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第6話 序章⑥ 旅立ちの日

「ブレイブチルドレン、勇者の子供達よ。

 そう遠くない未来、お前達は自らの運命に絶望し、人間を・・・世の全てを恨む事になるだろう。

 ・・・ならばせめて、束の間だけでも偽りの平和を味わうが良い。」


********


・・・またあの夢だ。


あの日、ハジメが亡くなってから眠れない日々が続いて辛い。

たまに意識を失ってもあの研究所の夢ばかり見て、すぐ目が覚める。


運命に絶望・・・束の間だけの偽りの平和・・・あの奇妙な悪魔の言葉が頭に残り続けた。


********


「ライト・・・もう起きてたんだ。最近、随分早起きね。」


「あ、ああ。そうだな。」


本当は早起きするようになったわけじゃない。

眠れずに朝を迎える事が多くなっただけだ。

・・・不眠症なのかな?


「でもここの所、ずっと顔色が悪いわよ。

 食欲も無いみたいだし・・・あんまり無理しないでね。」


無理も何も、ハジメが亡くなってから俺達は魔物狩りにすら行っていない。

しかし今の俺は、4人で魔物狩りに行っていた時よりも疲れていた。


********


俺達3人は日課となったハジメの墓参りに来ていた。


ハジメが亡くなった原因は最後までわからなかった。

だがハジメは重い病気に掛かった事も、命に関わるような大怪我をした事も無い。

しかもまだ未成年・・・なのに急死するなんて、絶対にありえないのだ。


ありえない・・・はずなのに。


「ハジメ・・・なんで、なんで死んじゃったんだよ・・・。

 今までずっと元気だったのになんで、どうして!!」


「魔王の呪いのせいだ。」


この声・・・あの時、森で会ったクズじじぃ。

もしかして身バレしたのか?

いや、それよりも・・・。


「呪い・・・って。」


「ハジメは勇者の子供達を邪魔に思う魔王の呪いにより、死んだのだ。

 だが死の呪いを受けたのはハジメだけでは無い。

 お前達含むブレイブチルドレン全員が魔王の呪いを受けている。


 魔王を倒し呪いを解かぬ限り、貴様らの命はどんなに長くとも1年と持たないだろう。

 ・・・いや、ひょっとしたら明日にでも命を落とすかもな。ハハッ。」


魔王の呪いのせいでハジメが死ん・・・だ?

しかもハジメだけじゃなくて、俺達ももうすぐ死ぬ・・・だって??


「おい、てめぇ。仲間の死をダシに魔王を倒せなんて下らねぇ事言うんじゃねぇ!!

 ・・・ぶっ殺されてぇのか!?」


「エルムの言う通りよ。何が魔王の呪いよ!!

 魔王はもう勇者に成敗されたんだから!!

 呪いなんて掛けられるはずないわ。でたらめ言わないで!!」


そうだ。魔王はもう成敗されてるんだ。

成敗された魔王がどうやって俺達に呪いを掛けられるんだ?


あいつの言ってる事はでたらめだ。

俺達を都合の良い道具として利用するために、嘘を付いているだけだ。

そうに決まってる!!


「魔王はまだ生きている。瀕死の重傷を負いながらも、な。

 そして傷が癒え、再び世界に牙を向ける日を待ち望んでいるのだ。」


確かにアカリの言う通りなら、魔王は『成敗された』としか伝えられていない。

『滅びた』とは誰も言っていない。


だけど、それでも・・・。


「魔王の呪いのせいでハジメが・・・俺達が死ぬなんて、そんなの絶対嘘だ!!

 俺達は魔王になんか会った事無いんだ。いつ呪いなんて掛けられたんだ!?

 お前の言う事は滅茶苦茶だ。どうせ俺達を騙して利用したいだけなんだろ!?

 ふざけるのもいい加減にしろ!!」


人の死をダシにしてまで、こいつが俺達に魔王を殺させたい理由がよくわからない。

とは言え、どうせロクでもない理由に決まっている。

俺は・・・俺達はあんな奴の口車になんて絶対に乗らない!!


しかしそんな俺達の剣幕に少し怯えながらも、クズじじぃは喋るのを止めなかった。


「わ、私の目的がなんであれ、お前達がもうすぐ死ぬ事には変わらぬ。

 魔王の呪いで無いのなら、どうしてあんな若い娘が病気でも事故でも無いのに死んだのだ?」


!! そ、それは・・・。


確かに死ぬ直前までのハジメは健康そのものだった。

普通ならそんな女の子が唐突に命を落とすなんて、絶対にありえない。

そう、普通なら・・・。


じゃあ本当に魔王の呪いで・・・いや、そんなわけあるはずない。

でもじゃあ何でハジメは死んだんだ?

・・・ダメだ、わからない。わからない!!



「運命を変えたくば、魔王を倒し呪いを断ち切るのだ。

 死の呪いを掛けた魔王も、そんな魔王に味方する魔族達も全て根絶やしにするのだ。

 それが出来なければ貴様達は死ぬしかないのだ!! ハーッハッハッハッ。」



語るだけ語った後、クズじじぃは小馬鹿にするような笑いを上げながら去っていた。



「なあ、アカリ。あいつの言ってた事、本当だと思うか?

 魔王の呪いのせいでハジメが死んだとか、俺達ももうすぐ死ぬとか・・・。」


「嘘・・・のはずよ。第一あのおじさんの言う事に証拠なんて何一つ無い。

 ハジメが亡くなったからって、私達ももうすぐ死ぬなんて無茶苦茶だわ。」


客観的に考えるなら、原因は不明だがハジメが突然死んだ・・・ただそれだけだ。

魔王の呪いも、同じ呪いに掛かっているらしい俺達がもうすぐ死ぬなんて話も、無理矢理過ぎる。


全部あいつの嘘だ、そう思いたい・・・思いたいのに、割り切れない。

こんな状況で不安を煽るような事を言われて、メンタルがかき乱されたんだろうか?

心の奥底であいつの言う事は本当なのかもしれない、と感じる程度には。


「・・・もう帰ろう。こんな所で悩んでもしょうがないよ。」


俺の意見に、エルムもアカリも反対しなかった。


********


俺達4人は物心付く頃からずっと一緒にいた。

血が繋がってるかはわからないし、見た目も全然違うけど、手の甲に星マークがあるって共通点があった。


そして何より俺達全員、子供ながらに強力な魔法が使えた。

最初は疑問に思わなかったが、魔物を倒すほどの魔法を使える子供なんて滅多にいないらしい。


俺達が本当に勇者の子供なのかはわからないが、特別な共通点があるのは確かだ。

だからハジメが急死したのなら、俺達がもうすぐ急死するってのもあり得る話だと思う。


あんな奴の言う事なんて嘘だ、騙されるなって気持ちと、このまま何もしなければいずれ死ぬかも・・・って気持ちがせめぎ合う。

何が・・・何が正解なんだ? 教えてくれよ、ハジメ。なぁ?


********


昨日も結局、あまり眠れなかった。

ハジメが死んだショックもあるが、それ以上にこれからどうするべきか、ずっと悩んでいた。

だけどなんとか決断出来た。


「・・・なあ、エルム、アカリ。」


俺は朝食中の二人に声を掛けた。


「どうしたの。ライト?」


「俺・・・魔王を倒す旅に出ようと思うんだ。

 死の呪いを解いて、俺達が救われるために!!」


俺の言葉を聞いたエルムが、口の中の物を噴き出した。

汚ぇ。


「お、お前・・・魔王を倒す旅だなんて正気か?

 あいつの言う事、信じるのかよ??」


別に俺だって、あいつの事を完全に信用したわけじゃない。

したわけじゃない、けど・・・。


「信用したくはないけど・・・さ。

 けど俺達、このまま何もせずにここにいたら、ハジメみたいに死んじゃうんじゃないかって。

 そう思って、な。」


「それは・・・。」


何が真実なのかはわからない。

けど、このまま何もしなければ俺達に未来は無い。

根拠は無いが、そんな想いがどうしても消えなかった。


「ま、あいつの言う事が本当なら、魔王って瀕死なんだろ?

 俺一人でもなんとかなるよ。きっと。

 だからエルム、アカリ・・・留守番は頼んだぜ。」


そう言って俺は立ち上がった。

魔王退治の旅にエルムとアカリを付き合わせる気はなかった。


・・・本当は心細いけど、もしあいつが嘘を付いてたとしたら、無駄に二人を危険に巻き込む事になる。

逆に魔王の呪いの話が本当なら、俺が魔王を倒せば二人も救われるわけだしな。

ところが・・・。


「俺も・・・俺も行く。魔王退治の旅に行く。

 もしあいつの話が本当だったら、こんな所でじっとなんかしていられない!!」


「私も行くわ。・・・このままここで悲しんでるだけじゃ、ダメだと思うの。」


えっと、まさか二人とも魔王を倒しに行く気満々?

って・・・。


「おいおい。俺が言うのも何だけど、あいつの嘘かも知れないんだ。

 もし嘘だったら俺達全員、無駄に危険な目に合うだけなんだぜ!?」


「そん時はそん時さ。もし嘘だったら、魔王じゃなくてあいつをボコりにいこうぜ!!」


「エルムったら・・・。まあ私達、ずっと一緒に頑張って来たじゃない。

 だから魔王退治も皆で頑張りましょうよ、ね。」


いいのかなぁ。

・・・・・・・・・・・・。

・・・ま、いっか。これまでもずっと一緒だったし、な。





こうして俺達三人は魔王退治の旅に出発するのであった。


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読んで頂き、ありがとうございました。

少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思って頂けたら、評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います。

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