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第170話 迷走少女編⑨ 迷走の果てに

Side ~アカリ~


とある事情により、光の剣士の元で修行中の私を連れ戻そうと、闇の剣士が現れる。

闇の剣士は私が戻らなければ、ライト達を殺してやると脅し始めたわ。


でもそれよりも、私が逃げてばかりじゃ、ライト達のお荷物になってしまう。

・・・そして魔王討伐の悲願を果たせず、呪いによって皆、死んでしまう。

目を逸らしていた事実を突き付けられた事の方が衝撃だったの。



皆を死なせる訳にはいかない・・・。

これ以上、逃げる訳にはいかない!!



決意を新たにした私は、闇の剣士に『メガ・サンダー・ロッド』で攻撃し、戦う覚悟を決めたわ。

すると途端に闇の剣士は私を称え始めたの。

さっきまでの悪役ムーブはどこへ行ったのか。



???

これは一体。



「アカリ・・・。」



戸惑っていると、物陰から誰かの声がする。

って、あなた達までどーしてここに!?



「ライト、エルム、ユラ、レイド!!」



たった数日、顔を合せなかっただけなのに随分、久しぶりに感じるわ。


でもじゃあ『ライト達を殺してやる~』って、闇の剣士の台詞も聞こえてたはず。

どうして、闇の剣士に向かって怒りを露わにしないのかしら?


・・・まさか!?


「あのライト達を殺す発言は嘘だったの!?」


「そりゃあ、嘘に決まってるだろう。」


疑問に答えたのは光の剣士だったわ。


「気付いてたの!?

 そーいや、やけに緊迫感がなかったけど・・・。」


「当たり前だろう。

 あいつの性格はよ~く知っている。

 あんな言葉が口から出まかせって事くらい、すぐにわかったさ。」


「そ~なの、父さん?

 な~んか闇の剣士にしては陰湿だなぁ、って思ったけど。」


確かにらしくない、とは感じたわ。


「ライト達が侵略者ならともかく・・・。

 そ~じゃなければ、あいつほどの喧嘩バカが不意打ち・騙し討ちなんかするはずないだろう。

 絶対、真っ向から存分に戦いたがるはずだ。」


「ま~な。

 あいつらほどの強者に不意打ち・騙し討ちで勝っても、つまんねーだろ。」


如何にも闇の剣士が考えそうな事だわ。

けれどあの時の私ったら、あれほどわかりやすい闇の剣士の嘘にすら、気付けなかったのね。


「だがな。

 いくらアカリの迷いを断ち切るためとは言え、自分の弟子をあんなに容赦なく責め立てて・・・。

 曲がりなりにも人を導く立場なら、少しは弟子に寄り添ったらどーなんだ!?」


「これでも十分、気を遣ってる方だっつーの!!

 大体、俺のやり方がキツいんじゃない、あんたのやり方が甘すぎるだけだ。

 んな事だから、弟子がお行儀の良い軟弱者ばっかなんだよ。」


「バカにすんなよ。

 お行儀が良いはともかく、私の弟子は軟弱者じゃないからな!!

 そーいうお前の弟子だって、血の気の多い乱暴者ばっかだろうがぁ。」


って、いつの間にか光の剣士と闇の剣士が言い争いを始めたんですけど!?

・・・でもなんか、悪友同士でしょーもない口喧嘩をしてるようにしか見えないわねー。


私どころか門下生まで、大人げない二人の剣士を困ったように眺めてるわ。



「「「「・・・。」」」」



あ・・・。


「み、皆。

 あの、その。

 私、は・・・。」


けれどライト達はそんな大人の言い争いなんか気にも留めず、私を注視している。

何か言いたい、けど何を言えば良いかわからない。

そんな風に見える。


ま・・・まずは迷惑掛けちゃった事を謝らないといけない。

でも私だって、どう口を開けば良いかわからないの。


こんなに申し訳ない気持ちで一杯なのに。





「・・・ったくよー。

 あんま、心配させんなよ。

 アカリ。」





エルム?


「ま、しょーがねーけどな。

 お人好しのお前にゃ、仲間同士で本気で戦うーなんて、相当キツいだろーし。

 そりゃ、逃げ出したくもなるか。」


「・・・。」


「だがよ。

 それでも俺達に付き合ってくれねーか?


 俺には・・・いや。

 俺達にはお前が必要なんだ!!」


「エルム・・・。」


私が・・・必要・・・?


「ゴメンな、アカリ。

 お前が戦わなくても大丈夫なくらい、俺達が強ければ・・・。

 お前に辛い戦いを強いずに済んだんだけど。


 でも、俺もエルム達もまだまだ弱くて未熟だから、さ。

 お前もいなきゃ、どーしようもないんだよ。

 ・・・その、本当にゴメンな。」


!!!!


「謝らないで、ライト。

 謝らないといけないのは私の方よ。


 私だって、本当はわかってたの。

 強くなるためには闇の剣士の言う通り、ライト達と戦う覚悟が必要だって。

 けど私が弱いせいで、覚悟が出来なくて、逃げ出して・・・。」


「・・・アカリ。」


「だけど、もう逃げないから。

 まだ私は死にたくないから・・・。

 何よりライトやエルム達を魔王の呪いで死なせたくないから!!」


今でも仲間同士で戦う事に忌避感がないと言えば嘘になる。

でも目の前の恐怖から逃げて、仲間を死なせたりなんて出来ないわ!!


「レイドの言う通りになって、良かった。

 最後には乗り越えられて、良かった。」


そう言えば、武術大陸に向かう前、そんな話をしてたっけ。


「ったく。

 まあ、己の弱さを乗り越え、強くなったのならば良い。


 ・・・もう逃げるんじゃないぞ。

 自分からも、運命からも。」


「ええっ!!」


良かった。

逃げてしまった私を受け入れてもらえて、本当に良かった。


ホッとした私は未だ、ライバルとしょーもない口喧嘩を続けてたあの人に向かって・・・。


「光の剣士。」


「ん?

 おお、アカリ。」


「・・・ありがとうございました。

 私がもう一度、戦う覚悟を持てたのもあなたが導いてくれたおかげです。

 ヒカルも協力してくれて、ありがとね。」


光の剣士は覚悟が決まらない私を無理矢理引っ張っていくのではなく、少しずつ慎重に心をほぐしてくれた。

光の剣士やヒカルがいなかったら、いつ立ち直れていたかわからなかったわ。


「お礼なんて良いよ。

 別に大した事なんか、してないからね。」


「そうだぞ。

 悩める人間の成長を促すのも、武術の師範の役目さ。

 アカリ、お前は私のように後悔するんじゃないぞ。」


このお人好しっぷりが、本当にライトそっくりね。

親子揃って。


「闇の剣士・・・いえ、師匠。

 私はもう二度と逃げません。

 だからもう一度、あなたの元で修行を付けさせて下さい。」


そして、私は闇の剣士に頭を下げた。

けれど中級魔法で攻撃した事は謝らない。


・・・あの時、あの人はわざと私の中級魔法を受けたんだわ。

私の甘く弱い考えを打ち払うために。


だから感謝こそすれ、決して謝らない。

謝らない代わりに・・・。


「月謝を貰ってる以上、師匠の役目は弟子を導く事だ。

 そして弟子の役目は強くなる事だ。

 ・・・それを忘れるなよ、アカリ。」


「はいっ!!」


強くなってみせる。

私の本気を受け止めてくれたのは光の剣士だけじゃない。

闇の剣士もだから。


その想いに報いるためにも、謝る代わりに私は強くなる。

強くなってみせるわ!!


「さ。

 早く帰って、また一緒に修行しよーぜ。

 アカリ。」


「エルム・・・。

 うんっ!!」


そう。

皆と一緒に強くなって、魔王の呪いだって打ち破ってみせるわ!!


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