冒険者、村娘から逃走される。
いつも通りの依頼のはずだった。
ハゲた親父の小言を聞き流し、馴染みの依頼主とパーティーと共に都市に訪れたはずだった。
宿のボロベッドで寝ていた。そこまではいい。
目が覚めるとゴブリン(?)の群の中だった。
「ゴブ!?」
「?!」
突然現れた人に驚いているが、それはこちとらとて同じだ。
宿で寝ていたはずなのだ、それ相応の実力者供に囲まれて。
転移か何かなのか、いや知らんけど。魔術師と盗賊仕事しろや。
さっさと脱出すべきだ。臭いし。あと数が多いし。
混乱しているゴブリン擬きの頭を踏みつけて跳躍、速やかにポッケのスクロールを発動。
・・・。混乱していたのは俺も同じだったようで余波をくらい思いっきり上空に吹き飛ばされた。
「おわああああ!ちっくしょ!アホ!俺!!」
罵ったとしても変わらない、ここには一人しかいない。
パーティーを組んで長年経ち甘ったれになったなぁ。俺。
どうやらここは森林地帯で近くに村があるらしい。煙が見える。
走馬灯を見ながら風魔法を地面に使って無理やり衝撃を和らげた。普通に痛い。
ここにいるのがあいつらなら。もうちょっとうまくやれただろう。
後悔しながら周りを見ると口をあんぐりあけた村娘がいた。
「えっ。大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫に見えるか?」
「あ、大丈夫そうですね。」
薄情な村娘である。だが貴重な現地住民である。
ここがどこかわからない以上、こいつにすがる他ない。
「おれ・・・じゃなくて私の名前はジョンと申します。あなたのお名前は?」
「下手にでなくてもいいわよ。私はアリュール村のリンです。ゴブリン退治の冒険者さんですか?」
「はい、その通りです。今から村長に会う予定です。」
初めての異邦語並の残念な会話だ。少しでも情報が欲しい。
「あの・・・。うん。案内します。」
若干ドン引きしている・・・というより依頼を受けた冒険者ではないのはバレバレだろう。
だが成人男性とただの少女では分が悪いと判断したのはすごい。
冒険者とてただの人間だ。数の力で殴られれば死ぬ。
村に案内してリンチすれば楽勝だろう。まあそう考える。
駆け足で少女はトンズラした。素晴らしい速さだ。ついていけるが。