第14話 山賊編⑤ 助ける決意
「や、やめて。来ないで!!
だ、誰か・・・。助けて、助けてーーーー!!!!」
「うるせぇんだよ、このアマ!!
とっとと死にやがれ!!」
山賊の1人がマイ母に向かって斧を振り落とした。
「ぎゃああああああああ!!!!」
「え・・・わたし?」
気が付くと俺は。
マイ母を殺しかけた山賊を、ホーリー・ナイフの衝撃波でぶっ飛ばしていた。
「あ、あいつは・・・あいつらは!!
ああああの時、山で会った魔法を使うめちゃ強いガキ共!!!!」
「ほ、報告だ!!
おおおお頭にほほほ報告するんだ!!!!」
そして残った山賊達は一目散に逃げ出した。
どうやらあいつらはあの時、山で会った奴等だったみたいだ。
「あ、あなた達は・・・!!
マイを助けてくれた子供達。」
俺達の姿を確認したマイ母が、よろめきながらもこちらに近づいてくる。
エルム達もいつの間にか俺の側まで戻って来ていた。
「ライト、お前・・・。」
「ライト・・・。」
・・・・・・エルム、アカリ!!
お、俺はなんて事をしてしまったんだ!!!!
エルム達にあれだけ・・・あれだけ人助けなんて止めろって言っておきがら!!!!
俺があの人を助けてしまったせいで、俺達全員、山賊達に目を付けられてしまった!!!!
も、もうダメだ、お終いだ・・・。
「エルム!! アカリ!! ごめん・・・ごめん!!
お、俺があの人を助けたせいで、俺もエルムもアカリも皆、山賊達に目を付けられた。
あれだけ人助けをするななんて言っておきながら、俺の・・・俺のせいで!!」
俺はエルムやアカリに対して、申し訳無い気持ちでいっぱいになっていた。
俺が自分勝手な事をしたせいで、皆を危険に晒そうとしている。
他人のために仲間を危険な目に合わせるなんて、そんな事は絶対に許されない!!
許されないのにっ。
きっとエルム達だって、俺に激怒しているに違いない。
見捨てられたって文句を言えない。
・・・そう思っていた。
「全く。ライトってば、本当にお人良しなんだから。
困ったもんだぜ。」
「何よ、私にはあんなに偉そうな事言っときながら!!
人の事言えないじゃない。」
しかし、二人の態度は激怒しているようには見えなかった。
エルムは呆れ、アカリは拗ねている感じだ。
「お前達・・・なんで、なんでそんなに呑気でいられるんだ!?
俺のせいで山賊に目を付けられたんだぞ。
・・・もしかしたら、殺されるかもしれないのに!!」
「別に山賊に睨まれた事なんて、どうだって良いわよ!!
・・・全くライトったら、人助けして本気で後悔する奴がどこにいるのよ?
私、何に怒ったら良いかわからないじゃない・・・。」
「そうだぞ、ライト。んなしょーもない事で、ガチ謝罪すんなよ。引くわー。
その程度のミス、軽く謝る程度で構わないって。
・・・ほらほら。いつまでも落ち込んでないで。
ここはまだ危ないんだからよ。切り替えてけって。なっ。」
「エルム、アカリ・・・!!」
とんでもない失態を犯した俺を、あんな軽いノリで受け入れてくれるなんて。
今日のあいつら、凄い器のデカい大人物に見える・・・!!
・・・それにそうだ。エルムの言う通り、ここはまだ危ないんだ。
落ち込んでなんかいられない。早く安全な所へ逃げないと。
「ま、それはともかく、ライト。
マイのお母さん、どうするの?
・・・助けておいて放っておくのも、あれじゃない?」
あ、そうだ。マイ母。
アカリの言う通り、いくら何でも助けておきながら捨て置くってのはなぁ・・・。
どうしたものか。
「き、君達はあの時の・・・あっ。
フ、フウ。フウーーーー!!!!」
「お、おかーさーーーーん!!」
「あ、あなた。あなたーーーー!!!!」
あの声はマイ父とマイ。
・・・ああ、別にマイ母を見捨てた訳じゃなかったんだ。
はぐれちゃってただけか。
ってか、マイ母ってフウって名前なんだな。
「あーーーー。あんたは!!
おいコラ。娘に続いて、奥さんとまではぐれるなんて、どんだけドジ・・・。
・・・って、どうしたんだその傷? 大丈夫・・・なのか??」
エルムの言う通り、マイ父の体には痛々しい傷があちこちに付いている。
幸い、致命傷となるものはないようだが・・・。
「あのね、おとうさん。
おかあさんをさがすため、さんぞくさんたちとひっしでたたかったの。
とってもかっこよかった。でもけがもいっぱいしちゃって・・・。」
あの傷、やっぱり山賊達と戦って出来た傷なんだ。
火事場の馬鹿力かもしれないが、山賊を倒すなんて思ったよりも強いな。
けどこの傷じゃ、動く事は出来ても戦うのはもう無理かもしれない。
「「「グギャーーーー!!!!」」」
!! 向こうからゴブリンが3体も!
逃げた山賊の呼んだ増援って感じじゃなさそうだが・・・。
って、マイ父!!
そんな体で何ゴブリンの方に向かってるんだ?
「・・・くっ。
フウには・・・マイには、指一本触れさせない!!」
あんな状態じゃあ、ゴブリン1体にだって勝てはしないだろう。
なのに・・・。
「グギ? ゲギャゲギャゲギャ。」
「「グギャギャーー!!」」
悲壮な決意で立ち向かうマイ父をあざ笑うかのように襲い掛かるゴブリン達。
だが!!
「ホーリー・ナイフ!!」
「ファイア・ナックル!!」
「サンダー・スティック!!」
光の衝撃波が、炎が、雷がゴブリン達に突き刺さる!!
「「「グギャーーーー!!!!」」」
俺達三人の魔法の前に、三体のゴブリンはあっけなく力尽きた。
「わああああーーーー。
おえねちゃんたち、つよーい。」
「き、君達。その力は一体・・・。」
俺はまだ、マイの両親達に山賊だと疑われた事を根に持っている。
しかし死を覚悟で家族を守ろうとするマイ父を見て、このまま見捨てたくなくなってしまった。
・・・まあ俺達、山賊に目を付けられちゃった訳だし、側にいても安全じゃないかもしれないが。
それでもあの一家だけでいるよりは、俺達が付いてやる方がマシだろう。
ちらりとエルムやアカリの方を見ると、二人ともやれやれといった表情をしている。
・・・。
俺は呆然とするマイ父に向って声を掛けた。
「なあ、あんた。そんな傷だらけじゃもう、ゴブリン一体にだって勝てないだろ。
あんまりにも哀れだし、せめて避難所の太陽城まであんたら一家、送ってやろうか?
・・・まっ、俺達の事をまだ悪者だって疑うなら、自分達だけで勝手にすりゃいいけど?」
「そうそう。ライトがついうっかりマイ母・・・フウさん助けちゃってさ。
このまま見捨てるのもあれだから、太陽城まで送るくらいはしてやるぜ?
今回だけはタダで。・・・でも次からは護衛料、たっぷり払ってもらうからな!!」
「ちょっとライト、エルム。
あんたら、いくら何でも態度悪すぎよ。
もっと礼儀正しくしなさい!!」
そりゃそうだけど、まだ心の整理が付いてないしさ、俺。
傍目からみりゃクソガキ丸出しな俺達に、しかしマイ父は涙を流しながら口を開いた。
「き・・・君達!!
頼む。どうかフウを、マイを助けてやってくれ。どうか!!
・・・ウッ、ウッ、ウッ。」
「あー・・・、何も泣かなくても。」
いや。
こんな上から目線の子供達に泣いてすがるほど、マイ父は追い詰められていたのか。
家族全員、皆殺しにされそうだったもんな。
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「子供を誘拐して売り飛ばす気か? なんて卑劣な!!」
「山賊め、この町から出ていけ、出ていくんだ!」
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にしても、マイが誘拐された(と思い込んでた)時は、あんなに勇ましい態度だったのに・・・。
兵士も町の住人達も、同じ町に住んでいるマイ一家を全然助けようとしない。
口では綺麗事を言いつつも、他人なんて当たり前のように見捨てる。
それが人として正しいあり方ってのは間違いじゃない。正義だ!!
正義だからこそ、大勢の人達がそういう生き方を歩んでるんだ。
・・・けど、本当にそんな正義を貫くべきなのか、わからなくなってきた。
なんでだろう・・・・・・とっても頭の良い生き方のはずなのに。
「ほら、ライト。ボーっとしてないで。
早くこの人達を太陽城まで連れて行きましょう。」
あ、そうだった。変な事を考えるのは後回しだ。
マイ一家を助けるって、皆で決めたもんな。
決めたからにはこの一家を無事、太陽城まで送り届けよう。
こうして俺達は、マイ一家を避難させるため、太陽城へ向かった。




