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近鉄奈良駅のサイゼで待っている。テーブルの上には百円のワインとつまみのサラミ。少し前に来た連絡ではもうすぐ着くから先に食べてていいということだったが、しかし一杯目のワインが終わりそうになっても待ち人は来ず、いや人ではなかったなと、温まりはじめた頭で思いつつ、そして二年前のことを思い出したりして再会を楽しみにしている自分に気づく。
ところで普段ファミレスに行かない人のために説明しておくと、サイゼというのはわりと日本のあちこちにあるイタリアンのファミレスである。安いわりにうまいイタリアンが食べられるのが人気の理由だ。たとえばこのワインは一杯百円という破格の値段にもかかわらず、安ワインにありがちなうすっぺらい感じはなく、きちんとうまいのである。
また普段奈良に住んでいない人(僕もだが)のために説明しておくと、近鉄奈良駅は奈良市の中心となる鉄道駅で、JRの奈良駅よりも奈良公園や東大寺などの観光地に近く、京都や大阪への直通列車が頻繁に行き来していて至便である。駅は地下がホームになっていて、地上のビルの中にこのサイゼがあるというわけだ。
ふと、手元のスマホを見たら、「乗り遅れた」とのみ連絡が来ていた。ああそれで、ワインが空になってもまだ来ないわけだ。
僕は二杯目のワインを注文し、サラダを追加し、そして椅子にゆるりと座り直し、待ち人ならぬ待ち神を待つことにする。ワインもほどよく脳みそに染み込み、二年前の夏休みのことが懐かしく思い出される。今となってはまるで荒唐無稽にも思える、あの夏休みのことが……。