第289話 最終決戦⑰ 始まりの魔族の真意
「あのね、ヒノラーから聞いたんだ。
昔、幼い頃の僕らをカオスがね。
見逃した本当の理由はさ・・・。」
へ?
「自分達と同じ運命を背負った幼子を殺したくなかったからだって。」
え・・・え~っと。
「!!??」
「もしかしたら将来、強大な敵になるかもって、わかっていながらさぁ。
それでも情を捨てきれずに見逃しおって、腹立たしい奴め!!
・・・って、ヒノラー。めっちゃ怒ってたよ。」
マジで?
「かかか・・・勝手に決めつけるなっ・・・・・・。
そ、そんなのヒノラーの決め付けでは。
・・・ない、か。」
「滅茶苦茶、動揺してるじゃね~か。」
この態度からすると、本気でそんな理由で俺達を見逃したのか!?
いくらなんでも非合理的・・・。
いや。
「でもおかしな話じゃないのか。
確かに『血も涙もない悪魔』として見るなら、カオスの行動は意味不明だけどさぁ。
『一人の人間』として見るなら、特に不思議じゃないんだよな。」
「あ、そっか~。
大人が『幼子を殺すなんて嫌だ!!』って、思っちゃうくらいねぇ。
ふっつ~にあり得る話だもの。」
ミライの言う通りだ。
確かに人間、決して綺麗な連中ばかりじゃない。
しかしだからと言って『目的のためなら、幼子すら平気で殺せます』なんつ~考えの奴はさすがに少数派じゃないだろうか。
「じゃ、カオスが俺達を度々、見逃してたのもさぁ。
単に俺らを殺すのが嫌だったからなんか!?
・・・マジか~。」
改めて思い直すと、カオス自身が俺達に殺意剥き出しだったのは、今回の戦闘1度きりかも。
「あとクラリーやランスをわざわざ伝説大陸へ送ったのもさぁ。
カオスなりにあの子達を助けたかったからかしら・・・。」
「なんだったらエリスの事も死なせないよう、配慮してたんじゃない?」
「・・・・・・。」
こいつ、そっぽ向いてやがる。
図星か。
「ま~、勇者や人魚なんかにも可能な限り、手を差し伸べてたからね~。
よその大陸に出て行った魔族達の事も度々、フォローしに行ってたし。」
「レット!?
推測で物事を語るなっ!!」
・・・なんかやたらといろんな場所で出会うと思ったら、そういう理由だったんかい。
「魔王になる前の父さんもよく話してましたからね。
カオスさんは能力こそ高いけど、兵士としては優しすぎるのが欠点だって。
俺が子供の頃はそんな強くて優しいあなたを尊敬してたのですが。」
「昔の話だ!!」
暴露話を聞いてからだと、本当に『昔の話』なのかは凄く疑問だが。
とは言え、今のカオスは決して純粋な善人なんかじゃないだろう。
当然の権利ながらも、復讐相手にはドン引きするような報復を行うしさぁ・・・。
仲間が罪の無い人々を殺し回っても、我関さずで静観してるしさぁ・・・。
なんだったら他の魔族が俺達を殺める分には、それも運命だと考えてた節さえある。
・・・一方、自らの意志で罪の無い人々を殺める事は一度だって無かった。
仲間以外の相手ですら、情を抱けば、悪態を吐きつつも可能な範囲でフォローを行っていた。
良くも悪くも善にも悪にもなり切れない、迷ってばかりの半グレ野郎って感じか。
高い実力と冷酷すぎる容姿のせいで、騙されそうになるが。
「しっかしそれでよく他の魔族から制裁を受けなかったね~。
ヒノラー辺りからぶん殴られなかったの?」
別に表立って他の魔族の妨害をしてた訳じゃないし、本人もそんなつもりはなかったのだろう。
だとしてもヒノラーのようにカオスの甘さを苦々しく思ってる輩は少なからずいたはずだ。
もっともカオスは強すぎる上、『ワープ』という究極の逃走手段もあるので、制裁を与える事自体、難しそうではあるが。
「カオスったら、情のせいで危険分子を見逃す悪癖はあるけどさぁ。
代わりに功績も無視出来ないくらい、大きいのよね~♪
だから周りの魔族も彼の扱いには悩んでたわ。」
「そ~なの?」
「そ~よ。昔、勇者にトドメを刺されそうだった魔王を間一髪、救ったのはカオスだもの。
他にも頂上国の残党の大半は彼が見つけ出してくれたしさぁ。
聖女エリスの情報を掴んだのも彼の功績なのよね♪」
そう聞くと、確かに魔族に対しての貢献度が滅茶苦茶高いわ。
そりゃ扱いに困るか。
「つまりカオスは余裕ぶっこいた挙句、俺達を見逃し、足元を掬われたんじゃなかったのか。
単に必死で悪役ぶってるだけのお人好しだったんだ。」
「貴様ぁああああ!!!!
人をおちょくるのも大概にしろーーーー!!!!」
おちょくってんじゃなくて、冷静に分析しただけなんだが。
「はぁ。だがいくらかは貴様らの言う通りだ。
所詮、私が渇望していたのは頂上国への復讐のみ。
どれだけ憎しみを募らせようと、それ以外に己の望むものが何かさえわからなかった。」
カオス・・・。
って、お前なぁ。
この後に及んで『いくらか』なんつって、誤魔化すなよ。
ほぼほぼ、俺達の指摘通りだろうが。
「・・・そして心に迷いを抱えた末、様々な魔族の生き様を見届けに向かう事もあった。
そうすれば己の望む生き方が見つかるかもと思い、な。」
「だからあなた、フェイク達やガイアの周りをウロチョロしてたのねぇ。」
「なるほど。
ガウリンの語っていた『高い能力を持ちながら、迷いばかり抱える魔族』とはカオス・・・。
お前の事だったのか。雰囲気に惑わされ、気付けなかったわ。」
・・・こいつ、良い年して思春期でも拗らせてたんだろうか?
それでも何も考えずに『もう人生に絶望した。こんな世界、ぶっ壊してやる!!』ってなるよか、数百倍はマシだが。
もしカオスがんな思考ならマジでこの世界、滅んでたかもしれないと思うと、相当やばい状況だったんだなぁ。
「しかし己の迷いなぞ魔王・・・いや、ゼロさんにはお見通しだったようだ。
だから私は他の魔族のようにあの方に取り込まれなかった。
挙句、もう部下でも仲間でもないと愛想を尽かされてしまった・・・。」
なんか活躍してたにも関わらず、上司から理不尽に追い出されました~。
・・・みたいに聞こえなくもないなぁ。
不条理なのか、残等なのか。
「だがあの方の言う通り、既に私達の道は違えたのだ。
これからは自らの心の赴くまま、生きていくとしよう。
魔族ではなく、一人の人間として・・・な。」
けれどカオスに魔王や魔族に対する確執は微塵も感じられない。
紆余曲折あって、どこか吹っ切れたようにも感じる。
そしてこうなる事を願い、魔王の魂は・・・。
「では、カオスさん。
もう誰かを傷付けたりは・・・。」
「・・・既に私の復讐は完結しているのだ。
少なくとも自分から他者に害を加える気はない。
そんな事など、始めから望んでなかったのだから。」
「カオスさん!!
ようやく昔の優しいあなたに戻ったのですね・・・。」
「勘違いするな、アレン。
単に興が沸かぬだけだ。」
だがどちらにせよ、これで生き残った魔族達に世界を仇成す気がない事ははっきりした。
もう俺達と魔族が争う理由は無くなったのだ。
「・・・そういう事でしたら。」
「む!?
聖女エリス・・・。」
「あなた達に思う所が無い訳ではありません。
・・・それでもカオスさん達のおかげで、私自身の復讐を果たせたのも事実です。
そのお礼だとでも思って下さい。」
話がまとまったや否や、エリスがカオス達に回復魔法を掛ける。
そうしたのも聖女だからではなく、彼女自身の意志なのだろう。
「・・・もう十分だ。聖女よ。
ではこれで話は終わりだ。
これからハオガー達にもダイチから貰った『薬』を配ってやるとしよう。」
「じゃ~ね~♪」
そしてカオスは『ワープ』の魔法の準備に取り掛かる。
「最後にライトよ。かつては人の親だった者からの忠告だ。
せっかく人間に戻れたのなら、実の親である光の剣士に会いに行くと良い。
親はいつだって、子の無事を願うものなのだから。」
・・・・・・・・・・・・。
えっ、えっ、えっ!!??
「ではさらばだ!!」
「ちょま!?」
だが俺の静止も虚しく、カオスら6人の魔族は『ワープ』の魔法によって、魔大陸から去って行った。
本人の言う通り、ダイチの『薬』を渡すためハオガー達の所へ向かったのだろう。
しかし今はそれどころじゃない!!
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「親子揃って、故郷のために命を捨てて戦うか。
尻尾を巻いて逃げれば良いものを、泣かせる話ではないか。
ライトよ。」
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・・・確かにカオスの野郎。
武術大陸でそう、ほざいてたな。
あの時は光の剣士とヒカルを揶揄してるとばかり思ってたが。
じゃなくて俺と光の剣士が実の親子だと知ってて、皮肉ってたのかよ!?
「こらこら、ラ~イト。
光の剣士について、あれこれ考えるのは後にしましょ~よ?
今は皆、無事だった事を喜び合いましょ♪」
・・・・・・・・・・・・。
「それもそ~だな。
そしてよ~やく長く苦しい戦いも終わったんだよな!!」
色々あったが世界滅亡を事前に防げた上、勇者の子供の『いつ死ぬかわからない問題』も解決の目途が立った。
これを喜ばずして、なんだと言うのだ。
「いやいや。ライト、ミライ。
まだ安心してばかりもいられないよ。
早く竜の山へ戻らないと、フラウやハル達が心配だ!!」
あっ!?
そうだった!!
「だな。まずは竜の山へ向かうのが最優先だろう。
だがフラウ達の無事を見届けた後は武術大陸へ報告に行きたい。」
「クラリーやランスにも無事を伝えないとね♪」
「アネコさんやエリトさんにも会いたいな。」
「だなぁ。
さっさと諸々を終わらせて、ゆっくりしよ~ぜ!!」
・・・う~ん。
まだやる事がそこそこ残ってるなぁ。
「じゃ~とりあえずは竜の山に向かって出発かしら~?
どんな所かな~。」
「そっか。ミライはまだ行った事がなかったか。
とにかくフェニス。
俺達を竜の山まで運んでくれーーーー!!!!」
「クエェエエエエエエエエ!!!!!!!!」
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「じゃあまた後でな。」
「ああっ。
父さんを埋葬したら、エリスやコクウと一緒に竜の山へ向かうよ。」
魔王の埋葬のため残った勇者達へ一時の別れを告げて。
俺達は魔大陸を後にした。
一息付くにはまだ早いが、もう旅のゴールは見え掛かっていると。
それだけは実感しつつあった。




