割れる 頭痛
教室の端、廊下を見張る者、机を囲う者、本を読む者、突っ伏す者、黒板に落書きする者……どこだって同じで誰だって普通でいつだって変わらず過ごしている。
知らない人も知っている人も憧れる人も憧れない人も、その違いに意味はなくてその独自性に価値はない。
ただ1つの偶然を切っ掛けに、世界に穴が開く。
それはよくある様に魔法陣の形をしていて、それと同時に理を掻き乱すように宇宙的浮遊感をもたらして、引かれるように誰もが落ちていった。
知覚する間も無く
理解する間も無く
抵抗する間も無く
とある高校の1つのクラスから、人の姿だけが忽然と消えた。
それはある夏の日の昼下がりであった。
ジーワジーワと、風物詩を気取る半翅目のけたましい鳴き声が響くうだるような暑い日のことであった。
時代錯誤も甚だしい根性論が、文明の利器を、発展の英知を阻害する蒸し暑い夏の日であった。
リノリウムの床がまだ真新しい綺麗な校舎にいた僕らは、気づくと豪奢な石煉瓦の部屋にいた。
直前までのことは覚えている。
ほんの数秒前、授業の合間の休み時間、思い思いに行動していたクラスのみんなも、その時起こった出来事を思い出しながら、何度も何度も同じ瞬間で疑念が顔に浮かぶ。
『いやだって、そんなアホな……』
言葉にするならこうだろうか、到底信じ難い……というより受け入れ難いというべきか
「い"ッあ、痛ゥァぎ…」
「った、ぁ…あ痛ッアだ、イ"」
「あタッ..たァい、たイ痛い痛い痛イぃ!」
突然の出来事に呆然とし、ただ辺りを見回す事しか出来なかった僕らの頭に、先ず最初に走ったのは割れるほどの激しい頭痛だった。
最初の1人が、と見る間も無く2人目、3人目と痛みを訴える子が増えていく。
かち割られた頭に、何か異物を捩じ込まれるような不快な痛みは意識を遠ざけ、反対に近づく石段を最後に視界は暗闇に落ちた。
絶えず続く悲痛の絶叫は子守唄のようだ。