにウェーブした長い銀の髪をハーフアップにしたエクリール公爵家のポルタミーナ。
そのバトルを受けたのは漆黒のボブと頭上の白いリボンをトレードマークにしているカステル侯爵家のマルティータ。
マルティータはポルタミーナの婚約者を誘惑し篭絡した。
ポルタミーナはホールの真ん中でマルティータを伴い、自分を正当化し高らかに婚約破棄を宣言した婚約者をグーパンで殴り飛ばしマルティータにバトルを申し込んだのだ。
アストゥッチョ学園では揉め事はバトルで決着をつける慣わしで、勝者は卒業するまで敗者を侍従にする事ができる。
「貴女は昔から私のモノをなんでも欲しがりました。
今までは許せる範囲でしたが今回はそうはいきません。貴女だけの問題ではありませんが、まずは貴女の行動を制限します。」
「だってポルタミーナ様っていつも良い物ばかり身に付けているんだもの。婚約者さんくらい譲ってくれても良くないですか?まあ、今後はぜ~んぶ私のにしちゃいますけど~。」
ポルタミーナとマルティータは領地が隣同士の為幼い頃から交流があった。
しかし会う度に何かを強請られるのでポルタミーナは接触は最小限にし、強請られるモノを誘導して被害を最小限にしてきた訳だがまさか婚約者まで対象になるとは思っていなかったので気が付くのが遅れた。
「貴女にあげるのは婚約者で最後です。」
「え~そんな事言わないで下さいよ~。」
ポルタミーナの青い瞳とマルティータの緑の瞳は互いを写し、今この時も逸らされることは無い。
そこにポンッという音と共にシルクハットを被った黒猫が現れた。
「ハイハ―イ!イイネイイネ、バチバチダネ―!!このバトルはチュールの草原フィールドで行うよ。
ちゃんと外に中継してるから皆みてネ!
ルールを説明するよ。
お互いのスキルを具現化して攻撃し合って破壊したらフィニッシュ!
直接攻撃は禁止ネ!
勝者は敗者のスキルを奪った上で卒業で本人を侍従にできるよ。
奪われたスキルは卒業しても戻ってこないけどネ!
それじゃーレッツバトル!」
チュールがゴングを鳴らすと二人同時に右手を突き出す。
「「ウィクショナリー!」」
互いの頭上にポンッという音と共にスキルが具現化される。
ポルタミーナのスキルは〈シャープペンシル〉頭上にはシルバーボディのシャープペンシルが浮かんでいる。
一方マルティータのスキルは〈鉛筆〉の為頭上にはブラックボディの鉛筆が浮かんでいた。
具現化された文房具達には顔と手足がありやる気満々の表情で睨み合っている。
「先行はいただきます~。黒塗り!」
3㍍四方の空間が真っ黒になり、その中にすっぽり収まった鉛筆の姿は確認出来なくなる。
マルティータは得意げな笑顔をみせていあるがポルタミーナは無反応だ。
「ロケット鉛筆!」
マルティータの声で先程出来た真っ黒い空間から鉛筆の芯がシャープペンシルめがけて飛んでくる。
「ハードボディ!」
ポルタミーナのシャープペンシルは飛んでくる芯が当たっても傷一つつかない。
マルティータは少しムッとしながらも攻撃を続ける。
「ロケット鉛筆Hプラス十!最高に硬い芯ですよー。」
「メタルボディ!」
先程より硬度を上げたマルティータの攻撃を避けずに受けたポルタミーナは余裕の笑みを浮かべる。
先程よりも悔しそうに顔を歪めるマルティータにポルタミーナはあらあらと口元を隠した。
「今度は此方からいきます。硬度Hプラス十。ノック。ミーナランス!」
「ああっ!」
ポルタミーナのシャープペンシルがマルティータの鉛筆の側面に突き刺さる。同じ位の位置で面を変えて二度同じ攻撃を繰り返せばマルティータの鉛筆は穴だらけだ。
「これでフィニッシュです。ルールボディ!」
穴をあけた箇所を狙い勢いよく振り下ろされたポルタミーナのシャープペンシルはミシミシという音と共にマルティータの鉛筆をへし折った。
「勝者はポルタミーナ・エクリール!
負けたマルティータ・カステルのスキルは譲渡されるヨ!」
「ああ…そんなっ!」
「これだけで終わるだなんて思わない事です。これから宜しく、侍従のマルティータ?」
勝敗がつきフィールドが解除されるとチュールや具現化されていたスキルも消えホールの大衆の前に戻る。
マルティータはその場で力なく座り込み微動だにしないがポルタミーナは背を向けホールを出ようとする。
「マルティータ!大丈夫かい?」
駆け寄ったポルタミーナの婚約者はマルティータの両肩に手をかけ顔を覗き込む。
「ああ、婚約破棄の件はお受けしますからご心配なく。」
それだけ言うとポルタミーナはその場を後にした。
その背中を睨みつける婚約者を無視して帰宅したポルタミーナは早速今日の出来事を父親に報告し、婚約破棄に向けて動く。
三日という早さで相手有責での婚約破棄は成立し、多額の賠償金と大勢の前での行いに激怒した父親により元婚約者は部屋から出る事を許されていない。
それを聞いたポルタミーナは自業自得だと同情する事は無かった。
勿論カステル侯爵家にも多額の賠償請求と抗議文及びバトルの報告書を送っているのでマルティータが学園に来ていない事から同じ状況なのではと推測される。




