『ずっと、性欲だと思ってた……』
そうだなぁ……、自分が……明らかに、人の群れにいて……。…………、自分だけが『異端』であるって感じたことはあるかい?
そう……。白羊の群れの中にいる黒羊。そんな、そんなぬるい話では無かった。皆とはちょっとちがう、なんだか馴染めない個体。それが自分だと思ってた。ずーっと勘違いしていた、していたかった。
気付いてみれば、自分は……そう、俺は黒羊の皮を被った狼であったって、それだけの話でね。なんにも面白い話ではないんだよ。
むかしむかしの童話が、救い様の無いお伽噺のまま終るように、現代、夜の闇すら暴かれた、こんなこんな時代にも……令和の時代の中に、少なくとも……日本、一億二千万人の中に、最低で一人。……いや、一匹。
そう……最低、一匹混ざっているのだ。
なんてことはない、幼少期から親や家族から愛情を受けて普通に育った。……はずだった。
彼は一身に受ける愛情に違和感を感じていた。何か足りない。何か違う。家族に愛されているのは理解出来るのだが、すべてに違和感がある。そう感じていた。
そんな彼はきちんと愛情を受けていると、そう、周りの白羊の真似をすることにした。せいぜい、ちょっとちがう、あいつは黒羊じゃないか……程度の評価で済むように……。
自分が、羊で無いことに気付かないように……。自分を隠して誤魔化して。
足りないと感じていた家族からの愛情の代替を求めてしまうのは、人間ならば仕方無いことなのか……。彼は異性に愛情を求めた。
足りない足りない足りない不足している。もっともっともっとと求めた。幸い、彼に寄り添う異性も現れた。
ただ、数ヶ月も付き合うと、必ず別の男と関係を持ち泣いて別れを乞うのである。そんな恋愛が何度かあり、男は……諦めた。
欲しがる事を止めた男は、しばらくの間、日常に仕事に黒く腐った。ただ、腐りきる前に救ってくれた人に出会った。どこの誰かも知らない、性別年齢、何にも分からない電子を通じた友達。
そんな友達が絶望におちた時、救って貰っていた男は全部を差し出した。なんなら罪人に堕ちても良いと。
そんな2人はすぐに家族になって、2人は4人になった。男は全部の意味で満たされた。満たされたはずだった……。
男は自分が愛情に餓えていたからこそ、日常に妙な飢餓感を覚えているのだと思っていた。実際、家族が出来、自分の妻、娘、息子に対してはまったくもって暗い感情や、飢えはなく愛情を注いだ。
ある暑い夏、その真昼。
昼食は、きちんと食べ腹一杯。配達のため車を出し、赤信号で止まった時だった。ちらりとみればバス停に並ぶ3人。
あぁ、こんな中年になっても女子高生に飢えを感じるとか……どれだけ性欲が強いのか……。
……その、女子高生の隣に立つ、いかにもラグビーとかをやっていた20代男性。彼の張りつめた筋肉にどうしようもない感情が溢れて……あぁぁ。
なんてことはない。いままで目を瞑っていたことに目を向ければ。すぐにわかった。肉体が衰えて、性欲が衰えた。……残ったのは……食欲だった。
なんのことはない、私は人狼で羊の群れに一生懸命紛れようとしていた異端だった!
私は、理性で餓えを!渇きを!抑え込んでいるだけ! 肉を!血を! 味わいたいのだ!!
ふふっ、こんな、空腹を薄紙にも満たない理性で抑えている人狼が、この日本に最低で、一匹いるんだよ? 別段、君の太ももを見ているのは、イヤらしい意味は無いんだ。ただただ、ね。
うまそうだな
誰も……。フィクションだなんて言って無い。