第7話 序章⑦ 山賊とゴブリン
「ハジメ。俺達、魔王退治の旅に行ってくるよ。
死の呪いを解くついでに、お前の仇も討ってやるからな。」
・・・ま、ハジメは仇討ちをして欲しいとか、思わないだろうけど。
これで旅に出る前の墓参りも終わったし、後は・・・。
********
「そう、ハジメが亡くなった原因を調べるために旅を・・・。」
俺達は冒険者ギルドのお姉さんに旅に出る事を話した。
別に報告義務があるわけじゃないけど、いきなり姿を消すのもあれだしなぁ。
ただし魔王退治の旅とは言っていない。
ハジメが亡くなったせいで頭が狂った、だなんて勘違いされるのも嫌なので。
「だったらまずは、太陽城下町の図書館へ行って手掛かりを探すと良いわ。
けど最近、あの辺りは山賊達の被害も多いらしいの。気を付けてね。」
「ありがとう、お姉さん。
じゃあまずは太陽城下町へ行ってみるか。」
そう言えば俺達、魔王の事とか、呪いの事とか全然知らないもんな。
旅の指針を立てるためにも、まずは色々調べてみるか。
「けっ、どうせライト兄ちゃんやエルム兄ちゃんの事だ。
ヤバい魔物にでも出会ったら、ビビってすぐ逃げ帰って来るさ。」
「あー・・・それはありそう。
けどアカリ姉ちゃんがいるから大丈夫だよ、きっと。」
おいこらクソガキ。
エルムはともかく俺の事、バカにしすぎだろ。
「お前らなぁ・・・。
ライトはともかく俺の事、バカにしすぎだろ。」
「ま、まあまあ。落ち着いて。
この子達ったら、あなた達が旅に出るって聞いて寂しがってるだけよ。」
えー・・・、とてもそうは見えんが。
なんかスネてるような感じはするけど。
「ちょっと長旅になりそうだけど、その内帰って来るわよ。
じゃあ皆、元気でね。」
別れの挨拶を軽く済ませた所で、俺達はこの町を後にした。
「無事に帰って来るかな・・・。」
「大丈夫よ。あの子達は強いもの。
何があっても乗り越えられるわ。」
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こうして俺達は太陽城下町に向かって、無言で歩き続けていた。
・・・いつもと違って、ちょっと空気が重いなぁ。
けど、仕方ないか。
俺達はまだハジメが亡くなった事も、自分達がもうすぐ死ぬかもって事も、割り切れていない。
あと実は、俺はもうかなり疲れていた。
普段ならこの程度の山道、全然平気だ。
でも最近は何故か体がダルくて仕方ない。
とは言え、もう俺達は立ち止まれない。
いつ死ぬかわからないのだ。
1分でも、1秒でも早く魔王を倒さないと!!
日が暮れて、真夜中になっても俺達は歩みを止めなかった。
辛い・・・だけど時間が無い以上、何があっても歩き続けるんだ!!
「はぁ、はぁ。」
アカリ? ひょっとして疲れてるのか?
そりゃ、一日中ぶっ通しで歩くのはキツいか。
だが、俺達に立ち止まってる暇は無いんだ、そう言いたかった。
でも、無茶してハジメみたいに死んでしまったら・・・そんな不安の方が強くなった。
「・・・なあ、エルム、アカリ。
もう真夜中だし、そろそろ休まないか?」
「何言ってんだよ、ライト!!
少しでも先に進まないと、俺達いつ死ぬかわからないんだぞ!?」
「けど・・・。」
俺がアカリの方に目を向けると、エルムもアカリがかなり疲れている事に気が付いたようだ。
酷く不安そうな表情でアカリを見つめている。
「わ、私ならまだ大丈夫よ。
無理してでも前に進まなきゃ、だもんね。」
「あ、えっと・・・その。やっぱ今日はもう休もうぜ。
俺は全然平気だけど、根性無しのライトが着いて来れなくなるからな!!」
俺をダシに意見を翻すエルム。
・・・やっぱり、エルムもアカリが心配なんだな。
今から宿屋まで行くのは無理なので、野宿用にマジックバックから携帯用のテントを用意した。
マジックバックは小さいながらも多くの道具を入れられる魔法のかばんで、軽いし、食料の保存も効くしで凄く便利だ。
普段の狩りでも愛用しており、これが無い頃はビックボアー1体さえ持ち帰るのに苦労した。
かなり高かったが、人数分買うだけの価値はある。
しかし携帯用のテントでは、魔物の襲撃などには耐えられない。
なので、交代で見張りを行う必要があった。
「じゃあ最初の見張りは俺がやるよ。」
・・・どうせ寝れないしな。
「ライト・・・あんま無理するなよ。」
「ごめんね、ライト。じゃあお休み。」
静かだな・・・。
野生動物の類も見当たらない。
何も無い所でじっとしていると、どうしてもハジメの事を思い出す。
こういったキャンプでの見張りは、これが初めてじゃない。
ハジメがいた頃はこんな見張り、退屈なだけだった。
けど今は退屈と言うより、辛い気持ちを延々と我慢し続けるような・・・そんな感じだ。
そうやって物思いにふけって、どのくらいが経ったのだろう?
ダッ、ダッ。
!! 誰だ!?
「おっ、こんな所にマジックバックを持ったガキがいやがる。
きっと、お金持ちのお坊ちゃんだな?」
いかつい顔付き。
薄汚れた格好に物騒な獲物。
まさか山賊か!?
1、2、3、4・・・4人もいる。
「グゲ、グゲゲゲ。」
山賊の他に3体のゴブリンも姿を現した。
ゴブリンは尖った耳と緑色の体、そして手に持ったこん棒が特徴の小さな魔物である。
単体なら新米兵士でも勝てるが、群れて行動し、頭もわりと良いのでそれなりに厄介な相手だ。
しかし山賊と魔物が手を組んでるってのは本当の話だったのか。
あの時出会ったオーガがリーダーなのかな?
「脅すのも面倒だ。
野郎ども、ぶっ殺して身包み剥いじまえ!!」
「「「ヒャッハー!!」」」
「「「グギャー!!」」」
ゴブリン3体に山賊4人・・・。
山賊達は見た限り、ゴブリンよりは強いが、ビックボアーよりは弱いって所か。
矢のような飛び道具も持ってなさそうだし、これなら俺一人でも大丈夫なはず。
「はっ、お前らなんかに殺されてたまるか。
ホーリー・ナイフ!!」
俺は山賊に向かって、光の衝撃波を放った。
俺達の魔法の最大の利点は、遠くからでも相手を一撃で倒せる事だ。
数が多くても近づく前に衝撃波を放ち続ければ、一方的に殲滅出来る。
「ぐわーーーー。」
衝撃波を食らった山賊の1人があっけなく倒れた。
全力で放てば殺す事も出来るだろうが、あえて気絶する程度の威力に抑えている。
山賊なんて死んでも良いと思うが、だからって容赦なく殺す事は出来なかった。
「なっ、こいつ。攻撃魔法を使うのか!?」
「グ、グゲ・・・。」
よし、次はゴブリンに攻撃だ。
ゴブリンの方は別に遠慮しなくても良いだろう。
「食らえ、ホーリー・ナイ・・・フ?」
・・・あ、あれ?
急に体が・・・。
バシュ!!
「グ、グゲ?」
突然、態勢を崩したせいで、衝撃波はゴブリンではなくその足元に当たった。
なんでそんな事に・・・どうして?
「んー・・・?
なんかこいつ、調子悪そうだなぁ、グヘヘ。」
も、もしかして、食事も睡眠もきちんと取れなかったからか?
だから調子が悪いのか?
でもこいつ等くらい、少し調子が悪かったって・・・。
「グギャー!!」
・・・なっ。近くの物陰からゴブリンが!?
しまった。あの3体以外にもゴブリンがいたのか。
「グゲーーーー!!」
ゴン!!
が・・・、は・・・?
俺はゴブリンに頭をこん棒で思いっきり殴られ、意識が飛び掛けた。
「こ、この野郎!!」
それでも力を振り絞り、ゴブリンの心臓めがけて、ホーリー・ナイフを突き刺した。
ザクッ。
「グギャー!!!!」
ドサッ。
ゴブリンはなんとか倒せたが、俺はさっきの攻撃で気を失いそうなほどのダメージを受けていた。
ゴブリンとは言え、防具も無く頭を殴られでもしたら、普通の人間はタダでは済まない。
しかし俺達ならノーダメ―ジとはいかないまでも、思いっきり拳骨を食らった程度のダメージで済む。
どうも俺達は人間離れして体が頑丈なようで、ギルドのお姉さんやエリトさんもよく呆れていた。
なのに、一撃でこれほどダメージを受けるなんて。
あのゴブリン、そんなに強い個体だったのか?
・・・いや、違う。
ゴブリン1匹に倒されそうになるほど、俺の調子が悪かっただけか。
落ち込むあまり、食事も睡眠もまともに取らなければ、いつもより弱くなって当然だ。
ちくしょう。なんでそんな状態で旅なんか始めたんだ?
もっと元気が出てからにするんだった・・・。
「よし、今がチャンスだ。
弱ってる内にぶっ殺してしまえ!!」
「「おおー!!」」
「「「グギャギャー!!!!」」」
残りの敵は山賊3人、ゴブリン3体。
ダメだ、こんな調子じゃ勝てない。
ごめん、ハジメ。もうすぐ俺、殺されるわ。
今、そっちに行くからな・・・。