第1話 序章① 4人の日常
ライト、ライト・・・。
もう朝よ、早く起きなさい。
「ん、んー・・・。」
「あらあら、やっと起きたわね・・・どうしたの?
なんだかずいぶん寝ぼけた顔ね。」
目が覚めるとそこには奇妙な悪魔の代わりに、黒髪の美少女・・・ハジメがいた。
「・・・おはよう。ハジメ。
変な夢のせいで、ちょっとボンヤリしてた。」
「まあまあ、一体どんな夢を見てたの?」
「知らない研究所の中で、ずっとボーっとしてた夢。
けどさ、突然奇妙な悪魔が出て来てさ。
妙な事を言いながら、よくわからない魔法を使ってきたんだ。」
支離滅裂な状況だけど、まあ夢だしな。
てっきり笑われるかと思ったけど、何故かハジメは少し驚いた表情をしている。
「ライトも見たの!? 研究所の夢。私もたまにだけど見るの。
そこには私によく似た女の子も出てくるのよ・・・姉妹かしら?」
ハジメまで謎の研究所の夢を見るのか。
妙な引っ掛かりを感じるなぁ。
「ライトー、ハジメー。
もう朝ごはん出来てるわよー。
早く降りて来なさい。」
「あ、はーい。
ほらほら、アカリも呼んでるわよ。
早く朝ごはん食べましょ。」
「お、おう。」
・・・まあいっか。
とりあえず、朝ごはん食べよっと。
********
俺・・・ライトと、一緒に生活しているハジメ、エルム、アカリの3人には親がいない。
小さい頃の事もよく覚えていない。
捨て子なんだろうか・・・物心付く頃には魔物が出る森の中にいた。
けど俺達4人は強力な魔法が使えたから、魔物を狩ってお金を稼ぐ事が出来た。
失敗も多かったけど、今は近くの小さな町で小さな一軒家を購入し、4人で平和に暮らしている。
今日も俺達は魔物を狩りにいつもの森に出かけていた。
薄暗いし、魔物もよく出るから、町の人達にとっては恐ろしい場所だろう。
しかし俺達にとっては、町で暮らす前から過ごしてきた馴染みの森だ。
「「ブモーーーー。」」
ビックボアーが2体、こちらに向かって突進してくる。
ビックボアーは大きな猪の魔物で、普通の猪よりも大きくて凶暴だ。
もし、普通の人間がこいつの突進を食らったら、ひとたまりもないだろう。
戦い慣れた俺達でも、まともに食らうと少し危ない。
だけど・・・。
「くらえ、ファイア・ナックル」
「ブヒャー!!!!」
赤毛の少年、エルムの得意魔法であるファイア・ナックルをくらい、1体のビックボアーがあっけなく倒される。
ファイア・ナックルは炎の力を拳に宿す魔法で、飛び道具のように炎を飛ばす事も出来る。
「いくわよ、サンダー・スティック」
「プギャー!!!!」
金髪の少女、アカリの得意魔法であるサンダー・スティックが炸裂し、もう1体のビックボアーも絶命する。
サンダー・スティックは雷を放つ棒を作り出す魔法だ。
棒から放たれる雷は並の魔物なら一撃で倒すほどの威力がある。
エルムもアカリも、そして俺もビックボアー程度なら魔法一撃で倒せる。
俺達からすればこの森の魔物なんて、ただの獲物でしかなかった。
とは、言うものの・・・。
「ちょっとエルム。直接殴らないで、遠くから攻撃しなさいよ。
いくら相手がビックボアーでも危ないでしょ!!」
「だって、直接殴って倒す方が気持ち良いじゃん。
遠くから攻撃するより威力出るし。」
「ビックボアーくらいなら、遠くから攻撃しても一撃でしょうが。
油断するとまた怪我するわよ!!」
・・・また始まった。
ヤンチャなエルムと、おせっかいなアカリはすぐこうやって言い争いを始める。
仲が良いんだか、悪いんだか。
「まあまあ、言い争ってないで早く解体しようよ。」
「そうね。全くエルムったらいつまで経ってもバカなんだから。
・・・それにしても、今日は全然モンスターが見つからないわね。」
「バカとはなんだ、バカとは!!
・・・けど確かにモンスターと出会わねぇなぁ。」
そう言えば、今日はモンスターと全然出会わない。
俺達は頻繁にこの森で狩りをしているが、前来た時は普通にモンスターを見かけた。
ちょっと日が経ったくらいで、森の生態系が変わるとは思えないけど・・・。
「じゃあ、俺とハジメで他にモンスターがいないか探してみるよ。
エルムとアカリはさっき倒したビックボアー達を解体しといて。」
「え、うーん・・・まあ、ハジメがいるから大丈夫かしら?
ハジメ、ライトがバカやらないようにしっかり見張っとくのよ。」
「はいはい、りょーかい。」
・・・なんで俺、エルムと同じように見られてるんだ?
解せぬ。
モンスターを探すため、俺はハジメと二人で森を歩き回っていた。
「ったくアカリの奴、俺とエルムを一緒にするなよな?
あんなアホな事、やらねーっての。」
「まあまあ、怒らない怒らない。
アカリからしたら、ライトもエルムも危なっかしく見えちゃうのよ。」
「アカリは心配性だからなぁ。」
バサバサバサバサ。
カー、カー、カー。
「な、なんだ!?」
雑談しながら歩いていると、突然森が騒ぎ出した。
少し驚いて辺りを見回すと、遠くで見慣れないおっさんが何かから逃げるように走っている。
40歳前後だろうか。中肉中背だがヤクザのような目つきをしており、危険人物のように見える。
この森には少数ながら、俺達のように魔物狩りにやってくる人達もいる。
しかしそのおっさんは武器も、狩った魔物を持ち運ぶ入れ物も持っていなかった。
「狩りに来た人・・・には見えないわね、あのおじさん。
あら、あらあら? 私達に気付いたみたい。こっちに近づいてくるわ!!」
ハジメの言う通り、俺達に気付いたおっさんはこちらに向かって走って来た。
助けを求めてる・・・?
それならまだ良いが、あの見た目なら誘拐や強盗目的で近づいているのかもしれない。
「気を付けろ、ハジメ!!
あのおっさん、もしかしたらヤバい犯罪者かもしれない。」
「う、うん。」
慣れた森だからって軽い気持ちでいたら、こんな事になるなんて。
だけどハジメは俺が守らなきゃ・・・。
しかしおっさんは身構える俺達を見向きもせず、通り抜けた。
??? なんで?
ズシーン、ズシーン。
な、なんだ・・・この大きな怪獣が行進するかのような足音は?
おかしい。この森でこんなに大きな足音を鳴らす魔物なんていないはず。
「ライト、あれ!!」
ハジメの叫びを聞き、足音がする方を振り向くと、そこには巨大なオーガが立っていた。
「クズめ・・・この俺から逃げられると思うなよ!!!!」
魔物が・・・オーガが・・・しゃべった!?




