第2話 序章② 魔族と中年男性
主人公達は決して正義のヒーローではありません。
力が強いだけでメンタルは普通の若者です。
「クズめ・・・この俺から逃げられると思うなよ!!!!」
魔物が・・・オーガが・・・しゃべった!?
書物によると、この世界には人の言葉を操る魔物もいるそうだ。
しかしそれはドラゴンなどの限られた種族のみ。
普通のオーガは人語でしゃべったりなんて出来ないはずだが・・・?
「うわわわ、しゃべった、オーガがしゃべった?
私、しゃべる魔物なんて初めて見た・・・凄い、凄い!!」
「感心している場合か。早く逃げないと!!」
オーガと会うのは初めてだが、書物にはビックボアーなどよりもはるかに強い魔物と書いてあった。
しかも目の前にいるのは人語を話す特別なオーガ。
きっと普通のオーガよりも強いに違いない。
「何だ貴様ら・・・今は貴様らなど相手にしている暇は無い。
死にたくなければそこをどけ!!」
「わ、わかりました。さ、行くぞ、ハジメ。」
よ、良かった・・・あのオーガは俺達に関心が無いようだ。
今の内に早く・・・早く・・・逃げないと。
「貴様ら、何をしている!! この程度の魔族から逃げる気か!?
世界のために戦え、戦うのだ!!」
離れた場所から誰かの喚き声が聞こえる。
さっきオーガから逃げ回っていたおっさんの声か?
魔族? 世界のために戦え? 全然意味がわからない。
ただ1つ、はっきりしている事は・・・。
「・・・ライト、あそこにいるおじさん。
オーガと戦えとか言っているけど、どうしよう?」
「ほっとけ。俺達には関係ない。無視しろ。」
別に俺達にはオーガと戦う理由も、おっさんの命令を聞く義務も無い。
巻き込まれる前に距離を置くんだ。
「はっ、通りすがりのガキ共にそんな戯言、通じる訳なかろう、バカめ!!
くたばれ、アース・ハンマー!!」
な・・・あのオーガ、魔法のハンマーを作り出した!?
そしてオーガはおっさん目掛けて、ハンマーを思いっきり振り下ろす。
ドォーン!!
「ひぃぃ!?」
おっさんはすんでの所で直撃を避けたようだが、ハンマーに叩きつけられた地面がえぐれていた。
あんなものを食らったら、死んでしまうかもしれない・・・ヤバい、ヤバすぎる。
急ぎ離れようとする俺だがしかし、いつの間にか接近していたおっさんがしがみついてきた。
やめろ、こっち来んな。俺とハジメが巻き添えになるだろ!!
「き、貴様ら・・・何故、あの魔族と戦わぬ!?
例え敵わぬとも少しでも足止めし、私を守らぬか!!
目上の人間のために全てを尽くすのは世の理だろうが!!」
えっと、目上の人間って・・・まさかこのおっさん?
よく知らないけど、実は偉い人なんだろうか?
薄汚れた服装。
犯罪者のような顔付きに、高圧的な口調。
魔物だらけの森で一人、得体も知れない怪物に追われている姿。
・・・。
「あんたのどこが目上の人間だ!? ただの不審者だろうが。
妄言吐いてねぇでさっさと手を放せ!!」
「ふ、不審者だと・・・この痴れ者が。貴様の目は節穴か!?」
いや・・・節穴って。不審者か犯罪者以外には見えないと思うのだが。
年は上だろうが、こんな怪しい人間の言う事を聞いても百害あって一利なしである。
「え、えーと・・・そ、そうだ、あ、あの、オーガさん。」
「あぁ!!」
ハジメ!?
あんなヤバそうなオーガに何話し掛けてんだ。危ないってば!!
「あのおじさんと何があったかは知らないけど、まずは話し合いましょ?
きっとわかりあえるはずよ。暴力で傷つけるなんて可哀想だわ。」
怯えながらもオーガを説得しようとするハジメ。
・・・通じそうには見えないけどなぁ。
でも知能はあるみたいだし、上手く行けば少しは落ち着いてくれるかも・・・。
「わかりあえるはず? 可哀想??
ふざけた事を抜かすな!!
あんなクズにかける慈悲など一欠片も無いわ!!」
森全てに響くかのような大音量で怒りを露わにするオーガ。
な・・・なんだ、あの憎しみに満ちたかのような声と目は。
怖い、ハンマーで地面をえぐった時よりもずっと怖い。
まずいまずいまずい、これ以上あいつ等と関わるべきじゃない。
「お、おい、ハジメ。あのオーガはこのおっさんを相当恨んでいるみたいだ。
これ以上は俺達の出る幕じゃない、早く逃げよう。」
「で、でも・・・だけど、もしあのオーガさんの方が被害者だとしたら・・・。
一体どうすれば良いの?」
「何悩んでんだよハジメ。急げ、急ぐんだ。
早くしないと、何も知らないエルム達まで巻き添えになっちまう。」
「!! そうね!
おじさんも心配だけど・・・まずはエルムとアカリに知らせなきゃ。」
この期に及んでまだこんなおっさんが心配のようだが、さすがにエルム達を優先したようだ。
そうと決まれば、早くエルム達と合流するんだ・・・。
「ま、待て。何故逃げようとする!?
このような邪悪な存在に背を向けるとは、お前達には人としての誇りが無いのか!!」
うわ、このおっさん・・・まだしがみついてんのかよ。
振りほどこうとするも、向こうも必死だからか中々上手く行かない。
「何が誇りだ。意味不明な戯言ばっかほざいてんじゃねぇ。
・・・大体あんた、なんであのオーガからあんなに恨まれてるんだ?」
「う、うるさい。あんな薄汚い魔族の心情など知った事か。」
そもそもこんな弱そうなおっさんが、あんな強そうなオーガに恨み買うような事、出来るのだろうか?
ま・・・まさか!!
「さてはおっさん・・・あのオーガのご飯を盗み食いしたな!?
だからあれほど憎まれている。そうだろ!!」
「「「はぁ!?」」」
あ、あれ。違った?
おっさんどころか、ハジメやオーガにまで呆れられているような・・・。
けど、食い物の恨み以外の動機なんてあるのだろうか?
「バカめ、あのような下等生物の食い物など盗むものか。
見くびるなよ、この愚か者が!!」
・・・いや、下等生物って。凄い口悪いなおっさん。
ってか、火に油注ぐような真似すんなよ。
「・・・もう許さん。このクズが。
そこのガキごと、ぶっ殺してくれる!!」
そう叫びながら、オーガがハンマーを大きく振りかざす。
マジでヤバい、おっさんがしがみついているせいで攻撃も回避も出来ない。
早く・・・早く振りほどかないと!!
「死ねーーーー!!!!」
叫び声と共にオーガはアース・ハンマーを大きく振りかぶった。