第94話 衝突事故
※ハオウガとママナーナの間に何があったのかは、第76話と第77話の間の閑話「飛行艦ン・メノトリーの艦内で(4)」に必要以上に描かれています。
午前10時、京都駅の一般車乗降場で俺とママナーナは迎えの車を待っていた。
ン・メノトリーで一晩俺たちは過ごした。前回を再現するような楽しい夜だった。ママナーナはまた身体の奥が少し痛むようだが、前ほど不機嫌ではなかった。
[前より慣れてきたわね、一応喜ぶべきことかしら]
そういって、ママナーナは迎えの車に乗り込んでいった。俺は軽く手を振り、車を見送るところだった。
今思えば、この時、俺は完全に油断していた。
セダン車が乗降場に入ってきた。
その車は全く速度を落とさないまま、ママナーナの乗ったワゴン車に追突した。周囲に部品のカケラと後々まで耳に残る不快な衝突音を撒き散らした。しかも、セダンは止まらなかった。アクセルを踏み続けているようだ。
俺は慌てて駆け寄った。
すると、ママナーナの乗ったワゴンが後部から炎上した。火柱が立ち上ると、火の手はたちまち大きくなった。座席の後部が炎に包まれる。
――やばい
人目を気にする余裕は無い。
俺は全力で氷結魔法を使った。
発動までの溜めにかかる1、2秒がやけに長く感じた。
追突してきた車は尚も前進し続けていた。俺は車ごと氷結魔法をかける。エンジンまで凍りついたのか、ようやく車は止まった。
火は収まった。
だが、中のママナーナは無事だろうか、10秒ほどは火の中にいたはずだ。
俺は後部ドアを引きちぎるように開けた。
車の内装の焼けた臭いと煙が、目にしみ、鼻を刺す。
俺は座席からママナーナを引っ張りだすべく腕をつかむ。
――よかった
防御魔法をかけていた。最悪の事態は避けられそうだ。
[ちっ、しくじったか]
魔族のような声を俺は聞いた。
――翌日
ママナーナ(熱海代表)と井洲女史は京都府内の病院に運ばれていた。
ワゴンの運転手は軽症で、事故当日は大事をとって入院したが、今日退院したそうだ。
一方、追突した側の運転手は死亡していたそうだ。衝突する前に死んでいたらしい。
ママナーナと井洲女史は一応、火傷と打撲で入院している。一般病院だが、早くもエンジェルスタッフのところへ転院すべく動いている。
下手に治ってしまうと治癒魔法が効かなくなることがあるらしい。
現在、俺は身を隠している。
単なる交通事故ではなく、車が炎上したことから、動画サイトにこの時の事故の動画が上がっていた。場所が京都駅前だったので、観光客も多く、衝突して炎上する事故は人の目を引いたのだろう。ついでだろうか、炎上する車から熱海代表と井洲女史を助け出す俺の姿も晒されていた。
ざっと、それらの動画を見た。
俺の見る限り、俺の顔がはっきりと写ったものはないが、知っている人が見れば、俺だとわかるだろう。
俺の映像が残るのは、何かしらよくない予兆のような気がした。
真々七会の熱海代表が追突事故で負傷したというのは、一部のマスコミで取り上げられた。ネットの掲示板でも少し書かれていた。
全体的には早い回復を望む女性たちからの書き込みが大半だが、中には医師免許を持たないくせに医療行為を行い、不当に高い報酬を得ていると批判する書き込みもあった。
日本の法律で、治癒魔法が医療行為に当たるかどうかはさておいて、不当に高い報酬ではないだろう。
そして、あの炎の中、車から二人の女性を助け出した勇敢な少年は誰だ?とネット上で人探しをするような風向きにはならなかった。
少し物足りない気持ちはあるが、探しに来られても困る。
マンション奧欧は静かだった。
今回の事故は魔族の関与が疑われることから、七条だなえはママナーナにつきっきりになっている。俺もそばに居たかったが、人手は足りているらしい。
むしろ、俺がママナーナといると魔族にとっては見つけやすいそうだ。
リダリの言った魔族との和合は相当遠いところにあるようだ。
近村から電話が入った。
録画したリダリのメッセージの御礼と熱海代表の容態について聞かれた。そして、その後厄介な本題を切り出された。
『井田会長を作って欲しい』
――何を言ってるんだ、こいつ




