第249話 聖女編⑯ 最強の魔族
Side ~カオス~
天空国を滅ぼし、ヒノラー達とブラックを魔王の元へ送った後。
私は生き残った魔族達へ、魔王が間もなく復活する事を伝え回っていた。
魔族の中にはハオガーやフェイクのように好きに生きたいからと、外へ出て行った者も少なくない。
とは言え、魔大陸で生きる魔族の方が多く、奴らは魔王が復活する日を待ち続けている。
しかしどのような日々を送るかは魔族次第だ。
静かに日々を送る者。
外敵から瀕死の魔王を守る者。
魔大陸に残る頂上国の残党を狩り続ける者。
頂上国云々を問わず、人や魔物を傷付け回る者。
実に様々だ。
その中には特殊な役割を持つが故に、ほぼ他者と交わる事なく日々を過ごす者もいる。
私はそんな内の1人、天使の遺伝子を持つ上級魔族ルシフの元を訪れていた。
********
「やあ、カオス。」
「久しぶりだねー。」
「ルシフ!?
貴様、珍しく起きていると思えば・・・。」
「しょうがないじゃん。」
「僕だって魔族なんだから。」
「で、何の用?」
久しぶりに会ったルシフの姿に動揺しつつも、魔王が間もなく復活するであろう事を伝える。
「へー。すごいじゃん!!」
「でも残念だけどさぁ。」
「僕は魔王の元へ行けそうにないや。」
「・・・。
止むを得まい。」
可能ならば、ルシフも魔王の元へ連れて行きたかった。
が、もう何人たりとも奴をこの場から離す事は出来まい。
「うっ!!
まお・・・う・・・。」
「うわっ。超久しぶりに声を聞いたよ。」
「でも君は逃がさないよ。」
「悪いけど、それが僕のお仕事だからねー。」
ルシフは魔族の本拠地から少し離れた場所で、瀕死の勇者を監視する役目を担っている。
かつて勇者の手で魔王は倒され、あの方は死ぬ寸前まで追い詰められた。
だが一方、勇者も相当な重傷を負っていた。
それでも魔王にトドメを刺そうとする勇者を、私は不意を突いて倒した。
・・・しかし勇者はまだ生きていた。
私は瀕死の勇者を気まぐれに匿い、捨てられたペットを世話するかのようなノリで生かした。
しかしそれがヒノラーにバレてしまい、な。
ヒノラー達は殺せと息巻くは、魔王は怒り狂うわで、あの時は肝が冷えたわ。
だからこう説得し、命だけは見逃して貰ったのだ。
ここで殺すよりも、生かして我らが世界を破壊する様を見せ付けた方がより勇者を苦しめられる、と。
そして念のためにと、勇者はミリアの植物魔法で封印が施された。
その上でルシフを見張りとして配置した、という経緯だ。
私が奴の見張りをしても良かったのだが、周りからの反対が酷くてな。
「ま、魔王が復活するまでの間くらいなら、大丈夫さ。」
「勇者はちゃーんと見張ってるから、安心して良いよ。」
「魔王やカオスには恩があるからね。それに報いる程度の働きは見せるって。」
ルシフの言う魔王への恩義は他の魔族同様、隷属の首輪を破壊し、頂上国による支配から解き放った事だ。
一方、私への恩義とはルシフの直接の仇を見つけだし、奴の前へ差し出した事だ。
ただ仇を討った後のルシフは目的を失い、気力を無くしてしまってな。
勇者の見張りを申し出たのも、単に楽が出来るからだと話していた。
「わかった。
引き続き、見張りを頼む。」
「それに僕は勇者や魔王の次に強いんだよー。」
「死に掛けの勇者や、そんな奴に拘るような連中如きに負けないもん。」
「勇者や魔王以外で僕に勝てる奴なんて、ワンチャンフェイクくらいさ。」
奴自身の言う通り、ルシフは上級魔族の中でも最強。
その実力は圧倒的だ。
仮に他の上級魔族全員がルシフへ挑んでも、勝率は五分だと噂されるほどに。
わずかでもルシフに勝てる可能性があるのはフェイクくらいだろう。
あいつは素のフィジカルこそ上級魔族に遠く及ばぬが、コピー魔法が凶悪すぎるからな。
もしも勇者や魔王の力をコピーなどしては、私ですら奴に勝てぬ。
とは言え、ルシフもフェイクも他の魔族と争う意志など無い。
自由に振る舞えるなら、それで満足するタイプ故に。
・・・他の魔族も似たようなものだが。
「貴様の実力は十分に理解している。
勇者の子供でも来ぬ限り、決して負けはしないだろう。」
「あー。僕の事、バカにしてるー?」
「僕なら勇者の子供になんて負けないもん!!」
「仮にそんな奴らが攻めて来ても、返り討ちにしてやるんだからね。」
ルシフを侮るつもりはないが、今の勇者の子供は強すぎるからな。
ただまあ空でも飛べぬ限り、奴らがこの魔大陸へ来る事などありえぬ。
なにせ他の大陸の船乗り共は魔大陸を怖れ、船を出そうともしない。
魔大陸にある船も頂上国の残党が逃げ出すのを防ぐため、徹底的に破壊し尽くしている。
なので船を使って魔大陸を行き来するのは不可能だ。
しかしそれでもかつては魔大陸から他の大陸へ行き来する手段もあった。
他でもない頂上国の王族共が緊急避難用の転送装置を所持していたからだ。
これも神人族の遺産の1つで、闇大陸の研究所へと繋がっていた。
私が10年以上も前、これを発見した時はどれほど怒り狂った事か。
こんなものがあるせいで、ブラック含む頂上国の残党のいくらかが逃げ延びたのだから。
だがその転送装置もとっくに破壊済。
今となってはこの大陸へ行く事も抜け出す事も叶わぬ。
「まあ、貴様の事情はわかった。
魔王やヒノラー達には伝えておこう。」
「よろしくねー。」
「じゃ、僕は勇者をダラダラと見張ってるよー。」
「いつかこの世から消えちゃうまではねー。」
・・・。
物思いに耽っても仕方あるまい。
他の連中にも魔王復活を知らせ回るとするか。
「まお・・・う・・・。
とう・・・さん・・・。」
********
その後、魔大陸の外にいる魔族へも魔王復活の件を伝えた。
ハオガー一派とフラウ達しかいないが。
ハオガー一派はその事実に驚愕しつつも、世界を破壊する気力も失せたと、魔大陸へ行くのを拒絶した。
邪魔する気も無さそうだったので、奴らの主張は受け入れたが。
そしてフラウ達にこの件を伝える気は無い。
勇者の子供であるダイチの味方な以上、当然だ。
にしても他の勇者の子供と違い、ダイチだけは長らく姿を見せぬ。
しかしライト達の口振りから察するに、まだどこかで生きてる可能性は高い。
未だ魔族を人間に戻し、死の呪縛から解き放つという、叶わぬ願いに縋ってるのだろう。
ライト達よりは遥かにマシだが、それでも愚かである事には変わらぬな。
なお、魔大陸にいる魔族に関しては、その大半が定期的に本拠地へと戻って来ている。
聖女捕縛からの魔王復活の件は自然と伝わるはずだ。
ほんの一部、どこをほっつき歩いてるのか・・・。
まだ今回の1件を知らぬ者もいるようだが、いつまでも待っておれん。
戻って来た時にでも軽く伝えれば良いか。
魔族達への周知はほぼ完了した。
あとは共に魔王復活を見届けるのみ。




