表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/1859

第96話 たった一枚の写真

 俺は答えを迫られていた。


 一人部屋(シングル)を二つ取って一美と別々に泊まるか、二人部屋(ツイン)で一美と一緒に泊まるか。


 どうしましょうか?

 と一美は言ってきた。

 つまり選択権は俺にある、ということだ。


 そうなれば、どちらを選ぶかは決まっている。


 二人部屋(いっしょ)


 以前、似たような状況があった。

 しかし、その時、俺は下手隷(ヘタレ)だった。みすみす好機を逃してしまった。


 今回は一美が振ってきているのだ。

 答えようじゃないか。


「じゃあ、ダブルで」


――決まった


 俯いて固まっている一美の顔は真っ赤だった。


 フロントの担当者は一美が何も言わないのをみて、わかりましたと淡々と手続きを進め、俺にルームキーを渡した。


 この時、俺は自分が間違ったことに気づいていなかった。


 俺は渡されたルームキーを見る。1068とあるので10階に向かう。一美も後ろからついてきた。


 俺は鍵を開け扉を開き、一美を先に入らせた。


 部屋が思ったより豪華だった。

 露天風呂つき客室というやつだ。ベランダに陶器の浴槽が置いてある。解放感のある洋室だった。

 俺も一美も部屋が思ったよりも豪華なことに驚いていた。


「ちょうどよかった」


 俺じゃない。一美がそう小声で呟いたように聞こえた。


 時刻は午後3時を過ぎたばかりだ。

 荷物を置いて、俺たちは周辺を散策することにした。せっかく海が見えるのだからと二人で砂浜に向かった。


「びっくりしました」

「なんで、びっくりしたの」

「だって、シングルかツインかを聞いたのに…」

「あ、俺、ダブルって」

「言いました」

 一美が可笑しそうに笑う。


 いかん、いかん、これは飢えた(オス)の振る舞いだ。俺はイダフの貴族なのだ。ちゃんとしなくては。

 よし、今から俺はイダフの貴族として正しく振る舞うことに決めた。

…但し、陽が沈むまでにしておこう、無理もいかん。


 俺と一美は砂浜を歩いた。海はイダフにいたときと変わりなかった。

 海を見て、イダフを想った。

 いかん、一美がいるのだ、イダフのことは一旦置こう。


 振り向くと、海からの強い風にあおられ、一美の髪がたなびく。


 傾いた陽に映えて、とてもきれいだ。

 反射的に俺は持っていたスマホを取り出し、一美を撮った。


「なんですか?いきなり」

 不機嫌な口調で一美は俺に抗議した。一美は写真を撮られるのをかなり嫌がるほうだ。


「だって、とても綺麗だったから」


 そう言い訳しながら、俺は撮ったばかりの写真を見せた。


「どうせ、変顔になったところを撮ったんでしょ…」


 一美は今にも削除ボタンを押しそうだ。しかし、手を止めた。


「おっ、これが私!?、ハオウガくん、君、カメラマンの素質があるんじゃないかい?」


 一美がおどけながらも俺の写真を褒めた。


「じゃあ、保存してもいいかな?」


 自画自賛になるが、俺が撮った写真の中では最高の出来だ。


「いいよ、うん、これならいい」

 一美は微笑んだ。

 俺は写真をフォルダに保存した。


 そして、これは俺が持っている一美の

 たった一枚の写真になった。


 俺たちは陽が沈むまで、他愛のない話をしながら、浜辺を歩いた。


「そろそろ、夕食の時間になるから、戻りましょう」


 一美の言葉を合図に俺たちはホテルに戻った。


 夕食はバイキング形式だった。俺は興味を持った食べ物を片端から皿に取って食べた。一美も物珍しいのか、色々と皿に盛っては食べていた。

 日本には、ずい分とたくさんの種類の食べ物があるものだと感心した。

 思えば二人で食べるのは、いつも一美の料理だった。


 しかも今回は美味い不味いを遠慮なく口にできた。

 一美の料理も味がイマイチな時はあったが、常にカロインが豊富なのだ。魔法を使う者にとってカロインの摂取は欠かせない。

 なるほど、こういう味が好みなのですね、と一美は俺の論評をずっと聞いていた。ここで食べたものが一美の料理に反映されるのだろうか、そうなら、とても楽しみだ。


 一美はアルコールも何杯か口にしたが、前みたいに限りなく飲むようなことはしなかった。


 部屋に戻ると食べ過ぎた腹を休ませるべく、俺はダブルベッドに横になった。一美も腹が苦しいのか、同じように横になる。並んで横になるのではなく、俺と直角方向に横になった。


「うぇっ!」

 俺のうめき声がもれる。

 やっぱりだ、一美は頭を俺の腹にのせてきた。


「うん、いい枕です」

「一美さん苦しいです」

「いいじゃないですか」

 そう言って寝返りをうつと、俺と視線が合った。


「お腹がキュルキュル鳴ってますよ」

「たくさん食べたから、仕方ないです」

「ちょっと休憩ですね」

「そうですね」


 手を一美の頭に支えるように添える。

 腹に感じる一美の感触と満腹感で俺はうたた寝を始めていた。


※へたれ・下手隷(ヘタレ)は「第42話 留守」が初出です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ