前日
自分の心を守るため、始めました。書くことによって記憶の整理が行われ、新しい自分と向き合うことが出来ると言われたため、試してみます。バッドエンドになるのか、ハッピーエンドになるのか、、、、
これは全て実話に基づいた話で面白みはありませんが、お付き合い下さい。
その日は朝からカンカン照りの、季節外れの朝だった。
前日に重い腰を上げ、ようやくの思いで荷造りを済ませたリュックを背中に不慣れな電車に揺られ、これまた不慣れな土地へと向かっていった。
私は今日、死にに行くのだ。
向かった先には大きな病院、自分の背中よりも大きなリュックサックを背負い人の行き交う出入り口を抜けた先、入院受付へと足を運んだ。受付の門番と思われる重厚感のある看護師から説明を受け、処置を施すべく無機質な院内を歩き回った末、病室へと辿り着いた。ここが私の最後の寝床である。
病室へ着くと肩に食い込むリュックサックを下ろし、部屋の真隣にある共有トイレへと向かった。用を足したのちに手を洗う姿を写す鏡には、お世辞にも歳相応とは言えない幼い顔には不釣り合いな、酷いクマのある、光を失った目で見つめる自身と目があった。
ああ、私ではない。こんな顔をしていいのは、こんな顔をしたいのは、私ではない。私はこんな顔をする事は許されない。
気を紛らわす為に顔を洗い部屋へ戻ると、看護師が待ち構えていた。そのまま診察室へと連れられ、術前診察が始まった。ああこの感覚、いつまで経っても慣れることはない。不快感のある器具を入れられ、医師による診察が進む。不快感にはなれずとも、医師へ股を開くことに抵抗が無くなっている自分にも、嫌気が刺す。そんな事を考えている内に、エコーへと映し出された子宮の状態は、良好。胎児の発育も良好。こんなにも元気に育っている子を、なぜ殺さなくてはならないのだろうか。そのくらいは考えても、バチは当たらないだろう。
今まで胎児を守るためにギチギチに締められているその口を、海藻から出来た無機質な棒でこじ開けられ、どんどんと押し広げられていく。いくら痛くても苦しくても、私に泣くことは許されない。本当に泣きたいはずのこの子は、黙って殺されることしか出来ないのだから。
本当であれば命が産まれるはずの場所で、これから何の生産性もない行為が行われる。そしていよいよ明日へと迫る手術から逃げる術は無く、私はただただベットの横の机で紙と向き合うしかないのである。ここからはもう、地獄しか待っていない。
思い出すと、まあまあな地獄でしたね。でかい病院だからといって、良い医者とは限りません。皆さんもしっかり見極めてください。