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以上が二年前の夏休みの事の顛末である。まるで荒唐無稽だ。あれだけの非現実的な出来事を経験しても、二年間の現実生活を過ごした後ではあれがなにかの思い違いであったとしてもおかしくないような気がしている。サイゼのサラダをこねくり回しながら僕はそんなことを考えている。
しかし――
顔を上げると、目の前には大きなキャリーバッグを転がして、やや不機嫌顔の比売神様が立っていた。荒唐無稽ではあるが、事実でもある。比売神様がこうして実在していることが何よりの証拠なのである。
「難波の乗り換えで道を間違えた。あの地下街はよくわからん」
文句を言いながら比売神様は僕の対面に座る。二年の時を経ても相変わらずの美少女だが、パンツスタイルで髪をまとめ、二年前よりもスポーティな雰囲気だ。
「難波? 買い物ですか?」
「海外帰りだ。関空からラピートに乗った」
聞けば、二年前の出来事以来、神――四次元生命体――の世界には大きな動きがあった。萌葱と黒鼠の対立は、黒鼠が大幅に譲歩することで決着した。特に人間社会や歴史を巻き込んでしまったことの反省から、地球では両者の融和が図られることになった。上層部から末端までが様々な取り組みに引っ張り出されている。
「君たちの世界で言う海外研修みたいなものだ」
だそうである。
この二年間海外へ行き、各地の同胞たちと一緒に暮らしたり政治上の課題解決のために話し合ったりしたのだとか。
「神の世界も大変そうですね」
「昔はもっと牧歌的だったんだがな。まるで人間みたいになってきた」
皮肉なのか、ぼやきなのか。
「とりあえず再会の乾杯としよう」比売神様は手を挙げて、慣れた様子で店員を呼ぶ。「すみません、注文お願いします」
あ、そこは敬語なのか。
店員が来る。
「赤ワインをひとつ」
「あの、未成年のお客様には――」




