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竜と甘いお菓子(Side:B)

前回の話の竜視点です。


(わらわ)(いにしえ)より生き続ける竜。

名前はまだ無い。

誰か一人くらい付けてくれても良かったじゃろうに……何故付けなんだ。こんなにも愛らしい容姿じゃというのに。

と、のんきに愚痴っているように思うじゃろう?

実は妾、今死にかけ3秒前じゃ。

じゃが、妾は稀少スキルの『転生』がある。死ぬと全て消滅するという自然の摂理が通じない。故に妾は死を恐れぬ。


じゃがな、怪我で死ぬときゃメッチャ痛いのじゃ!!


病気は生まれてこのかた風邪すら引いた事無いから心配いらんが、怪我は駄目じゃ! もう今回は久々に最悪な事態じゃ! 体の寿命を感じた妾は『今回は老衰っぽいのぉ、ほほほ! ラッキーじゃ。楽に死ねるやつじゃ、転生用の巣にレッツゴー!』などと浮かれとった。それが不味かったのじゃ。上機嫌で飛行しとったら、50年ほど前に首都を燃やした国からいきなり砲撃魔法を食らってもうたのじゃ。

……いや、まあ……妾の自業自得じゃよ? 問答無用で普通なら即死する特大砲撃魔法撃たれても文句言えん立場じゃよ? けど酷いのじゃ。そもそもあん時ゃ、向こうが妾の巣から勝手に財宝の宝石かっぱらったから取り返しただけなのじゃ。そうじゃ! 諸悪の根源は向こうなのじゃ! 妾、全然悪くない! ノットギルティぃい痛たたた……!


痛いのじゃぁ、結界を貫通して毒袋をピンポイントで潰されるとは思ってなかったのじゃ。

良い感じに幻術がかかっていて人間がノコノコ入らんじゃろう森を見つけたまでは良かったが、毒の周りが早くて魔法が使えん。くっそ~、『毒使いってカッコ良くね?』なんちゅー事思った若かりし妾の馬鹿馬鹿! 次の体には絶対毒袋みたいな急所付けんぞ!


ん? くんくん……。何じゃ? 良い匂いがするのじゃ……甘いのぉ。じゃが、くどく無い……ほのかな酸味、あと……バターとかいう白い塊の匂いだった気がする。これは何じゃ? なんか腹が減ってきたのじゃ。


妾は、痛みより匂いが気になり無理矢理体を動かして行った。




***




ふむ……あの家じゃな。

匂いの出どころである家は、森のすぐそばにあった。うーむ、もしAランク冒険者や狩人の家だったら嫌じゃ。トドメを手酷く刺されるに違いない。

良い匂いのせいで空腹感やっばいが、痛いのは苦しいのは勘弁なのじゃ。……しょうがないのぉ、大人しくいっぺん死んでから万全の状態になってまた来るとするかの。


――とか何とか考えとったら、戸が開いた。

お? こりゃまた珍しい。エルフが出て来たのじゃ。しかも|混ざりっけの一切無いハイエルフじゃ。大戦のせいでエルフはだいぶ数が減ったからのぉ、ハイエルフなんてとっくに絶滅したと思うとった。見たのは100年ぶりじゃ。……食べれたらのぉ。アイツ食べる事が出来たら幾らか魔力面の補助が可能なのじゃが…………妾、もう疲れたのじゃ。1ミリも動きたくないのじゃ。働くの嫌じゃ働いたら負けじゃ!


……って、このハイエルフ何しとるんじゃアホなのか? なぜ妾に(ちこ)ぅ寄るのじゃ?


「酷い怪我……もう少し体を森から出せる? 治せるかどうか分からないけれど、せめて応急処置をさせてちょうだい」


は? この娘、今何と言った? 応急処置とな?


妾が目を点にしておると、娘は家の中に入る。聞こえて来たのは「シルヴィちゃん手伝って、大至急!」という声じゃ。

どうやら聞き間違えでは無かったようじゃ。いやはや……豪胆な事よ。この国では竜は恐怖対象では無いと言うことかの――「きゃあああああああ! せんせーせんせーせんせー! 竜です! 逃げなきゃ食べられちゃいますよっ!」――なんて数秒間納得しようと必死になっとった自分を殴りたい。そうじゃよな! それが普通の反応じゃよな!


「そんな余裕この子に無いわ。落ち着いて」

「一番に餌認定されてるせんせーが落ち着きすぎです!」


うむ……娘っ子の方が正論じゃ。




そんなこんなで紆余曲折を経て、妾は転生した。

献身に妾が苦しまぬようにしてくれたエルフの娘はリリアというらしい。

リリアの魔力を浴びていて気づいたが、この娘、王族の血筋らしいな。まあ、ハイエルフと分かった時から十中八九そんな気はしとったがの。

どう言う経緯があって、あんな厄介な(・・・)獣と一緒になったかは知らんが…………。


「魔力が私の意思と無関係に体外に出て行けば、私も分かります。ですから、もしこの子がそんな事をした場合、また人を食った場合は――――責任を持って、薬の材料にします。幸い、竜の体は全て最高の薬になりますからね」


へールプ!!

ヘルプミィィィイイイイ!!

この娘酷い! 妾ほどでは無いが、女神や天使と見まごう美しさのくせしてえげつないのじゃ!

こんなモフモフ可愛い妾を熱湯にぶち込もうとするなど鬼の所業なのじゃー!


「貴女も分かりましたね?」

脅し始めた(きゅきゅん)!?』

「え? 分からない?」

分かった!(きゅん)  妾は獣も(きゅんきゅん)人も襲わん!(きゅーきゅ)  勿論お主(きゅきゅきゅ)――主様もじゃ!(きゅきゅん)  だから手を(きゅきゅきゅきゅん)離そうとしないで!(きゅんきゅ)  リリアさま素敵!(きゅきゅ)  マジ女神!(きゅんきゅ)  マイマスター!(きゅきゅー)  マイロード!(きゅきゅー)  熱いのは嫌じゃ!(きゅんきゅ)  ゆで卵に(きゅきゅきゅ)なっちゃうの(きゅっきゅん)嫌じゃー!(きゅんー)


もはや、後半は何を言っとるのか自分でも分からなんだ。

分かった事はただ一つ。この女、頭がヤバイ。逆らったらアカンやつじゃ。

そうじゃなければ、こんだけ泣き喚く妾をこの3秒後に笑顔で鍋にブチ込んだりせんもん……。




***




――酷い目に遭ったのじゃ。

死ぬ時に苦しいのはよくある事じゃが、生まれてすぐ死ぬほどの苦痛を味わったのは2000年ぶりくらいじゃ。うっかり浜辺で転生したがために生まれたばかりの亀の子と間違われてウミネコに食われかけたのじゃ。この愛されモフモフボディと子亀を間違えるとはの、所詮鳥の脳みそは小さいのじゃ。とまあそんな事はどうでも良い。今の最重要ミッションは、


「困ったわね……何も食べないわ。雑食だと思ったのだけれど」

「肉食だろ」


あの素晴らしく香しい何かを食う事じゃ!

外から戻った主様の旦那が何か肉をチラつかせとるが無視じゃ。グルメな妾の舌に、そんな安い肉は合わんのじゃ。

妾はそっぽを向く。耳には『外の処理』や『薔薇』とかいう単語が入ってくるが、今の妾には正直興味のカケラも無い話なのじゃ。絶対に他人事の話では無い気がするが……ま、いっか、なのじゃ♪

さぁさ、妾にアレを恵んでくれたも。妾の腹は準備万端なのじゃ。どこにアレがあるのかは匂いで分かるぞ。あの奥じゃろ? そうじゃろ!?


「…………お目当は、あの向こうにあるお菓子かしら?」


キター!


そうじゃそうじゃ!(きゅんきゅん) 妾にくれたも!(きゅきゅん)  妾の腹は(きゅきゅきゅ)準備万端じゃぞ、(きゅきゅきゅん)いざ尋常に(きゅきゅきゅーん)勝負じゃカロリー(きゅんきゅん)

「マジか……」

「クスクス、本当はシルヴィちゃんに焼いたものだったのだけれど、すっかり忘れて帰っちゃったからね。竜の体に良いかは分からないけれど、すぐに持ってきてあげるわ」


そう言ってから、主様はなーんも無かった木のテーブルの上に飲み物と薄くて小さいもの(後で知ったがクッキーというらしい)を出し、最後に妾が待ち望んでおった物を持ってきた。

それは、山菫の色の甘い何かが黄金(こがね)に輝く入れ物に包まれた焼き菓子じゃった。


「ブルーベリーとクリームチーズのパイです。どうぞ召し上――」

食った(きゅんきゅん)るどー!(きゅーん)


ふわあああっ!

サクサクしているが食べ応えのある生地じゃ。齧った瞬間は食べ応えが無さそうに思えたが、これは……蜂蜜のおかげでほんのりしっとりしておるの。音が軽いわりには散らばらんし、ズッシリしておる! そして中のものは、ブルーベリーを煮たものだったか。甘いな……むむ、しかし生地と一緒に食べたら丁度良いぞ! なるほど、これは言わば二つで一つの料理なのじゃな! って、もう無くなってしもうたぞ!


おかわりじゃ!(きゅん)

「甘いもんの食い過ぎは体に毒だぞ? 茶とクッキー食ってみて、それでも腹減ってんなら食っていいから」

『|むぅ、まあ折角出された物じゃしな《きゅん》』


お茶は……ふむ、香りがとても良い。砂糖の味も少しするの、恐らく主様が入れたのじゃろう。悪くは無いが物足りぬ。次はクッキーという食べ物を一口齧って……。


『…………お!(きゅ)


これもかー!

甘さ控えめじゃが、決して味が無いわけでは無い。紅茶の味を引き出していて、むしろこのくらいが丁度良いのじゃ!


妾は、クッキーと紅茶を堪能してから、やっぱり最初に食べた菓子が欲しくなったため一口貰い、満腹になって寝た。


決定じゃ。決定なのじゃ! 妾、この家の子になる!


閲覧頂きありがとうございました。

次の更新がいつかは決まっておりませんが、この物語、全然完結してません。

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