第74話 奴隷編③ ケルベロスの魔族
奴隷となった村人達から逃げ回った挙句、謎の建物の敷地内へと入ってしまった俺達。
なので敷地内をうろうろし、この村から抜け出すための道を探っていた。
だけど、出口らしい出口が全然見つからない。
困ったなぁ。
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「おい、アカリ!!
さっきの態度はなんだ!?
何故、戦おうとしない!!」
「レイド。
私・・・私・・・。」
少し状況が落ち着いたからか、レイドが怯えて戦えなかったアカリを問い詰める。
「おい、レイド。
落ち着けって。」
「大怪我を負って戦えない、とかなら止むを得まい。
だがお前は町人達を傷つけるのが嫌だと、そんな甘ったれた理由で戦いを放棄した!!
・・・少しは気持ちもわかる。けど逃げてどうする!?
逃げた所で俺達もあの町人達も、誰も救われないんだ。
だから戦え、戦うんだ!!」
レイドの言う事は完璧に正論だ。
せめて立ち向かって来れない程度には反撃しないと、俺達は理不尽に捕まえられてしまう。
それにあの町人達だって救われない。
こんな事を続けていれば、いずれあいつらは返り討ちに合い、殺されてしまうだろう。
しかし・・・。
「嫌・・・嫌・・・!!」
それでもアカリは頑なに戦いを拒む。
果物村で受けた心の傷はまだ回復していなかったか・・・。
「甘ったれるのもいい加減にしろ!!」
アカリにきつく当たるレイド。
しかしそれまで黙って聞いていたエルムがついにキレ出した。
「おいレイド、そんな言い方はないだろ!!
アカリの気持ちも考えろよ!!」
「何、寝ぼけた事を言ってるんだ。エルム?
アカリがこのまま足を引っ張り続けたら、誰も助からないのだぞ!?
お前だってさっきはアカリのフォローのせいで、満足に戦えなかっただろうが!!」
「仲間なんだから、フォローしあうのは当たり前だろ!!」
「全力で立ち向かって、それでも上手く行かない時はフォローすべきだろう。
だが今のアカリのようにただの甘えで足を引っ張るのは許さん!!」
「なんだと・・・!!」
うわわわ、まずい。
エルムとレイドまで険悪な雰囲気に!?
今は喧嘩なんかしてる場合じゃないのに・・・。
「あわわわ。
どうしよ、どうしよ!?」
・・・しかしどっちの言い分もわかるだけに、割って入り辛い。
「2人とも、喧嘩は後にして。
今は言い争っている場合じゃない。」
「「ユラ・・・。」」
それほど大声を出したわけではないが、どこか抗いがたい迫力がある。
現に先ほどまで言い争っていたエルム・レイドも、やや戸惑った表情でユラを眺めていた。
「今、私達は大ピンチ。
だから仲間同士で争うのはダメ。
せめてピンチを乗り切るまでは手を取り合いましょう。」
ユラの言葉を聞き、どこかバツの悪そうな表情になるエルムとレイド。
「・・・そうだな、悪かった。アカリ、レイド。
声を荒げたりして。」
「俺の方こそキレて悪かった。」
おお、すげぇ。
ユラの奴、レイドとエルムの喧嘩を止めやがった。
「・・・アカリ。
もし戦いたくないのなら、今は戦わなくても構わない。」
「ユラ!!
・・・それは。」
「レイド。今のアカリを無理に戦わせようとしても、きっと失敗する。
いくら正論でも人の心はそう簡単に切り替えれない。」
そうなんだよなぁ。
人の心とは、生きる上で何よりも厄介な障害物であるからして。
「でもせめて、自分の身は自分で守って。
今はエルムの力も必要だから。
そして戦う覚悟が出来たら、一緒に戦って欲しい。」
「うん・・・。」
おお、ユラの奴。
完璧ではないにしろ、皆を上手くまとめやがった!!
「やっぱりユラはしっかりしてるなぁ。
もう俺達のリーダー、ユラでよくね?」
俺達のPTは良くも悪くも上下関係など無い。
とは言え、有事に備えてリーダーくらいは決めといた方が良いかもしれない。
「ううん、私はリーダーになんか向いてない。
誰一人欠けてないから、平静でいられるだけ。」
誰一人欠けてないから、か。
状況は悪いが、俺達はまだ全員無事だ。
「そうだな、よしっ。
皆、今はこの危機を抜け出すために力を合わせようぜ!!」
俺の言葉にうなづく皆。
「・・・ライトの方がリーダー向きじゃん。」
それは無い。
俺は別にしっかりしてないしな。
「「グルルルル・・・。」」
ん・・・何、このうなり声?
「し、侵入者だ。侵入者がやってきた。
こ、殺さないと!!」
「殺さないと私達、主に酷い目に合わされる。
だから、殺さないと!!」
「「グルァアアアアアアアア!!!!」」
な、なんだこいつ等?
ケルベロス・・・の子供!?
けど喋ってる。
ってことはまさか!!
「喋る魔物・・・魔族か!?」
「普通のケルベロスは喋れねーらしいしな。
多分、魔族だろうよ。
・・・でも今まで出会ってきた魔族とは、どっか違うな。」
確かにそうだ。
今まで出会ってきた魔族は、好き勝手に暴れ回っている連中ばかりだった。
例外はフラウだが、フラウともどこか違う。
自分の意志で行動しているように見えない。
「!! あれは隷属の首輪!!
まさかこの魔族達、奴隷にされている!?」
ほ、本当だ。
ユラの言う通り、ケルベロス達の首には隷属の首輪がつけられている。
つまり・・・。
「こいつ等も奴隷・・・なのか?
まさか魔族が奴隷にされているなんて。」
「そ・・・そんな、酷い!!」
隷属の首輪を付けられている魔族・・・。
そういえば、魔王が現れる前の頂上国では当たり前のように魔族が酷使されていたと聞く。
・・・まさか裏で頂上国の連中が手を引いているのか?
「グルァアアアア!!」
戸惑う俺達に向かって、1体のケルベロスが襲い掛かって来た。
うわわ!?
「ホーリー・ナイフ!!」
「ぎゃん!?」
俺はとっさに光のナイフを作り出し、衝撃波をケルベロスにぶつける!!
・・・小さいながらも魔族だし、これくらいじゃ死なないよな。
残りはあと・・・。
「アイアン・ボディ!!」
っな!?
俺の一撃を耐えた、だと!!
アイアン・ボディ・・・おそらく体を鋼鉄化させる魔法だろう。
銀色のケルベロスが、俺に向かって突進してきた。
まずい、避けられない!!
「ぐあっ!!」
くっ・・・苦しい。
敵の突進をもろに腹で受けてしまった。
このまま攻撃を受け続けるのはまずい!!
「ファイア・ナックル!!」
「きゃうん!!」
しかし敵の追撃を食らう前にエルムの炎の拳で殴られ、気を失うケルベロス。
今度こそなんとか倒せたか。
「アイス・レイピア!!」
レイドがもう1体のケルベロスを氷漬けにする。
だが。
「グルブフフフ、ギャオーン!!」
なんとケルベロスは自力で氷を打ち破った。
一時的ながら氷漬けにされたダメージは小さくないものの、まだ戦意を失ってはいない。
「ウインド・ダーツ!!」
「きゃいん!?」
けれど続くユラの追撃には耐えられず、気を失うケルベロス。
どうやらこのケルベロス達、初級魔法では2回攻撃しないと倒せないようだ。
「ライト・・・!!
・・・大丈夫・・・なの?」
「あ、ああ。なんとか。
けどさっきの一撃はかなり効いた。
・・・何発も受けるとまずいかも。」
ボディを効かされた際の鈍い痛みは治まったが、あの一撃はかなり強烈だった。
何度も食らうと倒されるのはこちらの方だろう。
「このケルベロス達・・・中々に強いな。
小さくともさすがは魔族といったところか。」
「けどよ、さすがにもう大丈夫じゃね?
魔族なんてそう何人もいないだろ。」
俺もそう思いたい。
思いたいのだが・・・。
「・・・この屋敷にケルベロスが2人しかいないのであれば、扱いが雑すぎる。
もっとたくさんいる可能性の方が高い。」
そうだよなぁ。
もし魔族があの2人だけだったとしたら、見張りのためだけに使うような真似はしないと思う。
ってことは、あいつらの他にもたくさんのケルベロス達がいるのだろうか?
やばい、やばいよ・・・。
「あんまりグズグズすんのもヤベーな。
早くここから抜け出そうぜ。」
「そうだな。」
「うん。」
「ああ。」
「・・・。」
そして俺達は再び、村から出るための出口を探し始める。。
ちらりと後ろを向くと、そこにはピクピクしながら気絶している2人のケルベロス達が見えた。
「・・・・・・・・・・・・。」
あいつらはまだ生きている。
が、ここでトドメとばかりに初級魔法を撃てば命を奪えるだろう。
後方の憂いを断つ方が俺達にとっても安全なはず。
「・・・・・・。」
・・・いや、やめておこう。
敵は何体いるかわからないのだ。
ムダな攻撃で体力を消耗させるのは避けた方が無難だ。
そして俺は、あの2人を振り切るかのように前を向いて歩き始めた。




