第179話 武闘大会編⑨ レイドVSヒカル
武闘大会1回戦3戦目。
レイドVSヒカルの試合が始まる。
「おー。
とうとうヒカルの試合かー。」
「・・・大丈夫かしらね。」
あ。
「お前ら・・・。
いつの間に。」
後ろを振り向くと、いつもヒカルと一緒にいる連れ二人が座っているのが見えた。
「ライトが来る前からいたぜ。」
「そーなの?
気付かなかったわ。」
「親子水入らずな所を邪魔するのも悪いからね。」
って、おい!?
「あのなあ!!
何度も言ってるが、俺と光の剣士は親子じゃねーぞ!?」
「・・・んな寂しい事言わないでくれよ。
師匠が可哀想だろ。」
「可哀想とか言われてもなぁ。
どんな事情があろうと、俺と光の剣士は赤の他人だし・・・。」
光の剣士は昔、ライトと言う名の息子を連れ去られた挙句、救い出す事が出来なかったらしい。
その事に相当ショックを受けてたようだが、名前が同じだからか、ヒカルと似ているからか、俺を我が子だと思い込んでしまったのだ。
その結果、いくら勇者の子供だと言っても聞き入れてくれず、俺の事を息子扱いし続けている。
・・・うん、光の剣士に可哀想な過去があるのは分かるよ?
でもだからって、知り合って間もないおっさんからベタベタされる身にもなってくれよ・・・。
本気でキモいんだから。
「けどアカリ達の試合は仲良く観戦してたじゃない。」
「仲良しかはともかく、気持ち悪い態度を取ってこなかったからな。
真面目に観戦してたせいか、変にベタベタされなかったし。」
だから普通に話せたのかもしれない。
「光の剣士も妙な親バカっぷりさえ見せなきゃ、真っ当に格好良い人なのになぁ。
・・・って、そんなくだらない事なんかどーでもいーだろ。
それより試合に集中しよーぜ。」
「人様の師匠に対して無礼すぎるだろ・・・。」
「俺にベタベタするのを止めたら、敬意を持って接するわ。」
そうは言っても、光の剣士は俺が無礼な事なんぞ、欠片も気にしてなさそーだが。
********
「では試合、始めっ!!」
「ホーリー・ナイフ!!」
「アイス・レイピア!!」
試合早々、初級魔法による遠距離攻撃を繰り出す二人。
ヒカルは光の剣士の息子なだけあって、非凡な戦闘センスを持っている。
勇者の子供の中でも技巧派なレイドに対し、一歩も引かずに立ち回っていた。
が、この勝負はどう考えてもレイドの方が圧倒的に有利だ。
「うわぁ!?」
「・・・。」
試合の最中、お互いの初級魔法が命中!!
しかしヒカルがそれなりにダメージを受けているのに対し、レイドは表情一つ変わらない。
・・・やっぱり。
「こりゃどう考えても、レイドの勝ちだろーな。
地力が違いすぎる。」
今のレイドは光の剣士を相手にしても食い下がれるくらいにはレベルアップしている。
だがヒカルは本戦出場者の中では唯一、中級魔法すら使えない。
例え、技術が互角だとしても、パワーに差がありすぎるのだ。
「ぐっ・・・。
ヒカルぅ。」
「頑張って!!」
連れ二人の応援も虚しく、レイドは中級魔法すら使わず、ヒカルを追い詰める。
攻撃が命中した回数自体はほぼ同じだが、一撃毎のダメージ量が違いすぎるからなぁ。
「ハァ、ハァ・・・。
いつの間にこんなに差が付いちゃったんだろう?
僕はレイドの事、ずっとライバルだと思ってたのにさ。」
「・・・。」
「こんな事言うと、気を悪くするだろうけどね。
やっぱり僕、レイドやライト達が羨ましいよ。
神人族・・・勇者の子供だからそんなに強くなれたんでしょ?」
「・・・。」
ったく。
「ヒカルの奴・・・。
強さに執着しすぎて、現実が見えてないのかよ?
強くても短命なのよりさ。多少、弱くても長寿な方がずーっと良いだろうに。」
「ヒカルだってそれくらい、理解してるって。
理解してても、羨ましいって気持ちを消せないんだろ。
なんせ俺達は武術家だからな。」
武術家の強さに対する渇望はどこから湧いてくるのやら。
「レイド達に比べたら、僕なんて雑魚も良いとこかもしれない。
けどだからって、そう簡単に引き下がるものか!!
光の剣士の息子の力、見せてやるーーーー!!!!」
!??
ヒカルのホーリー・ナイフが初級魔法とは思えない程の輝きを・・・?
「!!」
これまで一切表情を崩さなかったレイドも、これには驚いてるようだ。
「いくらなんでも力を籠めすぎでしょ!?」
「そーだぜ!!
・・・まさかヒカルの奴。
あの一撃に全てを掛ける気か!?」
確かにそーとしか思えん勢いだよなぁ。
今のヒカルは並の初級魔法では止められないだろう。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!」
そしてヒカルは全身全霊を籠めて、レイドに突撃する。
あの一撃が命中すれば、今のレイドと言えど無視出来ないダメージを受けるはずだ。
ところが。
「メガ・アイス・ランス!!」
レイドは中級魔法を発動させ、ヒカルの前に巨大な氷を出現させる。
「こんな氷なんかぁああああああああ!!!!!!!!」
しかしヒカルは一切怯む事無く、氷に向かって光のナイフを突き刺した。
氷の一部が光のナイフによって粉々に砕かれる!!
・・・・・・。
が、それだけだった。
「あ・・・。」
「ハッ!!」
「があっ!??」
全力の一撃で力も精神もすり減らした所を氷の槍で叩き付けられ、地に伏せるヒカル。
重傷を負わせぬよう、加減はしてたようだが、今のヒカルにとってクリティカルヒット同然の一発が入った。
「「ヒカル!!??」」
「うっ・・・。
ううっ!!」
そして、そのまま10秒が経過し・・・。
「そこまで!!
この勝負、レイドの勝ちとする!!」
「ち、ちくしょう!!」
「・・・。」
レイドVSヒカルはレイドの勝利で幕を下ろした。
「・・・。
立てるか?
ヒカル。」
「・・・。
どーも。」
倒れたヒカルに手を差し伸べるレイドと、不貞腐れながらもレイドの手を掴んで立ち上がるヒカル。
「そう不貞腐れるな、ヒカル。
お前が弱かった訳じゃない。
俺が強くなりすぎただけだ。」
「って、自分でそれ言う!?
どんだけ自信満々なの・・・。」
「だが事実だろう?」
「・・・まーね。
相変わらずレイドは偉そうな奴だなぁ。」
励ましてるのだか、単に尊大なのか、よくわからない態度のレイド。
うん。
確かにレイドが偉そうな奴なのには違いない。
「そして、ヒカル。
お前は格上とも言える俺を相手に一切怯む事なく、立ち向かったのだ。
もっと自分を誇れ。」
「なんて上から目線な・・・。
・・・それで褒めてるつもり?」
「?・・・。
もちろんだ。」
「・・・。
真顔で言われると、恥ずかしくなってくるよ。」
まあレイドって、基本的に自分より強い相手に立ち向かえる奴は評価するタイプだからな。
「しかし普段ヘラヘラしてる癖に、いざ戦いになると本当に負けず嫌いだな。
そーいう所もライトそっくりだ。」
「茶化さないでよ!!
んだよ、もう・・・。
なんか一人で不貞腐れるのがアホらしくなってくるじゃん。」
ヒカルの奴。
レイドのあれっぷりにすっかり毒気を抜かれつつあるなぁ。
「・・・もし俺が死の運命を乗り越えられたならば。
またこんな風に手合わせをしよう。
その日が来るまで、修行をサボるんじゃないぞ。」
「そっちこそ『死の運命』なんて、意味不明な理由で勝ち逃げしないでくれよ。
負けてばっかじゃ、悔しいからさ・・・。」
「・・・無論だ。」
こうして憎まれ口を叩き合いつつも、二人は力強く握手を交わした。
レイドとヒカルもなんだかんだ言って、真っ当にライバルしてるなぁ。
********
「じゃ、私達はヒカルの様子を見て来るから。」
「またな。
ライト。」
「おー。」
医務室で休んでいるヒカルの様子を見るため、連れ二人が観客席から去って行く。
とは言え、あの様子ならそれほど心配しなくても大丈夫だろう。
・・・さてと。
「ライト?
そんな所にいたのか。」
「レイド。」
おっと。
今度はレイドがやって来たか。
しっかし俺の時と違って、ほとんどダメージは受けていない感じだ。
「ヒカルとの試合はどうだった?」
「・・・あいつも強者と言えるだけの実力はあるのだが、な。
それ以上に俺達が強くなりすぎた。
ただ、それだけの話だ・・・。」
自信満々な台詞だが、それは違いない。
あれでヒカルは奢る事なく、日々修行に励んでいた。
・・・それでも数々の死線を潜り抜けた俺らと比べ、差が開くのはしょうがないだろう。
それとあまり認めたくはないが、俺らが勇者の子供だからってのも実力差がある理由の1つだと思う。
「とは言え、あの最後のホーリー・ナイフの一撃・・・。
・・・ヒカルが自分の殻を打ち破る日もそう遠くないかもしれんな。」
「えっ?
それって、どういう・・・。」
「では試合、始めっ!!」
「あっ!?
いっけね!!」
ついに師匠である闇の剣士と光の剣士の試合が始まった。
観客の間では事実上の決勝戦とも言われているこの試合・・・。
絶対に見逃せない!!




