第127話 外伝12① 悪しき王女の結末
Side ~カオス~
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「お願いします!!
私の身はどうなっても構いません・・・。
・・・だから家族だけはお見逃し下さい。」
「あ、あなた!!」
「ぱぱ~・・・。」
頂上国の王族達に拘束され、身動きさえままならぬ状態で懇願する。
私はあんな連中の実験に付き合い、魔族になどされたくない。
だが妻と子を人質に取られてしまい、奴らに従う以外、許されなかったのだ。
しかし例えこの身が異形へ変わろうが、家族さえ無事なら私は・・・。
「や~よ。」
ビシャッ!!
「はぐっ・・・あっ!!」
「ま・・・。
・・・。」
なっ!?
私の・・・家族が、処刑・・・され。
おう・・・じょ・・・なん、で?
「こんな身分の低い女があんたみたいなイケメンの妻だなんて、無性に腹が立ってね。
まっ、安心なさい。
あんたの事は奴隷として、大切に扱ってあげるからさ。
あーっはっはっはっ!!」
あ・・・ああああああああ。
うわぁああああああああああああああああ!!!!!!!!
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「痛い、痛い!!
私をどこへ連れて行く気なの?
やめて、離して・・・。」
私は『ダーク・ロープ』で作り出した縄で、薄汚い王女を引きずりながら、とある場所へと向かっている。
いきなり目的地へ『ワープ』しても良かったのだが、多少はじらし、このクズを恐怖させたいのだ。
「お、お願い。
どうか見逃して・・・。」
「・・・。」
このクズは愚かなヒステリー女ではあるが、怯え切っているせいか、実に弱々しい態度だ。
だからと言って、見逃す気など一切ないが。
「そ、そうだ!!
カオス。あんた、魔族に変わっても割と恰好良いじゃない。
あんたになら特別に体を許しても構わないわ!!
だから・・・・・・ぎゃあ!?」
「何をふざけているのだ・・・貴様。
この場で殺されたいか!?」
「ぐ・・・が・・・ぁ・・・。」
おっと?
思わず首を締めあげてしまった。
だがこんな所でこいつを殺すわけにはいかないのだ。
なのでこのクズから手を放し、全力で感情を鎮める。
「げほっ、げほっ・・・。」
大体、こんな汚らわしいクズと触れ合うなど冗談ではないわ!!
・・・このクズは自分が私の大切な家族を殺した事、忘れてしまったのかなぁ?
ああ、今すぐにでも殺してやりたいなぁ!!
「ひぃ!?」
いかん、いかん・・・。
どうも殺気を抑えきれない。
どれほど強い力を得ても、自分を律するのは難しいものだ。
私はこのクズを殺したい気持ちを押されるため、必死で笑顔を作り、語り掛ける。
「ああ、ああああ・・・。」
何故かクズが余計に蒼褪めているが、知った事ではない。
「しかし魔族に体を許そうとは、これほど悪趣味な王女も珍しい。
だがそんな貴様に朗報だ。
この私よりもずっと魅力的で、貴様を心の底から愛する者の元へ連れて行ってやろう。」
「・・・えっ?」
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「邪魔するぞ。」
私はゴブリンやオークなどの弱い魔物の遺伝子を持つ魔族達のたまり場へ訪れた。
「あ~ん・・・ちっ。
なんだよ、カオスかよ。」
「キザなイケメン悪魔様が何の用だ~?」
・・・ただしどうしてか、私は奴らに邪険にされる。
魔王や他の上級魔族には敬意を払っているにも関わらず。
解せぬ。
「やれやれ。
そんな態度を取って良いのかな?
せっかくお前達にご馳走を用意したと言うに。」
「ご馳走だと!?
何を持って来たんだ・・・じゃなくて、来たのです?
カオスさん。」
餌を持ってくる時だけ、媚びを売る猫か・・・。
こやつらは。
別に構わぬが。
「・・・お前達は、このクズを覚えているか?」
「「「こ、こいつは!?」」」
やはりあいつらはきちんと覚えていたようだな。
「きゃあ!?
な、何よ。こいつら?
けどどこかで見覚えが・・・。」
逆に王女はうろ覚えのようだが。
恨みを買う人間は恨んでいる奴など覚えもしない、と言うのは真実のようだ。
「カオス様!!
その女を一体どこでお見つけに!?」
・・・何も『様』付けまでせずとも。
よほど衝撃的だったようだ。
「フェイクがハーレムの一人として、確保していたようだ。
そう言いつつ、ゴミ部屋に放置されていたがな。」
悪食のフェイクでさえ、この女だけは食っていない。
アイ曰く、体が腐るから食いたくなかったそうだ。
あまりにも説得力があり過ぎて、納得せざるを得ない。
けれど魔族の全てが私やフェイクのような考え方ではない。
中にはこのクズを食いたくて仕方の無い者も多数存在する。
特に王女に激しく虐げられたものは、食うというやり方で復讐を遂げたいのであろう。
「本当に王女を・・・俺達に譲ってくれるのか?」
「ああ、構わぬ。」
私は王女のせいで家族を失った。
私自身の手でこのクズを惨殺したい気持ちも強い。
とは言え、だ。
「いや・・・。
やめて、お願い。
・・・許して。」
女にとって望まぬ男に食われる事は、何よりも悍ましい拷問となる。
故に私の手でこのクズを殺すより、このクズを食いたい魔族達に譲る方がより苦しめられるだろう。
「だが一つ条件がある。」
「条件・・・だと?」
そうだ。
私自身の手で惨殺したい気持ちを抑え、このクズをお前達に譲るのだ。
だから!!
「すぐに食い殺す事だけは許さぬ。
可能な限り長くじわじわと、じわじわと食し、地獄を見せ続けるのだ!!
そしてこのクズの断末魔を私へ、魔王へと響かせるのだ!!」
このクズに生き地獄を見せ続けるのだ。
生まれてきた事を後悔するほどになぁ!!
「な~んだ。
んな事かよ。」
「OK、OK。
この王女に・・・いや。
頂上国の王族どもに復讐したい気持ちはお前も、俺達も同じだからな。」
そうだな。
例え力の差があろうと、誰かを憎み、世界に復讐したい気持ちは私も、奴らも同じだ。
交渉が成立した所で、私は魔法で作られた縄を消し、奴らの元へ王女を放り投げる。
これであのクズを縛るものはなくなったが、あのクズにこれほど大勢の魔族から逃げ延びる力などない。
奴らが下級魔族とバカにする連中一人にさえ、歯が立たないだろう。
「さ~て、と。
じゃ、存分に楽しむとしますか。
うひゃひゃひゃひゃ!!」
「やだ・・・!!
やめて。
近寄らない、で。」
迫りくるゴブリンやオークの魔族を前に王女は後ずさる事しか出来ない。
世の中にはゴブリンやオークが人に欲情するなどと言う俗説がある。
・・・バカバカしい。
全く別の生物に欲情するなど、ありえるものか。
しかしこいつらは違う。
例え姿形がゴブリン、オークそのものであれ、ベースとなっているのは人間なのだ。
だから当然、人に欲情しても不思議ではない。
ははは。
頂上国の王女も愚かなものだ。
人を無理矢理、魔族へ改造などするから、ゴブリンやオークの姿をした者に食べられてしまうのだ。
全ては自業自得だ・・・。
命尽きるその瞬間まで、苦しみ続けるが良い!!
「いやぁああああああああああああああああ!!!!!!!!」
・・・妻よ、子よ。
お前達の仇は取った。
どうかあの世で喜んで欲しい。
私は王女が息絶えるまで、奴が魔族達に食われる様子を眺め続けた。
これで全ての復讐が終わったわけではないが、人生における大きな目標を達成し、強い充実感に満たされていた。




