第279話 最終決戦⑦ レイドVSガウリン
Side ~レイド~
今、勇者の子供は上級魔族と死闘を繰り広げている。
俺もリザードマンの遺伝子を持つ上級魔族ガウリンと1VS1のバトルを行っていた。
「ギガ・アイス・スピアー!!」
「SYAAAAAAAA!!!!!!!!」
「ギガ・ダイヤ・ロングソード!!」
「GAOOOOOOOO!!!!!!!!」
俺が冷気を秘めた槍から巨大な氷の鮫を生成し、突撃させる。
一方、ガウリンが長剣から金剛石の獅子を生成し、突撃させる。
だが競り勝ったのは金剛石の獅子だった。
「ちっ。」
回避が間に合ったため、余波による多少のダメージで済んだのは救いか。
しかし単純な力のぶつかり合いではやや分が悪いようだ。
氷と金剛石では、金剛石の方が相性的に有利なのもあるだろう。
・・・人魚の時もそうだが、俺は相性があまり良くない相手とマッチングしやすい傾向にある。
だがそんな事を言い訳になど出来ぬ。
世界を守るためにも、必ず勝たねばならぬのだから。
「はぁああああああああ!!!!!!!!」
俺は神経を集中させながら、氷の槍を地面に突き刺す。
これまでの俺は氷魔法で地面を凍らせ、相手を翻弄する戦法をよく行っていた。
が、数多の修行や実戦で磨き上げられたものはパワーだけに限らない。
「なぬっ!?」
俺は地面そのものではなく、ガウリンの足元だけを狙い、ピンポイントに凍らせる。
結果、一瞬だが奴の動きを封じる事に成功した。
「食らえっ!!」
チャンスとばかりに俺は大きな氷塊を生成し、ガウリンへ向かって飛ばす。
「拙者にそんな小細工なぞ通じぬわ!!」
だがガウリンは持っている長剣で氷塊を叩き割ってしまう。
さすがに一筋縄ではいかぬか。
「魔王様の邪魔ばかりする、忌まわしき勇者の子供め。
拙者が全員、始末してくれよう!!」
「・・・随分と魔王への忠誠心が高いようだな。
あんな怒りに囚われるばかりの愚か者のためにご苦労な事だ。」
「貴様っ・・・。
魔王様への侮辱は許さんぞ!!」
おそらく魔王も頂上国によって虐げられ、強き恨みや憎しみを抱いてしまったのだろう。
だがだからと言って、無関係な者にまで害を成すなど、愚か者のする事だ。
フェイクやガイア達が犯した愚行となんら変わらぬわ。
「そんな者に盲目的に従う貴様もまた、愚か者の1人だ。」
「ハッ。青臭い小僧の戯言なぞ聞く耳持たぬわ。
・・・例え魔王様がどのような道を歩もうが、拙者はかの方の意志に従うのみ。
それが大恩ある魔王様に報いるただ1つの方法よ。」
「大恩だと?」
「そうだ。騎士でありながら、頂上国の手から故郷を守る事さえ叶わず・・・。
挙句、奴らの手で人外に成り果て、隷属の首輪のせいで故郷の仇に従うしかなかった拙者を魔王様は救って下さった。
だから拙者は第2の主である魔王様の元で、騎士としての役目を全うすると誓ったのだ!!」
なるほど。
それがガウリンが魔王に尽くす理由か。
「ほう・・・。
素晴らしい決意ではないか。
自らの主が八つ当たりで世界を壊そうと企む愚者でなければな!!」
「世界の行く末など知らぬわ。
自らの仕える者が善であれ、悪であれ、騎士ならば迷う事なく従うべきなのだ!!
・・・それとも『奴』のように高い能力を持ちながら、迷いばかり抱える者の方が素晴らしいというのか?」
「何・・・?」
誰の事を言っているのだ?
「心に迷いを抱え、潜在的な脅威を見逃してばかりの愚か者の事よ!!
『奴』が本気を出せば、貴様らのような邪魔者の出る幕すらなく、魔王様の望みは叶えられたはずだ。
・・・おそらく『奴』本人もわかってるのだろうな。
己の下らぬ情が魔王様の野望の・・・世界滅亡の妨げになってると!!」
・・・きっと魔族の誰かだとは思うが、どうやら迷いを抱えている者がいるようだ。
しかもその者の迷いが結果的に世界滅亡をぎりぎりの所で押し留めていたとは。
「迷いなど単なる足踏み。弱者の愚行と考えていたが・・・。
だが人は迷うからこそ、新たな可能性を切り開けるかもしれぬな。
・・・迷い無き強者には切り開けぬ道を。」
旅に出る前の俺は弱きは悪、強さこそ正義だと信じていた。
が、世の中はそう単純には出来ていないようだ。
時には弱さや迷いが希望に繋がる事もある、か。
・・・。
「だがガウリンよ。
今の俺に迷いはない。
必ずお前を倒し、世界滅亡を食い止めてみせる!!」
「やってみるが良い!!
小僧風情がっ。」
ガウリンは強い。
だがそれはこれまで人々を苦しめてきた魔族達と同じで、間違った強さだ。
だからこそ俺は奴を止めてみせる!!
「はぁああああああああ!!!!!!!!」
再び、地面に氷の槍を突き刺し、今度は何本もの氷の柱を作り出す。
「ぬ・・・。
柱が邪魔でレイドの居場所が分からぬ。
・・・目くらましのつもりか!?」
残念だが、それだけではないぞ。
「食らえ!!」
「!!??
ぐぁああああああああ!!!!」
戸惑っている奴に向かって、俺は数多の氷塊を飛ばし、命中させる。
「何故、上から氷塊が・・・。
って、貴様!?
柱の上に乗っていたとは。」
「そうだ。」
先ほど作り出した何本もの氷の柱は、柱を利用し、敵から己の位置を隠すためのものだ。
だが俺は柱の陰に隠れるのではなく、作り出した柱の一本に乗っていたのだ。
そして地に足付けていると錯覚した相手に頭上から氷塊を叩き付けたのだ。
まずは一本取ったがこういう展開の後、相手が次にどのような行動を取るかは大体予測が付く。
「調子に乗るなーーーーーーーー!!!!」
「GAOOOOOOOO!!!!!!!!」
俺の予測通り、ガウリンは俺の作り出した氷の柱を全て破壊する。
これで俺は頭上から攻撃を当てる事が出来なくなった。
「ハハハ・・・。
これで終わりだ!!」
「それはどうかな?」
「なっ!!
があっ!?」
俺は死角からガウリンに迫り、氷の槍を直接叩き付ける。
以前の師匠との試合の時も、こうやって氷の上から攻撃を行うと、相手は土台ごと潰しに掛かってきた。
だからガウリンも同じような行動を取ると、予測が付いたのだ。
故にガウリンからの反撃がきそうな瞬間、俺は素早く氷の柱から飛び降りた。
更に奴が柱を壊す事を意識している隙に接近し、槍による直接攻撃を成功させたのだ。
「・・・あ・・・ぐ。
貴様あっ。」
ガウリンが長剣で反撃を試みるも、余裕をもって回避する。
先ほどの一撃が相当効いているのか、奴の動きはかなり鈍っていた。
だが。
「いい加減にしろーーーーーーーー!!!!!!!!
この小僧がぁああああああああ!!!!」
長剣そのものの間合いからは外れているものの、魔法によって作り出された武器である以上、当然ながら遠距離攻撃も行える。
直接斬る事は叶わぬと悟った奴は数多の金剛石の礫を生成し、俺に向かって飛ばしてきたのだ。
「ぐあぁああああああああ!!??」
直に長剣で斬られるよりははるかにマシだが、金剛石による攻撃の威力は凄まじい。
相手との距離が近かったのもあり、俺はガウリンの反撃をまともに食らい、かなりのダメージを受けてしまった。
しかし。
「ぐ・・・う・・・。
負ける、ものかあっ!!」
ここで俺が負ければ、ガウリンは仲間を害を成し、魔王に組する。
結果、俺達は全滅し、世界中の人々に魔王の手が・・・。
そんな結末だけは絶対に許されん!!
「う・・・く・・・。」
それにガウリンもかなりのダメージを負っている。
この勝負、より意志の強い方が勝つ!!
「うぉおおおおおおおおお!!!!」
だから俺は相手から距離を置くのではなく、再びガウリンに向かって突撃した。
「ぬうっ!?」
「はあっ!!」
そして奴が大剣で迎え撃つ前に、奴の頭に氷の槍を全力で叩き付けたのだ!!
「がっ!?
ぁ・・・。」
さすがのガウリンも俺の渾身の一撃を耐える事は出来ず、とうとう崩れ落ちた。
********
「む・・・無念・・・。」
「いくら貴様でもしばらくは起き上がれまい。
・・・では次の戦いへ向かうとするか。」
俺が受けたダメージも決して小さくはない。
だが戦いはまだ終わっていない。
だから立ち止まる訳にはいかぬのだ。
こうして俺がこの場を後にしようとした正にその時、唐突にガウリンの体が光り出す!!
「!!??
これは一体・・・。」
「ハハハ・・・。
これは魔王様が拙者達の肉体を取り込み、より強大な存在へ化すための魔法だ。
・・・貴様から受けたダメージが大きい故、あまり力になれぬのが悔しいが。」
何っ!!
「まさか魔王は忠義を尽くす貴様をも強引に取り込む気か!?」
「勘違いするな・・・。
この魔王様の魔法はかの方と意志を同じくする者。
そして吸収される事を承知した者しか取り込まれぬ。
・・・つまり魔王様に吸収されたとて、それは吸収される者の意志なのだ!!」
「なんだと!?
何故、それを知っていながら・・・。」
わからない。
俺にはガウリンの気持ちがわからない。
「それが拙者の・・・魔王様への忠義だからだ。
・・・これで魔王様も『奴』より拙者を認めてくれるだろうか?
魔王様と『奴』の絆を超える事が出来ただろうか??」
「ガウリン・・・。
お前。」
「・・・ふっ。我ながらなんと見苦しい嫉妬か。
結局は拙者も愚かな情を捨てきれぬよう・・・だ。
これでは『奴』の事をバカに出来ぬ、な。」
その言葉を最後にガウリンは光となって飛び去った。
おそらくは魔王の方へ。
・・・。
主に忠誠を誓う騎士とは素晴らしいものかもしれぬ。
だがそれでもガウリン、お前は間違っている。
主がどのような非道を企もうが、喜々として従うお前は間違っている!!
だから。
「ガウリン・・・そして魔王よ。
俺達はお前達の『間違った強さ』を超えてみせる。
『正しき強さ』で超えてみせる!!」
その果てに証明してみせるのだ。
本当の強さは何かを・・・。




