第112話 偽王編⑫ 追い詰められる子供達
他人の能力を写し取る魔法を使う、魔族フェイク。
しかしただそれだけではなく、戦闘経験も俺達以上に豊富であり、苦戦を強いられていた。
いくらスペックそのものが同じくらいでも、1VS1で勝つのは困難だ。
どうする!?
「ライト。
例え、相手の方が一枚上手でも、人数はこちらの方が有利だわ。
だから私達もレイドに加勢しましょう!!」
おお、そうだった!!
1VS1なら勝てなくても、数の暴力に任せればいけるかも!?
「よっしゃ。
俺も行くぜ!!」
「・・・ただしエルム。
てめーはダメだ。」
「なんでだよ!?」
いや、なんでって・・・。
「紛らわしいだろうが!!」
「そうよ、エルム。
敵は今、あなたそっくりの姿に化けてるんだから・・・。
私、間違ってあなたに攻撃なんかしたくないわ。」
今、あの場にエルムが突撃なんぞしたら、敵味方の区別が付かなくなってしまう。
これほどの強敵相手にフレンドリーファイアーなどかましてしまったら、洒落では済まされない。
「・・・うっ!?
クソ、俺も戦いたいのに・・・。」
「しょうがないだろ。
敵があんな魔法を使ってくるんだから。
別にエルムが悪いわけじゃないさ。」
能力を真似られるのも厄介だが、対応を誤ると同士討ちの恐れがあるのも『コピー』の嫌らしい所だ。
いくらなんでも、あんな乱戦で本物と偽物が入り混じってしまえば、間違って攻撃する危険性は非常に高い。
「ライトお兄ちゃん・・・。」
「アカリお姉ちゃん・・・。」
「心配しなくても平気さ、ハル、ハナ。
・・・じゃあ行くぞ、アカリ!!」
「うんっ!!」
********
「ちっ・・・。
クソ!!」
「おらおら。
どうした、どうした!!
中級魔法を使っている癖に、初級魔法も打ち破れねぇのか!?」
交戦中のレイドとフェイクだが、フェイクは初級魔法だけでレイドを圧倒していた。
もちろんパワーそのものはレイドの中級魔法の方が上回っているが、戦闘技術はフェイクの方が上だ。
レイドだってかなり戦い慣れをしており、力だけでなく、戦闘技術も高いはずなのに。
やはりフェイク、単にトリッキーなだけでなく、純粋な実力でも今までの魔族の中で最強かも・・・。
とは言え、それでも数の暴力で戦えば、こちらの方が有利なはず!!
「レイド。
加勢するぜ!!」
「ライト、アカリ!!」
「行くわよ。
サンダー・スティック!!」
アカリが雷のスティックを生み出し、フェイクに向かって電撃を放出する。
「おうおう、三人がかりかぁ?
だが、こ~んな鈍い電撃に当たる俺じゃねぇ!!」
けれど、アカリの魔法はそれほどスピードが速くない。
なのでフェイク程の相手となると、簡単に避けられてしまう。
が!!
「え~いっ!!」
「うぉ!?
電撃の軌道が変わって・・・。
ちっ!!」
その代わり、アカリの雷魔法は軌道を自在に操れる。
故に攻撃の命中率に関しては、俺達の中でもトップクラスだ。
それでもフェイクは上手く電撃を避け続けるが、アカリの魔法に気を取られたせいか、俺への注意が薄くなる。
今だ!!
「ホーリー・ナイフ!!」
電撃に気を取られた隙を突き、俺はフェイクの顔に向かって、光の衝撃波を放つ。
相手が中級魔法さえ耐える魔族である以上、今回の攻撃は全力だ!!
「ぐがっ!?
さっきより威力が・・・あいつ、やっぱり最初は手加減して・・・!?
あががが!!」
俺の攻撃に気が逸れた矢先、アカリの電撃も続けてヒットする。
けれど所詮は初級魔法。
フェイクのような頑丈な相手には、致命傷とならない。
とは言え、レイドが反撃を行う隙を作り出す事には成功した!!
「食らえぇええええええええ!!!!」
「ぐはぁああああああああ!!??」
うわ・・・レイドの奴。
エルムに化けたフェイクのどてっぱらに、中級魔法で作られた氷の槍を全力でぶっ刺しやがった!!
「うわぉう・・・。
いくら偽物だからって、見た目は俺なのに本気で槍をぶっ刺しやがった!?
・・・引くわぁ。」
遠目で観戦していたエルムが引いている。
・・・俺も内心、そんな相手を殺しかねないような攻撃を行うレイドに引いていたが。
「ちょ、ちょっとレイド?
やりすぎなんじゃ・・・。」
「・・・相手は格上だぞ?
それに中級魔法を二撃食らってピンピンしているような奴だ。
死にはするまい。」
そう話しながら、槍をフェイクから躊躇なく引っこ抜く。
「ぐはぁ!?」
槍を引き抜いた先から、盛大に血吹雪が舞い散った!!
あいつ・・・いくら相手が魔族だからって、あの攻撃で死ぬはずがないと、本当に思ってるのだろうか?
ユラがやられたせいで、怒り狂っていたのかもしれないが。
今後、レイドを本気で怒らせるのは止めておこう・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
けれど、レイドの方も相当消耗している。
中級魔法を二撃、全力で放った上、フェイクからもかなり攻撃を受けていたからなぁ。
「!??
危ない、レイド!!」
えっ?
「メガ・ファイア・キック!!」
なんだと!!
フェイクの野郎・・・。
腹に槍、ぶっ刺されたばかりなんだぞ!?
「!!!!????
・・・あっ。」
偽エルムもとい、フェイクの炎の蹴りがレイドに炸裂!!
顔を全力で蹴られてしまったレイドは悲鳴すら上げる間もなく、意識を失い掛ける。
「「レイド!!」」
思わずレイドの元に駆け寄る俺とアカリ。
だが・・・。
「邪魔すんじゃねぇ!!
メガ・ファイア・キック!!」
そんな俺達が来るのを阻むかのように、フェイクは強烈な炎を飛ばす。
エルムの魔法は直接相手に触れて攻撃するパターンと、炎を飛ばして攻撃するパターンの二種があるが、今回は後者で攻めてきやがった!!
ただでさえ、レイドの槍で腹を突き刺されたってのに、二連続で中級魔法を使うのかよ!?
しかもカウンター気味の攻撃だったため、俺もアカリも避けられそうに無い・・・。
・・・ならば、せめて!!
「アカリぃいいいいいいいい!!!!」
「えっ、ライト?
ちょっと、なんで私を持ち上げ・・・!?
きゃああああああああ!??」
アカリを炎の射程外へ逃すため、本物のエルムの方へ向かって力一杯投げ飛ばした!!
「いた、いたた!?」
尻餅をついて、少し涙目のアカリ。
・・・ちょっと痛いくらいは許してくれ。
どうにかアカリを逃がす事には成功した。
けど俺は・・・やばくね?
「うぉおおおおおおおお!!??」
「「ライト!!」」
「「ライトお兄ちゃん!!」」
結局、俺は逃げられず、偽エルム・・・フェイクの放った強烈な炎に巻き込まれてしまった!!




