第182話 武闘大会編⑫ レイドVS闇の剣士 前編
zzz。
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ライトちゃん。
起きて・・・。
起きなさい。
( ゜д゜)ハッ!
・・・あ。
そーいや俺、観客席で居眠りしてたんだっけ。
目が覚めてしばらくは意識がボンヤリしていたが、少しずつ自分の状況を思い出す。
ゆっくり休んだおかげで、寝る前よりも体の調子が良い。
それでもまだダメージはかなり残っており、体の節々に痛みが残るが。
しかし誰が起こしてくれたんだろう・・・?
「ほらほら、もうすぐ2回戦が始まるわよ。
早く試合場まで行きなさい。」
「ネア・・・さん?」
俺を起こしてくれたのは凄腕呪い師のネアさんだった。
彼女はなんと神人族の生き残りで、呪いを祓ったり、過去や未来を見透かせる能力を持っている。
更に中級魔法すら防ぐ防御魔法を操れるようで、観客を戦いの余波から守るお仕事に励んでいた。
それはさておき。
「でもネアさん。
俺、2回戦は不戦勝だよ?
試合場に行く必要なんか、なくない??」
アカリVSユラが引き分けだったからなぁ。
2回戦の対戦相手がいなくなったんだ。
「不戦勝だったとしても、試合場へは向かうのがこの大会の決まりよ。
失格になりたくなかったら、急ぎなさい。」
「ゲッ!?」
そりゃまずい。
失格になったら、不死鳥の宝玉がGet出来なくなる。
急いで、試合場まで行かないと!!
********
「あー、間に合って良かったー・・・。
起こしてくれてありがとう。
ネアさん。」
「どーいたしまして♪」
試合場で正式に俺の不戦勝が告げられて。
やるべき事が終わった俺は、観客席へ戻りネアさんにお礼の言葉を述べた。
・・・にしても。
「けどどーせ不戦勝だってわかってるのに、一々試合場まで行かないとダメってのはなぁ。
面倒な上、無駄じゃない?」
「世の中なんてそーいうものよ。
面倒でも、無駄でも、形式上やらないとダメな事なんてたくさんあるわ。」
それは理解出来なくもないけど。
人間って面倒臭がりの割に無駄な事が大好きな、よーわからん存在だよな。
2回戦1戦目が終わり(無くなり)次の試合は・・・。
「レイドと師匠の試合、か。
ネアさん、どっちが勝つと思う。」
「ウフフ。
どっちが勝つかしらねー?」
なんかはぐらかされてる!?
まー他人の試合なんて、なるよーにしかならんのだが。
「さーてと。
世話の焼ける先輩の次は、馬鹿弟子が相手か。」
「・・・・・・。
師匠。」
お。
試合場ではもうレイドと師匠が向かい合っているな。
に、しても師匠。
1時間前は光の剣士と激戦を繰り広げてたのにさぁ。
随分と余裕そうな振る舞いで。
・・・・・・。
「おい、レイド・・・。
てめえ。弟子の分際でくだらない事を考えてんじゃねぇぞ?
俺が何を言いたいのか、お前ならわかるよな。」
「!!
もちろんだ。」
・・・師匠。
なんて闘志なんだ。
「まったく。
ロングちゃんったら、相変わらずねぇ。」
ネアさんは困った表情で、師匠を見つめている。
「では試合、始めっ!!」
そしてついに闇と氷の師弟対決が始まった!!
********
「メガ・ダーク・ソード!!」
試合開始早々、闇の剣を生み出し、衝撃波を放つ師匠。
「ハッ!!」
これをレイドは横に飛んでかわす。
なので、衝撃波は観客席の方へと向かっていった。
このまま放っておけば、大勢の人に被害が出る所だが・・・。
「・・・。」
ネアさんが念じる事で生じたバリアが、衝撃波から観客を守る。
「やっぱネアさんは凄いなぁ。
師匠の攻撃さえ、防いじゃうなんて。
さすがは神人族の末裔。」
「割とギリギリだけどねー。
あなた達ったら、本当にパワーがあるからさぁ。
流れ弾を防ぐだけでも大変なのよ。」
ギリギリであっても中級魔法を防げる人間なんて、この世界にはほとんどいないだろう。
それだけで十分、賞賛に値する。
「師匠。
俺が身に付けた力の全てを・・・。
あなたにぶつける!!」
「望むところだ!!」
「メガ・アイス・ランス!!」
レイドは氷の槍を作り出し、師匠の足元に向かって投げつける。
あ、これって。
「!??」
すると地面に突き刺さった氷の槍から大きな氷塊が生成された。
突如生み出された氷塊に巻き込まれた師匠が盛大に吹き飛ばされる。
「あいつが初めて中級魔法を使った時に出した技じゃん。
あの時はあれで人魚の攻撃を防いだんだっけ。」
なんだか懐かしさすら感じるなぁ。
あいつの性格は正にTHE・脳筋なんだが、戦い方はエルムのような猪突猛進系ではなく、器用万能なスタイルだ。
多彩な技を駆使し、単純な攻撃だけではなく、仲間のサポートに敵の攪乱となんでもこなす。
「しゃらくせえ!!」
だが師匠は衝撃波で巨大な氷塊を粉々に打ち砕く。
既に新たな氷の槍を生成していたレイドは次の一手として・・・。
「ハアアアアアアアア!!!!」
再び、地面に氷の槍を突き刺し、今度は試合場の床を凍らせた。
おまけに所々に氷のでっぱりを作って、こけやすくしている。
「あれもレイドお得意の戦術だよな。
床を凍らせて、相手を動き辛くするやつ。」
「レイドちゃんは器用ねぇ。」
あいつが初級魔法しか使えなかった頃から、よく目にする技だ。
敵の足止めなんかで、活躍してくれるんだよな。
・・・まあ、地面に魔法のエネルギーをぶち込めば、割と簡単に溶かせるのだが。
「行くぞっ!!」
そして凍った床の上をこける事なく突き進むレイド。
「ハハッ・・・。
良いぜ、掛かって来いよ。
レイドぉおおおお!!」
師匠も躊躇う事なく、レイドに向かって突撃する。
しかしかつての俺やエルムがやったように、凍った床を溶かすような真似はしない。
なのにレイド同様、全く態勢を崩す事無く、床が凍る前と同じように立ち回っていた。
「むう・・・。
師匠とて、多少は翻弄されると思ったが。」
「この俺を甘く見るなよ!!」
氷の床の上でレイドの槍と師匠の剣が交わる。
「・・・。
師匠の力なら凍った床を溶かすくらい、訳ないはずなのにさぁ。
まさか気にも留めず戦う、なんて戦法を取るとは。」
「まー、ロングちゃん。
当たり前のように雪山で修行したり、戦闘したりするからねぇ。」
「無茶苦茶だーーーー!??」
わかってはいたけど、破天荒すぎるわ。
あの人。
「ハァ!!」
「ぐっ!?」
最初に一本を取ったのは師匠で決め技は胴斬り。
やはり単純な技量なら、レイドより師匠に分があるようだ。
「ちっ。」
思わず距離を取ろうとするレイドに向かって・・・。
「食らえ!!」
「!!??」
衝撃波を飛ばし、二度目の攻撃を命中させた。
ついでに凍った床も氷解する。
「もういっ・・・。」
「メガ・アイス・ランス!!」
「!!??
・・・あっぶねぇ。」
追撃を仕掛ける瞬間に生まれたわずかな隙を狙い、魔法を放つレイド。
これはかつて鳥魔族と戦った時に披露した魔法版カウンターだ。
けれど師匠はすんでの所で狙いに気付き、攻撃を中断。
レイドの攻撃をギリギリながら回避する。
そう簡単には決まらない、か。
「ぐっ。
惜しい!!」
「今の攻撃は中々焦ったな。
あのクソ生意気なガキがこれほど成長してくれるとは・・・。
師匠として嬉しい限りだ♪」
挑発とかじゃなくて、本当に嬉しそうだなぁ。
とは言え、レイドと師匠にはまだまだ力の差があるようだ。
単純なパワーやスピードに関してはほぼ差がないも、純粋な技量で後れを取ってしまっている。
けれどこの試合に限れば、レイドに勝算が無い訳でもない。
「情けない話だが、今の俺にとって師匠は遥か格上の存在。
・・・だがそれでも、最後まで抗ってみせる。
あなたに勝ち、より強くなるために!!」




