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第146話 入門編⑦ 魔法は筋トレ

zzz...

zzz...





「いつまで寝てやがる、ガキ共!!

 早く起きろ・・・。

 メシだぞ。」





・・・ん?

闇の剣士、じゃなくて師匠。


魔王討伐を目指すも、力不足を痛感した俺達勇者の子供は武術大陸最強の一人と名高い闇の剣士に弟子入りした。

日も登らない早朝から、厳しい修行を・・・・・・・・・・・・って、あれ?


「えっ?

 日、登ってるじゃん。」


修行するのかと考えていたが、既に日は登っている。

普段、目を覚ます時間とほとんど変わらない。


初日だから温情でも見せたのだろうか?


********


「・・・・・・・・・・・・。

 あれっ?」


「おい、ど~した?

 メシに不満でもあんのか!?」


「いや、え~と・・・。

 ふつ~に豪勢だなぁ、って。」


白御飯、肉、魚、サラダetc...

朝食にしてはやや量が多いものの、バランスの取れた食事が目の前に広がっている。

試しに一口食べてみると・・・。


「あ、美味しい。」


味も普通に良かった。


「確かに美味えな。」


「ほんとね。」


「うん。」


エルム達も美味しそうに食べている。


「懐かしい味だ・・・。」


レイドに至っては食べ覚えでもあるのか、感慨深そうに食事を続けていた。

・・・にしても。


「なんかイメージと違うなぁ。」


「一体、何を想像していたのだ?」


「朝日も見えない早朝から、全力でトレーニングに励むかと思った。

 食事だって、もっと質素なものかと・・・。」


とってもこわ~い闇の剣士の厳しい修行なんだから、それくらいハードなものとばかり。

そう漏らすと、師匠が呆れたように口を開く。


「・・・あのなぁ。

 強くなるためには、よく食べ、よく休む事はすっげ~大事なんだぞ?

 そんな大事な所を無駄に削って、ど~する・・・。」


「そうだぞ、ライトよ。

 強くなるためには、何よりも健康が大事だ。」


「そ~いう所は常識的なのね。」


武術の修行なんて、やたらめったら厳しいものかと思ったが、そうとも限らないようだ。

少しだけ、安心・・・。


「だがな。

 食事や睡眠が十二分に取れるからって、俺の指導を甘く見るなよ?

 くくく。」


「・・・そんな風に言われると、怖いんだけど。」


なにせ師匠は『武術なんてぶっ倒れるまで戦い合いながら、強くなっていくもの』などと言う、ヤバい思想の持ち主なのだ。

一体、どれほど恐ろしい修行が待っているのやら・・・。


「けどま、しばらくは基礎体力の向上がメインだ。

 昨日みて~な激しいバトルは『まだ』先さ。」


『まだ』の部分が凄く引っ掛かるが。

しかし基礎体力の向上って、筋トレや走り込みでも始めるのかなぁ。


「さて、メシを食い終えた奴はすぐ支度しろ。

 修行場まで出かけるぞ。」


修行場?

何しに行くんだろう??


********


「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアスススススススススススススススス!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


「あの~、ここは一体・・・。」


「ワイバーン共の縄張りから少し外れた所だ。

 数が増えると、ああやってあぶれる奴が出てくる。」


連れて来られた先は何十体ものワイバーンが飛び交う魔境だった。

あと何故か師匠と俺達5人の他に10~15人程が付いて来ている。

その内の何人かは門下生のようだが、道場関係者以外の方が多く、しかも・・・。


「ど~して夜露死苦村の奴まで!?」


「・・・いやぁ。

 幸運にもワイバーン討伐隊のメンバーに当選してさぁ。」


幸運どころか、罰ゲームにしか思えないのだが。

そもそもの話・・・。


「あなた達もワイバーンと戦うの?」


ワイバーンは初級魔法すら使えないような奴が倒せる程、弱くはないぞ?


「ちげ~ぞ?

 ワイバーン共をぶっ倒すのは俺とお前達5人だからな。

 あいつらは俺らが倒したワイバーンの素材を回収する係だ。」


え"?


「あ・・・あの数のワイバーンをたった6人でぇ!?」


わずか6人で何十ものワイバーンに喧嘩売るなんて、危険すぎるってば!!


「そうだ・・・で、だ。

 あのワイバーン共は中級魔法を使って、ぶっ倒せ!!

 絶対に他の奴らを巻き込むんじゃねぇぞ。」


しかも中級魔法で!?

そりゃあ、中級魔法を使えばさしものワイバーンと言えど、一撃で倒せる。

しかしリスクもかなり大きい。


「でも中級魔法を使いすぎると、疲れて動けなく・・・。」


「疲れて動けなくなるまで、中級魔法を使い続けるんだよ!!」


ええええええええ!!??


「心配すんな。

 仮に動けなくなっても、ちゃ~んと俺がフォローしてやっからよ。」


「・・・い、いやだからって、ど~してそんな無茶な真似を。」


魔物の前で疲れ切った姿を晒すなんて、自殺志願者じゃあるまいし・・・。


「基礎体力向上のためだよ。

 魔法は使えば使うだけ、体が鍛えられる。

 日々限界まで魔法を使い続ければ、パワーもスタミナも一気にLvUPするぜ?」


嘘ぉ・・・。


「・・・初耳。」


「知らなかったのか、ユラ?

 魔法を使うと、体に強烈な負荷が掛かる。

 強い魔法であればあるほど、体に掛かる負荷は大きくなる。」


それはなんとなくわかる。

魔法・・・特に中級魔法を使うと、すっげぇ疲れるからなぁ。


「要するに魔法を使う=激しい運動も同じ。

 つまり魔法は最も効率が良い筋トレとも言えるのだ!!」


な、なんだって~・・・!??


「すっげぇ理屈だな、おい。」


けどそれなら最初は1回しか使えなかった中級魔法が、いつの間にか2回以上使えるようになっていたのもわかる。

俺達、魔法を使って戦い続ける内に体が鍛えられていたのか。


「もっとも、旅の最中でそのような修行を行うのは危険極まりない。

 故にさすがの俺も自重していたのだが・・・。」


「俺の見立てでは、今のてめ~らでも1日3回までなら中級魔法が使えるだろう。

 けど毎日限界まで魔法を撃ち続ければ、中級魔法を使える回数はもっと多くなるはずだ。」


そ~いう事ね。

修行の意図はわかったが、それなら・・・。


「でもそういう理屈なら、安全な場所で魔法を撃ち続ける方が良くない?」


だよなぁ。

何もモンスターの群れを前にそんな真似をしなくても・・・。


「何を馬鹿な事を・・・ユラ。

 どうせ魔法を使うのなら、空撃ちよりもワイバーン狩りにでも活用した方が有意義じゃね~か。

 それに空撃ちよりは手頃な的がある方が、実戦の役に立つぜ?」


「・・・・・・。」


師匠ってバトルジャンキーのように見えて、割と小賢しいよな。


「・・・まあ、そうね。

 人間相手に中級魔法を撃つ訳じゃないし・・・。」


「よっしゃ!!

 ワイバーンなんか、俺が全部ぶっ倒してやるぜ!!」



う~ん・・・。

色々不安は残るが、いっちょやってみっか。


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